湯だまり部の断熱性を改善した自動注湯装置による 銅合金の流動性評価

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湯だまり部の断熱性を改善した自動注湯装置による銅合金の流動性評価の精度向上
技術論文 特集 「銅合金鋳物の最近の進展」
湯だまり部の断熱性を改善した自動注湯装置による
銅合金の流動性評価の精度向上
本 山 雄 一* 小 笹 友 行** 岡 根 利 光*
Technical Article
J. JFS, Vol. 87, No. 12(2015)pp. 855 ~ 860
Special Issue on Recent Development on Copper Alloy Castings
Accuracy Improvement of Fluidity Evaluation of
Copper Alloy using Automatic Pouring Equipment with
Improved Heat Insulation Properties of Pouring Cup
Yuichi Motoyama*, Tomoyuki Ozasa** and Toshimitsu Okane*
A new pouring equipment for measuring the fluidity of the copper alloys was developed. The developed equipment consists of a pouring cup system with high heat-retaining property, stopper system requiring no preheating, and pouring temperature determination system. In the evaluation of the developed equipment, the temperature of the molten copper alloy
decreased by 30 K from tapping until the measurement of the molten alloy temperature in the pouring cup stabilized. The
temperature decreasing rate of the molten copper alloy in the pouring cup until the pouring temperature was 3.5 K/s. The
experimental results showed that the linearity between the superheat of the melt and fluidity improved compared with that
found in previous studies, and the standard deviation of the fluidity in the equipment was 20 mm. These results indicate
that the effects of the casting conditions on the fluidity of copper alloys have been evaluated accurately with the developed
equipment.
Keywords : copper, alloy, fluidity, shell mold
ながら,溶湯温度が目標温度に到達した時点でストッパを
1.背 景
引き上げて鋳型への注湯を行ない,流動長の測定を行う.
健全な鋳物を作製するためには,まず湯回り不良を起こ
そのほかにも,アルミニウム合金の流動長の評価におい
すことなく溶湯が充填することが必要である.そのため,
て比較的良い再現性が得られる装置の作製が行われてい
従来から溶湯の流動性に及ぼす鋳造条件の影響が研究さ
る.Sabatino ら は湯溜め内の溶湯温度が事前に設定した
れてきた.流動性の評価の方法として,溶湯に石英管等を
注湯温度に到達すると自動でストッパが開栓する自動注
挿入,減圧を行なうことにより溶湯を吸引し,溶湯が停止
湯装置を開発し,ASTM A356.0 合金の流動性の評価を行
するまでに流れた距離を測定する MIT 法
1)
と,渦巻き状
のキャビティを持つ砂型,もしくは金型に注湯を行い,流
例えば 2 ~ 8)
5)
い,再現性の良い結果を得ている.Bouska
6)
も自動注湯
機構を持つ流動性試験装置を開発し,Al-Si 合金の流動性
の大きく分け
に及ぼす鋳造条件の影響の検討を実施している.これらの
て 2 つの方法がある.本研究では,砂型鋳造が多く用いら
研究では自動注湯機構を備えた装置を用いており,ストッ
れる銅合金の条件に比較的近いと考えられる渦巻型流動
パの開栓において作業者のスキルの影響を受けない.その
性試験法に着目する.
ため,再現性の良い結果が得られている.一方,銅合金に
動長を測定する渦巻型流動性試験法
2)
磯部ら は鋳造用アルミニウム合金の流動性を評価する
おいては磯辺らが用いたものと同等の渦巻型流動性試験
ために,渦巻き状のキャビティを持つシェル鋳型と,断熱
装置がこれまで用いられてきた
性の高いイソライト製のストッパと湯溜めからなる装置
会は渦巻き型流動性試験装置を用いて鉛レス銅合金の開
を用いている.この装置では,アルミニウム合金溶湯を,
発において各種銅合金の流動性におよぼす過熱度の影響
シェル鋳型の湯口直上に設置された湯溜め内に注湯し,湯
を評価している .ところで過熱度が流動性に及ぼす影響
溜め内に固定された熱電対の出力の表示値を目視確認し
として,これまで実験的,理論的な検討が行われてきてお
7 ~ 9)
.日本非鉄金属鋳物協
9)
受付日:平成 27 年 8 月 6 日,受理日:平成 27 年 11 月 4 日(Received on August 6, 2015; Accepted on November 4, 2015)
* 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
** (株)キッツ KITZ CORPORATION
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り,以下の式で表されるように,過熱度と流動長は比例の
10)
に対してどの程度加熱度を抑えて実験が可能であるかに
ついては銅合金用の流動性試験装置として重要な評価項
関係があることが知られている .
(1)
目であるが言及はない.
以上より,銅合金用の流動性評価用試験装置において,
Lf:流動長 ρ:溶湯の密度 c:溶湯の比熱 w:溶湯の速度
保温性が高く,注湯時の熱衝撃に対して十分な耐性を持つ
θc:溶湯温度 θL:液相線温度 θ0:鋳型初期温度 C:流路
湯溜めをもつこと,ストッパを手動以外の方法で固定,開
の周長 S:流路断面積 fc:流動臨界固相率 Hf:凝固潜熱
栓する機構をもつこと,湯溜め内溶湯の温度を測定し,渦
h:熱伝達係数
巻き状シェル鋳型への注湯時の温度を記録可能な機構を
しかし,日本非鉄金属鋳物協会が行った試験では,測定
持つこと,ストッパの予熱無しで実験が可能なこと,を満
結果のばらつきが大きく,流動長と加熱度の相関係数の範
たすことが好ましいことが分かった.しかし,銅合金用の
囲は R=0.638 ~ 0.994 と,相関が悪い結果も見られる.こ
装置として,これらを満たすものは見当たらなかった.そ
のことから,溶解温度の高い銅合金の流動性の評価におい
こで本研究では上記の要求を満たす装置の開発を行った.
て,従来,アルミニウム合金で用いられてきた流動性評価
そして,開発装置の保温性の評価として溶解炉から湯溜め
試験装置をそのまま用いた場合,流動性の適切な評価が難
への注湯後,湯溜め内に設置した熱電対が最高温度を示す
しい場合があることが分かる.流動性試験装置における結
までの溶湯の温度低下,ならびに鋳型への注湯までの保持
果のばらつきの原因として,注湯のタイミングを熱電対出
時における溶湯温度の低下速度の評価を行った.また,鋳
力のデジタル表示値の目視確認でおこなっているため,湯
型への正確な注湯温度を測定するためのストッパ引き上
溜め内での溶湯温度の低下速度が速い場合には,あらかじ
げ時の湯溜め内溶湯温度の測定機構の評価,同一条件で試
め決めた目標温度において渦巻き状シェル鋳型への注湯が
験した際の流動長のバラつきの評価及び,流動長に対する
困難であり,実験温度の精度が低いことが挙げられる.ま
加熱度の影響の評価を行なった.そして,開発装置が銅合
た,ストッパの開栓が手動の場合には,ストッパを人の手
金の流動性を評価するのに適した装置であることを示す.
で押さえる必要があり,開栓前に湯が漏れて流動長が低く
見積もられる場合もある.さらに銅合金特有の問題とし
2.開発装置の構成
て,多くの銅合金が成分として含む亜鉛は過熱度が大きい
前述のアルミニウム合金用流動性評価用試験装置を銅
と蒸発量が大きくなるなど,溶解 ・ 出湯温度には上限があ
合金で用いた際の問題点に対して,本試験装置は,断熱ス
る.流動性試験は液相線温度からの加熱度をパラメータと
リーブ,断熱ボード並びに鉄皮から成る湯溜めの採用によ
して実験するため,溶解炉から湯溜めへ注湯する際の温度
る,湯溜めの耐熱衝撃性,耐久性の向上を実施し,湯溜め
低下が大きいと,実験可能な温度範囲が狭くなる.また実
の大容量化による保温性の向上も行った.また,エアシリ
験温度そのものが高いため,湯溜め内の溶湯の温度の低下
ンダによるストッパの固定と開栓機構の採用を行い作業
も速くなる.そのため,湯溜めの保温性を上げる必要があ
者の熟練度による測定結果のばらつきの防止に加えて,セ
る.銅合金はアルミニウム合金とくらべ溶解温度が高いた
ンサ(オートスイッチ)によるピストンロッドの稼働タイ
め,湯溜め及び,ストッパに用いられてきたイソライトレ
ミングの信号出力とその時の湯溜め内溶湯温度の同時取
ンガでは耐熱衝撃性が不十分なことも問題である.これら
得により,作業者による熱電対の表示値の目視確認による
11)
は,湯溜めの大容量化による保
注湯温度決定に起因する誤差の防止,という改良も行った .
温性の向上を行い,鉄皮,耐熱スリーブ,耐熱ボードを用
Fig. 1 に開発装置を示す.装置は主に湯溜め,ストッパ
いて耐熱衝撃性も向上させた湯溜めの採用を行った銅合金
とエアシリンダ,渦巻き状のキャビティを持つシェル鋳型
の問題に対し,小笹ら
用の新しい渦巻型流動性試験装置の作製を行った.しかし,
からなる.湯溜めの詳細を Fig. 2 に示す.湯溜めは,断
この渦巻型流動性試験装置を使用して同じ実験条件で測定
熱スリーブ(イソライトスリーブ #1260),湯溜めからシェ
した JIS CAC406 合金の流動長は 236 ~ 485mm とばらつき
ル鋳型への溶湯流入用のφ18mm の貫通穴を持つ断熱ボー
を生じ,正確な結果が得られていない.小笹らの装置の問
ド(イソライトボード #1260)及び,鉄皮からなる.また,
題点として,注湯温度が作業者による熱電対の表示値の目
湯溜めには,湯面上方から 2 本の熱電対を挿入,固定す
視確認による決定のため,湯溜め内の溶湯温度の温度低下
るための冶具も設けてあり,以下で述べる実験全てにおい
が速い場合に正確な注湯温度が得られないことが挙げられ
て,2 本のシース径φ0.5mm,長さ 100mm の接地型 K タ
る.ストッパの引き上げによる開栓も手動であり,作業者
イプシース熱電対(坂口電熱 T35051)で測定した温度の平
の熟練度の影響も考えられる.また,ストッパとして耐熱
均値を湯溜め内の溶湯温度とした.湯溜めはスタンド本体
衝撃性のある黒鉛棒を用いているが,実験のつど予熱を行
のガイドを通してスライドさせることにより,容易に湯溜
う必要があり,予熱の程度の差が,湯溜め内の溶湯の温度
めの固定と取り外しが可能となっている.また,スタンド
むらを生み,結果に影響を及ぼしていたと考えられる.ス
には湯溜め昇降用レバーが設けてあり,湯溜めのセットの
トッパの予熱は実験効率や再現性の観点からも好ましくな
際や,溶湯の流動が停止した後の湯溜め内の残り湯を排出
い.加えて亜鉛成分の蒸発の問題から,鋳型への注湯温度
する際に用いる.
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Fig. 1 Schematic illustration of developed equip-ment for measuring fluidity.
開発した流動性試験装置.
Fig. 2 Inside dimensions of pouring cup and shell mold.
湯溜め及びシェル鋳型内寸法.
Fig. 3 (a)Original stopper and(b)improved stopper
with insulator.
(a)改善前のストッパ(b)断熱材により改善されたストッパ.
ストッパは黒鉛製で,ピストンロッドに固定されてお
り,操作盤のスイッチにより,ストッパが上昇し,湯溜め
内の溶湯がキャビティに注湯される仕組みとなっている.
エアシリンダには,センサが設置されており,ピストン
ロッド稼働時に,電圧信号が出力される仕組みとなってい
る.この電圧信号と熱電対の測定(サンプリングタイム:
100ms)を同時に行うことにより,開栓時の溶湯温度の読
み取りを実験終了後に測定記録から出来るようにした.な
お,本装置は Fig. 2 に示すように,あらかじめ黒鉛製ストッ
パを湯溜め内の所定の位置にセットしておく必要がある
ため,構造的に予熱は困難である.そのため,湯溜め内へ
の注湯時,溶湯温度の低下が懸念された.実際に後述の実
験結果より,溶湯温低下に対する影響が大きかった.そ
Fig. 4 Spiral shell mold for fluidity test.
流動性試験用シェル砂型.
のため,Fig. 3 に示すように,溶湯温度低下速度の改善の
ために断熱ウール(イビウールブランケット #1260 厚さ
を Fig. 4 に示す.流路長は 1850mm となっている.上型
5mm)を予めストッパに巻き付けることにより,溶湯から
の上面はお盆状になっており,流動停止後の湯溜め内の残
ストッパへの伝熱を小さくすることを試みた.
存溶湯を排出する際に,残存溶湯が鋳型上面からこぼれな
試験に用いた渦巻き状のキャビティを持つシェル鋳型
いようになっている.注湯時,背圧が生じ流動長の測定値
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に影響を及ぼす可能性があるが,パーティション面からあ
+100 ~ 200K の範囲においてそれぞれ 3 水準で行なった.な
る程度のガスが抜けると考えて,本実験ではシェル鋳型に
お,CAC406 において,脱酸のために出湯直前に Cu-15%P
ガス抜き用の穴は特に設けなかった.実際の装置の外観を
を 0.2 wt% 添加をした.得られた流動長と加熱度の相関の評
Fig. 5 に示す.
価を行った .
4.実験結果と考察
4. 1 湯溜め内の溶湯温度の低下
Fig. 6 に黒鉛ストッパに断熱ウールを巻かない場合に,
Cu-26 ~ 31%Zn-0.5 ~ 0.8%Bi 系合金を注湯した際の湯溜め
内の溶湯温度の測定結果を示す.注湯後,溶湯温度の測定
値が安定するまでに,出湯温度から 45K 低下することが分
かる.また,安定後からシェル鋳型への注湯までの保持に
おいて溶湯温度の冷却速度は 11.5K/s であった.この場合,
冷却速度が速いため,熱電対による測定値を目視確認しな
がら狙いの温度で操作板のスイッチを押し,ストッパを上
昇させることが難しく,目標温度で注湯を行うことが困難
であった.溶湯温度の低下の原因として,
「溶湯からの湯
溜めへの伝熱」
,
「溶湯表面から大気中への伝熱」
,
「溶湯か
Fig. 5 Developed equipment for fluidity test.
流動性試験装置の外観.
ら黒鉛ストッパへの伝熱」が主に考えられる.溶湯から湯
溜めへの伝熱に関しては,実験終了時,鉄皮を素手で触れ
ても問題無い程度の温度上昇しか無かったため,主要因で
3.実験条件
はないと判断した.溶湯表面から大気中への伝熱に関して
湯溜め内へ注湯時の溶湯温度低下の測定と鋳型への注湯
は,黒鉛棒にウールを巻いた状態で別試験を行い,湯溜め
までの湯溜め内の溶湯温度の冷却速度の測定,そして,鋳型
の底から 2mm ,9mm,18mm の高さの位置にシース熱電
への注湯時の溶湯温度測定機構の検証,並びに流動長測定
対を設置して溶湯保持中の湯溜め内の溶湯温度を測定し
結果の再現性の検討実験には Cu-26 ~ 31%Zn-0.5 ~ 0.8%Bi
た.その結果,底面から 2mm の温度に対して高さ 18mm
系合金(液相線温度:1197 K)を用いた.高周波溶解炉を用
の温度が最大でも 3K 低い程度であった.これは後述の湯
いて,インゴット 1kg を 4 号黒鉛るつぼを用いて溶解し,出
溜め内半径方向の温度勾配と比較して緩やかだったため,
湯温度は 1400K を目標とした.出湯温度に達した後,火ばさ
溶湯表面から大気中への放熱も,溶湯温度低下の主要因で
みを用いて,るつぼを取り出し,そのまま速やかに湯溜め内
はないと判断した.溶湯から黒鉛ストッパへの伝熱を考察
に注湯を行った.このとき溶湯の表面は計算上,湯溜め内底
するために,Table 1(a)にシェル鋳型への注湯直前の熱
面から高さ 19mm の位置にある.熱電対が昇温を開始して
から,最高温度に達した時点で溶湯温度の測定値が安定した
とみなした.熱電対で測定した最高温度と出湯温度との温度
差を,湯溜め内注湯時の温度低下とした.湯溜め内の溶湯温
度が安定してからの溶湯の冷却速度の測定に関しては,湯溜
め内の溶湯温度の測定値が最高値に達してから,今回変量し
た鋳型への注湯温度の中では最も加熱度が低い 1298K(液相
線温度+101K)までの温度差をその冷却に要した時間で割っ
た値を冷却速度とした.また,流動長測定結果の再現性につ
いては液相線温度からの加熱度を 120K として,同条件で計
6 回,
実験を行ない,
再現性の確認を行った.
また鋳型内の数ヶ
所に熱電対を設置し,タッチセンサーとして溶湯速度の測定
を行った結果,
平均流速は 559mm/s であった.このことから,
本実験においてストッパが上昇してから流動停止までの時間
はおよそ 0.7 ~1.5s と考えられる .
流 動 長に対する加 熱 度の影 響の評 価については,JIS
CAC804(液相線温度:1153K)と JIS CAC406(液相線温度:
1283K)を用いた.溶解量は 1kg とした.出湯は液相線温
度+200 ~ 240K で行い,シェル鋳型への注湯は液相線温度
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Fig. 6 Drop in melting temperature in pouring cup
without insulation of stopper and sensor signal of autoswitch.
ストッパ改良前の湯溜め内の溶湯の温度低下とオート
スイッチの信号.
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電対 1(黒鉛ストッパからの距離 17mm)と熱電対 2(黒鉛
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けることにより,予熱無しの状態で,湯溜め内の溶湯温度
ストッパからの距離 25mm)の溶湯温度を示す.黒鉛ストッ
低下を防ぎつつ,銅合金の流動性を評価可能なことが分
パに近い熱電対 1 の温度が熱電対 2 において 10K 程度低い
かった.また,一般的に,流動性試験では合金や注湯温度
値となっていることが分かる.これは溶湯から黒鉛ストッ
などの条件を変量するため,実験は複数回行われる.その
パへの伝熱がおこったため,ストッパの周辺の溶湯に比較
ため,ストッパの予熱無しで試験が可能ということは実験
的大きい温度勾配が出来ていることを示唆している.また,
の繰り返し性の観点からみても有意義である.以下の実験
実験後の観察によりストッパの円周に沿って銅合金が固ま
では,ストッパに断熱ウールを巻き付けた状態で実施した.
り,付着する場合があったことからも溶湯から黒鉛ストッ
4. 2 注湯温度の測定機構の検証
パへの伝熱が生じていることが分かる.Fig. 7 にストッパ
Fig. 8 に湯溜め内の溶湯温度と,センサの電圧信号の時
に断熱ウールを巻いて注湯を行った場合の,溶湯温度の測
間変化を示す.電圧が 0V から急に立ち上がり始める時間
定結果を示す.溶湯温度の測定値が安定するまでに,出湯
があることが分かる.その立ち上がりがストッパが上昇し
温度から 30K 低下することが分かる.断熱ウールを巻かな
た時間である.電圧信号が立ち上がった際の湯溜め内の溶
い状態と比較して,15K 程温度低下が改善されており,断
湯温度を実験終了後に確認すれば,シェル鋳型に注湯した
熱ウールを巻くことにより,目標注湯温度に対してより小
際の注湯温度を決定することが出来る.この機構を用いれ
さい加熱度で湯溜めに注湯可能なことが分かる.また,溶
ば,実験中に熱電対出力の表示値の目視確認による注湯温
湯温度の測定値の安定後から注湯温度までの冷却速度は,
度の記録を行う必要がなくなり,注湯温度決定の際の誤差
3.5K/s となり,断熱ウールを巻かない状態と比較して,お
を減少させることが出来ることが確認された.なお,Fig. 8
よそ 1/3 程度となり保温性が改善されたことが分かる.そ
ではストッパ上昇の際に 0.5K 程度の溶湯温度の上昇が見ら
の結果,目標温度での注湯が容易となった.シェル鋳型へ
れる.これは前述の通り湯溜め内の溶湯に温度分布がある
の注湯直前における熱電対 1 と熱電対 2 の温度を Table 1
ため,ストッパが上昇した際の溶湯の対流により,温度場
(b)に示す.これらの測定値の差は 0.5K 程度であり,10K
が乱れたことが原因と考えられる.
の差があったウール巻き付け無しの状態と比較して,湯溜
め内の溶湯温度がより均一な状態となっていることを示し
ている.以上の結果から,断熱ウールをストッパに巻き付
Table 1 Measurement of pouring temperature of thermocouples with and without insulation for stopper.
ストッパへの断熱材巻き付け有無におけるそれぞれの注湯
温度の測定値.
Fig. 8 Determination of pouring temperature using
auto-switch signal.
オートスイッチの信号を利用した注湯温度の決定.
4. 3 流動長の測定値の再現性
Cu-26 ~ 31%Zn-0.5 ~ 0.8%Bi 系合金で加熱度 120K にお
ける流動長を 6 回測定した場合における結果の平均値と
標準偏差を Table 2 に示す.前述のアルミニウム合金にお
いて自動注湯機構付き装置を用いた研究の結果も同時に
示している
5,6)
.本装置で得られた流動長の標準偏差はそ
れらと同等か,それ以下である.本装置を用いることによ
Fig. 7 Drop in melting temperature in pouring cup
with insulation stopper and sensor signal of auto-switch.
ストッパ改良後における湯溜め内溶湯温度の低下とオート
スイッチの信号.
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り,従来アルミニウム合金用に用いられてきた自動注湯器
付きの装置と同程度の再現性で銅合金においても流動長
を評価出来ることが分かった.
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Table 2 Comparison of reproducibility of measured
flow length between this study and previous studies.
流動長の再現性の従来研究との比較.
湯温度を正確に決定が出来る.その結果,注湯温度決
定における誤差を防止出来る.
・ 断熱ウールを巻きつけた予熱無しの黒鉛製ストッパを
使用することで,
湯溜め内の溶湯の保温性および,
実験繰
り返し性が向上する.
本装置の評価を行い以下の性能を示すことが分かった.
・ 出湯から湯溜め内注湯後,溶湯温度の測定値が最高温
4. 4 流動長に対する加熱度の影響
度に達し,安定するまでの温度低下は約 30K である.
Fig. 9 に CAC406 と CAC804 の流動長に対する加熱度の
・ 断熱ウールを巻きつけたストッパにより,溶湯保持中
影響を示す.CAC804 は CAC406 と比較して,流動性が良い
に湯溜め内の溶湯温度の冷却速度は 3.5K/s となり目標
ことが分かる.各加熱度に対する試行回数は 1 であり,従来
温度での注湯が容易となる.
研究との公正な比較とはならないが,それぞれの合金の流動
・ 同上の条件で実験を行った場合の,流動長の測定値の
長と加熱度の関係において R=0.998 となり,高い相関が得
標準偏差は 20mm であった.これは従前のアルミニウ
られた.前述の日本非鉄金属鋳物協会が実施した実験にお
ム合金の流動長評価に用いられた装置と同水準である.
いて,相関係数は R=0.638 ~ 0.994 であり従前の流動性試
・ CAC406 と CAC804 において,理論的に比例の関係が
験装置と比較して,より正確に流動性におよぼす加熱度の
ある流動長と加熱度の関係を本装置を用いて検討した.
そ
影響を評価可能であることが分かった.このことから,本装
の結果,
従前の装置を用いた場合と比較して,
より高い相
置を用いれば,銅合金において鋳造の各因子が流動性にお
関関係が得られた.
よぼす影響を比較的精度良く評価可能なことが期待できる.
以上の結果から,本装置を用いれば,従前,銅合金の流動
性の評価に用いられてきた装置と比較して銅合金の流動
性をより効率良く,正確に評価可能なことが分かった.
謝辞
本実験の遂行にあたり,ご協力いただいた国立研究開発法
人 産業技術総合研究所の江端幹夫氏に感謝申し上げます.
参考文献
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Inc.)
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Metallurgical and Materials Transactions A vol. 27(1996)
Fig. 9 Effects of superheat on flow lengths of CAC804
and CAC406.
CAC804と CAC406の流動長におよぼす加熱度の影響.
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Archives of Foundry Engineering vol. 14(2014)9
5)M. Di Sabatino, F. Syvertsen, L. Arnberg, and A. Nord-
5.結 言
mark: International Journal of Cast Metals Research vol.
従前用いられてきたアルミニウム合金用の流動性評価
18(2005)59
用試験装置を銅合金に用いた場合の問題点を挙げ,それら
6)O. BOUSKA: Metalurgija vol. 14(2008)17
を解決するために以下の特徴を持つ銅合金用の流動性評
7)雄谷重夫,鞘師守,神戸洋史,保坂健一郎:鋳物 52
価用試験装置の開発を行った.
・ 断熱スリーブ,耐熱ボード,鉄皮から成る湯溜めの採
用により,溶解温度の高い銅合金の注湯に対する耐熱
衝撃性,耐久性の向上が実現される.
・ エアシリンダを用いたストッパの開栓により,実験結
果への作業者の熟練度の影響を防止出来る.
・ エアシリンダに設置したセンサの信号と溶湯温度の測
定の同期により,実験終了後に鋳型へ注湯した時の注
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(1980),107.
8)神戸洋史,望月清範,阿部進,雄谷重夫:鋳物 58(1986)
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775.
9)素形材センター研究調査報告 567:(2001)33
10)新山英輔:鋳造伝熱工学(アグネ技術センター)
(2001)
197
11)小笹友行,岡根利光,廣瀬奛,戸谷誠二,加藤寛:鋳
造工学講演概要集 158(2001)19
2015/11/30
10:31:28