米国特許ニュース 2015 年 6 月 服部 健一 米国弁護士 AIA 特許法 102 条(b)の公表による例外の不明確な点を明確にす る改正案 H.R. 1791 Grace Period Restoration Act of 2015 114th Congress 1st Session 下院法案 2015 年 4 月 14 日 https://www.congress.gov/114/bills/hr1791/BILLS-114hr1791ih.pdf S.926 Grace Period Restoration Act of 2015 114th Congress 1st Session 上院法案 2015 年 4 月 14 日 https://www.congress.gov/114/bills/s926/BILLS-114s926is.pdf 上記両院案の内容は同一である。 AIA102 条によると、発明者が発明を公表し(public disclosure)、1 年以内にいずれかの特許庁 に出願してから(その出願日が有効出願日になる)米国特許庁へ出願すれば、グレース期間内 の公表になり、自身の出願の先行技術にはならない。それだけでなく、AIA102 条では、その公 表後の他者の公表や先願も排除する(この点で従来法と抜本的に異なる)。 しかし、現行の 102 条は、①公表の中で、発明をどの程度まで説明(開示)し、②どのような形 の公表にすればよいのか、そして③103 条の自明も排除するのか、④出願前に公表したことを いつ米国特許庁に伝えるべきかについての明記がなく、不明確であった。 そこで、表題の上下両院の案は、①発明を 112 条(a)の規定を満足するように開示し、②印刷 刊行物で公表する場合に上記グレース期間が発生し、且つ③103 条も排除する、④出願前に 公表したことを特許許可通知前までに米国特許庁に伝えると有効の推定が働くように解釈され ることを明記した条文を現行の 102 条(b)に追加することを主目的としている。 1 改正条文の主要規定は以下の通りである。 102 条(b)(3)(B): 下記の場合、何人かによる開示は、サブセクション(a)又はセクション 103 の基で、クレーム発明 の先行技術にはならない。 (i) その開示は、クレーム発明の有効出願日前の 1 年以内のサブセクション(a)(1)、ある いはサブセクション(a)(2)の開示であり、そして (ii) 上記(i)項に記載された開示の前で、且つクレーム発明の有効出願日の前の 1 年以 内に、クレーム発明はカバーされる者(発明者、共同発明者等)によって印刷刊行物 によって 112 条(a)の記載要件を満足して公表されていた場合。 出願 発明者の公表 ・112条(a)を満足 ・印刷刊行物 102条(b)(3)(B)(ii) 有効出願日 ・米国特許庁、又は 外国特許庁 1年以内 審査 発明者の公表は下記の第3者の先行技術を 新規性についても自明性についても排除する 第3者の開示 ・第3者の開示(a)(1) ・第3者の先願(a)(2) 102条(b)(3)(B)(i) 上記追加条文をより分かり易く説明すると、①第三者の開示(公表・公開等 (a)(1)、先願(a)(2)) が有効出願日前から 1 年以内にあっても(102 条(b)(3)(B)(i))、②第三者の開示の前に発明者 が有効出願日 1 年以内に 112 条(a)を満足して、印刷刊行物で公表していた場合(102 条 (b)(3)(B)(ii))、第三者の開示は 102 条(a)の新規性の点でも、103 条の自明の点でも先行技術 にならない、という規定である。 2 現行の 102 条(b)の規定は、以上の点は、立法の趣旨(議会での討論記録)からはそうであると 解釈できるものの、規定そのものは明らかでないといわれている。そのため、連邦裁判所がどの ように 102 条(a)、(b)を解釈するか不明であるので、その点を明確にしようとする改正法案である。 いずれにせよ、発明者が出願日前の1年以内に公表していれば第三者の開示や先願があって も確実に特許が取得できるので、AIA 特許法は従来のインターフェアランスより確実に先発明 者が特許を取得できる制度である。(インターフェアランスでは公表しても先発明者になるとは 限らない。) 更に、両改正法案は出願前に公表した事実を特許許可通知前までに米国特許庁に伝えると 有効の推定が働くように解釈されると規定している。よって、特許許可通知後あるいは訴訟にな って公表の事実を証拠として提出するとそれだけ証拠能力は弱くなるのであろう。 3
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