人間ではなく、神の奴隷になりなさい

人間ではなく、神の奴隷になりなさい
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ドラウパディーがそうしたように、自尊心を保ちなさい。ドラウパディーが宮廷において、あわや
辱しめを受けそうになったとき、ドラウパディーの夫たちはそこにいました。夫たちはドラウパディー
をサイコロゲームに賭け、邪悪なカウラヴァ一族に負けたのです。
ドラウパディーはあまりにも激怒していたので、もし、ドラウ
パディーを勝ち取り、引きずって行った悪漢たちを彼女が
いちべつ
一瞥したならば、悪漢たちは灰の山と化していたことでしょう。
その代わり、ドラウパディーは自分を賭け、目の前でうなだれ
て座っている最年長の夫、2ダルマジャ(ユディシュティラ)に
目をやりました。それはドラウパディーにほんの少し落ち着き
を取り戻させたようでした。それから、ドラウパディーは天と地
に響きわたる呪いの言葉を吐きました。「私の髪に手を触れ、
ここへ引きずってきた腹黒い者どもの妻たちが、その髪をふり
か
ふ
乱し、癒されぬ悲しみの中で寡婦暮らしを嘆かんことを! そ
のときまで、私はこの野蛮人たちが解いた髪を、再び編むこ
とはないでしょう」と。
ドラウパディーは皆が聞いている中で、自分の家系とその
自尊心に関する名声、そしてその家系の名誉を傷つけたり、品位を落したりはさせないという決意
を宣言したのです。ラーマ、クリシュナ、ハリスチャンドラ、ミーラ、ティヤガラージャ、トゥッカラム、ラ
ーマクリシュナ、ナンダナールというあなたの家系の尊厳を保ちなさい。あなたの家系の栄光は、注
意深く巻かれた糸玉のようなものです。あなたの側で起こすどのような過失も、糸を破滅的にもつれ
させる結果を引き起こすでしょう。ですから用心していなさい! 人間ではなく、神の奴隷になりなさ
い。あなたの霊性修行を固く守りなさい。
【マハーバーラタの物語】
パーンダヴァ家のパーンドゥ王の死後、兄で盲目のドリタラーシュトラ王(カウラヴァ家)が王国を引
き継ぎます。パーンドゥ王にはユディシュティラ(ダルマジャ)、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデ
ーヴァという五人の王子がいました。五王子はドラウパディーを共通の妻としました。カウラヴァ家に
はドゥリヨーダナを長子とする百人の王子がいました。
やがて、高徳のユディシュティラがパーンダヴァ王位を継承すると、カウラヴァ王家の王子らはこ
1
ドラウパディー:
2
ダルマジャ:
パーンダヴァ五兄弟の妻。
パーンダヴァ五兄弟の長兄。ユディシュティラとも呼ばれる。
と ば く
れをねたみ、策略をめぐらせます。ドゥリヨーダナはユディシュティラをイカサマ賭博に誘って、ドラ
ウパディーを賭けるようそそのかします。その結果、パーンダヴァ家は王国も財産も何もかも奪われ
てしまいます。五王子は放浪の旅に出て、十三年間、誰にも素性を知られずに過ごさなければなら
なくなりました。
そして十三年目、約束を果たしたパーンダヴァ家はカウラヴァ家に王国の返還を求めました。クリ
シュナが間に入って調停しますが、強欲なドゥリヨーダナは返還を拒否しました。この結果パーンダ
ぼっぱつ
ヴァ家とカウラヴァ家の十八日間にわたる大戦争(クルクシェートラの戦い)が勃発します。カウラヴ
ァ軍の大将ビーシュマが倒れ、アルジュナの息子アビマンニユは一人で敵陣に切り込み討ち死に
します。ビーシュマの後を受けた大将ドローナが死に、彼に代わった無敵のカルナも死んでしまい
ます。ドラウパディーを辱めたドゥフシャーサナもビーマに倒され、最後にドゥリヨーダナも破れカウ
ラヴァ軍は壊滅。パーンダヴァ軍側も五王子以外に無事な者はほとんどありませんでした。
ユディシュティラは馬供犠祭を行って罪を浄め、晩年は隠者となり、王位をアルジュナの孫パリク
シットに譲りました。パーンダヴァ兄弟はヒマラヤに登り、途中で一人ずつ亡くなっていきました。最
後にユディシュティラが天に召され、そこで兄弟たちや争いで命を失った者たちと再会しました。
サイ ラム ニュース 114 号(2007 年 5・6 月号)より