DTN ベースのスマート端末による MANET 実現方法 A Realization Method of MANET by Smart Devices Based on DTN 情報環境デザイン学講座 0312011035 北田 真也 指導教員:柴田義孝 橋本浩二 1 はじめに 日本は災害多発国であり, 災害時には通信インフラ が破損, 輻輳することが多い. また中山間地域での通 信環境は平常時も良好でないことが多々あり, 災害時 の通信インフラの利用はより困難になる. 本研究室で は Software Defined Network(SDN)技術を用いて, 破損や輻輳による通信インフラの障害や状態変化を検 出した後, 衛星通信など非常時にも有効な通信回線に 切り替えて途切れない Never Die Network(NDN)の 研究[1]を行なっている. この NDN を屋外で使用する ことを想定した際, 利用できる範囲が本システムのア クセスポイント付近に限定される. 一方近年, Delay Tolerant Network(DTN)の研究の発展により, 災害時 の劣悪な通信環境下において非常に有効的なネットワ ークが実現可能となってきた[2]. そこで本研究では SDN をベースとした NDN[1]と DTN を組み合わせて, 災害時の通信障害や伝送遅延を考慮したスマート端末 の ア ド ホ ッ ク 通 信 に よ る Mobile Ad Hoc Network(MANET)の実現を目指す. 2 システム概要 2.1 システム概要図 図 1 : システム構成図 本研究の災害時における通信システム概要図を図 1 に示す. 図 1 では A, B, C, D の 4 つの被災地と災害対 策本部を仮定する. 被災地 A と B と C はそれぞれ携帯 通信回線が利用できないため, スマート端末同士のア ドホック通信でデータを転送する. 所持者が被災地内 を移動することを考慮して, アドホック通信に DTN を用いる. Gateway は NDN が車載された移動中継車 であり, 中継ノードとして他の被災地にデータの転送 を行なう. 災害対策本部は災害時も電源の供給とネッ トワークが利用できる場所に設置されるサーバーであ り, それぞれの地点からのデータを収集する. また, 各被災地内の各ノードはアドホック通信で他の端末に 転送し, 最終的には Gateway に到着する. 被災地 D は 災害発生後も LTE, 3G の携帯通信網が利用できるこ とを想定し, 災害発生後も基地局を通じて通信を利用 できるものとする. 中継ノード同士のアドホック通信 も専用の DTN プロトコルで可能である. 本構成ではスマート端末所持者同士の通信,中継ノ ードとスマート端末所持者との通信, 中継ノード同士 の通信, NDN を用いた他の被災地との通信を可能と する. 2.2 Never Die Network(NDN) 図 2 : Never Die Network 構成図 本研究において, 各被災地は図 2 の Never Die Network(NDN)をベースとした車載用 NDN 対応の Gateway により相互接続される. NDN はネットワー クの構成や機能をソフトウェア上で動的に操作できる Software Defined Network(SDN)を用いて実装され ており, SDN コントローラで SDN スイッチを動的に 制御することが可能である. 複数の SDN スイッチの ネットワークモジュールで定期的に測定し, ノード内 の通信インフラの状態変化を検出後, 衛星通信などの 利用できる回線に動的に切り替える. これにより災害 時の劣悪な通信環境下においてもネットワークアクセ スが可能になる. 本研究では車載された SDN スイッ チをゲートウェイとして利用し, DTN で交換されたメ ッセージを災害情報サーバーに転送する. 2.3 システムアーキテクチャ 本システムのアーキテクチャを図 3 に示す. スマー ト端末は Application 内の User Interface, Message Exchanger, Database, DTN Module で構成される. Message Exchanger でメッセージの交換とデータベ ースへの格納が行われる. DTN Module では接続履歴 を作成し, これを基に接続先を Decision で決定して隣 接の端末と通信を行なう. Gateway の役割を持つ中 継ノードには, NDN スイッチとスイッチに接続され る各ネットワークモジュール, 中継ノード用のスマー ト端末が車載される. 中継ノード内のスマート端末は アドホック接続で受信したメッセージを NDN スイッ チに接続されている各ネットワークモジュールを介し てデータサーバーや他地点の中継ノードに転送する. 中継ノード内の NDN スイッチは衛星通信回線を介し て NDN コントローラと常時接続された状態となる. れる. その後, メッセージの重複を確認し, NDN シス テムを介して被災地から離れた地点の Data Server に 転送される. メッセージが重複している場合は Data Server に転送されずに破棄される. 表 1 : ハードウェア仕様 2.4 スマート端末 nexus7 OS: Android 4.4 CPU: APQ8064 QuadCore1.5GHz MEM: RAM 2GB 開発環境: Android SDK Data Server Precision T3400 OS: Ubuntu 12.04 CPU: Core 2 Extreme MEM: RAM 4GB 開発環境: JDK7 図 3 : システムアーキテクチャ Delay Tolerant Network(DTN) Delay Tolerant Network(DTN)とは OSI 参照モデ ルのトランスポート層の上にバンドル層と呼ばれる新 たなプロトコルを実装したオーバーレイネットワーク である.通信途絶時にデータをストレージに蓄積し, 送信可能時に送信する方式である. 本研究では既存プ ロトコルであるフラッディングベースの Epidemic Routing[3]を基に, メッセージレプリカの転送を行な う. 図 5: プロトタイプ構成図 4 評価 表 1 のハードウェアで構成される図 5 のプロトタイ プを用いて, MANET 内のスマート端末の増加に伴う, Gateway へのメッセージの到達率の変化により, 本シ ステムを評価する. また, 端末の位置を固定して通信 した場合と端末がそれぞれ移動しながら通信した場合 に分けて, 比較を行なう. 5 図 4: DTN フローチャート 本研究の DTN Module のフローチャートを図 4 で 示す. 本モジュールでは Discovery で隣接ノードのリ スト取得, 接続履歴(past_connection)の参照, 接続 先の決定を行なう. Discovery で隣接ノードのリスト を取得後, 接続履歴が空か確認を行なう. 接続履歴が 空だった場合は Discovery で取得したリスト内の最も RSSI 値が高いノードと接続する. 一方接続履歴にリ ストが存在した場合は Discovery で取得したリストと 比較し, 接続履歴内に存在しないノードと接続する. そして接続終了後に接続履歴に追加される. 接続履歴 を用いて, 接続先を選択することで従来のプロトコル よりもメッセージの重複や不要な通信の減少, 中継ノ ードへの到達速度の向上を目指す. 3 プロトタイプシステム 本研究のプロトタイプ構成図を図 5 に示す. この構 成では複数台のスマート端末によるアドホック通信で 伝送されたメッセージが最終的に Gateway に転送さ まとめと今後の課題 本研究では, 災害時の通信インフラの破損, 輻輳に 有効的な MANET 実現手法の提案した. DTN と SDN を用いることでアドホック通信による被災地間の情報 収集が可能になる. 今後は DTN の更なる改良を目指 し, また近年災害時におけるビッグデータへの重要度 が高まっており[4], 今後はビッグデータを DTN で転 送する手法も検討していく. 参考文献 1) 佐藤剛至, 内田法彦, 柴田義孝: SDN 技術を基盤とし た災害に強いコグニティブ無線システムの開発,DPS 研 究会(2013) Session 2A-7 . 2) Jovilyn Therese B. Fajardo, Keiichi Yasumoto, Naoki Shibata, Weihua Sun and Minoru Ito: DTN-Based Data Aggregation for Timely Information Collection in Disaster Areas, 2012 IEEE 8th International Conference, pp333-340. 3) Amin Vahdat, David Becker: Epidemic Routing for Partially-Connected Ad Hoc Networks, Technical Report CS-2000-06, Department of Computer Science, Duke University, April 2000. 4) 阿部博史: 震災ビッグデータ―可視化された〈3・11 の 真実〉 〈復興の鍵〉 〈次世代防災〉, NHK 出版, 東京(2014)
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