論文紹介 Jahn, Petra; Engelkamp, Johannes 2003 Design-effects in prospective and retrospective memory for actions. Experimental Psychology. 50(1), 2003, BBS発表 杉森絵里子 行為事象の記憶 • 行為事象の記憶とは – ワイヤーを曲げろ , ペンを持ち上げろ など • 行為事象の記憶における回想的記憶 – 過去に遂行した出来事に関する記憶 • 行為事象の記憶における展望的記憶 – 未来に遂行しなければいけない出来事に関す る記憶 行為事象の回想的記憶 • VTかSPTで行為事象を記憶して比較. – VT・・・行為事象を聞く/読む – SPT・・・行為事象を遂行 • SPTのほうがVTよりも再生,再認ともに成 績がよい. – 行為事象は遂行したほうが単に見たり聞いた りするだけよりも良く覚えている. 行為事象の展望的記憶 • 未来に遂行すべき行為事象の記憶 – PT・・・行為事象を 後からやってもらう という 教示の元で覚える. • 回想的記憶と比較して研究数が少ない. • 展望的記憶についても研究する必要があ る. VT,SPT,PTの違い • VTと比較してSPTとPTは – 言語的記銘処理だけでなく非言語的なものも 含まれる. • SPTとPTの違いは – PT・・・未来に行う行為事象のプランを立てる. ←後に遂行すべきことを覚える. – SPT・・・行為事象を聞くや否や遂行する. ←覚える前に実際に遂行. PTとVTの違い (Koriat, Ben-Zur, & Nussbaum, 1990) • 行為事象文をVT/PTで記憶 (被験者間) – VT・・・単に 記憶してください – PT・・・ 後からやってもらいますよ • PT>VT – 後から遂行するために保持し続けるから. VT,SPT,PTの違い (Brooks & Gardiner,1994) • VT/SPT/PTを被験者内リスト間で学習 – すべての被験者がVT/SPT/PTで学習する. – VT/SPT/PTはそれぞれ別リスト. • VT≒PT<SPT – 遂行して覚えた場合,言って覚えたり,後に遂行 するという意識の元覚えるよりも成績がよい. – 言って覚えたり,後に遂行するという意識の元 覚えるのは差がない.←Koriat et al. (1990)との 違い. デザインの違い (Engelkamp,1997a) • 被験者間の場合 – VT<PT<SPT • 被験者内混合リストの場合 – VT=PT<SPT • デザインの要因がPTには関係している Engelkamp (1997a)への疑問 1. デザインの効果だとするのは差がなかっ たことに対する後付の理由. 2. 被験者内混合リストに関して検定力の欠 如を排除できなかっただけでは? Koriat et al. (1990)の理論 • SPT>VTかつPT>VTについて – 実際に実演するだけでなく,実演を意図する だけでも,実演による感覚運動コードが活性 化するのでは? • この考えだとデザインによる効果だと考え られない. Engelkamp (1997)の理論 • Koriat et al. (1990)を発展させた理論. – PT・・・言語+プランニングにおける感覚運動コード. – SPT・・・言語+プランニングにおける感覚運動コー ド+実際の運動. • 項目特定処理と関係処理について – 項目特定処理・・・呈示項目間の弁別を容易にす る.←SPT>PT – 関係処理・・・呈示項目間で類似した項目がまとま る.←VT Koriat et al. (1990)と Engelkamp (1997)から得られる予測 1. PT>VT • 後から遂行する意図があると記憶成績が上がる. 2. SPT>PT • 実際に遂行すると意図があるだけよりも記憶成 績が上がる. 3. デザインによって変化しない • 被験者内,被験者間に関わらず,SPT>PT>VT. ←なぜデザインによって変化した? Engelkamp (1997)の説明 • 被験者間の場合 – VT<PT<SPT • 被験者内混合リストの場合 – VT=PT<SPT ←アウトプット(再生)時に似通った記憶表象 の場合強いほうが弱いほうを干渉するの では? – PTとSPTは非言語による記銘という点で似 通っており,PTがSPTの干渉を受けた. ←筆者はこの考えに疑問. 本研究の目的 1. VT<PTが(被験者間だけでなく)被験者 内でも見られるか? 2. PTの成績は被験者間/被験者内という文 脈に依存するのか? 実験1 • 被験者間要因においてVT<PT<SPTが 見られるか? • 被験者内要因においてVT<SPT,VT< PT, PT<SPTが見られるか? • 被験者間と被験者内におけるVT,PT, SPTの成績の違いは? 方法 • 被験者 48名 3つのグループに分かれる 1. リスト1・・・VT 2. リスト1・・・PT 3. リスト1・・・SPT ←被験者間要因 • リスト2・・・ VTとSPT リスト2・・・ VTとPT リスト2・・・ SPTとPT ←被験者内混合リスト 材料 24の行為事象文×2(リスト1,リスト2) ボトルを開ける , グローブを置く • 手続き 学習時・・・5秒間の呈示と1秒間のインターバル. – VT 注意深く各行為事象文を読む – SPT 読んで実際に行なう – PT 後ほどやることを意識しながら読む すべて後の記憶テストがあることを言う 再生時・・・学習の30秒後行った. リスト1 – VTとSPT 言語で再生 – PT 実演で再生 リスト2 – 全てが言語再生 結果と考察 • リスト1 (被験者間=単一リスト) VT< PT ≒ SPT Engelkamp (1997)の VT<PT<SPTと異なる ←詳しくは総合考察で • リスト2 (被験者内=混合リスト) グループ1 VT<PT グループ2 PT<SPT グループ3 VT<SPT ←項目特定処理していると 考えられる. • リスト1とリスト2の比較 グループ1 (VT) リスト1>リスト2 グループ2 (PT) リスト1>リスト2 グループ3 (SPT) リスト1=リスト2 差が見られたのはPTとVT ← アウトプット(再生)時に 似通った記憶表象の場 合強いほうが弱いほうを 干渉する という考えを否 定できる. ←むしろ被験者内だと項目 特定処理が多く働くと考 えられる. 補足 実験1a • リスト2(被験者内)の時,言語で再生させ たことについて – PT(あとから遂行することを意図しながら)の 教示と合わない. • グループ2(SPTとPT)を実演で再生させた. – 同様の結果. 実験2 • 実験1を改善. 1. 被験者間(単一)→被験者内(混合)の順序 だった.→被験者内だけを行う. 2. 被験者内において2つずつの混合だった. →3つ(VT,PT,SPT)とも被験者内にする. • 再生テストだけでなく再認テストも行なう. – 記銘時の項目特定処理(項目間の弁別を容 易にする処理)は再生よりも再認で反映され やすい (Zimmer & Engelkamp, 1989). 方法 • • 被験者 36名(被験者内) 材料 24の行為事象文(VT,PT,SPT)×3 • 手続き 学習時・・・24の行為事象文を覚える. 再生時・・・筆記による再生テスト 再認時・・・学習→再生を3リストについて行った後, 旧項目72のうち36項目と新項目36項目について. 結果と考察 再生,再認ともに VT<PT<SPT →被験者内における項目特 • 定処理関与度の高さ裏 づけ. 実験3 • 実験2は被験者内混合リストだった. – VT<PT<SPT • 実験3は被験者内単一リストにする. – Brooks & Gardiner (1994) はVT≒PT<SPT 方法 • 被験者 27名(被験者内) • 材料 24の行為事象文×3 (VT,PT,SPT)←単一リスト 24の行為事象文(VT,PT,SPT)×1←混合リスト • 手続き 単一リスト 学習時・・・24の行為事象文を覚える.(VT,PT,SPT)のどれかで 再生時・・・VTとSPTは言語,PTは実演. 混合リスト 学習・・・24の行為事象文を覚える.(VT,PT,SPT)を8項目ずつ. 再生時・・・すべて言語. 結果と考察 • (被験者内混合リスト) VT<PT<SPT ←実験2と同様 • (被験者内単一リスト) VT<PT≒SPT ←Brooks & Gardiner (1994)と異なる. ←彼らは上手くPTにおいて 意図させれらなかったの では? 総合考察 • 単一リストにおけるVT<PT≒SPT(本実験1,3) とVT≒PT<SPT (Brooks & Gardiner 1994) や VT<PT<SPT (Engelkamp, 1997)について – 先行研究は上手く意図させられなかったのかも? • 混合リストではVT<PT<SPT, 単一リストではVT <PT≒SPTについて – 混合・・・項目特定処理が主に行われる – 単一・・・関係処理も行われる. ←SPTは項目特定処理が主に行われているので混合 になっても成績が下がらない.
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