溶接継手の残留応力および固有変形に及ぼす試験片寸法の影響

溶接継手の残留応力および固有変形に及ぼす試験片寸法の影響
大阪大学 ○村川 英一、袁 華
Blandon Juan、Gadallah Ramy
大阪大学大学院
Influence of Specimen Size on Welding Residual Stress and Inherent Deformation
by MURAKAWA Hidekazu, YUAN Hua, BLANDON Juan and GADALLAH Ramy
キーワード:試験片寸法、平均温度上昇、相変態、残留応力、固有変形、有限要素法
Keywords: specimen size, average temperature, phase transformation, residual
stress, inherent deformation, FEM
1.緒言
高張力鋼の導入については各種構造物の軽量化に効果が期待されているが、静的強度と比較
して溶接継手の疲労強度に関しては大幅な効果が認められないと言う問題がある。溶接継手の
疲労強度が母材部と比較して低い原因は応力集中と溶接残留応力であり、残留応力を改善する
手段として低変態温度溶接材料の適用が提案され、その
効果が実験により確認されている。一方、疲労試験では
試験機の能力の制約から小型試験体が用いられる場合が
多い。小型試験体の場合、力学的な拘束および溶接時の
熱履歴が実構造継手と異なると考えられるので、これら
の溶接残留応力および変形に及ぼす影響を明らかにする
ために熱弾塑性有限要素法(JWRIAN)を用いた計算を実
施した。Fig.1 は両端が拘束された棒の一部に熱履歴が与
えられるという単純なモデルを用いて残留応力に及ぼす
拘束の影響を示したものであり、拘束が大きい(L2/L1 が
小さい)時に、通常溶接材料では大きな引張残留応力引張
残留応力が、LTT 溶接材料では圧縮の残留応力が発生
し、その絶対値は拘束の低下に伴い減少する。
Fig. 1 Influence of restraint on
welding residual stress.
600
500
Temperature (℃)
Size: 200×75×10 mm3
Tavg. = 501.57 oC
Average temperature (oC)
600
400
300
Average
temperature
500
400
300
200
100
200
0
0
20
40
60
80
100
Time (sec)
100
0
Size: 200×200×30 mm3
Tavg. = 110.12 oC
z
x
y
Fig. 2 FE models for computation.
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
Specimen cross-section area (mm2)
Fig. 3 Relation between specimen size and
average temperature.
2.計算モデル
溶接残留応力および変形に対する試験片寸法の影響を明ら
かにするため、Fig. 2 にその一部が示されているように、長
さは 200 mm で一定とし、幅が 75、100、150、200 mm、
板厚が 10、20、30 mm と異なるモデルを対象に計算を行っ
た。溶接入熱は 2167 J/mm、溶接速度は 3 mm/s とし各モデ
ルの断面積と平均温度上昇の関係を示したものが Fig. 3 であ
る。また、溶接材料としては冷却時のマルテンサイト変態開
始温度 M s と終了温度 M f の平均値である M c が、650、400、
300、200、100℃の5種類を想定した。Fig. 4 はこれらの材料
Fig. 4 Materials used for
computation.
が拘束の無い状態で熱履歴を受ける場合の伸びと温度の関係
を示したものである。
1200
800
600
400
200
0
-200
70
80
90
100
110
120
Mc = 650 oC
1000
Residual stress, σx (MPa)
Residual stress, σx (MPa)
1200
Tavg. = 501.57 oC
Tavg. = 396.22 oC
Tavg. = 334.05 oC
Tavg. = 264.38 oC
Tavg. = 188.52 oC
Tavg. = 140.14 oC
Tavg. = 110.12 oC
Mc = 100 oC
1000
130
-400
-600
800
600
400
200
0
-200
70
80
90
-400
-600
-800
-800
-1000
-1000
Distance in y-direction (mm)
100
110
Tavg. = 501.57 oC
Tavg. = 396.22 oC
Tavg. = 334.05 oC
Tavg. = 264.38 oC
Tavg. = 188.52 oC
Tavg. = 140.14 oC
Tavg. = 110.12 oC
120
130
Distance in y-direction (mm)
Fig. 5 Distributions of longitudinal residual stress.
3.計算結果および考察
Fig. 5 は、変態温度が最も低い M c= 100 ℃および変態温度が最も高い M c= 650 ℃の場合を例に
モデル中央の溶接側表面の溶接線方向残留応力成分の板幅方向分布を示したものである。これらの
図には平均温度上昇をパラメータに拘束の強さが残留応力に及ぼす影響も同時に示している。
まず、 M c= 100 ℃のケースに注目すると、拘束の強さにほとんど関係なく 600~700 MPa の圧縮
の残留応力が発生する。一方、 M c= 650 ℃の場合は拘束の強さすなわち平均温度上昇によって残留
4.まとめ
全ての計算結果をまとめた図が Fig.6 で
あり、一般に平均温度上昇が高くなると溶
接残留応力は低くなる。その一つの原因は
力学的拘束の影響(図中の A)であり、も
う一つの原因が相変態(図中の B)であ
り、平均温度上昇が高い場合には変態温度
が比較的高い材料でも LTT のように振舞い
圧縮の残留応力を発生させる。
Residual stress, σx (MPa)
応力は大きく変化し、平均温度上昇が 100~200℃と低く拘束が強い場合には残留応力は引張であ
るが、平均温度上昇が 500℃と非常に高い場合には引張の残留応力の値は小さな値となる。このよ
うな高い平均温度上昇は自動車の足回り部品
1200
でビード寸法に対して板厚が相対的に小さい
Large restraint
Small restraint
900
部位では起こり得ると考えられる。
A
Without
Mc=400oC
transformation
600
300
Mc=650oC
B
Mc=300oC
0
Mc=200oC
-300
-600
Mc=100oC
-900
50
100
150
200
250
300
350
400
Average temperature (oC)
450
500
550
Fig. 6 Influence of transformation temperature
and average temperature on residual stress.