ローコスト住宅の此岸それとも 彼岸 -パワービルダーの再定義 SAREX News 2015 年 9 月 ■ローコスト住宅の尖兵■ ヤマダ・エスバイエルがスマートハウスに次ぎローコスト木造住宅への参入を発表 した。新会社の㈱ヤマダ・ウッドハウス社長に就いた増田文彦氏こそローコスト住宅 を伝播させた尖兵と目される人物である。 同氏は㈱ナック コンサルティング事業部でアキュラシステムの販売を皮切りに同 社住宅事業部を軌道に乗せ、現レオハウスの前身となるタマキューホーム㈱の事業を 統べる。それまで工務店FCやVCが一手に担っていたローコスト住宅分野に、新業 態としてのパワービルダーの原型を登場させる。さらにタマホームに移籍後、販売棟 数日本一、株式上場の原動力として努めることになる。 そして今回ヤマダ・エスバイエル不振の起死回生を託されることで、三度目のロー コスト住宅事業挑戦となる。 カンナ社長こと宮澤俊哉氏考案によるアキュラシステムは、ナックでローコスト住 宅のプロトタイプを揺籃させ、タマホームで商品性をブレイクしたのち、遂に家電量 販店のヤマダに辿りついた。ヤマダ・ウッドハウスのローコスト住宅は此岸それとも 彼岸のいずれだろうか。 ■家を買って掃除をして水を飲む■ 小見出しはナックのキャッチフレーズからの引用である。同社の住宅とダスキンと ミネラルウオーター販売事業を示している。詰まるところの住まいと住生活を表す文 句としてなかなか秀逸である。 さてはローコスト住宅。デフレ経済における代表的なビジネスモデルのファストフ ードとローコスト住宅が業績不振に陥っている原因はアベノミクスな訳ではない。安 さだけしか感じられない商品やサービスは、世界で一番品質にうるさい消費者に飽き られてしまった。現に食と住の業界の低迷をよそに、安かろう良かろうで快走中の製 造小売業態(SPA)がある。SPAの代表ともいえるユニクロは世界ブランドに近 づきつつあり、ホームファニシングの雄に成長したニトリとともに消費税も円安もな んのそのの業績をたたき出している。 両者生産性と付加価値生産の違いは株価評価で歴然とする。本稿執筆時点の東京株 式市場時価総額は以下の通りだ。 ファーストリテーリング(ユニクロ) 6.3 兆円 ニトリ 1.3 兆円 ナック 188 億円 タマホーム 165 億円 ■ローコストオペレーションの源泉は金融力■ ローコスト住宅を供給する住宅事業者は総称してパワービルダーと称されてきたが、 ローコスト注文住宅の凋落よりパワービルダーの本質が再定義されることになる。 注文のタマホームやナック(レオハウス)と分譲の飯田ホールディングス。パワー ビルダーとして同様の資材調達パワーを有しながら彼我の決定的な業績格差が生ずる のは金融力に他ならない。 飯田ホールディングスには、第一にフラット 35 開始当初より自前の住宅ローン会 社である㈱ファミリーライフサービスを設立し、住宅ローンの差別化を見越した先見 力、次にグループ内競合を厭わず不動産市場の存在感を高めつつ時間差株式を上場し 資本調達を実施し最後に資本統合に至る戦略力、そして今日の不動産仕入れで競合者 を圧する資金調達力がある。同社の銀行団との融資可能枠であるコミットメントライ ン契約額は 1,990 億円。戸建分譲地は担保評価額と抵当権実行額に差異が少ない。金 融機関とするとマンションのような金が寝る期間の長いプロジェクト融資に比べると 戸建分譲用不動産向け融資は敏速に実行される。 同じ不動産系融資でも住宅展示場(タマホーム)や店舗(ヤマダ電機)などの開設 資金となると融資実行速度は遅くなる。売場効率や投資回収期間など様々な事業計画 項目のチェックを経て融資審査を通過しなければ資金投下されることはない。金融の 女神は足の遅い亀には冷淡である。 今日の日本経済は生産年齢人口の減少によるGDPの低下に直面している。当住宅 業界においても職人不足、資材価格上昇と新設着工量減少がトリプルパンチでのしか かる。住宅業界の全てのプレイヤーが得意領域に特化することが生き残りのカギとな るだろう。不動産業界の高い付加価値生産額(1,886 万円/人)と建設業の低い生産 性(686 万円/人)を中和させ、資本レバレッジを掛けることでローコスト住宅オペ レーションモデルが完成している。ローコストの源泉は金融力である。ローコストの カテゴリーから鮮明となった此岸と彼岸。よって立つそはいずこに。
© Copyright 2024 ExpyDoc