HASHIDATE LAW OFFICE

外立総合法律事務所
HASHIDATE LAW OFFICE
January, 2015
HASHIDATE
LAW OFFICE
Vol. 04
NEWS LETTER
TOPIC
SHIAC 仲裁について
規則が制定・施行され、それが昨年(2014 年)及び本年(2015
第1
はじめに
年)に改正されたものです。
)
、今回のニューズレターでは、
当事務所が数多く取り扱っている国際取引においては、
仲裁手続の一般的な説明を行った後、SHIAC や SHIAC 仲裁
紛争が生じた際の解決方法として仲裁手続が選択されるこ
規則の概要等について説明します。
とが少なくありません。このような国際仲裁を扱う機関は
各国に設置されていますが、中国・上海地区にも「上海国
際 経 済 貿 易 仲 裁 委 員 会 1 」( Shanghai International
第2
仲裁とは
Economic and Trade Arbitration Commission: 以下「SHIAC」
(1)仲裁手続の概要
といいます。
)という新しい国際仲裁機関が設置されていま
仲裁手続とは、仲裁により紛争を解決するという当事
す。当事務所では、所長弁護士である外立憲治が SHIAC の
者の合意に基づき(この合意を「仲裁合意」といいます。
)
、
仲裁人を務めており、
その関係から、
先日、
当事務所に SHIAC
第三者の判断に従って(このような第三者を「仲裁人」
のVice- Chairman/Secretary-General であるMr. Wen Wanli
といいます。
)紛争を解決するという紛争解決手続のこ
氏を招いてセミナーを開催いたしました。かかるセミナー
とをいいます。一般的に、国際取引に関する紛争の法的
において得られた情報に加え、
SHIAC において、
一昨年
(2013
な解決方法としては、訴訟による場合と、仲裁による場
年)の 5 月 1 日から独自の仲裁規則が施行されていること
合が考えられますが、訴訟と比較した場合の仲裁手続の
を踏まえて(後記のとおり、これまで、 SHIAC は北京に本
特色は以下の点にあると言われています。

拠をおく CIETAC の上海分会という位置付けでしたが、独立
した仲裁委員会となったことに伴い、2013 年に独自の仲裁
専門性・・・訴訟手続では当事者が裁判官を
選択することができないのに対し、仲裁手続
C
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では当事者が仲裁人を選択することができる



(2)仲裁条項
場合があります。そのため、紛争の原因とな
ある契約から生じる(可能性のある)紛争を仲裁手続
る分野に関する知見・経験を有した仲裁人を
により解決するためには、その旨を契約書内であらかじ
選択することにより専門的な判断を得ること
め定めておくのが一般的です(理論上は、紛争が生じた
が可能となります。
後であっても両当事者が当該紛争を仲裁により解決す
秘密性・・・多くの国において訴訟手続や判
る旨を合意すれば仲裁手続を利用することは可能です
決内容は一般に公開されるのに対し、仲裁手
が、既に紛争が発生した段階でそのような合意を行うこ
続への係属の有無および仲裁判断の内容は通
とは困難なことが多いため、通常は予め契約書内で定め
常非公開とされます。
ておきます。このような契約条項を「仲裁条項」といい
迅速性・・・訴訟手続では、判決に不服があ
ます。
)
。仲裁条項においては、紛争解決手段として仲裁
る当事者は上訴することができるのが一般的
手続を利用する旨のほか、必要に応じて、①どの仲裁機
であるのに対し、仲裁手続では仲裁判断に不
関による仲裁手続を利用するか、②どの仲裁機関の仲裁
服がある当事者であっても上訴ができないた
規則に従って仲裁手続を行うか、③仲裁地をどこにする
め、一般的には訴訟手続よりも迅速な解決を
か、④どの言語により仲裁手続を行うか、⑤仲裁人をど
得られるとされています。
のような方法により選任するか、⑥準拠法をどうするか
執行可能性・・・訴訟の場合、ある国の裁判
等をあらかじめ定めておく場合もあります。
所で有利な判決を得ても、判決の承認・執行
における相互主義の欠如等を理由として、他
(3)アジアの主な(渉外)仲裁機関
国に所在する相手方の財産に対して強制執行
国際的な商取引に関する仲裁(国際仲裁)を行う機関
ができない場合も多くあります。これに対し、
として、日本には「一般社団法人日本商事仲裁協会
仲裁の場合には、仲裁判断の国際的執行力に
(JCAA)
」があり、諸外国にも多くの渉外仲裁機関が存
関するいわゆるニューヨーク条約2(世界 153
在します。アジアにおける渉外仲裁機関として最も多く
の国・地域が加盟)が存在することにより、
利用されているのは、シンガポールの「シンガポール国
多くの国・地域において仲裁判断に基づく強
際仲裁センター(Singapore International Arbitration
制執行を行うことが可能です。
Centre: SIAC)」であり、また中国においては、SHIAC
(かつての CIETAC 上海分会)のほか、香港の「香港国
「紛争解決」というとまずは訴訟手続が想起されると
際仲裁センター(Hong Kong International Arbitration
思いますが、国際的な取引においては、紛争解決手段と
Centre: HKIAC)
」
、中国の北京に本拠をおく「中国国際
しては訴訟手続よりも仲裁手続が選択されることが一
経済貿易仲裁委員会(China International Economic
般的です。その理由は、上記のような仲裁手続の特色、
and Trade Arbitration Commission: 以下「CIETAC」と
特に他国での執行可能性が高い点にあります。
いいます。
)
」等があります。
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第3
見做されます(第 3 条第 3 項)
。
SHIAC について
(2)仲裁地4(第 7 条)
SHIAC はもともと CIETAC の上海分会(CIETAC Shanghai

Sub-Commission)という位置付けでしたが、2012 年に行わ
両当事者が書面により仲裁地を合意している場合、
当該合意地が仲裁地となります(第 7 条第 1 項)。
れた CIETAC 仲裁規則の改定を機に、CIETAC 上海分会から

SHIAC へと名称変更する形で独立した仲裁委員会となりま
両当事者による仲裁地の合意がない場合は、仲裁
した。SHIAC の本部は中国の経済の中心地である上海市内
委員会の所在地(中国上海)が仲裁地となります
に所在しており、2013 年 5 月 1 日からは SHIAC 独自の仲裁
(第 7 条第 2 項)
。
規則(以下「SHIAC 仲裁規則」といいます。
)が施行されて
(3)仲裁人の人数(第 20 条)
います(SHIAC は、上海市や広東省の司法部門の支持を受

けて、CIETAC 本部とは別に仲裁委員会としての登記を行っ
仲裁廷は 1 人又は 3 人の仲裁人により構成される
ことになります(第 20 条第 1 項)
。ただし、両当
ています。
)
。
事者が仲裁人の人数を定める合意を行わなかった
また、上海では 2013 年 9 月 29 日に「上海自由貿易試験
区(The China (Shanghai) Pilot Free Zone)
」が開設され
場合、又は本仲裁規則に別途定めがない場合には、
ていますが、この上海自由貿易試験区に関連する紛争を仲
仲裁廷は 3 人の仲裁人により構成されることにな
裁するための仲裁規則(
「中国(上海)自由貿易試験区仲裁
ります(第 20 条第 2 項)
。
規則(The China(Shanghai) Pilot Trade Zone Arbitration
(4)仲裁人の選択(第 21 条)
Rules)
」
)も SHIAC により制定されており、2014 年 5 月 1

日から施行されています3。
原則として仲裁人は SHIAC の仲裁人名簿の中から
仲裁人を選定することになります
(第 21 条第 1 項)
。
第4
SHIAC 仲裁規則の概要
ただし、両当事者が仲裁人名簿に記載されている
以外の者を仲裁人として指名しようとする場合、
SHIAC 仲裁規則(2015 年 1 月 1 日施行改正版)の概要は以
下のとおりです。
適用法令に従って SHIAC の主任(Chairman)が当
(1)SHIAC 仲裁規則の適用範囲等(第 3 条)
該指名を承認すれば、指名された者が仲裁人とな

ることが可能です(第 21 条第 2 項)
。
両当事者が SHIAC 仲裁規則による仲裁に合意した
場合、SHIAC 仲裁規則が適用されます(第 3 条第 1
(5)部外者による仲裁手続への参加(第 31 条)
項)
。



両当事者が、SHIAC 仲裁規則以外の仲裁規則に基づ
仲裁手続において、双方当事者は、部外者の同意
き SHIAC での仲裁を行う旨を合意した場合は、仲
を経た上で、当該部外者を仲裁当事者に追加する
裁地法に反しない限り、そのような形での仲裁手
ことを書面で申し立てることができます。また、
続を行うことが可能です(第 3 条第 2 項)
。
双方当事者の同意を経たうえで、部外者の方から
両当事者が仲裁機関を定めずに、適用されるべき
仲裁当事者となることを書面で申し立てることも
仲裁規則を SHIAC 仲裁規則と定めた場合、SHIAC 仲
できます。これらの申立てがあった場合には、仲
裁規則に基づき SHIAC での仲裁を合意したものと
裁廷(仲裁廷が構成されていない場合は、秘書処。
)
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が当該部外者を仲裁当事者とするか否かを決定す
ることになります。
第5
(6)開廷地(第 33 条)

中国(上海)自由貿易試験区仲裁規則
について
両当事者が開廷地について(上海以外の場所を)
合意している場合、仲裁審理は当該合意地で行わ
中国(上海)自由貿易試験区仲裁規則(2015 年 1 月
れることになります(ただし、上海以外の場所を
1日施行改正版)には以下のような特徴的な制度が存
開廷地とする合意をしている場合には、両当事者
在します。
は、同地で仲裁審理を行うために必要な費用を予
(1)暫定措置(第 18 条~第 24 条)
納する必要があり、これを怠った場合両当事者の

合意にかかわらず上海で仲裁審理が行われること
当事者は、暫定措置執行地の所在する国又は地域
になります。
)
(第 33 条第 1 項)
。両当事者が開廷
の関連法令に基づき、財産保全、証拠保全、及び
地に関する特段の合意をしていない場合、仲裁審
一方当事者に対して一定の行為を行うよう要求す
理は原則として上海で行われることになります
ること/一定の行為を行うことを禁止すること等
(第 33 条第 2 項)
。
を内容とする暫定措置の申立てを行うことができ
ます(第 18 条)
。

(7)審理方法(第 37 条)

かかる暫定処置の申立ては SHIAC に仲裁を申し立
仲裁申立て、答弁及び反対請求の根拠となる事実
てる前であっても可能であり、この場合、暫定措
については、両当事者は、証拠を提出することに
置申立人は、管轄権を有する裁判所に対して直接
よりこれを証明しなければなりません(第 37 条第
暫定措置の申立てを行うか、又は SHIAC に対し、
1 項)
。
管轄権を有する裁判所への暫定措置申立てに協力
するよう求めることもできます
(第 19 条第 1 項)
。
仲裁前の暫定措置申立人は、暫定措置執行地の所
(8)仲裁判断書草案の審査(第 48 条)

仲裁廷は、仲裁判断書に署名する前に、審査を受
在する国又は地域の法律に基づき、暫定措置執行
けるために仲裁判断書の草案を仲裁委員会に提出
後の法定期間内に SHIAC に仲裁を申し立てなけれ
しなければなりません。
ばなりません(第 19 条第 3 項)
。

則として仲裁廷に提出され(第 20 条第 2 項)
、か
(9)仲裁の言語(第 60 条)

事件受理後の暫定措置申立ては SHIAC によって原
両当事者が仲裁の言語を合意している場合は、そ
かる暫定措置申立てについては、仲裁廷が暫定措
の言語により仲裁手続が行われますが、当事者間
置決定を行うことになります(第 22 条第 1 項)
。
に仲裁の言語に関する合意がない場合には、原則
もっとも、SHIAC による事件受理後であっても仲裁
として中国語により仲裁手続が行われます(第 60
廷が構成されるまでの間は暫定措置決定を行うべ
条第 1 項)
。
き仲裁廷が存在しないため、かかる場合、暫定措
置申立人は、暫定措置申立てを処理するための緊
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急仲裁廷の構成を SHIAC に対して申し立てること
第6
SHIAC での仲裁を検討する際の
ができます(第 21 条第1項)
。
留意点
(2)仲裁と調停の結合(第 50 条・第 51 条)


(1)問題の所在
仲裁事件受理から仲裁廷が構成されるまでの間、
前述の通り、SHIAC はもともと CIETAC の上海分会で
一方当事者は、他方当事者の同意を得たうえで、
あったものが、その名称を変更する形で CIETAC とは
調停の申立てを行うことができます(第 50 条第 1
独立の仲裁委員会となったものです。そして、中華人
項)
。かかる調停において和解が成立した場合、調
民共和国仲裁法上、(仲裁手続を行うために必要な)
停申立人は、仲裁申立てを取り下げ、又は仲裁廷
仲裁合意が有効となるためには仲裁を行うべき仲裁
に対し、調停での和解内容に従った仲裁判断を行
委員会を選定しておく必要があることから(この点に
うよう要請することができます
(第 50 条第 5 項)
。
ついては、前記脚注1をご参照ください。)、仲裁条
仲裁廷が構成された後であっても、両当事者に調
項で仲裁委員会を「CIETAC 上海分会」と定めている場
停の意思がある場合、又は一方当事者に調停の意
合、又は仲裁委員会を「CIETAC」、仲裁地を「上海」
思があって他方当事者がこれに合意する場合には、
と定めている場合に、当該仲裁条項に基づいて
仲裁廷はその審理する事件について調停を行うこ
(CIETAC ではなく)SHIAC が行った仲裁判断の適法性
とができます(第 51 条第 1 項)
。かかる仲裁廷に
(具体的には、このような場合 SHIAC には仲裁に関す
よる調停において和解が成立した場合、両当事者
る管轄権がなく、SHIAC 仲裁判断に基づく強制執行が
は書面による和解契約書を締結します。そして、
許されないのではないかという点5)が争点となった事
両当事者は、仲裁申立て若しくは反対請求を取り
案が複数存在します。そして、中級人民法院(各行政
下げ、又は仲裁廷に対し、調停での和解内容に従
区ごとの人民法院(裁判所)であり、この上に各省ご
った仲裁判断を行うよう要請することができます
との高級人民法院、さらに上に北京の最高人民法院が
(第 51 条第 5 項)
。
あります)のレベルでは、SHIAC の管轄権を肯定した
裁決例(SHIAC 仲裁判断に基づく強制執行を肯定)と、
SHIAC は、当該中国(上海)自由貿易試験区仲裁規
逆に SHIAC の管轄権を否定した裁決例(SHIAC 仲裁判
則に関し、今後積極的に利用の拡大を図る意向ですが、
断に基づく強制執行を否定)とに分かれています6。
現時点で当該仲裁規則及びこれに基づく仲裁廷を利
このように、(SHIAC が独立する前に規定された仲
用した仲裁の先例がほとんどないことに鑑みると、日
裁条項に基づいて行われた)SHIAC 仲裁の有効性につ
本法人が仲裁合意において中国(上海)自由貿易試験
き下級審レベルでの判断が分かれていることから、中
区仲裁規則を選択することには、なお十分な留意が必
国の最高人民法院は 2013 年 9 月 4 日付で、下級審裁
要であると考えています。
判所に対し、今後、上記仲裁条項の有効性や CIETAC・
SHIAC 等による仲裁判断に基づく強制執行の不許に関
する判断が求められた事案がある場合には最高人民
法院にその旨の報告を行ったうえ、最高人民法院によ
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るレビューを受けるまでは裁決を言い渡してならな
おらず、最高人民法院の立場が明確になったとまでは
い旨の通知を発しています。これにより、今後はこの
言い難い状況にあります。そのため、「CIETAC 上海分
問題点に関する最高人民法院による(事実上の)法令
会」を仲裁委員会と定める仲裁条項が既に存在する場
解釈の統一が期待できることになります。
合、将来的な紛争解決を SHIAC で行いたいと考えるな
そして、2014 年 12 月 31 日には、上海市第二中級人
らば、念のために、「SHIAC」を仲裁委員会とする形
民法院により、上記の争点に関する裁決が言い渡され
に仲裁条項を修正しておくことをお勧めします。
ました。この事案は、①「CIETAC 上海分会」を仲裁
委員会と定めた仲裁条項の有効性及び②かかる仲裁
(3)これから新たに SHIAC を仲裁委員会として仲裁条項
条項の下で仲裁の管轄権を有するのは「CIETAC」又は
に定める場合
「SHIAC」いずれであるかという点が争点となった事
SHIAC の管轄権が争点となった紛争は、いずれも
案です。かかる事案において、上海市第二中級人民法
「CIETAC」又は「CIETAC 上海分会」を(仲裁を行う)
院は、①SHIAC は適法に設立された独立の仲裁機関で
仲裁委員会と規定した仲裁条項が存在する事案です。
ある旨を述べて当該仲裁条項の有効性を認めたうえ
そのため、今後締結する契約の紛争解決方法を SHIAC
で、②仲裁条項内で「CIETAC 上海分会」を仲裁委員
による仲裁手続とすることを希望する場合には、仲裁
会と定めた場合、かかる仲裁条項に基づく仲裁手続の
条項内で「SHIAC」による仲裁を行う旨を明記してお
管轄権を有するのは「SHIAC」であるという内容の裁
けば、仲裁機関の管轄権及び当該仲裁判断に基づく強
定を言い渡しました。
制執行可能性という観点からは特に問題はないもの
上海市第二中級人民法院が言い渡したこの裁定は、
と考えられます。
その内容につき最高人民法院によるレビューを経た
うえで言い渡されたものであると考えられます。
第7
紛争解決方法として SHIAC 仲裁を
選択する場合のモデル条項
(2)既に「CIETAC 上海分会」を仲裁委員会と定める仲裁
最後に、SHIAC が公表しているモデル仲裁条項(英
条項(又は仲裁委員会を「CIETAC」
、仲裁地を上海と
文)をご紹介します。但し、このモデル仲裁条項は必
定める仲裁条項)が存在する場合の留意点
要最低限度の記載に留まるものであるため、実際に契
仲裁委員会を「CIETAC 上海分会」と定めた場合の
約書内で仲裁条項を定める際には、このモデル条項に
管轄権が SHIAC にあると判断した上海市第二中級人民
加え、使用言語・仲裁場所(開廷場所)・仲裁人の定
法院による上記裁定は、最高人民法院のレビューを経
め方等についても規定しておく必要があることには
たうえで言い渡されたものであると考えられるため、
ご留意ください。
最高人民法院としても、「CIETAC 上海分会」を仲裁
委員会と定める仲裁条項に基づき行われる仲裁手続
“Any dispute arising from or in connection with
の管轄権は SHIAC にあるという立場を採用したものと
this Contract shall be submitted to Shanghai
考えられます。もっとも、現時点においては最高人民
International Economics and Trade Arbitration
法院によるレビューを経た裁決が 1 件しか公表されて
Commission for arbitration”
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(日本語訳)
中華人民共和国仲裁法上、仲裁判断を行った仲裁委員会に仲裁を行う
管轄権がなかった場合、当事者は中級人民法院に対して、仲裁判断書
「本契約に起因し又は本契約に関連する一切の紛争
を受領した日から 6 か月以内に当該仲裁判断の取消しを求めることが
は、すべて上海国際経済貿易仲裁委員会の仲裁に付
できます(第 58 条第 1 項第 2 号、第 59 条)。また、一方当事者が仲裁
す。」
判断に基づく強制執行を申し立てた場合において、被申立者が当該仲
裁判断を行った仲裁機関が仲裁判断を行う管轄権を有しないことを証
した場合には、人民法院は当該仲裁判断に基づく強制執行を行わない
第8
おわりに
旨の決定をすべきことを定めています(第 63 条)
。
6
近時は「チャイナ・プラス・ワン」などと言われ、
SHIAC の管轄権を否定し、SHIAC 仲裁判断に基づく強制執行を否定し
た例として、蘇州市中級人民法院による 2013 年 5 月 7 日裁決がありま
中国以外のアジア諸国への進出がブームとなってい
す。但し、この裁決は、上級審である江蘇省上級人民法院により取り
ますが、中国が依然世界最大の市場であることには変
消されています。また、寧波市中級人民法院による 2013 年 5 月 22 日
わりはなく、日本企業の取引相手としての重要度は依
裁決も SHIAC の管轄権を否定して SHIAC 仲裁判断に基づく強制執行を
然として大きなものがあり、中国の企業と取引関係を
否定しましたが、この裁決も、上級審である浙江省上級人民法院によ
有する日本企業も多いと思われます。中国企業との取
って取り消されたうえで事件が寧波市中級人民法院に差し戻されてお
引においては、紛争が発生した場合の対処方法につい
り、差戻審(寧波市中級人民法院)は 2013 年 7 月 25 日に SHIAC 仲裁
ても予め十分な検討・準備をしておくことが肝心であ
判断に基づく執行を認める裁決を行っています。このように、SHIAC 仲
り、本稿がその一助となれば幸いです。
裁判断に基づく執行が否定されたのは全て中級人民法院(下級審)レ
ベルでの裁決であり、上級審(上級人民法院)レベルで SHIAC 仲裁判
断に基づく執行を否定した例はないようです。
1 「仲裁委員会」というのは中華人民共和国仲裁法上の概念であり、
同法に基づき仲裁手続を行う権限を有する機関のことを意味します
(中華人民共和国仲裁法第 10 条以下)
。中華人民共和国仲裁法上、仲
裁合意の有効性が認められるためには(仲裁手続を行うべき)
「仲裁委
員会」を選定する必要があります(同法第 16 条第 2 項 3 号)。
2
正式名称は「United Nations Convention on the Recognition and
Enforcement of Foreign Arbitral Award
1958(外国仲裁判断の承認
及び執行に関する条約)」
3
紙面の関係上、本ニューズレターにおける上海自由貿易試験区仲裁規
則に関するご説明は特徴的な制度に限定いたしますが、同規則(2015 年
施行の改正版)の全文については SHIAC のホームページ
(http://www.shiac.org/English/SHIACFTZ_2015_1222_EN.pdf)にて確認
することが可能です。
4
「仲裁地」は、
「開廷地」
(実際に仲裁の審理が行われる場所)とは異
なる概念です。
「仲裁地」は、当該仲裁につき、いかなる国・地域の仲
裁法(仲裁手続に関する定めである仲裁法は各国ごとに制定されてい
ます)が適用されるかということを決定するための概念となります。
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執筆担当者
執筆担当者
弁護士 三上 貴弘 Takahiro Mikami
パートナー
Partner
E-mail: [email protected]
第一東京弁護士会所属
弁護士 太田 麦 Baku Oota
アソシエイト
Associate
E-mail: [email protected]
第一東京弁護士会所属
本ニューズレターは、一般的な情報を提供する目的で作成されたものであり、特定の事実関係を前提とする具体的な法的アドバイスを提
供するものではありません。本ニューズレターで紹介する法令又は判例の個別事案に対する適用可能性につきましては、具体的な事実関係
に依拠することになりますので、弁護士等の専門家にご相談ください。また、本ニューズレターの記載のうち、意見もしくは見解にわたる
部分は執筆担当者の個人的な見解であり、当事務所もしくは当事務所のクライアントの見解又はそれらの見解を代表するものではありませ
ん。
本ニューズレターの内容につきましてお問い合わせ等ございましたら、執筆担当者までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願い致しま
す。また、本ニューズレターの配信の停止をご希望の場合には、[email protected](ニューズレター専用)までご連絡下さいま
すよう、重ねてお願い申し上げます。
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