安田美予子さん

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プロジェクト
連載
2015.4.27 渚の風 4号 19
組織と人づくり③第3章
関西学院大学 人間福祉学部教授
安田美予子さん
組織開発とはなにか
その2 変化や働きかけの対象は?
『渚の風』第3号では、障害者支援施設・三恵園(大
阪府池田市)で始まった「三恵園の未来に向けての組織
と人づくりプロジェクト」を進める方法である「組織開
発」(Organization Development、通称OD)について
紹介しました。ODは組織の人間関係や組織文化の問題
を取り扱う実践で、社会福祉の世界ではまだまだなじみ
は薄いですが、企業を中心に関心が高まっています。
今回はODの「価値」について紹介します。ODの著
事例報告会
名な研究者・教育者であるアメリカン大学のロバート・
1年に1度行われる、各施設からの実践事例報告会。きちんと支援ができたケースもあれば、反省だ
らけの事例もある。毎年、多くの職員が集まり、仲間たちの報告に耳を傾ける。「三恵園」主任の角田
みどりさん(写真中央)も、熱心に質問した
=3 月 28 日、池田市の「三恵園」地域交流室
J・マーシャックは、ODは価値をベースにした実践で
まく機能するようになることを目指し、その結果として、
あると述べています。価値を大切に、価値の実現を目指
経済的なものがついてくると明快に述べています。企業
かで、成文化されていないけれども三恵園で代々引き継
して、
ODを実践するということです。マーシャックは、
活動で取り入れられるODでありながらも、経済的な成
がれ、
今後も継承していきたい価値として「人を大切に
①ヒューマニスティックな哲学、②民主主義の原則、③
果・結果を第一に重視しないという姿勢は、ODの価値
する」をあげ、これを重視した施設経営・運営をしていき
クライエント中心のコンサルティング、④社会生態学的
によるものでしょう。
たいと常々語っています。この「人を大切にする」もOD
システムへの志向性の4つを具体的な価値としてあげて
います。
者である宮脇真佐恵さんは、プロジェクト推進会議のな
そして、最近発展しつつある価値が4つめの社会生態
の価値とぴったり一致します。このように、ソーシャル
学的システムへの志向性です。ODの目的は、個人、集
ワークの価値、三恵園で重視されている価値、そしてO
団、組織レベルで語れるものではなく、より広範な社会、
Dの価値が重なっていることからも、組織開発を三恵園
組織やコミュニティといった社会システムがヒューマニ
経済、環境のシステムを見据え、より広いグローバルな
プロジェクトで用いる方法論として採用した次第です。
スティックな志向性を持ち人々のポジティブな可能性を
システムへの影響も考慮に入れなければならない、とい
信頼することです。人々は本来善であり悪ではない、
個々
うものです。ある組織の利益の最大化が、環境やコミュ
Profile
人は変化し成長する可能性を持つ、個々人の価値や尊厳
ニティや国のシステムを害するようであれば、利益追求
や す だ み よ こ 大 阪 府 出 身。
を重んじる、といった人間観が強調されます。
ひとつめのヒューマニスティックな哲学とは、集団や
は避けなければならないと考えられてます。近年、企業
こ れ ま で、 病 院 の ソ ー シ ャ ル
②民主主義の原則では、より多くの人が意思決定に参
で重視されつつあるCSRやサステイナビリティなどと
ワーカーによる退院援助、ソー
加することが重視されます。特別の知識を持ったエリー
同様に、一組織や一企業の成功・発展ではなく、より大
シャルワークにおける質的研
トが人々を代表して決定するのではなく、人々には知恵
きなシステムが視野に入れられているということでしょ
究、障害者の自立生活支援など
があると信じ、より多くの人々が意思決定のプロセスに
う。
のテーマで研究してきた。大学
参画することが目指されます。
以上の 4 つの価値について、社会福祉の方法論であ
では、社会福祉学原論、社会福祉質的調査法、ソー
③クライエント中心のコンサルティングは、OD実践
る「ソーシャルワーク」の価値と似ていると思われた読
シャルワーク演習、障害者領域のソーシャルワーク
者やコンサルタントとクライエントの関係に関すること
者もいるのではないでしょうか。私もODの勉強を始め
実習を、大学院では質的調査法を教えている。
です。ODでは、外部の専門家よりも内部の人々のほう
て、個人の尊厳の重視、人々の変化や成長の可能性への
が知恵を持っていて、適切なプロセスが提供され支持的
信頼、クライエントや利用者の意思決定の強調、ソーシャ
な環境があれば、ヒューマン・システムは自律的に変化
ルワーカー・実践者と利用者・クライエントのパートナー
をする力があると考えます。その前提のもと、OD実践
シップ関係などの点で、ソーシャルワークとODの親和
者はクライエントのパートナーであることが強調されて
性や類似性を発見しました。そして、ODの4つめの社
います。
会生態学的な指向も、ソーシャルワークのエコ・システ
以上の 3 つの価値の根底には、人々の成長や可能性、
ムの視座と重なるところです。このように社会福祉の方
個々人の価値や尊厳、人々が持つ知恵といったものに対
法論であるソーシャルワークとODの価値の類似性・親
する信念や信頼が流れていると言えるでしょう。アメリ
和性も、障害者支援施設・三恵園で進めている「三恵園
カで発展した「変革マネジメント」をはじめとする組
の未来に向けての組織と人づくりプロジェクト」でOD
織に変化を起こす方法とODの決定的な違いについて、
を方法論として採用した理由のひとつです。
マーシャックは、それらが経済的な成長を重視している
さらにODの価値は、三恵園で引き継がれてきた価値
のに対し、ODは人間個人の成長を中心として組織がう
である「人を大切にする」とも一致します。三恵園管理
参考文献
マーシャック・ロバート・J(2012)「組織開発
(OD)とは何か?:起源と哲学、その可能性」『人
間関係研究』11、p.153-172。
Marshak,R.J.(2014). Organization
development as an evolving field of practice.
Brenda B. Jones and Michael Brazzel, eds. The
NTL Handbook of Organization Development
and Change : Principles, Practices, and
Perspectives(2e d ed.).pp.3-24. San Francisco,
Calif. : Wiley.
餅は餅屋、業者の知恵や力を引き出し、もっと活用しては
先日、
「ものづくり中小企業を応援する
第 7 回「がんばれ!!ものづくり日本」緊
急提言シンポジウム in 関西」
に参加した。
Text by Toshiaki TAKATORI
ろんそのフィーは払わな
だ。職員が作ったもので、素人っぽさ満
ちょっとした工夫で随分 楽になったり、
載だ。
危険が小さくなったりすることがもっとた
いといけないが、同時に
くさんある。
業者の持つノウハウを徹
杖が倒れると拾おうとして転倒する危
基調講演の1人に(渚の風3号でも紹介
険があるが、固定された輪っかの中に杖
講演を聴きながらそんなことを考えて
底的に引き出し、提供し
された)HAPPY LEAF 代 表、福祉ア
を入れることで、倒れることがなくなっ
いたら、
「ジョハリの窓」の“盲目の領域”
てもらうことでフィー以上
ナリストの藤井円さんから介護の現場の
た。利用者も施設職員も一つ困り事が解
苦労や悩みとともに、施設を利用する高
消された。
(自分にはわかっていないが、他人にはわ
のものを職場にもたらし
鷹取敏昭さん
かっている)ではないけれども、今後介
てもらうべきだ。業者も現場のことを知
齢者のためのいろいろな工夫が写真入り
ものづくりの企業からすれば、なんだ
護の現場は他業種からも知恵や力をもっ
りたがっているし、提供するノウハウが
で紹介された。その工夫の一つが杖対
そんなことかと思われたかもしれないが、
と借りた方がいいと思った。餅は餅屋と
役に立てば嬉しいものだ。私も業者の一
策。テーブルに立て掛ける杖が倒れない
介護の現場ではそんな困り事、悩み事
いわれるが、やはり素人には知り得ない
人として、そんなことを思った。
ようにするために、紐のようなもので輪っ
が多い。現場の職員は日常のことなので
プロのノウハウがある。業者との付き合
人事マネジメント研究所 かを作り、テーブルの脚に固定したもの
疑問を持たずに過ごしてしまいがちだが、
い方は、モノやサービスを買ったら、もち
進創アシスト代表 鷹取敏昭