第10章 教授事象

第10章 教授事象
インストラクションの本質
• 情報処理(IDモデル)
– 学習を確実に促進させることが検証されている確
かな方法と方略が存在する.
• 例えば良いスピーチの経験的ガイドライン
– スピーチ内容を設計・構成するためのモデル
• 聞き手に対して,これから何を話すのかを伝える.
• その内容について説明する.
• 最後に聞き手に何を話したかを伝える.
インストラクションと学習
• 情報処理の仕組み(図10-1,図1-1)
– 受容器へおよぼす刺激が発生する.
– 感覚登録器によって神経作用のパターンをつくり出す.
– 短期記憶に格納される形式に変換される.
– 意味的符号化によって長期記憶へ渡される.
– 必要に応じて記憶またはスキルが取り出される.
– 反応生成器を通して行動に変換される場合もある.
– 短期記憶に呼び出され,他に入って来た情報と組み
合わせることで,新しく学んだことを符号化する.
– 学習成果の実行によって,強化として知られるフィード
バックに依存するプロセスが始まる.
学習者の注意を喚起する
• アニメーション,実演,めずらしさ(新奇性)効果
(novelty effect)を用いる例がある.
• 学習者の好奇心を引き付ける.
– 科学者はどうやって地球が何歳であるかを確認でき
るのか,知ってる?
– 野球選手の打率はどうやって調べるの?
• 問いは標準的なものとして扱う事はできない.
– 学習者は異なる感心を持っている.
– 教師の技芸(art)に属する.
学習者に目標を知らせる
• 達成してほしい知識やスキルが何であるかを学習者
に伝える.
• 学校教育
– はじめは,子どもには分かりにくい目標が多く存在する.
– 合衆国憲法の序文の例
• 暗唱と,主要な考え方について話し合いができるようになる目標
は異なる.
– 小数の学習内容の例
•
•
•
•
小数点を読めるようになる.
小数が書けるようになる.
小数の足し算ができるようになる.
どれができるようになると期待されているのか曖昧である.
前提条件を思い出させる
• 新しい学習
– すでに自分たちが知っていることの上に成立する.
– 質量の法則(ニュートンの第2法則 F=mα)
• 掛け算,加速度と力に関する概念が基礎として必要である.
– 8という数字の概念
• 7,1の集合と,加算の概念が必要である.
• 以前学習したことを思い出させる.
– 再認方式の質問
• どの選択肢が正しいかを選ぶ質問方法.
– 再生方式の質問
• 暖かい空気と水蒸気について知っていることを教えてください.
• 山頂の気温について何か知っていることはありますか?
新しい事項を提示する
• 刺激情報
– 学習成果を反映するパフォーマンスの中に生かされる.
– 歴史上の出来事の場合
• 口頭または印刷された形のいずれかで,事実が伝達されな
ければならない.
– 初級レベルのリーディングクラスで文字の発音
• 印刷された文字が提示される必要がある.
– フランス語で口頭質問に答える場合
• 口頭質問が提示される必要がある.
– 適切な刺激の提示が重要である.
新しい事項を提示する
• 口頭質問
– 口頭質問を解くために正数と負数を使う能力を習得さ
せる.
• 口頭質問が適切な刺激となる.
• 適切な刺激を使うことを軽視すると,異なるスキルを学ぶこ
とになるかもしれない.
– 17+45
• 縦書きの式しか見た事が無ければこの式は計算できない.
– 刺激の提示形式
• イタリック,太文字,下線で提示する.
• 太い輪郭を描く,○で囲む,矢印で示す.
新しい事項を提示する
• 弁別力
– 区別される対象どうしの違いを大きく取り上げる.
– 徐々に小さな違いを提示する.
• a,b,dの違い等.
• 概念やルール学習
– ルールを示してから事例を提示するパターン
– 事例を示してからルールを提示するパターン
– 円のような概念学習
• 色の付いた円,ロープや糸で作った円,手をつないで円を
作らせる等.
新しい事項を提示する
• 実用度の相対的な差
– 長方形の面積(A=x×y)
• Aが面積
• xとyは平行でない辺
• ×は乗算
– さまざまな例題を解く必要がある.
• 文章や図を活用する.
• 長期に渡って問題を提示することで,学習の保持と転移を
高めることができる.
• ルールが学習されると,さらに難しい問題を解決するために
選択的に思い出され,組み合わされ,活用される.
• 変わった形の図形は,既知の図形に分解できるようになる.
新しい事項を提示する
• 概念とルールの学習
– 帰納的または演繹的のどちらかの方法で学ぶ.
– 具体的概念
• 円,長方形の学習例.
• 複数の例を紹介することが望ましい.
– 年長者の場合
• 簡単な定義が最初に来ることが望ましい
– 根は土の下にある植物の一部である.
– 写真などを用いてすぐに定義の説明を加えると良い.
学習の指針を与える
• 学習の指針を与えることの本質
– すでに知っていることと今学ぼうとしていることを結び
つける.
– 足場づくり(scaffolding)
• 学習者がつくり出す学習構造のための認知的支援である.
– 素数の例
• 見た目では分からないため,定義された概念として扱われる.
• 因数(除数)がその数そのものと1だけで構成されている整
数の集まりが存在することを理解する.
8=2×4, 8=2× 2× 2, 8=8×1
7=1×7
学習の指針を与える
• 学習の指針を与えることの本質
– ヒントや質問などを用いてコミュニケーションをとる
• この数字の並びの中で,何か規則のようなものを見つけら
れた?
• 数字に含まれるさまざまな因数の数について,何か差はあ
りますか?
• その他
– 学習の指針を与える機能を持っている.
– 直接答えを教えているわけではない.
• 下位概念の望ましい組み合わせにつながる思考を形成さ
せられるように導いている.
– 思考をある方向に向けて刺激し,学習が順調に進ん
でいくように支援する.
学習の指針を与える
• 学習指針の量
– 質問の数,直接的または間接的なヒントになる度合は,
学習している能力の種類によって変わる.
• 新しい名前を覚える例
– ザクロの実
• 間接的にヒントを提示したり質問したりすることで「発見させ
る」ことを期待するのは時間の無駄である.
• 大・小・緑・完熟したもの・丸ごと1つ・カットしたものを見せる.
• 概念を精緻化させる方が良い指針となる.
– 直接的でないヒント
• 答えを発見した場合は,学習の永続性が高まる.
学習の指針を与える
• 教示的でレベルの低い質問を用いる場合
– 不安感の高い学習者
• インカ族が他の種族との貿易に使用したものは何か?
• 魅力的で効果的になる.
• レベルの高い質問を用いる場合
– 不安を感じない学習者
• 黒曜石の分布を調べることによって,インカ族の貿易の貿
易経路についてわかることは何かないだろうか?
• 積極的な態度を示すかもしれない.
• 個人差
– 学習速度の個人差を考慮しておく必要がある.
練習の機会をつくる
• 十分な学習指針
– 頭の中で学習したことを結び合わせることができる状況に
来ている.
– 多少の喜びが学習者の表情にみられる.
• 理解しているということになる.
• どのように問題を解けば良いのか,学習者に見せてもらう.
• ixで終わる単語の複数形の例
–
–
–
–
matrix → matrices
appendix → appendices
学習内容を長期記憶から短期記憶に呼び起こす.
理解していることが正確で十分であるかどうかを確認する
(フィードバックを与える機会)
フィードバックを与える
• 正解した場合
– 学習に必要な事象がすべて終了したと考えることは誤り
である.
– 学習後の効果に十分注意を払わなければならない.
– ダーツの投げ方の例
• 的の中心からの距離で自動的にフィードバックされる.
– 代名詞の使い方の例
• 正解不正解のフィードバックは教師から与えられる.
– フィードバック
• 与える方法や用いる語句に関する標準的な方法は無い.
• 印刷物の場合は,ページの余白や次のページに正解を印刷した
り,巻末に正解を掲載する方法がある.
• 教師のうなずき,笑顔,言葉使い等
学習成果を評価する
• 適切な行動が引き出された時
– 期待していた学習成果に到達したことが示される.
– このことが学習成果の評価となる.
– 1度だけ示した場合
• 偶然,憶測の可能性がある.
• 異なる例を用いて同じようにできた場合
– 学習が成立したことをより強く確信できる.
– 2回目,3回目の例を確認できると高い確信につながる.
• 教師の判断
– 成果と学習目標が正確に対応しているかどうか.
– 公正な観察が可能な状態で成果が確認されたかどうか.
保持と転移を高める
• 学習内容をどのように忘れないようにするか
– 学んだ知識とスキルを必要な時に呼び出す能力をど
のように学習者の中で拡張していくか.
– 学習した時と同じ文脈の場合
• 最も確実に情報が復元できる.
– 検索と想起を練習すること
– 多様な新しい課題を与えること,スキル応用を要求す
るものであることが効果的である.
教授事象と学習成果
• 教授事象
– 5つの学習成果と組み合わせて用いることができる.
– 注意を喚起する等
– 知的技能の符号化
• 言葉による説明によって導かれるかも知れない.
– 態度を効果的に符号化
• 人間モデルの観察を含む複雑な事象が必要となる.
レッスン中の教授事象
• 単位時間ごとのレッスン
– 柔軟性をもって構成する.
• コンピュータ教材の設計者向けの指示書の例
– 目的語に関するもの.
– 指示書の概要(表10-3).
• 年齢が上の人を対象とした授業との比較
– 中・上級学年向けのインストラクション
– 教材あるいは学習者自身によって制御される.
– 動機づけが高い学習者
• 注意を喚起する特別なことは特に行う必要が無い.