DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

29590(F209)
統 合失 調症
99
短期精神病性 障害 :統 合失調症様障害 は短期精神病性 障害 とは持続期 間にお い て異 な り,後 者 の
統合失調症
Schizophrenla
A
以下の うち 2つ (ま たはそれ以上 ),お のおのが 1カ 月間 (ま たは治療が成功 した際はよ り短い期
間)ほ とんどいつも存在する
これ らの うち少な くとも 1つ は (1)か (2)か (3)で ある
(1)妄 想
(2)幻 覚
(3)ま とま りのない発語
(例 :頻 繁な脱線または滅裂 )
(4)ひ どくまとま りのない ,ま たは緊張病性の行動
(5)陰 性症状
B
(す なわち感情の平板化 ,意 欲欠如)
障害の始ま り以降の期間の大部分で ,仕 事 ,対 人関係 ,自 己管理などの面で 1つ 以上の機能の レベ
ルが病前に獲得 していた水準よ り著 しく低下 している (ま たは ,小 児期や青年期の発症の場合 ,期
待される対人的 ,学 業的 ,職 業的水準にまで達 しない)
C
障害の持続的な徴候が少な くとも 6カ 月間存在する
この 6カ 月の期間には ,基 準 Aを 満たす各
症状 (す なわち ,活 動期の症状 )は 少な くとも 1カ 月 (ま たは ,治 療が成功 した場合はよ り短い期
間)存 在 しなければな らないが ,前 駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい
らの前駆期または残遺期の期間では ,障 害の徴候は陰性症状のみか ,も しくは基準
これ
Aに あげられ
た症状の 2つ またはそれ以上が弱め られた形 (例 i奇 妙な信念 ,異 常な知覚体験 )で 表されること
がある
D
統合失調感情障害と「抑 うつ障害または双極性障害 ,精 神病性の特徴を伴 う」わヾ
以下のいずれかの
理由で除外されていること
(1)活 動期の症状 と同時に ,抑 うつエ ピソー ド,躁 病 エ ピソー ドが発症 していない
(2)活 動期の症状中に気分エピソー ドが発症 していた場合 ,そ の持続期間の合計は ,疾 病の活動期
および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない
E
その障害は ,物 質 (例 :乱 用薬物 ,医 薬品 )ま たは他の医学的疾患の生理学的作用によるものでは
ない
F
自閉スペ ク トラム症や小児期発症のコミュニケーシ ∃ン症の病歴があれば ,統 合失調症の追Dll診 断
は ,顕 著な幻覚や妄想が ,そ の他の統合失調症の診断の必須症状 に加え ,少 な くとも 1カ 月 (ま た
は ,治 療が成功 した場合 はよ り短い)存 在する場合にのみ与え られる
>該 当すれば特定せ よ
次の経過の特定用語は ,本 障害が 1年 間続 いた後 に ,経 過の診断基準 と矛盾 しない場合 にのみ使わ
れる
初 回 エ ピソ ー ド,現 在 急性 エ ピソー ド :定 義された症状と持続期 FB3の 診断基準を満たす障害が初め
て出現 したもの
急性 エ ピソー ドとは ,症 状の診断基準が満たされる期間の ことである
初回 エ ビソ ー ド,現 在部分 寛解 1部分寛解とは ,以 前のエピソー ド後に改善が維持されるものの ,診
断基準が部分的にのみ満たされて いる期間の ことである
初 回 エ ピソ ー ド,現 在完全寛解 :完 全寛解とは ,以 前の エピソー ド後 に ,そ の障害に特有な症状が
いずれも存在 しない期間のことである
亀4一
統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
持続期 間 は 1カ 月未満 であ る。
100
2統 合失調症スペ ク トラム障害および他の精神病性障害君│
複数回 エ ピツ ー ド]現 在 急性 エ ピソー ド :複 数回エ ピソー ドは ,少 なくとも 2回 のエピソー ド (す
なわち ,初 回エ ピソー ドと ,寛 解および少な くとも 」回の再発)の 後に特定されることがある
複数回 エ ピソー ド,現 在部分 寛解
複数回 エ ピソー ド,現 在完全 寛解
持続性 1本 障害の診 LAIT基 準を満たす症状 が疾病経過の大部分に存在 し続け ,基 準に満たない症状が存
在するのは ,全 体の経過と比べてこく短期間である
特定不能
>該 当す れ ば特定 せよ
緊張病 を伴 う
(」
18頁 に定義されている ,他 の精神疾患に関連する緊張病の診断基準を参照の こと
)
コー ドす る ときの注 :併 存する緊張病の存在を示すため ,29389(F06」
)統 合失調症に関連する
緊張病の コー ドも追加で用いる
>現 在の重症度 を特定 せよ
重症度の評価は ,精 神病の主要症状の定量的評価 によ り行われる その症状 には妄想 .幻 覚 ,ま とま
りのない発語 ,異 常な精神運動行動 ,陰 性症状が含まれる それぞれの症状について ,0(な し)か
ら 4(あ り,重 度 )ま での 5段 階で現在の重症度 (直 近 7日 間で最も重度 )に ついて評価する (隔 平
価尺度」の章の臨床家評価 による精神病症状の重症度ディメンシ ョンを参照 )
注 :統 合失調症は ,こ の重症度の特定用語を使用 しな くても診断することができる
診断的特徴
統 合失調症 の特 徴的症状 には さまざまな認知1,行 動 ,情 動 の機能障害 が 含 まれるが ,ど の症状 も
それ 1つ では,統 合失調熟:と い う疾患 に特徴的 な ものでは ない .診 断 には,職 業 的お よびイ│:会 的機
連 の徴候 と症状 を確認す るこ とが必 要である.統 合失調症 は不均 一 な臨床症候群
能 の障ギJを 伴 う ‐
であるため,統 合失調症 を もつ 人は,ほ とん どの特徴 的症状 にお い てか な りのば らつ きがある。
統 合失調症 の診断 には,基 準 Aの うち,少 な くとも 2つ の症状 は 1カ 月以 上の川l間 中のほ とん ど
いつ も存在す ることが必 要である.こ れ らの症状の うち少な くとも 1つ は 妄想 (基 準 Al),幻 党 (基
準 A2),も しくは まとま りのない発語 (基 準 A3)で ,そ れは明 らか に存在す る もので なければな ら
ない.ひ ど くま とま りの ない,ま たは緊張病性 の行動 (基 準 A4),陰 性症状 (基 準 A5)が 存在す る
こ ともある
l■ 状 が治療 に反応 して 1カ 月以内 に寛 解す る ような状 況 であ って も, もし臨
活動期 の・
床家が ,治 療 が なければ活動期 の症状が持統す る と推定す るな らば,基 準 Aは i両 た される。
統 合失調症 では機能 の主要な領域の 1つ 以 11に 障害 がみ られる (基 準 B).も し障害が小児期 か青
年期 に始 まった場 合,期 待 され る機能 レベ ル に達 しない.椎 患 して い ない 同胞 と比 較す る ことが有
IHな こ とがあ る.機 能障害 は障害子
中の 人半 の期 間持続す るが ,あ る 1つ の特 徴 の直接 的な結果
ではない よ うに思 われ る.意 欲欠如 (す なわ ち日標指 向性 の行動 を遂 行 しようとす る欲動 の減退
`i旦
基準
A5)は
:
基準 Bに 記述 されて いる社 会的機能障害 に関 与して い る.統 合失調症 を もつ 人の認知
1)と 機能障害 との 間 には関係があ る とい う
機能障害 (本 障害 の「診 Wiを 支持す る関連特徴Jを 参‖
強 EIな 南[拠 も存在す る
.
障害 の微候 のい くつ かは,少 な くとも 6カ 月間持続 して存在 しなければな らない (基 準 C).前 駆
llE状
が活動期 に先立 つ こ とは よ くあ り,残 遺症状が活動期 に続 くことがあって,怪 度 または閾値下
の形 を とる妄想 あるい は幻覚 で特徴づ け られている.妄 想 に までは達 して い ないが ,い ろ いろ な異
常 な または奇異 な信念が 衣出 される ことが ある (例 :関 係念慮 ,ま たは魔術的な考 え).ま た,異 常
な知覚体験 (例 :目 に見 えない 人の存在 を感 じる)も 起 こ りうる。会話 はおお むね理 解可能 であ る
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統 合失 調症
101
■あい まいで ある.行 動 は普通 で はない こと もあるが ,ひ ど くま とま りが ないわ けではない (例
:
すで独 り言 をつぶや く).陰 性症状 は前 LIK期 や残遺期 に もよくみ られ,重 度 の もので ある こ ともあ
1.社 会的 に積極的であ った人が それ までの 日常 的行為 を控 えて しまうことがあ り,こ
う した行動
工しば しば この 障害 の最 初 の徴候 となる
.
気分症状 や気分 エ ビソー ドの診断基準 を満 たす症状 は統 合失調症 で よ くみ られ ,活 動期 の症候 と
手専することもある.し か し,精 神病性気分障害 とは異 な り,統 合失調症 の診 断 には気分 エ ピソー
ミつない時期 に妄想 と幻覚が存在す るこ とが必要である.さ らに気分 エ ピツー ドは
部合 わせ て
,全
,
≡病の活動期 と残遺期 の 全経過期間の うち半分未満 の期 間にのみ存在が許容 され る。
三
,断 基準 で定 め られた 5つ の症状領域 に加 えて,認 矢Π,抑 うつ ,躁 の 各症状領域 を評価す るこ と
【 さまざまな統 合失調症 スペ ク トラム障害お よび他 の精神病性 障害群 を区別す るために非常 に重
要で不可欠であ る
.
診断を支持する関連特徴
t合 失調症 を もつ 人は不適切 な感情 を表 出す るこ とがある (例 :適 切 な刺激が ないの に笑 つた り
す る ).不 快 気分 もあ り,抑 うつ ,不 安 ,ま たは怒 りの形 を とるこ とが ある。睡眠型 の障害 (例 :日
=⊃ 睡眠,夜 間の活動 )が あ り,摂 食 に興味 を失 い,拒 食す ることもある。離人症 ,現 実感消失 ,身
二1つ 憂慮 も起 こ り,こ れ らは時 に妄想 の水準 に達す る.不 安 や恐怖症 は よ くみ られる。統 合失調症
二おける認知 の 障害 は よ くみ られ,職 業上 な らびに機能 上の障 害 に強 く関連す る.こ う した認知 の
ヒ害には,陳 述記憶 ,ワ ー キ ングメモ リー,言 語機能 ,そ してその他 のi遂 行機能 の減弱 な らびに処理
還責の低下が含 まれる。感覚処理 と抑制機能 の異常 な らびに注意 機能減弱 も認 め られる.統 合失調
=を
もつ 人の 一部 では,社 会認知機能 の障害 ,す なわち他者 の意図 を察す る能力
(′
ヽ
の理論 )の 障害
し
■み られる。無 関係 の 出来事 や刺激 に関心 が 向 き, さらにそれ を意味 のある もの と解釈 し,こ れが
二調妄想の誘発 につ なが るこ ともある。 これ らの障害 は症状 の寛 解 の時期 に もしば しば持続す る
.
精神病 を もつ 人の中には 自らの障害 に対す る病識や 自覚が欠如 して い る ことが あ る (す なわ ち病
言夫認 ).統 合失調症症状 に対す る 自覚 の欠如 を含 むこの “病識"の 欠如 は,本 疾病 の経過 の全期 間
を通 じて持続 しうる.疾 病 へ の 自党 の 欠如 は,通 常 ,症 状 へ の対処方法 とい うよ りはそれ 自体 が統
奎夫調症 の症状 であ る.こ れは,脳 損 傷 に よる神経学 的障害 へ の 自覚 の 欠如 ,す なわち病態失認 と
電義 されて い る もの に相 当す る。 この症状 は,治 療 へ のア ドヒアラ ンス不良 の予測 因子 と しては最
、
もよくみ られる もので あ り,さ らには,高 い再発率 ,非 自発的治療 の増加 ,不 良な′
理社会的機能
し
,
攻撃性 ,そ して疾病 の不 良な経過 も予測す る
.
故意 と攻撃性 が統合失調症 に伴 うこ とが あ る.し か し自発的あ るいは突発的 な暴 力行為 は まれで
ある。攻撃性 は,若 年男性 ,あ るいは,過 去 の暴力歴 ,治 療 へ のア ドヒアラ ンス不良,物 質乱用 ,衝
童性 の ある人で頻度が高 くなる。 しか しなが ら,注 目すべ きなのは,統 合失調症 を もつ 人の大半 は
攻撃的ではな く,一 般 人口 よ りも高 い頻度 で暴力 の犠牲者 となって い る ことで ある
.
現在,こ の障害 を対 象 とした放射線医学的検査 ,臨 床検査 ,心 理学的検査 は存在 しない。 しか しな
が ら,神 経画像研究 ,神 経病理学研究 ,神 経生理学研究 か らの証拠 を含 め,健 康被験者群 と統 合失調
亡詳 との 間で複数 の脳部位 での差異が明 らか となっている。 また,細 胞構築 ,自 質結 合性 ,前 頭前
支質,側 頭皮質な どの さまざまな脳部 位 の灰 白質体積 にお い て も,差 異が認 め られて い る.全 脳体
者の減少 と,加 齢 に伴 う脳体積減少が強 まる こと も報告 されて いる。す なわ ち,健 康被験 者 と比 較
して統 合失調症 を もつ 人で は加齢 に伴 う脳体積減少が よ り顕著 であ る.さ らに,統 合失調症 を もつ
kは ,統 合失調症 で はない 人 と比 較 し,視 線 の動 きや電気生理学的 な指標 にお いて も異 なって い る。
統合失調症 を もつ 人に多 くみ られる神経学 的微細徴候 には,協 調運動 ,感 覚統 合,お よび複雑 な
︹∠一
統合 矢調症 スペクト ラム障害および他 の精神病性障害群
'、
102
驚
2統 合失調症スペク トラム障害および他の精神病性障害群
が 含 まれる.さ らに顔面 と四肢
動 きにおける運動 の系列化 の 障害 ,左 右 の混 同,随 伴運動 の脱抑市」
の軽度 の身体奇形 が認め られる こと もある。
有病率
統合失調症 の生 涯有病率 は約 0.3∼ 07%と 推定 されるが ,有 病率 は,人 種 ・民族 ,国 によるば らつ
き,さ らに,移 民 な らびに移民 の子 どもについてはその出身地域 によるば らつ きも報告 されている。
また性差 は調査対象や母集団 によって異 なる。例 えば,(不 良な予後 と関連す る)陰 性症状や長 い罹
病期 間 を強調す る調査 では男性 の罹患率 のほ うが高 くなるが ,(良 好 な予 後 と関連す る)気 分症状 や
短期 間の病態 を含 める定義 を用 い れば,危 険性 は男女 間で 同等 となる。
症状の発展と経過
統合失調症 の精神病性病像 は,通 常 は 10代 後半 ∼30代 半 ばの 間 に出現 し,青 年期 よ り前 に現 れ
る こ とは まれである。初回精 神病 エ ビソー ドが始 まる年齢 の頂点 は男性 では 20代 前半 ∼半 ば,女
性 で は 20代 後半 であ る。発症 は突然 の こ とも潜伏 1生 の こ ともあ るが ,大 多数 の 人 には臨床的 に意
味 のあ るさまざまな徴候や症状 が緩徐 かつ段 階的 に現 れる。 これ らの うちの半数 の人は うつ症状 を
訴 える。若年で の発症 は伝統的 に不 良な予後 の予測 因子 とみな されて きた.し か しなが ら,こ の発
症年齢 による影響 には性差があるようである。すなわち,男 性 の早期 の発症では病前 の適応が悪 く
,
学歴 が よ り低 く,陰 性症状 と認知障害が よ り顕著 であ り,概 して転 帰 もよ り悪 い。認知障害 は統合
失調症 に一般 的であ り,認 知機能 の変化 は精神病症状 の 出現 に先立 って発症 の段 階 ですでに存在 し
,
成人期 には固定化 した認知障害の形態 を とる。認知障害 は他 の症状が寛解 してい る ときに も持続 し
,
本疾患 による能力障害 に影響す るこ とがある
.
経過 と予後 の予測 因子 は多 くの部分が未解明 で あ り,経 過 と予後 の信頼性 の あ る予測 は困難 であ
る.統 合失調症 を もつ 人 の約 20%は 良好 な経過 をとる といわれ,少 数 の人では完全 に回復す ること
が報 告 されてい る.し か し統合失調症 をもつ 人 の大半 は公 的 または私的 な 日常生活支援 を必要 とし
てお り,多 くの 人で慢性 の病 的状態が続 き,急 性期症状 の増悪 と寛解 を示す 一 方 ,進 行性 に荒廃 の
経過 を とる人 もい る
.
精神病性 の症状 は歳 を とるに伴 い消退す る傾 向があ るが ,そ れ は加齢 に伴 う ドパ ミン活動 の正常
な減少 と関係 して い るか も しれ ない.陰 性症状 は陽性症状 に比 べ て予後 に よ り強 く関係 してお り
,
最 も長 く持続す る傾 向があ る。 さらに疾病 に伴 う認知機能 の低下 は疾病 の全経過 を通 して改善 しな
い こ とが多 い
.
小児期 で も統合失調症 の本質的特徴 は同様 であるが ,診 断 は よ り困難 で ある.子 どもでは成人 に
比べ 妄想 と幻 覚 はそれほ ど複雑 で込み入 つた ものではな く,幻 視 の頻度が高 く,健 全 な空想遊 び と
の 区別が必要 となる.ま とま りのない発語 は小児期 に発症す る多 くの障害 で認 め られ (例 :自 閉 ス
ペ ク トラム症 ),ま とま りのない行動 もそ うである (例 :注 意欠如 ・多動 症 )。 これ らの症状 は,こ
う した小児期 によ り広 く認 め られる障害 を考慮 せず に統合失調症 に起 因す る もの と考 えるべ きで は
ない.小 児期 に発症す る事例 は,徐 々に発症 し顕著 な陰性症状 を示す予 後不 良 の成人 の事例 と類似
す る傾 向がある。後 に統合失調症 の診断 を受 ける子 どもでは,非 特異 的な情動 ・行動障害 と精神病
理 ,知 的能力 な らびに言語能力 の変調 ,ご く軽度 の運動発達 の遅延 を経験 して い ることが 多 い。
晩発性 の事例 (す なわ ち 40歳 以 降 での発症 )で ははるか に女性 が 多 く,結 婚 して いる女性 もい
る。 しば しば感情 や社会的機能が保持 されなが ら精 神病症状 が優勢 にみ られるこ とを特徴 とす る経
過 を とる。 この ような晩発 性 の事例 も統合失調症 の診 断基準 を満 たすが ,こ れが 中年期以前 (例
55歳 以前 )に 診断 される統合失調症 と同等 の状態 で あ るかはい まだ不 明 で ある。
:
29590(F209)
103
統 合失 調症
危険要因と予後要因
と四肢
の地域 にお い て,晩 冬 ,早 春 の 出生 との関与が報告 され , また,欠 陥 の ない統合失調症 では夏期 の
出生 との 関与 が報告 されて い る。統 合失調症 お よび関連障害群 の罹患率 は都市環境 で育 った子 ども
において,そ して い くつ かの少数民族 の集団 にお いて高 い
ば らつ
『 いる
.
遺伝要因 と生理学的要因 :遺 伝要因 は統 合失調症 の危険性 の決定 に強 く寄与す る。ただ し,統 合
.
長 い罹
失調症 と診断 されて い る人の大 多数 には精 神病 の家族歴が ない .易 罹病性 は,高 頻度 の または低頻
症状 や
度 の一 連 の リス ク対立遺伝子 によ り付与 され るが ,そ れぞれの対立遺伝子 は集団 の分散 の ご く一部
分 に しか寄与 しない。現 在 ,確 認 されて い る リス ク対立遺伝子 は,双 極性 障害 , うつ病 ,自 閉 スペ
ク トラム症 な どを含 む他の精 神疾患 に も関連す る とされてい る。
妊娠 と出産 にお ける低酸素症 を伴 う合併症や父親が高年齢 であるこ とは,発 育 中の胎児が統合失
に現 れ
調症 になる危険性 が よ り高 くなる こ とと関連す る.さ らにその他の出生前 と周産期 における有 害 な
=ば ,女
事象 ,例 えば,ス トレス,感 染 ,栄 養失調 ,母 親 の糖尿病や他 の医学的疾患 は統 合失調症 と関連が
:的
ある とされてい る。 しか しこれ らの危険 要因 を もった子 の大多数 は統合失調症 を発症 しない
に意
.
)症 状 を
文化に関連する診断的事項
この 発
そ の 人 と臨床 家が同 じ社 会経済的背景 を共有 してい な い ときには特 に,文 化的 ,社 会経済学的 な
が悪 く
,
ヨは統 合
要因 を考慮 しなければな らない。ある文化 にお い て妄想的 であるよ うに見 える観念 (例 :魔 術 )は
存在 し
他の文化 で はあ りふれた もの ととられるか もしれない 。 い くつ かの文 化圏 にお い ては,宗 教的内容
持続 し
の幻視 または幻聴 (例 :神 の声 を聴 く)は 通常 の宗教体験 の一 部 とされて い る。 さらに,ま とま り
,
,
,
の ない発語 の評価 は,文 化 の違 い に よ り話 し言葉 の言語学 的様式 の違 い によって困難 になるか も し
日難 で あ
れない.感 情 の評価 には,お のおのの文化 圏 で異 なる情動表出,視 線 の 合わせ 方 ,ボ デ イラ ンゲ ー
デる こ と
ジな どの様式 の違 い に対す る感受性 が 求 め られる。その人の母 国語 で ない言語 に よつて評価が行 わ
れる場合 ,無 論理が言語的障壁 とは無 関係 である ことの確認 に注意 を払 わなければな らない.文 化
圏 によつては,苦 痛 は幻覚 ・仮性幻覚 あるいは優格観念 の形態 をとる ことがある。それ らは臨床 的
参要 と し
こ荒廃 の
には真 の精神病 と同様 の表 れ方 をす る こと もあ るが ,患 者 の帰 属す る集団 にお い ては標準 的な もの
であ ることがあ る。
力の正 常
てお り
,
ヾきで は
性別に関連す る診断的事項
統 合失調症 の 臨床 的表 出 には,多 くの特 徴 にお い て男女 間で差が み られ る.統 合失調症 の全体 と
しての罹患 率 は女性 のほ うが若干低 い傾向があ り,特 に治療 を受 けた事例ではそ うで ある。発症年
齢 は女性 のほ うが遅 く,前 述 の ように中年期 に第 2の ビー クがあ る 症状 の発展 と経過」 の項 を参
照 ).症 状 は女性 にお いて よ り情動性が強 い傾向があ り,よ り多 くの精神病症状があ り,晩 年 になっ
て精神病症状 が悪 化す る傾向が強 い.他 の症状 で は,女 性 では陰性症状 や まとま りのな さの頻度 は
少ない.そ して女性 のほ うが社 会的機能 は よ りよ く保持 される傾向がある.し か し,こ の よ うな一
デ
1と 類 似
般的な警告 には しば しば例外がある
た善 しな
ま成 人 に
ヨ遊 び と
:自 閉 ス
大は ,こ
(「
.
ヒ精神 病
多い
自殺の危険性
.
矧生もい
統 合失調症 をもつ 人の約 5∼ 6%が 自殺 によ り死亡 し,約 20%が 少 な くとも 1回 自殺 を試み,さ ら
とす る経
にず つ と多 くの人 にはっ き りとした 自殺念慮があ る。 自殺行動 は,そ の人 自身 または他者 を傷 つ け
前 (例
よとい う命令性幻覚 へ の反応 であ ることもある。 自殺 の危険性 は生涯 にわた り男性 ,女 性 ともに高
:
いが ,物 質使用障害 を併存す る若年男性 では特 に高 い。その他の危険要因 には,抑 うつ症状 ,絶 望
●4 統合失調症 スペクト ラム障害および他 の精神病性障害群
環境要因 :出 生の季節 は,統 合失調症 の罹患率 に関連す る と考 え られて きた.例 えば,い くつ か
2統 合失調症スペ ク トラム障害および他の精神病性障害群
104
で も高 い
.
統合失調症の機能的結果
統 合失調症 は,著 しい社会的お よび職業的機能低下 を伴 っている.今 行 つている作業 に対す る認
知的技能が十分であ つて も,学 業 上の進歩や就労 の継続 は しば しば意欲欠如や この障害 の その他 の
症状 の発現 によつて阻害 される。多 くの人は両親 よ りも低 い レベ ルの職務 に従事 し,大 多数 ,特 に
男性 は結婚 をせず ,自 分 の家族以外 との社 会的接触が限定 されて い る。
一 ´、
一
一
一
こ
. 、一
感 ,失 業が含 まれる.さ らに自殺の危険性 は,精 神病 エ ピソー ドに続 く時期 ,お よび退 院後の時期
鑑別診断
うつ病 または双極性 障害 ,精 神病性 または緊張病性の特徴 を伴 う :統 合失調症 と,「 うつ病 または
間的関係 に依存 し,そ して抑 うつ または躁症状 の重症度 に も依存す る。 もし,妄 想や幻覚が抑 うつ
エ ピソー ドや躁病 エ ピソー ドの期 間のみ に起 こる場合 ,診 断 は 「抑 うつ 障害 または双極性 障害 ,精
神病性 の特徴 を伴 う」 で ある
.
統合失調感情 障害 :統 合失調感情障害 の診断 には,抑 うつエ ピソー ドまたは躁病 エ ピソー ドが 活
動期 の症状 と同時 に起 こ り,気 分症状 が活動期全体 の半分 以上 の期 間 において存在す ることが必 要
である
.
統合失調症様 障害 と短期精神病性 障害 :こ れ らの障害 は,6カ 月の症状持続 を要す る とい う診 断
基準 Cに よ り特定 された統合失 調症 よ りも経過時 間が短 い。統合失調症 様 障害 では症状 の存在 は 6
カ月未満 であ り,短 期精神病性 障害 では症状 の存在 は 1日 以上 1カ 月未満 である。
妄想性 障害 :妄 想性 障害 は,統 合失調症 に特徴 的なそ の他 の症状が存在 しない こ とに よって統合
失調症 か ら区別 で きる (例 :妄 想 ,顕 著 な聴覚性 または視覚性 の幻覚 ,ま とま りのない発語 ,ひ ど
くま とま りの ない, または緊張病性 の行動 ,陰 性症状 ).
統合失調型 パーソナ リテ ィ障害 :統 合失調型 パー ソナ リテ ィ障害 は,閾 値下 の症状が持続性 のパー
ソナ リテ イ特徴 を伴 うこ とによって統合失調症 と区別 で きる ことが あ る
.
強迫症 と醜形恐怖症 :強 迫症 と醜形恐`1布 症 を もつ 人は,病 識が不十分であるか欠如 し,そ の とら
われ方 は妄想 の水準 にまで 及ぶ こと もある.し か しこれ らの障害 は,顕 著 な強迫 観念 ,強 迫行為 ,容
姿 や体臭 に対す る とらわれ ,溜 め込み ,ま たは身体 に向け られた反復 的行動 によ り統合失調症 と鑑
別 される。
心的夕1傷 後 ス トレス障害 :心 的外傷後 ス トレス障害 には,幻 覚 の性 質 を もつ フラ ッシュバ ックが
み られる こ とがあ り,そ の過覚醒が妄想 の水準 まで及ぶ こともある.し か し,外 傷性 の 出来事 と,そ
の 出来事 の再体験 や反応 を特徴 づ ける独特 の症状 が ,そ の診断 には必 要 である。
自開 スペ ク トラム症 または コ ミュニ ケ ーシ ョン症 :こ れ らの障害 で も精神病 エ ピソー ドに類似す
る症状 が現 れ るが ,そ れぞれの障害 に対応 した対 人関係 における欠損 があ り,反 復 的 または限局 し
た行動 を伴 ってお り,そ の他 の認知あ るい は コ ミュニ ケー シ ョン能力 の欠損 があることによ り,統
合失調症 と鑑別 される.自 開スペ ク トラム症 または コ ミュニ ケー シ ョン症 をもつ 人が併存症 として
統 合失調症 を もつ と診断 されるため には,統 合失調症 のすべ ての症状 の基準 を満 た し,最 低 1カ 月
の顕著 な妄想 または幻覚 が なければな しない。
精神病 エ ピソー ドを伴 う他 の精神疾患 :統 合失調症 の診断 は,精 神病 エ ピソー ドに持続性 があ り
,
これが物 質 または他の医学 的疾患 の生理学的な影響 による もので ない場合 にのみ ,な され る.せ ん
妄 または認知症 または軽度認女Π障害 を もつ 人が精神病症状 を示す ことがあるが ,こ れ らの症状 に特
一E
一正 一
曇︸
双極性障害 ,精 神病性 の特徴 または緊張病 を伴 う」 との鑑別 は,気 分 の障害 と精神病性 の障害 との時
統合失調感1青 障害
105
有の認知 の変化 の始 ま りがその障害 と時間的関連がある。物 質・医薬 品誘発性精神病性障害では,統
)時 期
は,そ の発症が物質使用 と時 間的関連があ り,物 質使 用が な くなる と精神病が寛解す るこ とによっ
て,通 常 ,鑑 別診断が で きる。
「 る認
併存症
)他 の
統合失調症 では物 質関連障害 の併存率が高 い。統 合失調症 を もつ 人の半数以上が タバ コ使 用障害
特に
をもち, 日常 的 に喫煙 をす る.不 安症 の併存が統合失調症 で 多 い とい う認識 も高 ま りつつ ある。強
迫症 とパニ ック症 の罹患率 は,-1先 人口に比べ て統 合失調症 を もつ 人で高 い.統 合失調型 または猜
疑性 パー ソナ リテ ィ障害 な どが時 には統 合失調症 の発症 に先立 つ ことがある
.
姜た は
関連す る医学的疾患 のため に,統 合失調症 を もつ 人の平均 余命 は短 い.体 重増加 ,糖 尿病 ,メ タ
1の 時
うつ
ボ リックシン ドローム,心 血管疾患や肺疾患 は一月
、口に比べ 頻度 が 高 い.lla康 維持行動 (例 :癌
λノ
′
検診や運動 )へ の参加 が乏 しい こ とが慢 1生 疾患 の 危険性 を高め るが ,医 薬 品 ,生 活様式 ,喫 煙 ,食
罫, 本
青
事な どその他 の障害 関連 要因 も同様の 影響 を もつ 。精神病 と医学 的疾患 へ の共通 の脆弱性 が ,統 合
`「
夫調症 へ の医学的疾患 の併存 を部分的 に説明す るか もしれ ない
.
ドが 活
統合失調感情障害
ド必 要
Schizoaffective E)isorder
う診 断
在は 6
A
中断されないひと続きの疾病期間中に ,気 分 エ ピソー ド (lfOう つエピソー ドも しくは躁病エピソー
ド)が 統合失調症の基準 Aと 同時期に存在する
て統 合
注 !抑 うつエ ピソー ドは ,基 準
ひど
B
Alの 抑 うつ気分を含んでいなければな らない
疾病の生涯持続期間中に ,気 分 エ ピソー ド (抑 うつエピソー ドも しくは躁病エピソー ド)を 伴わな
い 2週 間以上の妄想や幻覚が存在する
のパ ー
C
気分エ ピソー ドの基準を満たす症状は ,疾 病の活動期と残遺期を合わせた期間の うちの半分以上の
期間に存在する
のと ら
為,容
D
置と鑑
〉いずれかを特定せ よ
その障害は ,物 質 (例 i乱 用薬物 ,医 薬品)ま たは医学的疾患の作用によるものではない
295.70(F25.0)双 極型
:こ の下位分類は ,躁 病 エ ピソー ドが病像の一部である場合に適用される
ノクが
抑 うつエ ピソー ドも生 じることがある
と,そ
295.70(F25.1)抑
うつ型 :こ の下位分類は ,IInぅ つェ ピソー ドだけが病像の一部である場合 に適
用される
頁似 す
>該 当すれ ば特定せ よ
18頁 に定義されている ,他 の精神疾患に関連する緊張病の診断基準を参照のこと)
艮局 し
緊張病 を伴 う
,,統
コー ドす る ときの注 :併 存する緊張病の存在を示すため ,29389(F061)統 合失調感情障害に関
ヒして
連する緊張病のコー ドも追Dllで 用 いる
1カ 月
(¬
>該 当 すれ ば特定 せよ
経過に関する特定用語は ,本 障害が 」年 間続 いた後に ,以 下の経過の診断基準と矛盾 しない場合にの
'あ
り
,
せん
大に特
み使われる
初 回 エ ピソ ー ド,現 在 急性 エ ピソ ー ド :定 義された症状と持続期間の診断基準を満たす障害が初め
て出現 したもの
急性 エ ピソー ドとは ,症 状の診断基準が満たされる期間の ことである
穐羞 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
合失調症 の診断基準 Aの 特徴的症状が起 こることがある。 しか し物 質 ・医薬品誘発性精神病性障害