024 いまどきの職場環境事情

経営者と企業倫理担当者へのメッセージ 024
いまどきの職場環境事情
今の職場はどこも余裕をなくしているようだ。
これは日本経済の減速が大きく影響しての
ことだろうが、その影響は業績に限ったことだけではないということだ。大変革の時代とい
われ社会も大きく変化してきているわけで、当然、職場もそしてそこで働く人々の意識も変
わってきている。
現代は新しい時代への激しい過渡期にあって、様々な問題が表面化してきている。そんな
なか、目の前で起きている事象にいらだつのではなく、起こるべくして起きていることと自
覚し、会社が社員と共にその対策に知恵を絞らなければならないときだろう。
○急増する「終身雇用志向」の新入社員
(社)日本生産性本部が毎年実施している「新入社員半年間の意識変化調査」によると、
2009年春の調査で 55.2%の新人が「この会社に一生勤めようと思っている」と回答し
ており、それは秋の調査結果でも 32.6%と高回答率を維持している。10年ほど前の 30%
にも達しなかったときと比べるとその変化は大きく、背景にある急激な社会の変化を感じる。
また、「きっかけ、チャンスがあれば、転職しても良い」との意識が半年程度の期間で急速
に変わってきている点も見逃せない。春の調査で 27.9%の回答が、秋の調査では 41%に激
増し、今までに見られない大きな変化をみせた。
これらの変化は一見矛盾しているようだが、
その理由が仕事への失望なのか厳しい現在の職場環境になじめないのか、はたまた原因が新
入社員にあるのか会社の経営環境や余裕のない職場環境にあるのかははっきりしていない。
しかしながら、働くことの意味の変化を経営としてもしっかり受け止めておかなければなら
ない調査結果である。
※(社)日本生産性本部「2009年度新入社員半年間の意変化調査」
http://activity.jpc-net.jp/detail/mdd/activity000951/attached.pdf
○社内改革が「疑心暗鬼」な職場をつくる背景
職場内のここ数年の変化は、2008年のリーマンショック以降の激変振りがいかほどの
ものか、語る必要もないだろう。企業は生き残るためにと、また社会全体では大規模な人員
整理を中心に改革を進めてきている。その結果、ひとり当たりの仕事の増加もさることなが
ら、経験不足の仕事も負荷されるなど、その責任も重くなってきている。
そのなかで社員は、常に成果が求められる評価を気にしなければならない心理状態になって
いるようだ。
そうでなければ今度は自分が職場を失うことになるかもしれないからだという
気持ちなのだろう。また、非正規社員が正社員にとってかわる様子を間近で見ている状況で
は、次は自分の番かとおびえて言うべきことも言えないなど、上司からの叱責を恐れて職場
内が疑心暗鬼になってはいないだろうか。
B E I ビジネス倫理研究所
http://www.beinstitute.org/
ちょっと誇張しすぎかもしれないが、保証などが十分でない非正規社員の側から見れば事態
はもっと深刻かもしれない。コミュニケーションは低下し、ギスギスした雰囲気の職場が増
加している。これに拍車をかけているひとつが、人件費の削減に走る経営判断による非正規
社員の増加ではないだろうか。
総務省の労働力調査によると2009年には労働者の 34%超が非正規社員になってきてい
るという。企業としては、正社員と同じ働き方をする有期労働者を雇用しないと事業が成り
立っていかないとか、業務量の変動に対応するためや、業務量に応じて雇用調整をするため
などとはっきりと言う経営者もいるようだ。一概にそれを批判できないのが現実だ。
だがこのような職場環境であるからか、今までと違う人事上の相談がでてきているようだ。
職を失うことを恐れるあまり、セクハラやパワハラの被害者が、とにかく穏便に済ませて欲
しい、しかし同じ職場で働くことはできないので自分を移動して欲しい、というようなもの
だ。事実とすれば会社としても法に基づき対処しなければならないわけで、申し出の内容で
済ませるわけにはいかないところである。
○「職場における心理的負荷評価表」でみえる社内環境
厚労省は2008年度、うつ病などの精神疾患や自殺などの労災認定基準の見直しを行い、
「職場における心理的負荷評価表」の項目数を31から43に増やして、2009年4月か
らの認定審査に反映させている。その評価表の改正内容は、各社が抱える現在の職場環境で
の問題にも大きく関係してくるものだ。特に、パワーハラスメントに関する事項を最も強い
ストレスとして追加した点が注目される。また、今の企業状況を反映して人員整理に関係し
て発生するような事項にも触れている。
現在のような経済情勢下では、職場の雰囲気がどうしてもピリピリと緊張したものにならざ
るをえないが、それだけに社員も保身に走って消極的になったり、残業の多さや不慣れな業
務の兼務、無理な要請などにも諾々と従うことが多くなる。そこに管理職としての落とし穴
がある。「職場における心理的負荷評価表」には社員が被るであろう事態が項目として追加
されている。パワハラを無意識のうちにしていないかチェックするには良い項目に思える。
同じ職場で働く人間として、それぞれが相手のことを、どのような気持ちでいるかを思い合
うことが、今こそ最も必要とされている。よく言われるが、いつの時代でも中間管理職は辛
いものだが、そのようにしていかなければトラブルを未然に防ぐこともできないし、職場一
体となった業務遂行もままならないのではないだろうか。
「職場における心理的負荷評価表」項目は、職場を考える上で示唆されることが多く改めて
みてみる価値がある。以下に参考までに項目を列記する。
詳細は厚労省URL参照。http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/04/dl/h0406-2a.pdf
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山口謙吉
「職場における心理的負荷評価表」
出来事の類型
平均的な心理的負荷の強度(Ⅰ<Ⅲ)
具体的出来事
強度
重度の病気やケガをした
Ⅲ
①事故や災害の体験
悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした
Ⅱ
交通事故(重大な人身事故、重大事故)を起こした
Ⅲ
労働災害(重大な人身事故、重大事故)の発生に直接関与した
Ⅲ
会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした
Ⅲ
会社で起きた事故(事件)について、責任を問われた
Ⅱ
違法行為を強要された★
Ⅱ
自分の関係する仕事で多額の損失を出した★
Ⅱ
Ⅱ
②仕事の失敗、過重な 達成困難なノルマが課せられた★
責任の発生等
ノルマが達成できなかった
Ⅱ
新規事業の担当になった、会社の建て直しの担当になった
Ⅱ
顧客や取引先から無理な注文を受けた★
Ⅱ
顧客や取引先からクレームを受けた
Ⅱ
研修、会議等の参加を強要された★
Ⅰ
大きな説明会や公式の場での発表を強いられた★
Ⅰ
上司が不在になることにより、その代行を任命された★
Ⅰ
仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった
Ⅱ
勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた
Ⅱ
③仕事の量・質の変化
勤務形態に変化があった
Ⅰ
仕事のペース、活動の変化があった
Ⅰ
職場のOA化が進んだ
Ⅰ
退職を強要された
Ⅲ
出向した
Ⅱ
④身分の変化等
左遷された
Ⅱ
非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた
Ⅱ
早期退職制度の対象となった★
Ⅰ
転勤をした
Ⅱ
複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった★
Ⅱ
配置転換があった
Ⅱ
自分の昇格・昇進があった
Ⅰ
⑤役割・地位等の変化
部下が減った
Ⅰ
部下が増えた
Ⅰ
同一事業場内での所属部署が統廃合された★
Ⅰ
担当ではない業務として非正規社員のマネージメント、教育を行った★
Ⅰ
ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた★
Ⅲ
セクシュアルハラスメントを受けた
Ⅱ
⑥対人関係のトラブル
上司とのトラブルがあった
Ⅱ
同僚とのトラブルがあった
Ⅱ
部下とのトラブルがあった
Ⅰ
理解してくれていた人の異動があった
Ⅰ
上司が変わった
Ⅰ
⑦対人関係の変化
昇進で先を越された
Ⅰ
同僚の昇進・昇格があった
Ⅰ
※「★」は4月よりの追加事項、
「下線」は4月よりの修正又は追加文言
出典:厚生労働省
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