琵琶湖集水域に降下する大気汚染物質の琵琶湖水質への影響評価 滋賀

琵琶湖集水域に降下する大気汚染物質の琵琶湖水質への影響評価
滋賀県北部における渓流水中硫酸イオンの起源解析
永淵 修・橋本尚己・尾坂兼一・堀江清悟
(Na+,K+,Mg2+,Ca2+,Cl-,NO3-,SO42-)である.降水
・はじめに
硫黄化合物(特に硫酸イオン)は硝酸性イオンとともに
酸性雨の主要な原因物質であることから,湖沼や土壌,
は,アルカリ度を除いた同項目の分析を行った.
・結果と考察
植生などに影響を与えると考えられている.そのため,
2009 年以降の両地点での降水中の SO42-濃度、負荷
硫黄化合物を含む大気汚染物質の動態、影響を把握
量,δ34S を比較したところ,大きな違いは見られなかった.
することは非常に重要であり,これに関する研究が数多
このことから,降水によって両地点に供給される SO42-
くなされている(例えば,佐竹 編,2000).
は同質,同量であるといえる.また,渓流水中 SO42-濃
硫酸イオン(SO42 - )の動態把握に関する研究では、
2-
34
度を比較したところ,摺墨では 3.20~9.18 mg/L,朽木
SO4 の起源推定に硫黄同位体比(δ S)が用いられて
では 1.23~2.23 mg/L の範囲で値が推移し,濃度に違
いる.大気中に放出される硫黄化合物は様々な起源に
いが見られた.このことから,朽木よりも摺墨の SO42-濃
由来し,それぞれが特有の δ34S を持つ.このことから,
度の方が高いのは,摺墨は流域面積が広い(摺墨:7.13
δ34S を比較することにより硫黄化合物の起源を推定する
ha,朽木:1.92 ha)ことから蒸発散量が多くなり,SO42-が
ことができる(向井,1994). 日本において SO42-の起源
濃縮されるためと考えられた.しかし,両流域の Cl-濃
解析には降水を用いることが一般的である.しかし,当
度が同程度(約 5.2 mg/L)であったため,濃縮によって濃
2-
研究室において渓流水でも SO4 の起源を解析できる
度に差が生じたとは考えにくい.
そこで、両流域における δ34S 及び δ18O を比較した.
場合もあることが示されている(土井ら,印刷中).
当研究室では,滋賀県北部の摺墨と北西部の朽木
摺墨の渓流において δ34S は-4.64~+5.11‰,δ18O は
において,渓流・降雨の水文・水質調査を定期的に行
+15.7~+21.4‰の範囲で値が推移した.一方,朽木の
っている.その調査結果から,両流域では地質が類似
渓 流 で は δ34S は +6.89 ~ +12.0‰ , δ18O は +14.7 ~
しており,2003~2008 年の降水中 SO42-濃度の経年変
+25.4‰の範囲で値が推移した.日本国内における石
SO42
油起源の δ34S 値は-6~+4‰程度(丸山ら,2000)で,中
-
濃度は大きく異なっていた(摺墨:6~9 mg/L,朽木:1~
国北部で使用される石炭中の δ34S は+5~+18‰程度で
2 mg/L).以上のことから,SO42-の起源は異なる可能性
ある(本山ら,2002).また,大気降下物由来の SO42-の
があると考えられた.本研究では摺墨と朽木における渓
δ18O 値は+7~+17‰程度である(Campbell et al.,2006).
流水中 SO42-の起源を解析することを目的とした.
以上のことから,摺墨は北陸自動車道における石油(ガ
・調査方法
ソリン,軽油)燃焼の影響を,朽木は中国北部での石炭
化も類似していた.しかし,摺墨と朽木の渓流での
摺墨の 4 地点(A,B,C,K),朽木の 2 地点(L,R)にお
燃焼の影響を受けているのではないかと考えられた.
いて,2009 年 2 月から約 2 週間に 1 度の頻度で渓流水
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ためのイオン交換樹脂を入れたメッシュバッグを各地点
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δ O (‰)
を採取した.毎月の最終調査時に, SO42-を捕集する
に設置し,次の調査時に回収した.また,降水に関して
は試料を実験室に持ち帰り,樹脂を充填させたカラムに
試料を通した.樹脂に吸着させ捕集した SO42-を硫酸
バリウムとして回収し,δ34S 及び δ18O 分析を外部に委託
し測定した.
渓流水の分析項目は,pH,アルカリ度,主要イオン
20
10
0
-10
0
10
20
34
δ S (‰)
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図. 各地点におけるδ Sとδ O
摺墨A
摺墨B
摺墨C
摺墨K
朽木L
朽木R
海塩由来