武尊山の四季

武尊山の四季
ようこそ上州武尊山へ。ようこそ群馬県へ。群馬県の最高峰は、栃木県との県境にある日光白根山
で標高2578m、活火山として話題になる長野県との県境にある浅間山は2542mです。ここ、
武尊山も群馬県を代表する山の一つで、山全体が県内にある山としては最も標高が高く2158mで
す。県境にある山々は連なる山脈の一部になっていることが多いのですがこの武尊山は、成因が火山
である独立峰で、地元の沼田市からだけではなく、群馬県県庁所在地の前橋市あたりからもその秀麗
な山容を望むことができます。古来から信仰の対象とされ、親しまれてきました。登山道の途中にも
そうした歴史を垣間見ることが出来ます。
また、深田久弥の著した『日本百名山』の「武尊山」の項では「武尊をホタカと読める人は、山好
き以外にはあまりいないだろう。
」と書き出し、山の紹介、登ったときの様子と続き、最後に「出発点
から終着点まで、一人の登山者にも出会わぬ静かな山行であった。
」と結んでいます。しかし、現在で
は静かな山の様子は一変し、人気の山となり、ハイシーズンの山頂は登山者でいっぱいになることも
あるほどです。名称は、本来「武尊山」
(ホタカサン)なのですが、北アルプスの盟主である穂高岳と
区別するために、一般に登山愛好家の中では群馬県の旧呼称を冠し「上州武尊山」または「上州武尊」
と呼ばれてきました。また主峰を「沖武尊(オキホタカ)
」といいますが、深田久弥も先の著書で触れ
ているとおり、
「沖」は「奥」の意味で、お隣の「谷川岳」でも双耳峰の奥の高い峰を「沖の耳(オキ
ノミミ)
」と呼ぶことからも推察できます。なお、ここ利根沼田地方では家の奥の座敷を「オキノデェ
ー」といいますので、この地方の言葉で「オキ」とは「奥」を指すことは間違いないでしょう。
さて、武尊山の一年は雪に
閉ざされた1月に始まりま
す。分水嶺・脊梁山脈の一角
である谷川連峰より南に位
置しているため、どか雪とい
うほどではありませんが、山
全体が雪に覆われ、北麓の藤
原(一日目のキャンプ地、宝
台樹キャンプ場の麓)での今
年2月の最深積雪は2.9m
で、深い雪に覆われる姿が印
象的です。古来、この時期に
は猟師たちが唯一山に入っ
ていたと思われます。しか
し、現在では周辺に多くのス
キー場ができ、冬のレジャー
尾瀬・アヤメ平から望む冬の武尊山
スポットとしても開発が進
み親しまれてきました。一方、近年バックカントリーという言葉が一人歩きし、軽装で入山するスキ
ーヤーやスノーボーダーが多く、時折遭難騒ぎを起こすのは残念なことです。登山としては冬山登山
そのもので、稜線の風は強くルートは氷化してアイゼン・ピッケル等が必要です。また、自力でラッ
セルし最寄りの集落まで歩ききる体力も必要です。武尊山での冬山登山に挑戦するには十分な体力と
経験が必要です。
5月のゴールデンウィークを迎えると、雪解けが進み、青い山ひだに雪が残る最も美しい姿の季節
になります。山麓では農作業が始まります。山に入ると、タロッペ(タラの木の芽のこの地方での呼
称)やコゴメ(この地方でのコゴミの呼称)や山ウドなど、山の恵みを手に入れることが出来る季節
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でもあります。ところが東日本大震災に伴う東電福島原子力発電所からの放射性物質の飛散によりこ
の地域は広範囲に汚染されることとなりました。放射線量が基準を超えたということで山菜の出荷停
止のニュースが今でも時折流れることがあるのは残念です。ゴールデンウィークの時期は登山口から
少し登り出すと登山道には残雪があり、山一面が雪に埋もれていて冬山と変わらない読図力・行動力
が要求されます。特に下山時には雪原から下りの登山道を見つけることが出来なければ深い藪山に行
く手を阻まれるでしょう。6月に入っても山頂稜線には残雪・雪田があり急な斜面ではスリップ事故
などへの注意が必要です。滑落停止などの技術を身につけた上で入山することが望ましいでしょう。
7月に入ると、
豪雨が梅雨明けの合図となり夏山シーズンを迎えます。山麓のキャンプ場が賑わい、
林間学校など、青少年の野外活動のエリアとして多くの人々がやってきます。登山もベストシーズン
といえますが、雷の発生には注意が必要です。稜線上には避難小屋などはないので朝早めの出発を心
掛けることが最善の選択です。また、尾根に登り出すと途中に水場はないので、十分な準備が必要で
す。ガイドブックなどには稜線上「家の串」付近に湧水「笹清水」があるような記述がある場合があ
りますが、きわめて細く、枯れていることもあるので注意が必要です。山田昇スカイビュートレイル
120が今年は7月に実施されました。群馬県立沼田高校山岳部で登山を始め、ヒマラヤの8000
m峰に多くの足跡を残した、山田昇・三枝照雄(それぞれ群馬県代表としてインターハイ登山大会に
出場。1989年マッキンリーにて遭難)を記念し群馬県山岳連盟が主催してきた登山大会で、現在
では参加者が1000人を超える、日本を代表するトレイルランニングの大会となっています。
この山では、秋は文字通りかけ足でやってきます。8月の下旬には秋の気配が感じられ、9月に入
ると山麓では秋の恵みであるキノコのシーズンになります。天然のナメコやマイタケがとれ、一部に
は松茸もあるようです。しかし春の季節でもふれましたが福島原発由来の放射性物質の影響はキノコ
には特に深刻なものがあり注意が必要です。紅葉は9月下旬、山頂付近から始まり徐々に下がってい
きます。武尊山はブナ林が主なので黄色く色づきます。今回の関東大会はこの時期に合わせて開催を
計画しました。秋のハイキングシーズンのさなか、紅葉が終わるか終わらないかの時期に寒冷前線の
通過による降雪があり、遭難事故が発生することがあります。そして、11月中旬から雪化粧が始ま
り12月には純白の姿となって冬を迎えます。
武尊山では、今から33年前、1982年(昭57)第26回関東高校登山大会が開かれました。
それ以来、二度目の開催となる今回の第59回関東高校登山大会が、天候に恵まれ、参加各チームの
選手監督の皆さんにバラエティーに富んだコースを楽しんでいただけるよう願っています。
(田中洋史 第59回関東高校登山大会登山隊長)
武尊山全景(沼田より)
剣ヶ峰山
沖武尊
玉原スキー場
川場スキー場
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中ノ岳
家の串
剣ヶ峰
前武尊