第 25 回心理学講義 資料

第 25 回心理学講義
資料
2015.07.08
無差別殺人犯には、不遇な生い立ちの人が多いと言われることが多い。
しかし、不遇な生い立ちの人が全て殺人犯になるわけもなく、実際、ほとんどの人がそう
なっていないだろう。
「大量殺人を引き起こす6つの要因」と言われるものを基にその犯罪がどうして起こるの
かについて学んでみたい。
●大量殺人を引き起こす6つの要因
アメリカの犯罪学者レヴィンとフォックスは「大量殺人の心理・社会分析」の中で大量殺
人を引き起こす6つの要因をあげている。
この6の要因が積み重なり、さらに、憎悪と復讐、拡大自殺という要因も加わったとき、
無差別大量殺人が起こる。
(A)素因(心の要因)
①長期間にわたる欲求不満
②他責的傾向
(B)促進要因(事件を起こす後押しする出来事)
③破滅的な喪失
④外部のきっかけ
(C)容易にする要因(事件を起こし易くする要因)
⑤社会的、心理的な孤立
⑥大量破壊のための武器の入手
(A)素因
①長期間にわたる欲求不満
欲求不満というものは誰でも持つものであるが、ある意味それが、その人の基本トーンに
なっている場合、長期間にわたる欲求不満になると言っていいだろう。
それは一言で言えば、「強い自己愛」である。
「自分は本当はこんなところにいる人間ではない」
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「自分はこんな扱いを受ける人間ではない」
という思いが根底にある。
「理想(イメージ)の自分」と「現実の自分」との間にあまりにもギャップがある場合、
低い自己評価しか持てず、欲求不満が続く。このギャップは思春期に見られるが、そこか
ら成熟して大人になるということは、ある意味では自己愛の傷つきの積み重ね、つまり誇
大的な自己イメージを喪失していく「断念」の過程でもある。
しかし、大量殺人犯達には、その過程がなく、彼等は、自己愛イメージと現実の自分との
ギャップに直面すると、悩んだり、落ち込んだり、努力して現実の自分を引き上げようと
したりせず、手っ取り早く乗り越えようとする。手っ取り早く乗り越えようとして、他人
に責任を転嫁する。
②他責的傾向
責任転嫁は、秋葉原事件の加藤や下関事件の上部のように「親のせい」、池田小学校事件の
宅間のように「受精した精子と卵子の出来のせい」、あるいは「教師のせい」「上司のせい」
「社会が悪い」というような形でなされることが多い。
(B)促進要因
③破滅的な喪失(「これを失ったらもう自分はダメだ、おしまいだ」という思い)
長期にわたる欲求不満と他責的傾向という二つの素因があるところに、ある種の出来事や
状況が加わると、それが引き金となって、爆発的な怒りを急に引き起こすことになる。
それが破滅的な喪失である。
秋葉原事件の加藤の場合、「解雇」の脅威。下関事件の上部にとっては、妻の渡米と仕事用
車両の冠水だった。池田小事件の宅間の場合には、公務員の職を失ったこと、三番目の妻
との復縁が不可能になったことだった。宮崎勤の場合、祖父の死であった。
これらの出来事が促進要因として作用したのは、彼等が「破滅的な喪失」として受け止め
たからだろうが、何を「破滅的な喪失」と感じるかは本人次第である。
④外部のきっかけ(連鎖反応)
過去の事件に触発され、模倣する。
秋葉原事件の加藤は、車で突っ込んで刃物で刺すという犯行手口を下関事件から学んでい
た可能性が高い。また、
(土浦の何人か刺した奴を思い出した)と掲示板に書き込んでいる
ので、2008年3月の土浦無差別殺傷事件に影響された可能性も高い。
また、池田小事件の宅間をはじめ世界の無差別大量殺人事件の犯人は、ヒトラーを称賛し
ている者が多い。
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(C)容易にする要因
⑤社会的、心理的な孤立
彼等の多くは孤独者が多い。独身で恋人がいない、結婚したが離婚した、親しい友人がい
ない、親兄弟がいない、いても疎遠であるなど。
自己愛が強い、他責的であるとなかなか人と良好な関係は築きにくい。
⑥大量破壊のための武器の入手
アメリカの学者なので拳銃の入手しやすいということでこの項目があるのだろうが、車や
ナイフと日本においても容易に入手できるので、これを防ぐことは難しい。
●精神病理的観点
①被害妄想
被害妄想は大量殺人を引き起こす大きな要因になっている。
被害妄想の強い人は、周囲の人や社会が自分に危害を加えるものであるという認識をして
いる。
屈辱や侮辱を受けた過去の体験を繰り返し思い返しては憤激する傾向があるので怒りや恨
みが全く衰えず、むしろ増幅される。その結果、他者に対する激しい憎悪と復讐願望が醸
成されるが、そこに「破滅的な喪失」が付け加わると、
「自衛的な先制攻撃」
「正当な復讐」
として大量殺人が起こる。
②拡大自殺
秋葉原事件の加藤が、はじめは自殺を考えていたが、やがてあのような事件を起こしてし
まったように、無差別殺人は拡大された自殺であると考えられる。
フロイトは、自殺願望それ自体を、他者への攻撃性の反転したものとみなしていた。
自殺は、憎しみの対象を象徴的に殺すという他殺行為であるとする解釈もある。敵意を直
接示すわけにはいかない対象――親であったり、配偶者であったりする――の「悪」を自
らに「取り入れ」、攻撃し、破壊しようとする衝動としてとらえられる。
逆に、殺人犯は自分自身の破壊したい一部分を、被害者に投影して、消し去ることを望ん
でいるのであり、このような他殺は、いわば部分的な自殺であると言える。まさに、自ら
の「内なる悪」を他者に投影し抹殺しようとして引き起こす他殺にほかならない。
では、自殺へ向かうか、他殺に向かうかを決定する要因はなにか?
それは、自らの「内なる悪」を引き受け耐えきれず押しつぶされてしまう場合には自殺に。
同様に引き受けることに耐えられず「内なる悪」を外部に投影し抹殺しようとする衝動が
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強い場合には他殺に傾くことになる。
大量殺人犯に、他責的傾向、他罰的傾向、妄想的傾向が認められることが多いのは、「自ら
引き受ける」よりも、「投影」が強いためである。
彼等は「内なる悪」を自分自身で引き受けることに耐えられないがゆえに、外に投げ捨て
て抹殺してしまおうとした人たちなのだと言える。つまり、自らの抑うつや自殺を避ける
ための防御として投影することで生じた他者に対する攻撃的な怒りが、不特定多数の他者
に向けられる結果、自殺の等価値として無差別大量殺人は起こってしまうのである。
やはり、自己愛の強さが要因としてある。
●抑止法
~主に自己愛を肥大化させないための養育~
①過度の期待
②母子密着
③過保護・過干渉
④欲望をすべて叶える
⑤いい子・手のかからない子を放置する…優秀な子は無理して頑張っている可能性が高い。
放置しては駄目
⑥子供の多様な人間関係を妨げる
⑦「白か黒か」の二者択一的考え方を教え込む…絶対的な価値観を口にしない。
⑧危険信号を見逃す…子供が情緒不安定になったときは、急な腹痛や頭痛、吐き気や微熱
など、主として身体症状として表面化することが多い。また、表情が乏しくなったり、指
しゃぶりやおねしょなどの退行現象が見えたりするときは、注意を要する。
⑨他の兄妹・姉妹と比較する
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