泌尿器科 川村研二 他

恵寿総合病院医学雑誌 第3巻(2015)
原著
恵寿総合病院における 2013 年度の大腸菌薬剤感受性について
川村研二 1) 窪亜紀 2) 古木幸二 2) 宮本幸恵 2)
1)
恵寿総合病院 泌尿器科
2)
恵寿総合病院
細菌検査室
【要旨】
2013 年 4 月から 12 月までの恵寿総合病院における大腸菌薬剤感受性について集計した。急性単純性膀胱
炎では 6.5%にキノロン産生大腸菌、3.2%に ESBL 産生大腸菌を認めた。自己導尿例、複雑性尿路感染症でも
約 30-40%が ESBL 産生菌とキノロン耐性菌であった。カテーテル留置例では ESBL 産生菌が 20%分離され、キ
ノロン耐性大腸菌も 46.7%を占めた。
薬剤感受性に関しては、ESBL 産生とキノロン耐性以外の大腸菌では、CEZ は約 10%耐性であり、CTM と CMZ
は耐性菌を認めず良好な感受性を示した。キノロン耐性大腸菌では、AMK, CTX ,CMZ と CTM が 90%以上の薬剤
感受性率を示した。ESBL 産生大腸菌では、IPM/CS, AMK が 100%の薬剤感受性であり、LVFX, MINO と GM が
50%以上の薬剤感受性であった。
キノロン耐性大腸菌による急性単純性膀胱炎の 4 例中 2 例 50%に LVFX 内服、
全例にキノロン点眼の既往を認めており、安易なキノロン系薬剤の選択は慎むべきと考えた。病院感染対策
は病院全体として取り組まなければならない問題であり,主要菌種の病態別の定期的薬剤感受性が empiric
therapy には必須である。
Key Words:大腸菌,ESBL 耐性,キノロン耐性
【はじめに】
大腸菌の薬剤感受性について検討した。薬剤感受性
病院感染対策において病院内の分離菌の検出頻度
と薬剤感受性の傾向を把握していくことが重要であ
率(%)は感性(S)/(感性(S)+中間(I)+耐性(R))
x100 とした。
る。我々は,病原体分離前における抗生物質選択(経
験的治療 empiric therapy)のためにサーベイラン
【結果】
スを行ってきた 1-4)。今回,当院における 2013 年度
1.病態別 ESBL 産生菌とキノロン耐性菌の分離頻度
の大腸菌における基質拡張型 β ラクタマーゼ産生
図 1 に病態別の大腸菌の割合について示した。カ
菌: extended spectrumβ-lactamases (ESBL)とキノ
テーテル留置例では ESBL 産生菌が 20%分離され,キ
ロン耐性菌の病態別分離頻度およびそれぞれの薬剤
ノロン耐性菌も 46.7%を占め,両菌種で約 70%を占め
感受性について検討したので報告する。
た。自己導尿例,複雑性尿路感染症でも約 30-40%が
ESBL 産生菌とキノロン耐性菌であった。急性単純性
膀胱炎では 2 例 3.2%に ESBL 産生大腸菌を認めた。1
【対象と方法】
2013 年 4 月から 12 月までに恵寿総合病院泌尿器
例は老人ホーム入所中の 75 歳女性で糖尿病,急性胆
科において尿路感染症と診断された任意の患者の尿
嚢炎術後,数回の急性膀胱炎の既往があった。もう
から分離された大腸菌について集計した。
1例は 70 歳女性で 50 歳代に子宮がんの手術の既往
1.病態別 ESBL 産生菌とキノロン耐性菌の分離頻
あり,数回の急性膀胱炎の既往があった。急性単純
度,2. ESBL 産生菌,キノロン耐菌,それら以外の
性膀胱炎の 4 例 6.5%にキノロン耐性大腸菌を認め
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恵寿総合病院医学雑誌 第3巻(2015)
図1
病態別 ESBL 産生菌とキノロン耐性菌の分離頻度
ESBL
キノロン耐性大腸菌
20.0
46.7
カテーテル
留置
ESBL
自己導尿
キノロン耐性大腸菌
11.1
複雑性
尿路感染症
33.3
27.8
61.1
ESBL
キノロン耐性大腸菌
15.2
18.2
66.7
3.2
急性単純性
尿路感染症
6.5
90.3
0%
図 2a
20%
40%
60%
大腸菌(ESBL とキノロン産生以外)の薬剤感受性
PIPC
69.1 7.4
ST
92.6 20.2
MINO
79.8 25.5
74.5 AMK
GM
100%
(n=94):斜線が感受性株
30.9
LVFX
80%
100.0 6.4
93.6 CTX
98.9 CPZ
12.6
87.4 CMZ
100.0 CTM
98.9 CEZ
10.6
89.4 ABPC
46.8
0%
10%
20%
53.2 30%
40%
50%
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60%
70%
80%
90%
100%
恵寿総合病院医学雑誌 第3巻(2015)
図 2b
キノロン耐性大腸菌の薬剤感受性
PIPC
(n=22):斜線が感受性株
63.6
36.4 LVFX
100.0
ST
36.4
MINO
63.6 22.7
77.3 AMK
100.0 GM
CTX
27.3
72.7 4.5
CPZ
95.5 16.7
83.3 CMZ
CTM
100.0 4.5
CEZ
95.5 18.2
81.8 ABPC
77.3
0%
図 2c
10%
20%
30%
ESBL 産生大腸菌の薬剤感受性
40%
22.7 50%
70%
100.0 PIPC
100.0
50.0
ST
90%
100%
50.0 58.3
MINO
80%
(n=12):斜線が感受性株
IPM/CS
LVFX
60%
41.7 25.0
75.0 AMK
100.0 GM
16.7
83.3 CTX
100.0
CPZ
100.0
CMZ
92.3
CTM
100.0
CEZ
100.0
ABPC
100.0
0%
10%
20%
30%
40%
50%
- 60 -
7.7 60%
70%
80%
90%
100%
恵寿総合病院医学雑誌 第3巻(2015)
た。60 代 2 例,80 代 2 例で,4 例中 3 例 75%に DM
急性単純性膀胱炎の大部分を占める大腸菌をター
を認め,4 例中 2 例 50%に LVFX 内服の既往,4 例中 4
ゲットとするのであれば,アミノグルコシド GM で
例 100%に LVFX 点眼,4 例中 1 例 25%に GFLX 点眼の
94%,AMK で 100%,第 1 世代 CEZ で 90%, 第 2 世代 CTM
既往を認めた。
で 99%の感受性を認め急性単純性膀胱炎の第一選択
薬と考えた。
キノロン耐性大腸菌による急性単純性膀胱炎の 4
2. ESBL 産生菌,キノロン耐性菌の大腸菌の薬剤感
例中 2 例 50%に LVFX 内服,全例にキノロン点眼の既
受性について
図 2a に大腸菌(ESBL 産生とキノロン耐性以外)
の薬剤感受性について示した。第1世代セフェム
往を認めており,安易なキノロン薬の選択は慎むべ
きと考えた。
CEZ は約 10%耐性であり,第 2 世代セフェム CTM と
CMZ はほぼ耐性菌を認めず良好な感受性を示した。
【結語】
アミノグルコシド GM は 6.4%耐性を認めたが,AMK
病院感染対策は病院全体として取り組まなければ
は耐性菌を認めなかった。キノロンは LVFX 耐性が
ならない問題であり,分離菌の検出頻度と薬剤感受
7.4%であり,ST は約 20%の耐性であった。
性の傾向を把握していく必要がある。主要菌種の病
図 2b にキノロン耐性大腸菌の薬剤感受性につい
て示したが,AMK, CTX ,CMZ と CTM が 90%以上の薬剤
態別の定期的薬剤感受性が empiric therapy には必
須である。
感受性率を示した。ペニシリン系薬剤 ABPC,PIPC は
60-70%に耐性を認めた。
【文献】
図 2c に ESBL 産生大腸菌薬剤感受性について示した。
1)川村研二, 窪亜紀, 古木孝二,他:尿路感染にお
IPM/CS, AMK が 100%の薬剤感受性率であり,LVFX,
ける緑膿菌の薬剤感受性について—2012 年度・恵寿
MINO と GM が 50%以上の薬剤感受性率であった。
総合病院の集計結果—. 恵寿医誌 2: 85-86, 2013
2)川村研二, 窪亜紀, 古木孝二,他:恵寿総合病院
における 2011 年度の尿路感染分離菌頻度と薬剤感
【考察】
当院における大腸菌の薬剤感受性率にについて検
受性. 恵寿医誌 1: 50-52, 2012
討したが,耐性菌として ESBL 産生菌とキノロン耐性
3)真智俊彦, 宮本幸恵:緑膿菌と薬剤耐性. 恵寿医
菌が問題になると思われた。ESBL 産生大腸菌はカテ
誌 2: 1-3, 2013
ーテル留置例で 20%に認め自己導尿,複雑性尿路感
4)真智俊彦, 宮本幸恵:βラクタム剤の作用と耐性
染例でも 10-15%と高率に分離された。ESBL 産生大腸
機序(ESBL を含む) . 恵寿医誌 1:4-7, 2012
菌の薬剤感受性は IPM/CS と AMK が 100%の感受性で
あり治療第一選択になるが,GM,MINO とキノロンも
感受性が 50&以上であり,感受性結果によっては投
与可能な薬剤であった。
キノロン耐性大腸菌はカテーテル留置例で約 50%
に認め自己導尿,複雑性尿路感染例でも約 20-30%と
高率に分離された。急性単純性尿路感染でも 6.5%に
分離されていることも特徴であった。キノロン耐性
大腸菌ではセフェム系薬剤,アミノグルコシド AMK
等が高い感受性を維持しており,第一選択薬になる
と思われた。
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