千葉大学人間生活工学研究室卒論概要(2006) 卒業研究区分:論文 抑揚の強弱が脳波にもたらす影響 −事象関連電位を用いた研究− キーワード:抑揚、事象関連電位、人工音声 人間生活工学教育研究分野 03T0104X 荒崎 智史 ■研究の背景 時にボタン押し反応を行った。このときの ERP 波形を測定、 音声により情報を伝え合う事は、時として視覚を用いる 解析した。 場合よりも便利で能率が良い。これは人間同士の場合に限 らず、人と機械との情報のやり取りの場合にも当てはまる 図 2:試行イメージ といえる。音声情報としての言語理解において、抑揚がも 測定項目:脳波は 3 点(Fz、Cz、Pz)から単極導出し事象 たらす影響が大きい事がこれまでの数多くの研究で報告さ 関連電位を求めた。主観評価は各施行後に聞き取りやすさ れている。伊賀崎ら(2000)の研究では、肉声で抑揚を無 について VAS 法を用いて回答してもらった。 くした場合、単語の理解に要する時間が延長する事がわか っている。これにより抑揚がもたらす単語認識への影響は ■結果 認められたが、どの程度の抑揚の強さが最適なのかは明ら 脳波:すべての抑 かになっていない。さらに Friederici etal.(2002)の研 揚パターンで刺 究では、抑揚の有無は言語理解に影響をもたらすだけでな 激呈示後 600ms~ く、性別による差も出ることがわかっている。この結果か 800ms に陽性波が ら、抑揚を強くした場合、言語処理に性差が出る事も考え 観察された(図 3)。 られる。 しかし分散分析 では有意な結果 図 3:抑揚なしでの Pz の ERP 波形 は得られなかった。 ■研究の目的 これまでの研究では抑揚を無くした音声と比較したもの 主観評価:平均値では、抑揚あり、抑揚強、抑揚なし、の が多く、抑揚を強めた場合の生理的反応を調べた研究は無 順に聞き取りやすいという結果になった。しかし、分散分 い。本研究では人工音声の抑揚の強弱が、脳の言語処理に 析では有意な結果は得られなかった。 どのような影響を及ぼすかを事象関連電位を用いて評価す ■ まとめ ることを目的とした。 今回の実験では、P300 潜時の平均値を見るに、強い抑揚は ■研究の方法 通常の抑揚よりも潜時が浅いという結果となった。また主観評 被験者:被験者は 19~22 歳の健康 価においても強い抑揚は平均的に評価が低くなった。しかし、 な大学生(男性4名、女性3名) それぞれの分散分析結果からは有意な主効果を得ることがで であった。 きなかった。理由としては、刺激呈示率が高すぎた(25%)こと、 実験:実験では抑揚のありと抑揚 加算回数が少なかった(被験者によっては 15 回程度であった) のなし、さらに抑揚を強めた人工 ことなどがあげられる。 また、標的刺激に「イルカ」のみ用いたので、被験者は意味 音声を3回に分けて被験者に聞か のある単語を見抜くというより、「イルカ」かそうでない単語を区 せるものとした。人工音 声は SMRTTALK Version3.0 を用い 図 1:実験風景 別する作業としてタスクを遂行してしまったのかもしれない。例 て作成した。刺激には意味のある単語、意味の無い単語を えば他の標的刺激として「カラス」「スズメ」などの単語を混ぜ、 用意し、1:3の比率でランダムに呈示した。単語は3音 「カラグ」「スズレ」などの意味のない単語も混ぜたうえ呈示し、 単語を使用し、意味あり単語には i/ru/ka (イルカ)、意 被験者に単語の意味に注意を向けさせるべきであった。 味なし単語には i/ru/so ,i/ru/zu , i/ru/ra ,を用意し た。被験者は3音目で初めて意味あり単語か意味無し単語 かを区別でき、意味あり単語を target とし、target 呈示 したがって、抑揚の強弱と事象関連電位の関係は更なる研 究が必要である。
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