がん等の革新的治療法の欧米での進展 と再生医療の規制動向

第 5 回ヒューマンサイエンス調査報告書発表会
がん等の革新的治療法の欧米での進展
と再生医療の規制動向
平成 27 年 7 月 15 日(水)
コクヨホール
主催:公益財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団
プログラム
「がん等の革新的治療法の欧米での進展と再生医療の規制動向」
時 間
演 題
13:00~13:05
開会挨拶
13:05~13:10
お願い事項
講 師 (敬称略)
(公財)ヒューマンサイエンス振興財団
理事長 髙柳 輝夫
田辺三菱製薬株式会社 医療情報部 主幹 大谷 章雄
【国外調査】
(司会:田辺三菱製薬株式会社 大谷 章雄)
13:10~13:50
2014年度国外調査報告書「がん等の難治性疾患の革新 国外調査班 リーダー
的治療法開発の新たな潮流を探る」の概要
第一三共株式会社 研究開発企画部 主席 佐藤 督
13:50~14:30
HS財団国外調査の意義と入手情報の活用術
14:30~15:10
東京大学医科学研究所
標準治療となりつつある癌免疫療法の国内外の動向と
先端医療研究センター臓器細胞工学分野
展望
附属病院外科 教授 田原 秀晃
15:10~15:30
休 憩
株式会社レクメド 代表取締役社長 松本 正
【規制動向調査】
(司会:株式会社田辺R&Dサービス 斉藤 亜紀良)
15:30~16:10
規制動向調査班 リーダー
2014年度規制動向調査報告書「再生医療の実用化の課
題と規制動向」の概要
大正製薬株式会社 薬制部
グループマネージャー 池田 陽子
16:10~16:50
再生医療の新しい法規制と海外の規制
国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部
部長 佐藤 陽治
(一社)再生医療イノベーションフォーラム 運営委員長
16:50~17:30
再生医療の事業化のための課題とFIRMの活動
富士フイルム株式会社
ヘルスケア事業推進特命 横川 拓哉
総合司会:ヒューマンサイエンス振興財団 情報提供調査班調査報告書発表会ワーキンググループ 2014 年度国外調査報告書
「がん等の難治性疾患の革新的治療法開発
の新たな潮流を探る」の概要
ヒューマンサイエンス振興財団
第一三共株式会社研究開発本部
国外調査班 リーダー
研究開発企画部 主席
佐藤 督
ヒューマンサイエンス振興財団(HS 財団)では、欧米を中心とする諸外国のライフサ
イエンス分野における企業・研究機関等の研究・開発の最新状況を調査することを目的
に、1986 年年度より、継続的に国外調査を実施している。2014 年度の国外調査は、標
記テーマで欧米各国を訪問し、近年益々注目を浴びているがん等に対する革新的治療法
開発の動向を探ることを主目的に実施した。今回の調査報告書発表会でご紹介する
2014 年度国外調査の要点は、以下の通りであるが、例年にも増して有益な情報が得ら
れたものと自負している。
1.がん免疫療法・ウィルス療法の進展
がん免疫療法は幾つかに分類されているが、何れにおいても、これまでに十分な臨床成
果は得られていなかった。しかし、今回の調査により、分子レベルでの作用機作解明や
新たな併用療法の検討等が進み、多くの有望な治療薬・治療法が開発されつつある状況
であることが分かった。遺伝子レベルでの的確な診断が必要なため、限られた施設でし
か実施できないケースが多いこと、非常にコスト高であること、有効性に関する個人差
が大きいこと等、課題・問題が残ってはいるが、次々に有用な知見も得られており、将
来的には、がん治療の新たな柱となる可能性も高まっていると思われた。
がんウィルス療法においては、当初、患者体内の正常細胞へのウィルス感染や異常増殖
等の安全性面での問題が憂慮されていたが、今回紹介を受けた臨床開発中の各種ウィル
スでは、何れも安全性での問題は認められていなかった。近く、Amgen の T-Vec が、
本療法として欧米で始めて承認されることが確実であり、今後、作用機作の更なる解明
や、他の治療法との併用等の課題を克服して、様々なウィルスの開発が急速に進展する
ことも考えられる。
HS 財団国外調査の意義と入手情報の活用術
株式会社レクメド・代表取締役社長
松本 正
常々、その時の風を感じる、あるいは流れに乗ることは多くのビジネスにおいて共通
の成功への近道と考えている。医薬品産業においても、新しい風を感じ、他社に先駆け
て新薬を開発していくことが成功の近道であると言えるかもしれない。また、他社の成
功体験から学習することもビジネスを成功に導く上では重要な手法の一つとされてい
る。HS 財団が毎年実施している国外調査は、まさにこのビジネスを成功に導く情報収
集に最適な活動であると思われる。それは、この HS 財団の国外調査が、訪問候補先の
選定過程で、班メンバーの熱心なブレーンストーミングから始まり、普段個々の企業で
は訪問できない相手にも、財団デリゲーションとしてアプローチをかけ、貴重な情報を
得ることを可能にしているからに他ならない。
HS 財団の国外調査メンバーは各企業の代表者の集まりではあるが、公的な立場も有
しており、海外の規制当局やグラント審査機関に対しても毎年定期的に訪問を行い、規
制や研究動向の新しい動きに関していち早く情報を収集している。また、海外のベンチ
ャー企業および製薬企業からも、一企業として訪問した場合には提示されない、企業戦
略等に関しても情報を収集することに成功している。一例をあげれば、今回 Amgen の
訪問では、NDA filing をしたばかりのウイルス製剤に関して、詳細にその背景や臨床
結果の提示を受け、ウイルス製剤の到来を感じ取ることができた。また、今回患者団体
である Parent Project Muscle Dystrophy (PPMD)を訪問し、難病治療薬の開発におけ
る、患者団体と製薬企業のコラボレーションの新しい姿を垣間見ることができた。
さて、情報には発信者から直接収集できる一時情報とその一次情報を第三者が加工し
て提供される二次情報が存在している。そして、情報を正確に分析するには、この一次
情報と二次情報をバランスよく検討することが重要であるが、有益な一次情報を個人や
一企業として収集することは訪問先のハードルも高く困難な局面が多い。その一方で、
HS 財団を通した訪問では、先方がより公的な立場での訪問として理解を示し、比較的
立場の高いマネージメントからより深い情報の提供がなされることが多い。また、その
訪問が契機となり、普段ではなかなかコンタクトのチャンネルができない会社との接触
を始めることも容易である。発表者の今までの経験においても、情報の収集には個人的
な信頼関係と Give & Take の精神が重要であると思っているが、この HS 財団の国外
調査はその人的なネットワークを形成する第一歩としての価値が非常に高い。
HS 財団の訪問メンバーは、訪問先のいくつかに関し主担当者として、事前の調査や
面談の積極的な運営とフォローアップが任されている。このことは、単に訪問メンバー
として相手の機関や会社を訪問する以上に、より密度の濃い準備と先方とのコンタクト
を可能としている。先に触れたように、情報の収集においては Give & Take の精神が
重要であるが、面談中の積極的な対応が先方に好印象を残し、そのことでその後のコン
タクトを好意的に進めることを可能としている。
さて、このこのように HS 財団の国外調査は、情報の収集のし易さという点では、単
独の訪問と比較して、普段訪問できない政府系機関への訪問を可能とし、また企業訪問
においてはよりトップレベルのマネージメントとの接触を可能として、質の高い情報を
収集することができる点に特色がある。一方で、風を感じるという面では、2 週間の間
に集中して多くの機関や会社を訪問すると、その時々に共通したいくつかのトピックス
に触れる機会がある。これこそ風であり、今の社会がどのように動いているかの実感で
ある。この実感は、国内で二次情報を頼りに情報収集を行っても、また個別に単発の訪
問を繰り返してもなかなか感じることができないが、一定期間集中的に複数の機関や企
業を訪問することで感じ取れることが可能である。風を感じることは、厳しさを増す医
薬品の開発競争の中で、いち早く好位なポジションを獲得し、スムーズな経営戦略とア
クションプログラムを遂行する上で大いにフォローの環境を形成することに役立つ。
以上をまとめると、HS 財団の国外調査は、普段アクセスが困難な多くの政府系機関
も含め、イノベーションな研究開発を進めているバイオベンチャーや製薬企業を訪問し、
時の風を感じ取りその風を今後の経営戦略や研究戦略に大いに役立たせる意味で非常
に貴重な機会であると思える。
標準治療となりつつある癌免疫療法の国内外の動向
と展望東京大学医科学研究所附属病院
外科
先端医療研究センター臓器細胞工学分野
田原 秀晃
教授
癌免疫治療法は、患者自身が元来有している免疫機構を積極的に利用して癌
を治療しようとする手法である。これは、遠隔転移を含めた病巣を治療し得る
手法として有望視され、免疫学基礎研究の進歩とともに様々な治療法が考案さ
れて来た。しかし、その長年にわたる多岐に渡る努力にもかかわらず、一般臨
床家が標準治療として使用できる治療法は出現してこなかった。
そのような状況が、有効性や有用性が科学的臨床試験により検証され証明さ
れた治療法の出現により、最近劇的に変化している。これらは、樹状細胞と T
細胞の相互関係を中心とした基礎免疫学研究の膨大な成果を基盤として開発さ
れたものであり、過去の研究開発への投資が患者に還元された好例とも言えよ
う。
その契機となったのは、2010 年に発表された再発進行悪性黒色腫に対する
抗 CTLA-4 抗体を用いた治療の第 III 相臨床試験結果であった (1)。既存の治療
法と対等の評価方法で比較検討されその効果の優位性が客観的に確認された結
果、米国 FDA(Food and Drug Administration)により承認された。この抗 CTLA-4
抗体は、抗原分子を発現している癌細胞に接着することにより当該癌細胞を直
接攻撃する既存の抗体医薬とは異なり、癌患者の免疫抑制機序を解除し癌細胞
に対する有効な免疫反応を惹起することにより癌細胞を攻撃する「チェックポ
イント阻害薬」の一つである。つまりは、患者の元来持つ免疫機能を利用する
癌免疫療法が、標準的治療法の仲間入りを果たしたこととなった。
この抗 CTLA-4 抗体の開発成功が大きな契機となり、異なるチェックポイン
ト機構を阻害する PD-1 機構阻害薬(抗 PD-1 抗体および抗 PD-L1 抗体)の開発
も急速に進んだ。これに関しては、2012 年に有望な第一相試験の成績が報告さ
れた(2)。この抗 PD-1 機構阻害薬は、副作用が比較的軽微であり、免疫療法に
反応しやすいと考えられている悪性黒色腫や腎細胞癌以外の非小細胞肺癌のど
複数の癌種にて明確な抗腫瘍効果を発揮することから大きな注目が集まった。
我々も、再発進行悪性黒色腫に対する抗 PD-1 抗体(Nivormab)の第 2 相試験を、
世界に先駆けて本邦にて開始した。その結果を受け、2014 年には、日本におい
て、世界で初めての承認薬となった。現在では、悪性黒色腫以外での様々な癌
種に関する開発が活発に進められており、非小細胞肺癌に対する治療薬として
の承認が待たれている。
また、遺伝子細胞療法の分野においても大きな進歩が見られつつある。2011
年には遺伝子導入により CD19 と補助刺激分子からなる Chimeric Antigen
Receptor を発現するように改変された T 細胞(CAR-T 細胞)を用いた治療法が、
慢性リンパ性白血病に対しきわめて高い奏功率を示すことが発表された(3)。希
少疾患を対象とし、治療例数は多くないとはいえ、その圧倒的な治療効果は明
白なものであり、製薬企業の参入により、一時期停滞気味であったこの分野に
おいても開発が進みつつある。
これらの事例は、癌免疫療法の開発がこれまでの混迷期を脱する契機となり、
現在では多くの企業が、この分野に参入して来ている。また、真に有効な治療
法の出現により、実際の患者から腫瘍免疫反応に関する精度の高い貴重な情報
が得られるようになった。この状況は、この分野の更なる発展を担保するもの
であると考えられる。
本講演では、以上に述べたような最近の癌免疫療法に関する世界的動向を論
じると共に、我々の進めた抗 PD-1 抗体の第 2 相臨床治験の情報や、新規免疫療
法の開発についても紹介したい。
参考文献
1.
2.
3.
Hodi FS, et al. Improved Survival with Ipilimumab in Patients with Metastatic
Melanoma. The New England Journal of Medicine 363:711-23, 2010.
Topalian SL, et al.Safety, Activity, and Immune Correlates of Anti–PD-1 Antibody
in Cancer. N Engl J Med; 366:2443-2454, 2012.
Porter DL1, Levine BL, Kalos M, Bagg A, June CH. Chimeric antigen
receptor-modified T cells in chronic lymphoid leukemia. N Engl J Med. 365:725-33.
2011.
平成 26 年度規制動向調査報告書
「再生医療の実用化の課題と規制動向」の概要
ヒューマンサイエンス振興財団 規制動向調査班 リーダー
大正製薬株式会社 薬制部 グループマネージャー
池田 陽子
本調査報告書は、ヒューマンサイエンス振興財団(HS 財団)規制動向調査班
が、我が国において平成 25 年から平成 26 年にわたり法整備された再生医療の
実用化を促進する制度的枠組みの現状及び再生医療実用化のための課題につい
ての調査結果をまとめたものである。
第 1 章では、再生医療を取り巻く情勢、関連する行政の施策などをまとめた。
再生医療は、第 4 期科学技術基本計画(平成 23 年)の「ライフイノベーション
の推進」、日本再興戦略(平成 25 年)の「戦略市場創造プラン」、及び健康・医
療戦略(平成 25 年)において我が国が積極的に推進すべき施策として取り上げ
られている。また、再生医療の実用化に向け、文部科学省、経済産業省及び厚
生労働省が協力して「再生医療実現化ハイウェイ構想」などに取り組んでいる。
平成 25 年に、再生医療三法(再生医療推進法、医薬品医療機器法、再生医療
安全性確保法)が成立し、再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるように
法整備がなされた。また、再生医療三法の成立に伴い、これまでに関連する 100
を超える通知類が発出されている。さらに再生医療等に係るガイドライン類も
改訂や新規作成が行われている。第 2 章において、これら関連通知類を整理し
解説した。
一方、実用化に関しては、我が国の「再生医療等製品」として承認された製
品はまだ 2 品目しかなく、産官学が協力して基礎研究をいかに実用化に結びつ
け、これからの成長産業として育成していくかが議論されている。第 3 章では、
国内外の再生医療実用化研究の動向、国内の再生医療の実用化研究の紹介、及
び産業育成への取り組みをまとめた。
HS 財団では、平成 21 年度に「多能性幹細胞-再生医療ならびに医薬品創製
への活用と規制の動向-」、平成 22 年度に「感染症予防ワクチン・がんワクチ
ン医療 多能性幹細胞を利用した再生・細胞医療」、平成 23 年度に「遺伝子治
療と細胞治療-医薬品開発ならびに臨床研究の現状と規制の動向-」の調査研
究を行った。再生医療に関する規制・制度に係る新たな展開などの観点から、
将来に先駆けて解決すべき規制上の課題等を洗い出すとともに、それらの解決
策を見出すための調査研究活動を展開し、提言を行ってきた。第 4 章では、こ
れら過去の提言が、どの程度達成され、何が達成されていないかについて考察
した。さらに、今回の調査で浮き彫りになった規制面及び実用化面の課題を考
察した。最後に、課題解決に向けて産業界、行政、アカデミア、一般国民など
が、現状認識を共有し、課題解決に向けて協働することを願って、我々規制動
向調査班として以下の 4 つの提言をまとめた。
<平成26年度HS財団・規制動向調査班からの提言>
1) 国は、再生医療関連法施行後の適正な運用と今後の再生医療等製品に関する
課題について公開を含めた迅速かつ適正な対応を
2) 国・産業界・アカデミアは、オールジャパンで再生医療のビジネスモデルの構築と
そのための人材の早急な育成を
3) 国は、再生医療関連ベンチャーへの支援強化と実効的運用を
4) 国・産業界・アカデミアおよびマスコミは、再生医療のリスクとベネフィットについて
国民に科学的で正確な情報提供を行い、再生医療等製品のfirst-in-human試験
実施から実用化に向けての国民的コンセンサスの醸成を
再生医療の新しい法規制と海外の規制
国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部
佐藤 陽治
部長
ヒト又は動物の細胞に培養その他の加工を施したものを用いた再生医療をわが国で実用
化する道筋には,
「製品としての開発トラック」と「医療としての開発トラック」との二つ
がある.ヒト又は動物の細胞に培養その他の加工を施し,再生医療に用いられることを目
的とした製品(再生医療等製品)を開発するトラックでは,薬事の法規制を受け,治験を
行った上で,厚生労働省の製造販売承認を受けなければならない.一方,医師・歯科医師
が自らの患者に「医療」を施すことを目的に,ヒト又は動物の細胞に医師・歯科医師が自
ら加工を施し,これを患者に投与することはこれまで,『医師法』『医療法』等の医事関連
法規や関連行政指針等に従い,「臨床研究」及びその結果を踏まえた「先進医療」(保険診
療との併用が認められる保険外診療)あるいは「保険外診療」として行われてきた.
2013 年,わが国では再生医療に関する規制を大きく変化させる 3 つの法律,すなわち『再
生医療を国民が迅速かつ安全に受け入れられるようにするための施策の総合的な推進に関
する法律』(通称『再生医療推進法』),
『医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の
確保等に関する法律』
(通称『医薬品医療機器等法』又は『薬機法』)
,及び『再生医療等の
安全性の確保等に関する法律』(通称『再生医療新法』又は『再生医療等安全確保法』)が
成立した.2013 年 5 月に成立した『再生医療推進法』は,再生医療の実用化に向けて,研
究開発や普及を促進する際の国の責務を明記した議員立法である.
2013 年 11 月に成立し,
一年後の 2014 年 11 月より施行されている『薬機法』は,『薬事法』を改正するとともに法
律名を変更したものである.同法では,再生医療等製品(遺伝子治療用製品を含む)は,
医薬品からも医療機器からも独立した第 3 のカテゴリーとして分類される.再生医療等製
品のうち一定の条件を満たすものについては,治験等により安全性が確認され,有効性が
推定されれば,条件及び期限付製造販売承認を得ることができるようになるなど,特別な
規制が適用される.
『薬機法』における再生医療等製品の条件・期限付き承認は,日本独自の制度ではある
が,その要件とされる「有効性の推定」についての考え方は,オーファンドラッグの販売
承認審査においてよく見られる考え方に近い.オーファンドラッグの場合,探索的試験に
おけるサロゲートエンドポイントのような限定されたデータであっても臨床上のベネフィ
ットが合理的に推定されるならば製品を承認することがある.再生医療等製品の条件・期
限付き承認でもそれと似たケースが想定される.また,再生医療等製品とオーファンドラ
ッグに共通する有効性のエビデンスの特徴として,治験段階では統計的に厳密な評価が困
難な場合が多いことが考えられる.これは,製品の品質のばらつきや対象疾患の希少性な
どによる.したがって,より多くの症例を収集するため全例を対象にした調査や追加臨床
試験を実施し,適正使用の確保のために医療機関等を限定するという市販後対策が重要と
なる.条件・期限付承認制度は,こうした再生医療等製品の特性を鑑み,安全性を確保し
ながら迅速に患者に製品を届けるという目的に,柔軟かつ合理的に対応する方策として考
案され,制度として明文化されたものである.
『薬機法』と同時に成立した『再生医療等安全確保法』は,
「医療としての再生医療等(患
者に遺伝子ベクターを直接投与する遺伝子治療を除く)
」を規制するものである.同法によ
り,医師・歯科医師は細胞の加工を外部の「特定細胞加工物製造業者」に委託することが
可能となる一方,そのリスク区分に応じて,再生医療等提供計画を厚生労働大臣等に提出
しなければならなくなった.
欧米では,緊急時や治験等の例外を除き,ヒト・動物の細胞に培養その他の加工を施し
たものを臨床適用する場合には,
「医療」か「製品」かの区別なく,薬事の基準に則って開
発した上で,その有効性,安全性及び品質について製品ごとに,規制当局の審査を受け承
認を受けなければならない.したがって,日本国内で開発された再生医療等を国際展開す
る場合には,治験を通じて薬事法上の承認を得る方が好ましい.なお,EU では,再生医療
等製品に相当する製品群は advanced therapy medicinal products(ATMPs,先進医療医薬
品)と呼ばれ,作用様式に関わらず医薬品の一類型として規制される.一方,米国では,
同様の製品群は human cells, tissues and cellular and tissue-based products regulated
under Section 351 of Public Health and Service Act(Section 351 HCT/P,公衆衛生サービ
ス法 351 条に基づくヒト細胞,組織及び細胞・組織由来製品)と呼ばれるが,作用の主様
式に基づき,製品ごとに医薬品又は医療機器に分類されて規制を受ける.
再生医療等製品をはじめとする革新的医薬品等に関しては,我が国だけでなく欧米でも積
極的な実用化促進策がとられている.我が国では 2014 年に革新的医薬品等の実用化を促進
するための「先駆けパッケージ戦略」がまとめられた.その中には,世界に先駆けて日本
で開発され,早期の治験段階で著明な有効性が見込まれる革新的な医薬品について,優先
審査し,早期の承認を目指す「先駆け審査指定制度」が含まれる.欧米でも同様な製品に
対しては,breakthrough therapy designation(革新的治療指定制度,米国)や adaptive
pathways approach(段階的承認制度,EU)といった優先的な審査・承認制度が存在する.
ただし,再生医療等製品に特化した制度の整備状況から考えると,作用の主様式に基づい
て製品ごとに医薬品又は医療機器に分類して規制する米国よりも,日本や EU のように,既
存の枠に囚われずに一つの製品群として一括して取り扱う方が,製品の特性に応じた規制
を設定しやすいように見受けられる.米国でも,日本で『再生医療推進法』が成立する以
前の 2011 年より再生医療促進法案が審議されているが,成立には至っていない(2015 年 6
月現在)
.米国は再生医療の主要な開発拠点と大きな市場を抱えており,同法が成立すれば
米国における再生医療の規制も多かれ少なかれ変化し,国際的にも影響が及ぶと予想され
るので,引き続き動向に注意していく必要がある.
再生医療の事業化のための課題と FIRM の活動
(一社)再生医療イノベーションフォーラム 運営委員長
富士フイルム(株)ヘルスケア事業推進特命
横川 拓哉
我が国の再生医療研究は世界トップレベルと言われるが、再生医療製品とし
て製造販売承認を受けたものは J-TEC による自家培養表皮「ジェイス」及び自家
培養軟骨「ジャック」の2品目のみである。また、それぞれ昨年製造販売承認を
申請し、次の上市品と期待される JCR の急性移植片対宿主病(GVHD)に対す
る細胞治療薬 JR-031(他家のヒト間葉系肝細胞(MSC))と、テルモの虚血性心
疾患による重症心不全を対象とした骨格筋芽細胞シートを含めても4品目と、
欧米や韓国などと比べて実用化件数は著しく少ない。
再生医療領域では、培養関連消耗品や培養装置、加工施設や解析機器、培養
細胞を輸送するサービスなど様々な周辺産業が支えることとなり、今後も新た
な産業の創出が期待される。経済産業省の将来市場規模予測によると、再生医
療の市場規模は、2050 年には国内 2.5 兆円、世界 38 兆円、再生医療関連装置
類や消耗品、サービス類等の周辺産業は国内 1.3 兆円、世界 15 兆円となり、い
ずれも非常に大きな経済効果が期待される。しかし、再生医療関連機器及び試
薬類の多くが、海外製を使用しているのが現状であり、比較的日本製のシェア
が高く今後の技術開発が期待される自動培養装置など、再生医療周辺産業での
日本製の普及が求められる。
再生医療研究の成果を安全かつ安定的に提供する社会体制を構築するために
は、産学官が連携して産業化のプロセスを形成していくことが求められる。再
生医療産業化の具体的な道筋を示すこと等を目的とし、2011 年に産業界が主体
となり再生医療イノ ベーションフォーラム FIRM (Forum for Innovative
Regenerative Medicine)が設立された。設立当初 14 社だった FIRM 参画企業
は、設立4年後の 2015 年には 150 社を超え、周辺産業を含む多様な企業により
包括的な取り組みを推進する体制が作られてきている。
FIRM がめざす再生医療産業化においては、産学官の連携は国内のみにとど
まらず、世界のアカデミア、企業、行政との連携が必須である。そのため、2015
年 3 月 に は 米 国 の 再 生 医 療 団 体 で あ る ARM(Alliance for Regenerative
Medicine)との包括連携を締結した。これに基づいて、種々の情報交換や企業連
携、交流を活発に行い再生医療の実用化を普及するため相互協力していく。さ
らに、その他の海外機関との連携も進めている。
昨年 11 月の再生医療関連法の施行に伴い、国内の再生医療製品の開発は急速
に加速することが予想される。また同時に、海外企業からも日本における先進
的な再生医療製品の開発環境は非常に注目されている。FIRM では、国内外の
アカデミアが有する研究シーズや、海外企業の再生医療製品も含めて国内で開
発が推進するよう産業実証検証のプログラムも進めている。海外企業へさまざ
まなノウハウを持つ国内企業とのパートナリングを行う事務所を設立し海外企
業などのニーズに答えていく。また細胞培養など細胞製品のものづくりに必要
なあらゆる機能が集積した産業拠点作りを進めている。
一般事業委員会 調査報告書発表会 ワーキンググループ
ワーキンググループ長
田辺三菱製薬株式会社
大谷 章雄
副ワーキンググループ長
株式会社田辺 R&D サービス
斉藤 亜紀良
ワーキンググループ委員
株式会社 Integrated Development Associates
萩本 浩司
第一三共株式会社
佐藤
督
大正製薬株式会社
池田
陽子