去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対する新薬の特徴

DI 委員会トピックス
去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対する新薬の特徴
<概要>
前立腺癌は男性悪性腫瘍であり、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)依存性に
進行することが知られています。治療法はアンドロゲン除去療法と抗アンドロゲン療法に二分され、ア
ンドロゲン除去療法に対して抵抗を示すものが去勢抵抗性前立腺がん(castration-resistant prostate cancer :
CRPC)とされています。これまでの本邦における CRPC に対する治療法は、二次内分泌療法としての
抗アンドロゲン療法や抗アンドロゲン剤の交替療法、ドセタキセル療法が挙げられます。しかし、その
効果や治療の選択肢の数は限られており、最終的には緩和療法へと移っていく現状があるようです。こ
のような状況の中、新たな作用機序を有した内分泌治療薬であるエンザルタミドやアビラテロン酢酸エ
ステル、タキサン系薬剤のカバジタキセルの 3 剤が 2014 年に承認されました。これにより、CRPC 治療
の選択肢が増え、外来・入院を問わず、積極的な治療が行える環境が整いました1)。そこで、今回、エ
ンザルタミド、アビラテロン酢酸エステル、カバジタキセルについてご紹介致します。
<薬剤紹介>
1)エンザルタミド(商品名イクスタンジカプセル 40mg)2,
6 )
適応:去勢抵抗性前立腺癌。用法用量:エンザルタミドとして 160mg を 1 日 1 回経口投与します(食事
の影響はありません)
。作用機序:アンドロゲン受容体(AR)シグナル伝達阻害薬で、AR へのアンドロ
ゲンの結合を競合的に阻害し、AR の核内移行及び AR と DNA 上の転写因子結合領域との結合を阻害し
ます。また、AR の過剰発現下や従来の抗アンドロゲン剤に抵抗性を示す前立腺癌細胞においても効果を
示し、ビカルタミドとは異なり AR に対しアゴニスト活性を示さない特徴があります。薬物動態:投与
後 1~2 時間で最高血中濃度に到達し、1 日 1 回の投与では約 1 ヵ月で定常状態に到達します。注意事項:
投与開始初期から 疲労、悪心、食欲減退が惹起されることがあり、肝機能障害を含め、定期的な副作用
とアドヒアランスの確認が必要となります。また、今後、用量が検討される可能性もあり、薬剤交付時
における患者からの聞き取りが安全な治療を行うために重要と考えます。
2)アビラテロン酢酸エステル(商品名ザイティガ錠 250mg)3,6)
適応:去勢抵抗性前立腺癌。用法用量:プレドニゾロン 5mg の 1 日 2 回の経口投与の併用下、1 日 1 回
アビラテロン酢酸エステルとして 1,000mg を空腹時(食事の 1 時間前から食後 2 時間までの間の服用は
避けること)に経口投与します。作用機序:精巣細胞、前立腺、副腎、前立腺腫瘍細胞に発現している
CYP17 の選択的阻害剤で、プロゲステロンからアンドロゲンへの変換を直接阻害します。注意事項:新
規の作用機序で、治療薬 2 剤を異なる時間帯で服用するため、定期的なアドヒアランスと副作用の確認
が必要となります。
3)カバジタキセル(商品名ジェブタナ点滴静注 60mg)4,5,6)
適応:前立腺癌(主に転移性CRPC:海外)
。用法用量:プレドニゾロン10mg / 日の併用下、1日1回、
カバジタキセルとして25mg/m2(体表面積)を1時間かけて3週間間隔で点滴静注します。作用機序:
チューブリンの重合を促進し、微小管を安定化することにより細胞分裂を阻害します。In vitro 試験では、
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ドセタキセル抵抗性細胞株においても効果を示すことが報告されています。薬物動態:肝臓で広範に代
謝され、主にCYP3A4が関与します。注意事項:発熱性好中球減少症・好中球減少症による死亡例が報
告されており、副作用、検査値、バイタル等の定期的な確認が必要となります。特に、発熱性好中球減
少症・好中球減少症が発現する可能性が高い患者においては、G-CSF製剤の予防投与等についても考慮
することが重要です。一方、強力なCYP3A阻害剤(ケトコナゾール)またはCYP3A誘導剤(リファンピ
シン)との併用はカバジタキセルの薬物動態へ影響を与えるため、併用は避けるようにしてください。
<まとめ>
今回、ご紹介した3剤は、今後のCRPCの治療を進展するに違いありません。しかし、CRPC治療に用
いる薬剤の最適な投与の順番は、今のところ確立されていません4,5)。また、本邦において、カバジタキ
セル投与患者での死亡例がPMDAとサノフィから報告され、注意喚起されています。我々薬剤師は、治
療に関する情報収集を積極的に行い、副作用の発現時期やGradeについて定期的に確認・評価し、患者や
医師等へフィードバックすることで、安全な医療を実践できるように取り組んでいかなければならない
と考えます。
<参考資料>
1)Jpn J Cancer Chemother 41(7):804, July, 2014
2)Jpn J Cancer Chemother 41(7):805-810, July, 2014
3) Jpn J Cancer Chemother 41(7):811-816, July, 2014
4) Jpn J Cancer Chemother 41(7):817-822, July, 2014
5) Jpn J Cancer Chemother 41(7):827-831, July, 2014
6) 各添付文書
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