イメージガイドを用いた前立腺癌診断・治療

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イメージガイドを用いた前立腺癌診断・治療
─Focal therapy への展開
齋藤 一隆
東京医科歯科大学医学部附属病院泌尿器科
近年,前立腺生検は MRI や超音波など
前立腺癌の診断においては MRI が有用
を標的病変とした。なお,系統生 検は
を用いた画像ガイド下生検へとシフトして
であり,われわれも通常の系統的生検で
経会陰 14 か所または立体 14 か所にて
きている。本講演では,画像ガイド下生検に
は検出できない尖部腹側の癌の検出に,
行った。
対するわれわれの考え方と生検の実際を踏
生検前 multiparametricMRI(mpMRI)
図 1 に MR-TRUS フュージョン画像を
まえ,当院で行っている Focal therapy
が有用な可能性があることを報告してい
示す。MRI のボリュームデータを TRUS
について述べる。
る 3)。また,EAU ガイドライン 20154)で
プローブの磁気センサに同期させて位置
は,上記の内容に加え,MRI を用いた
合わせを行い,MRI と TRUS 画像が同
生検は前立腺癌の悪性度評価により有
期して動くことを確認してから MRI 検
前立腺癌の現状
高齢化の進行に伴い,わが国では前
用と記載されており,MRI 検出病変を
出病変に ROI をとり,同期した ROI を
立腺癌患者が急速に増加している。早
標的とする狙撃生検を行っていく必要
めざして狙撃生検を行っている。
期前立腺癌においては,PIVOT(the
があると考えている。
検討の結果,significant cancer は
Prostate Cancer Intervention Versus
狙撃生検には,最も精度の高い MRI
62%,insignificant cancer は 10%で,
Observation Trial)1)の結果として,前
ガイド下に直接行う方法や,MRI と経
陽性率は約 70%であった。また,grad-
立腺全摘除により生存率に差が認めら
直腸的前立腺超音波検査画像(M R -
ing accuracy および volume estimation
れたのは高リスク症例のみであることが
TRUS)フュージョンガイド下に行うな
accuracy は,両生検法にて同等であっ
報告されており,中・低リスク症例に対
どの方法があるが,臨床での実用性,簡
た。一方,significant cancer の検出能
して根治療法を行うと過剰治療となる
便性と狙撃効率のバランスに優れた MR-
は同等であったが,insignificant cancer
危 険 性 がある。この 結 果 を 踏 まえ,
TRUS フュージョンガイド下に行うのが
は MR-TRUS フュージョンガイド下狙撃
NCCN ガイドライン(Version 2 . 2014
最適と考え,当院でも 2012 年頃から日
生検の方が検出能が低く,治療が必要
2)
Prostate Cancer) では,グリソンスコ
立アロカメディカル社の“Real-time Vir-
な癌を効率良く検出できると思われた。
アやグレーディングなどを含めた詳細な
tual Sonography(RVS)
”システムを導
次に,至適サンプリング本数について,
リスク評価により治療法を選定すること
入して RVS ガイド下狙撃生検を開始し,
前述の検討と同様の癌検出率の群で見
が推奨されており,個別化医療へと治療
現在はこれを標準的に行っている。また,
ていくと,系統生検を 100%とした場合
の考え方がシフトしてきていると思われる。
狙撃生検の開始と同時期に Focal ther-
の MR-TRUS フュージョンガイド下狙撃
前立腺生検はイメージガイド下
生検へ
apy も開始した。
生検による significant cancer の検出率
は 3 本以上で系統生検と同等となった。
MR-TRUS フュージョンガイド下
狙撃生検の意義
また,grading accuracy は 4 本の方が
grading accuracy や容量評価,局在診
1.系統生検との比較検討
プリング本数は 4 本と考えている。
断 へと 変 化 し, 生 検 方 法 も S u p e r
当院にて MRI で病変が検出され,系
前立腺生検の目的は,存在診断から
良い結果が得られたことから,至適サン
2.前立腺生検における有用性
Extended biopsy から,最近では画像
統生検と狙撃生検の両方を同時に行っ
前立腺生検における MRI および MR-
を組み合わせた方法が模索されている。
た 216 症例を対象に検討を行った。検討
TRUS フュージョンガイド下狙撃生検の
項目は,①最も高いグリソンスコ
有用性については,われわれの検討結果
アを 持 つ 陽 性 コアの 同 定 率
と同様の報告が見られるほか,MRI 狙撃
(grading accuracy)
,②最も長
生検のみで十分との見解も報告されており,
い癌長を持つ陽性コアの同定率
index lesion の検出と適切なリスク評価
(volume estimation accuracy)
,
による個別化医療に有用と考えている。
③ significant cancer の検出率,
④ insignificant cancer の検出
図 1 MR-TRUS フュージョン画像
88 INNERVISION (30・8) 2015
Focal therapy へ
率で,1 . 5 T MRI にて癌の可能
1.Focal therapy 実施の背景
性 について 5 段 階 で 判 定 し,
前立腺癌においてはロボット支援手術
3(可能性は否定できない)以上
など低侵襲化が進んでいるが,臓器温
〈0913 - 8919 / 15 /¥300 / 論文 /JCOPY〉
第 103
第 102
回日本泌尿器科学会総会 ランチョンセミナー
回日本泌尿器科学会総会ランチョンセミナー17
4
性前立腺癌においては根治療法が最も
True Focal Tx
Quadrant Tx
Hemi-gland Tx
①生検およびMRIで片葉のみに癌の所見
② cT1 or cT2a
③ iPSA 20ng/mL or less
④ Gleason score 7 or less
⑤ 最大癌長 < 10 mm
有用であるが,排尿・性機能障害を伴
い過剰治療のリスクがある。また,待機
療法は治療関連合併症を回避できるが,
Hemigland Brachytherapy
過小治療のリスクがある。一方,この両
方の有用性を併せ持つ Focal therapy
Lesion-specific Focal Tx
Segmental Focal Tx
(部分治療)は,治療が必要な癌病巣の
Significant cancer
Therapeutic area
みを治療することで排尿・性機能の温
存が可能である。ただし,病巣あるいは
領域ごとに significant cancer の有無の
正確な評価が求められることから,多発
US
Report
前立腺部分治療適応基準
図 2 Focal therapy の標的部位設定
* TX:therapy
・125I,処方線量 160 Gy
・尿道を正中線とし,片葉に小線源を刺入
前立腺容量 > 40mm3
術前3~6か月 CAB 療法
図 3 前立腺片葉小線源療法の適応基準と
治療法
3.適格患者の同定
病巣や非可視病巣では Focal therapy
Focal therapy の適格患者の同定には
が困難とされてきた。
病巣分布の評価が重要であり,MRI を
しかし,多発病巣の中でも経過に影響
含めた局在診断が有用と思われるが,
を及ぼしたり致死的なものとなるのは最
MRI 非可視病巣もあるため,標準的な
大容量ボリュームの病変(index lesion)
系統生検と MRI を併用することで局在
であるとの報 告があり, 基 本 的には
診断が可能になると思われる。実際に,
PSA(ng/mL)
存という点では十分とは言えない。限局
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
・ 全例において治療後には有意にPSA低下
・ Phoenix 定義に基づく生化学的再発は,
全例において認めない。
・ 治療前 CAB 療法施行例において,全例
でテストステロン値の回復を確認している。
0
6
12
24
18
After ablation
(months)
30
36
index lesion をメインの治療ターゲット
当科の松岡らが,MRI ガイド下生検と
にすればよいという考え方が成り立つ。
多箇所系統生検の併用により 1 / 4 まで
また,非可視病巣については,当科の沼
治療領域を縮小可能であることを報告
尾らが,MRI ネガティブで PSA 10 ng/
しており 6),適格患者の同定が可能であ
出し,過剰診断のリスク軽減につながる。
mL 未満,直腸指診(DRE)ネガティブ
ると考えている。
MRI ガイド下生検と多箇所系統生検
図 4 前立腺片葉小線源療法後の PSA 値の
推移
という条件では,significant cancer が
4.治療法
により,Focal therapy に向けた局在診
検出される確率は 9 ∼ 13%であり,前立
わが国において現実的に応用可能な
断が可能となる。
腺容量が大きい場合にはさらに低頻度で
治療法として,われわれは小線源治療を
小線源部分治療の短期の局所制御,
あることを報告している 5)。
行っている。国際的なコンセンサスミー
排尿・性機能温存は良好であり,前立
腺癌部分治療法として期待される。
index lesion の評価には MRI ガイド
ティングにて, 小 線 源 治 療を用いた
下生検が有用であり,これにより Focal
Focal therapy の報告も出てきており,
therapy の適格患者を絞り込めると考え
ある程度の方向性も示されている。
ている。
当科では 2010 年から前立腺の片葉小
2.標的部位設定
線源治療を行ってきた。適応基準および
Focal therapy における標的部位の設
治療法を図 3 に示す。対象症例は,年齢
定方法には,True Focal therapy と言
の中央値が 71 歳,リスク分類は low が
われる病巣治療法(L e s i o n - s p e c i f i c
12 名,intermediate が 11 名の計 23 名で
Focal therapy)と,Quadrant therapy
ある。術後の PSA 値は全例で改善して
あるいは Hemi-gland therapy と言われ
おり,Phoenix 定義に基づく生化学的再
る区域治療法(Segment Focal thera-
発は全例において認めていない(図 4)。
py)がある(図 2)。病巣治療法は理想
排尿機能は術後早期に一過性の増悪が
的な方法ではあるが,実際には病巣のマー
あるが,1 年ほどで治療前のレベルに回復。
ジンやターゲットとなる病巣の特定が困
性機能も治療前後でほとんど変化は認め
難で非可視病巣は治療できず,過小治
ず,治療前に良好な機能を示す症例では,
療となるリスクがある。一方,区域治療
射精を含めた全性機能が温存された。
法は治療不要な領域の同定が必要であ
るが,治療区域設定は比較的容易で,
まとめ
非可視病巣もある程度治療対象とする
前立腺癌診断における有用性から,
ことができる。正常域が含まれるため過
イメージガイド下生検は前立腺生検効
●参考文献
1)Prostate Cancer Intervention Versus Observation Trial(PIVOT).
https://clinicaltrials.gov/ct2/showNCT00007644
2)NCCN Guidelines:前立腺癌(2014年 第 2 版).
日本泌尿器科学会 監訳 , 2014.
http://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/urological/japanese/prostate.pdf
3)Komai, Y., et al. : High diagnostic ability of
multiparametric magnetic resonance imaging
to detect anterior prostate cancer missed by
transrectal 12-core biopsy. J. Urol ., 190・3,
867 ∼ 873, 2013.
4)EAU Guidelines on Prostate Cancer.
http://uroweb.org/guideline/prostate-cancer/
5)Numao, N., et al. : Usefulness of prebiopsy
multiparametric magnetic resonance imaging
and clinical variables to reduce initial prostate
biopsy in men with suspected clinically localized prostate cancer. J. Urol ., 190, 502 ∼
508, 2013.
6)Matsuoka, Y., et al. : Candidate selection
for quadrant-based focal ablation through a
combination of diffusion-weighted magnetic
resonance imaging and prostate biopsy. BJU
Int ., 2014(Epub ahead of print).
剰治療のリスクはあるが,過小治療のリ
率の向上に寄与する。
齋藤 一隆 (Saito Kazutaka)
スクは低減することから,当院では区域
MR-TRUSフュージョンガイド下狙撃生
治療法を施行している。
検は,治療が必要な癌をより効率的に検
1994 年 東京医科歯科大学医学部卒業。2005 年 東京医
科歯科大学大学院修了。2011 年∼同大学医学部講師。
INNERVISION (30・8) 2015 89