「電気回路第三」講義資料 2015年度版 熊本大学工学部情報電気電子工学科 勝木 淳 14. 分布定数回路(6) 14.1 分布定数回路の過渡現象 14.2 無損失線路、無ひずみ線路における過渡現象 14.1 分布定数回路の過渡現象 これまでの内容: 定常状態 電源を正弦波交流 ejωt として連続 的に電力が供給される系 ⇒ 定常状態 半無限長線路 V ( x )e jωt = K1e −αx + j(ωt −βx ) + K 2 eαx + j(ωt + βx ) , V(x) I ( x )e jωt = (K1e −αx + j(ωt − βx ) − K 2 eαx + j(ωt + βx ) ) / Z0 V (s) v(s, t) x=s x 落雷、または落雷に伴うサージ現象など スイッチのON/OFF、パルス や 線路に電荷が局在する場合など ⇒ 過渡現象 分布定数回路では、現象(電圧、電流)は時間と位置の関数。 V(x, t ), I(x, t ) 分布定数回路の過渡現象: V0 (x), 初期値問題 → 初期値も位置の関数。 t=0 E(t ) S V(x , t ) V0 (x) x=0 x 反射 I 0 ( x) 【復習】 送電端より距離 x にある分布定数回路上の 任意の一点の電圧 v (x、t)、電流 i (x、t) は、 ∂v ∂i ∂i ∂v − = Ri + L , − = Gv + C ∂x ∂t ∂x ∂t 基礎方程式 分布定数回路の微小区間 または ∂2v ∂2v ∂v = LC 2 + (GL + RC ) + RGv 2 ∂x ∂t ∂t ∂ 2i ∂ 2i ∂i = LC 2 + (GL + RC ) + RGi 2 ∂x ∂t ∂t 伝搬方程式 で表される。 分布定数回路の電圧・電流 (1) 静止状態にある回路の過渡解析 「静止状態」とは t = 0 で電圧・電流分布が無い(v(x) = i(x) = 0)こと。 v(x、t)、 i(x、t) に対する s関数をV(x、s)、 I(x、s) として、基礎方程式 をラプラス変換すると、 ∂V ( x , s) − = ( R + sL)I ( x , s) ∂x ∂I ( x , s) − = (G + sC )V ( x , s) ∂x t=0 E(t ) S x=0 これらから、電圧のみ、電流のみの方程式を導き出すと、 s関数で表した伝搬方程式が得られる。 V(x , t ) x 2 ∂ 2V ( x , s) ∂ I ( x , s) 2 2 = γ ( s ) V ( x , s ), = γ ( s ) I ( x , s) 2 2 ∂x ∂x γ (s) = ( R + sL)(G + sC ) 伝搬方程式の一般解は、t 領域の場合と同様にして次のようになる。 V ( x , s ) = K 1 e −γ ( s ) x + K 2 e γ ( s ) x 1 I(x , s) = ( K 1 e −γ ( s ) x − K 2 e γ ( s ) x ) Z0 (s) R + sL ∵ Z0 (s) = G + sC K1、 K2 は境界条件から定まる。 A. 無限長線路の場合 無限長伝送線路では反射波が無いので第2項目を省略できる。 V (x , s) = K 1 e −γ ( s ) x K 1 −γ ( s ) x I(x , s) = e Z0 ( s ) t=0 E(t ) x=0 V(x , t ) x B. 有限長線路の場合 境界条件として、x = 0 においてV1(s)、I1(s) を与えて 伝搬方程式一般解の K1、K2 を求めると、 V ( x , s ) = K1e −γ ( s )x + K 2 eγ ( s )x 1 I(x , s) = (K1e −γ ( s )x − K 2 eγ ( s )x ) Z0 ( s ) 【問14.1】 右図の半無限長線路において、 次の境界条件が与えられた場合 の一般解を求めよ。 t=0 E(t ) x=0 V(x , t ) x (2) 電圧・電流の初期分布がある場合 初期分布がある場合は、解を直接求めるのは困難なので、重畳の理を 用いて次のようなステップで求める。 (ⅰ)静止状態にある回路に電源を印加した場合の解を求める。 (ⅱ)初期分布だけによる過渡解をもとめる。 t=0 E(t ) S V(x , t ) V0 (x) x=0 x 次では、無損失線路、無ひずみ線路の特殊な場合について解析する。 14.2 無損失線路、 無ひずみ線路 (1) 無損失線路 多くの場合、無損失(R = G = 0)と考えることができる。 無損失線路の基礎方程式および伝搬方程式は、 ∂v ∂i ∂i ∂v − =L , − =C ∂x ∂t ∂x ∂t ∂2v 1 ∂2v ∂ 2i 1 ∂ 2i 1 = 2 2 , = 2 2 ∵c = 電磁波の進む速さ 2 2 ∂x c ∂t ∂x c ∂t LC 無損失線路の基礎方程式 これに初期条件および境界条件を与え、解を求める。 A. 静止状態にある無損失線路の過渡現象解析 無損失線路における伝搬方程式のラプラス変換は、 2 2 2 2 ∂ V ⎛ s ⎞ ∂ I ⎛ s ⎞ = V , = ⎜ ⎟ I ⎜ ⎟ 2 2 ∂x ∂x ⎝ c ⎠ ⎝ c ⎠ 上式の一般解は次のように表される。 V = K1e sx /c + K 2 e − sx /c K1、K2 は境界条件から求まる。 (例) 右図のように、静止状態にある半無限 長線路において、t = 0 で x = 0 に v = P(t) なる電圧を与えた場合を考える。 初期条件 t < 0 において v = 0、 i = 0 (静止状態) 境界条件 (ⅰ) (ⅱ) 送端に任意電圧を与えた場合 前式を逆ラプラス変換して、 v(x,t) = L−1[V(x,s)] = L−1[L[P(t)]e−sx/c ] " $ P t − x /c (t > x /c) =# $% 0 (t < x /c) ( ) 公式: t 関数の時間推移 L[ f (t − a)] = e − sa F(s ) → 電磁波が正の向きのみに進む。波形は歪まない。 電流は、 ⎧ 1 v( x , t ) ⎪ P(t − x / c ) (t > x / c ) i( x , t ) = = ⎨ Z0 Z0 ⎪⎩ 0 (t < x / c ) t=0 E(t ) S x=0 V(x , t ) x B. 初期分布がある場合の一般解 無ひずみ線路および無損失線路に限っては一般的に解ける。 後の計算のために、次のような ξ と η を定義する。 x − ct = ξ , x + ct = η 電圧 v を ξ と η の関数とすると、v の導関数は次のように表される。 2 2 2 ∂2v ∂ v ∂ v ∂ v 2 2 2 = c − 2 c + c ∂t 2 ∂ξ 2 ∂ξ∂η ∂η 2 ∂2v ∂2v ∂2v ∂2v = 2 +2 + 2 2 ∂x ∂ξ ∂ξ∂η ∂η ∂2v 1 ∂2v = 2 2 2 ∂x c ∂t これらを無損失線路の伝搬方程式に代入して、次の2階偏微分方程式を得る。 ∂2v =0 ∂ξ∂η 【解説】 x − ct = ξ , x + ct = η dξ dη = −c , =c dt dt 電圧 v は ξ と η の2変数関数であるから、 ⎛ ∂ ∂v ∂v ∂ξ ∂v ∂η ∂v ∂v ∂ ⎞ = + = −c +c = c⎜⎜ − ⎟⎟ v ∂t ∂ξ ∂t ∂η ∂t ∂ξ ∂η ⎝ ∂η ∂ξ ⎠ ∂ 2 v ∂ ⎛ ∂v ⎞ 2 ⎛ ∂ ∂ ⎞⎛ ∂ ∂ ⎞ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟⎟ v = = c − − ⎜ ⎟ 2 ⎜ ⎟ ⎜ ∂t ∂t ⎝ ∂t ⎠ ⎝ ∂η ∂ξ ⎠⎝ ∂η ∂ξ ⎠ 2 2 ∂ v ∂ v ∂ v = c 2 2 − 2c 2 + c2 ∂ξ ∂ξ∂η ∂η 2 dξ dx dη dx 同様に、 であるから、 = =1 ∂2v ∂2v ∂2v ∂2v = 2 +2 + 2 2 ∂x ∂ξ ∂ξ∂η ∂η 前頁の2階偏微分方程式の一般解は独立した2つの関数の和として表される。 v(t ) = f (ξ ) + g(η ) = f (x − ct) + g(x + ct) x の正の向きに 速さ c で進む波 注)f、g は2回微分可能 x の負の向きに 速さ c で進む波 基礎方程式から、 di dv − =C = cC{− f ʹ′( x − ct ) + gʹ′( x + ct )} dx dt よって、電流の一般解は、 1 1 L ∴i = { f ( x − ct ) − g( x + ct )}, Z0 = = Z0 c ⋅C C C. t = 0 における電圧初期分布が与えられた場合 v0 = F(x) t = 0 において、線路上の電圧・電流が として与えられた場合、 1 1 v = {F( x − ct ) + F( x + ct )}, i = {F( x − ct ) − F( x + ct )} 2Z0 2 正の向きに進む波 負の向きに進む波 進行波 (2) 無ひずみ線路 半無限長線路の送端に電圧 v1(t) を加えて、ある離れた点で測った電圧が v2(t) であったとする。次の条件が満たされる線路を無ひずみ線路という。 v2 (t ) = Kv1 (t −τ ), K > 0, τ > 0 # 伝搬する波の波形が歪まない。ただし減衰してもよい。 # 減衰定数αが、周波数に無関係に一定である。 RC = LG 分布RGLC回路における無ひずみ条件は、 ○ × 伝搬方程式から、 ∂2v ∂2v ∂v = LC 2 + (GL + RC ) + RGv 2 ∂x ∂t ∂t 2 ⎧ ∂ 2 v R ∂v ⎛ R ⎞ ⎫ = LC ⎨ 2 + 2 + ⎜ ⎟ v⎬ L ∂t ⎝ L ⎠ ⎭ ⎩ ∂t RC = LG A. 静止状態にある場合の過渡解析 伝搬方程式をラプラス変換して、 2 2 2 ⎛ ⎞ ∂V 1 2 R ⎛ R ⎞ 1 ⎛ R ⎞ ⎜ ⎟ = 2 ⎜ s + 2s + ⎜ ⎟ ⎟V = 2 ⎜ s + ⎟ V 2 ∂x c ⎝ L ⎝ L ⎠ ⎠ c ⎝ L ⎠ t < 0 で静止状態であったとすると、 無損失線路の解 R ⎞ x R ⎞ x ⎛ ⎛ −⎜ s + ⎟ ⎜ s + ⎟ sx /c − sx /c L c ⎝ ⎠ + K e ⎝ L ⎠ c ∴ V = K e V = K e + K e 1 2 1 2 無損失線路と比べると、 減衰するのみで、伝搬する 波の形は変わらない。 e-(R/L)x が乗じられている以外同じ。 すなわち、解析方法も同様。 B. 初期分布のある場合 無損失線路と同じ扱い。 電圧・電流は、それぞれ v1 = f ( x − ct ) + g( x + ct ) ∴ v = e −( R /L )t { f ( x − ct ) + g( x + ct )} 1 −( R /L )t i= e { f ( x − ct ) + g( x + ct )} Z0 【問14.2】 無損失線路(R = G = 0)、Z1 = 0、Z2 = R、Vin は直流電源で、 t = 0 でスイッチ S を投入した場合の v、i を求めよ。 静止状態にある伝送路に電圧源を印加 【問14.3】 無ひずみ線路において、境界条件として、x = 0 で v = P(ct)、 i = Q(ct) なる条件が与えられたとき、任意の時刻における v 、 i を求めよ。
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