第三者意見 法政大学大学院 人間社会研究科 准教授 土肥 将敦 氏 一橋大学経済学部、一橋大学大学院商学研究科博士 後期課程を経て、2009 年に高崎経済大学地域政策学部 『 CSR 経営 准教授。2014 年より現職。商学博士。著書に −企業の社会的責任とステイクホルダー 』 ( 共著、中央 経済社) 、 『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』 などがある。 (共著、NTT 出版) 2020 年の東京オリンピック開催、2027 年のリニア新幹 ことを企図した当該サイトは、大変親しみやすく好感が持 線の開業などを控え 、安藤ハザマを含めた建設業界は大 てる。引き続き、多様な現場をインターン学生などと共に きな注目を集めている。国内外から大きな期待とともに レポートできれば、さらにその意義が深まると思われる。 CSR に関わる厳しい視線が向けられており、日本の建設 業界が進化するターニングポイントであるともいえる。 更なるCSR 経営の推進に向けた示唆 一方で、CSR 経営推進にあたって克服すべき課題も残 中期経営計画とCSR の関わりが明文化されたことを されているので 3 点指摘しておきたい。 評価 第一に、昨年度 CSR 経営の成果について具体的な目標 昨年度、筆者は 、同社が中期経営計画を遂行する中 設定や達成に向けた課題についても策定してほしいと指 で、CSR の観点がどのように組み込まれているのかにつ 摘した。これらに関しては、安全面や人材活用などの項目 いて具体的に提示してほしいと指摘した。2015 年 5 月に では整理が進みつつあるが 、全体としては着手すべき課 策 定・公 表された「中期 経 営 計 画( 2016.3 期∼ 2018.3 題が残されており、目標値の設定と定量的・定性的な評 期)」では 、 「 魅 力ある 企 業 グル ープ への 変 革」を 戦 略 価を通してCSR 経営を前進させていくことが期待される。 テーマとして、具体的に 4 つの中期ビジョンが掲げられ 第二に、中期経営計画の「持続的な成長に向けた取り と 「ゆとり」の実現に向 た。その中で、とくに2.「 やりがい」 組み」において、サプライチェーンにおける 「 CSR 調達」へ けた取り組みと、3. 社会との共存に向けた取り組み、にお の本格的な着手を期待したい。建設業に限らず「その施 いてCSR の観点が組み込まれている。具体的には 、労働 行がどのようなプロセスで行われたか」を明示すること 時間の短縮・休日取得の適正化や社会保険未加入問題 は 、CSR の根本的な課題である。現場レベル以外には見 の解決、重層下請構造の改善、女性・高齢者・外国人な えにくい内容を、一層 、各ステークホルダーにオープンに どの人材の多様化への推進が重点施策として明文化され してほしい。またサプライチェーン全体に対して、調達方 たことは大きな進展といえよう。 針やガイドラインの策定を行い 、グローバル化する業界 の範となってほしい。 人材活用への多様なアプローチに今後も期待 第三に、業務上発生したネガティブ情報の積極的な開 また今年度の特集では、 「人材をいかに惹き付け、育む 示を期待したい。業務上重大なコンフリクトが発生した場 か」 という命題を立て、同社が多様なアプローチでこの課 合には 、その経緯や見解をCSR 報告書で明快に説明する 題に重点的に取り組んでいることが理解できる。就職活 ことこそ、ステークホルダーに評価され、レピュテーショ 動の仕組みが変化し学生と企業の接点が模索される今こ ンリスクから企業を護る上で大切なものとなると筆者は確 そ、新しいスタイルでのインターンシップや出会いの場が 信する。これら諸課題への取り組みは大変な作業である 求められている。その意味では 、同社現場見学レポート が、従来の発想を超えるイノベーティブな取り組みによっ 「ゲンバる」はユニークな試みである。幅広いステークホ て 「魅力ある企業グループへの変革」が推進されていくこ ルダーに 「 分かりにくいゼネコンの仕事を理解してもらう」 とを願っている。 HAZAMA ANDO CORPORATION CSR Report 2015 31
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