記者の眼 ワクチンの大幅値上げでインフルエンザ大流行? 2015/8/24 三和 護=日経メディカル 今冬のインフルエンザは大流行となるかもしれない。原因は、インフルエンザワクチン 料金の値上げだ。厚生労働省は、ワクチンに盛り込む抗原量を増やして、計4種類のイン フルエンザウイルスに対応できるようにした。だが、抗原が1種類増えたことで製造に必要 なコストがかさみ、それが接種料金に跳ね返りそうな気配なのだ。値上げ幅によっては、接 種率の大幅な低下につながる可能性がある。 開業医らを中心とするあるメーリングリストでは、ワクチンの卸から昨年の1.5倍の卸値を 提示されたという投稿が議論を呼んでいる。「50%アップというのはあまりにも大幅で納得 できない」との声がほとんどだ。別のネット掲示板では、1.5倍をそのままワクチン接種料金 に反映させた場合、最大で1回の接種当たり500円ほどの値上げになるかもしれないという 指摘もある。「値上げで接種する人が減ってしまうのが心配」との声も。 日経メディカル Onlineの調査では、インターネット上に公開されている医療機関のホーム ページを基に2014/15シーズンのインフルエンザワクチンの料金をピックアップしたところ、 中学3年生までの1回目は平均2753円、2回目は平均2212円だった(関連記事)。単純に 500円が上乗せされた場合、2回接種が基本となる子どもたちでは、5000円から6000円へ 20%増となってしまう。 公費助成と接種率、さらには罹患率について検討した結果がある。第16回日本ワクチン 学会(2012年11月開催)でJA北海道厚生連網走厚生病院の研究チームが発表したもの だ。道内のインフルエンザワクチンの公費助成がある自治体とない自治体において、小中 学校在籍児童・生徒を対象に、あるシーズンにおけるワクチン接種率、インフルエンザ罹 患率などを調べたものだ。対象は3972人で、公費助成のないA市が3035人、公費助成の あるB町が937人だった。 調査の結果、ワクチン接種率は、A市が45%に対して、公費助成のあるB町が68.4%と高 率だった。インフルエンザの罹患率は、A市が26.2%、B町が9.1%で、B町で低くなってい た。また、学級閉鎖の状況は、A市の小学校で閉鎖回数が43回、閉鎖合計日数が157日 間、中学校で7回、23日間だった。これに対し、B町では小学校が5回、25日間、中学校が3 回、17日間で、閉鎖回数と閉鎖日数ともに公費助成のあるB町で少なかった。 つまり、公費助成がある自治体では高いワクチン接種率を実現できており、それがインフ ルエンザ罹患率の低下や学級閉鎖の減少につながっていたのだ(関連記事)。 この研究は、接種率が低いと罹患率が高いことを示している。また、自己負担が大きいこ とが接種率の足かせになっていることも教えている。「今回の値上げ分も公費で賄えばい いではないか」。そんな意見も出てきそうだが、財政に余裕のある自治体はそうそうあるも のではない。 そもそもインフルエンザワクチン接種は、自費診療となる。そのため料金設定は、各医療 機関に任されている。ところが納入されるワクチンの値段は「ほぼ公定価格」(都内のある 開業医)であり、卸との交渉にも限界がある。結局のところ、ワクチン卸値の大幅アップは 料金値上げに直結し、それが接種率の低下を招く結果、罹患率の上昇につながるという懸 念は深まるばかりだ。 「昨年のように、流行株とワクチン株がずれていたらインフルエンザワクチンを打っても意 味はない」。こんな声が聞こえてくる中での値上げは、ワクチン離れを加速させかねない。 ワクチンで予防ができれば、それだけ医療費の削減につながるのだから、例えば、いっそ のこと基礎的医療の部分は特定療養費として保険給付するという「英断」があっていいもい いのではないか。 「記者の眼」の記事は、Facebook上のNMOのページにも全文を掲載しています。記 事をお読みになっての感想やご意見などは、ぜひFacebookにお寄せください。いた だいたコメントには、できる範囲で、執筆した記者本人が回答させていただきます。 © 2006-2015 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.
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