巻頭言 - 全国老人保健施設協会

巻 頭 言
老人保健施設は
老人ホームではない
全老健常務理事、介護老人保健施設竜間之郷施設長
大河内二郎
これまで国や地方自治体が用いてきた地域包括
ケアシステムの説明の図では、老健施設は、特養
の下に並んで置かれていた。そこには「老人ホー
ム」のひとつが老健施設で、少し医療やリハビリ
が加わっただけという認識があったのかもしれな
い。しかし「医療」や「リハビリ」はいずれも地
域包括ケアのハブとして必要な道具である。そし
て、老健施設は、他の介護保険施設とは最も異な
る特徴を持っている。それは「終生入所施設では
ない」ということである。すなわち、老人保健施
設は老人ホームではない。
事実、さまざまな調査で明らかなように、高齢
者の多くは「自宅」での生活を望んでいる。そし
て、それを可能にする介護保険施設は老健施設し
かない。在宅機能をいかに活用するか、という課
題こそ老健施設のマネジメントである。そのため
の道具として「リハビリ」と「医療」
、
「在宅支
援」
、
「看取り」などがある。
さて、介護報酬改定が決定し、全体ではマイナ
ス2.27%となった。これまでで最大のマイナス改
定ではなかったものの、それでも大きなマイナス
幅である。全老健執行部の努力の甲斐もあり、他
の施設類型に比較すればマイナス幅はやや小さ
かった。
今回の改定では、在宅復帰をめざす老健施設の
機能が評価された。在宅強化型と通常型の報酬の
差は広がった。また通所リハビリが大きく見直さ
れた。特に「リハビリテーションマネジメント加
算Ⅱ」の導入は、
「強化型デイケア」の導入と考
える。しかしその算定要件は複雑であり、今後の
運用には課題が多いだろう。
現在、全老健事務局では平成27 年度の厚生労
働省の公募事業である健康増進等事業の応募書類
を作成している。この要綱を見ると、将来の介護
保険の課題が浮かび上がってくる。老健施設に直
接関係がある事業は 2 件。ひとつは、
「老人保健
施設におけるリハビリテーション」
、もうひとつ
は「老人保健施設における薬物治療のあり方」で
ある。この 2 つのテーマの要綱を読めば、厚生労
働省が老健施設に期待している役割は明確である。
すなわち在宅復帰に結びつくようなリハビリ機能
と医療機能である。
リハビリ機能は、例えば認知症短期集中リハビ
リが、どの程度在宅復帰に結びつくかという視点
が求められている。単独施設の調査では、認知症
短期集中リハビリの提供により、平均在所日数が
短縮したという報告もある。すなわち単に理学療
法士や作業療法士を配置して、決まった時間リハ
ビリを提供していればいいというものではない。
また、薬物治療のテーマは、単に老健施設にお
ける薬剤費用の問題ではない。複数科にまたがっ
て受診している地域の高齢者の処方内容を、老健
施設入所中に老年医学的観点から整理する専門性
が求められている。平成25 年度に全老健が行っ
た調査では、入所時に薬の内容を「ほぼ必ず見直
す」医師は48.7%、
「症状によっては見直す」医
師も同じく48.7%あり、すでに多くの施設におい
てこの機能が発揮できていると考えられるが、今
後期待されるのは、見直した処方内容をかかりつ
け医にフィードバックする機能であろう。
今回の介護報酬改定は、在宅復帰や通所リハビ
リの強化を評価した。つまりリハビリ機能の強化
である。老健施設は老人ホームではないことは明
確である。おそらく次の診療報酬と介護報酬の同
時改定では、老健施設の医療機能の大幅な見直し
がなされるのではないだろうか。
3 年後の改定に向けた準備は、すでに始まって
いる。
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