在庫管理:スウェーデンの 小売店の食品廃棄問題に 取り組む

在庫管理:スウェーデンの 小売店の食品廃棄問題に
取り組む
著者
ジャーナリスト( EY英国 )
Christopher Downer
和訳監修
EYアドバイザリー株式会社 シニアパートナー 羽柴 崇典
ストックホルムのEYアドバイザリーチームは先頃、
スウェーデンの小売企業との18カ月に及ぶ
プロジェクトを完了しました。
担当したEYのPer Skallefell、Erik Edvardsson、Hanna Löfgrenに、
食品廃棄を減らし、効率性を追求していく中で、
どのように業務ルーチンを変え、商品陳列を見直し、
クライアントの自信を取り戻させたのかを聞きました。
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Volume 7 │ Issue 3
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Taking stock: targeting food waste at a Swedish retailer
単にコストが削減されただ
けでなく、売上と顧客満足
度も上昇しつつあります。
売上の悪い商品は、ただ棚
から取り除かれるのではな
く、別の商品と置き換えら
れました。
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013年初頭、EYは長年のクライア
組むために、EYアドバイザリーチームとクライ
みに関与することはEYにとっても有意義な経験
Edvardssonは述べています。そして、アドバイ
いないことでした。クライアントの発注スケジュ
アントは、自社が問題に直面していることを理解
ントであるスウェーデンの小売企
アントはプロジェクトの初期段階から密接に連
でした。社会や環境に対する責任を意識する企
ザリーチームはクライアントにおける食品廃棄問
ールは、売上分布の実態にあわせた調整がされ
していましたが、ここ10 年あまりの間に多くの
業から、食品廃棄を減らす手伝い
携しました。この案件はクライアントにとって大
業が増えるにつれて、この種のプロジェクトは増
題について調査を開始しました。
をしてほしいと依頼されました。
きな成功をおさめ、18カ月間のプロジェクトが
えていくだろうとEdvardssonは見ています。
この小売企業は、食品廃棄の削減
終了した今も、食品廃棄の量は減りつづけてい
が業績改善の鍵を握っていると考
ます。
廃棄される商品
ていませんでした。例えば、顧客は週末に備えて
改善施策が実施されていたため、社内には疲弊
同社のバリューチェーンのあちこちで、食 品
食品を買いだめようとするため、
食料品店の売上
感が漂っていました。
廃棄とシュリンケージ
(理由を特定できない在庫
は週末にかけて急上昇し、週が明けると低下する
社内の消極的な態度を一掃するために、アド
減耗)の問題が生じているのが明らかになるま
傾向があります。それにもかかわらず、クライア
バイザリーチームとクライアントは二つの「即効
えていました。スウェーデンの EYアドバイザリ
プロジェクトを担 当した EY マネージャーの
クライアントはスウェーデン全土に 300 を超
で、
そう時間はかかりませんでした。
プロジェクト
ントは硬直的なスケジュールで商品を仕入れて
策」を実施することを決めました。これらの施策
ーチームは、小売業や効率化に関する経験を豊
Erik
Edvardssonは、「EYは、さまざまな業
える店舗を持つ、屈指の大手食品小売企業であ
に参加した EYシニアコンサルタントの Hanna
いました。例えば、仕入商品のほとんどは売上が
は、
「商品配送の管理」と「発注業務ルーチン」
富に有していただけでなく、店舗運営、サプライ
績 改善プ ロジェクトを実 施していますが 食 品
り、EYは長年に渡り、同社にさまざまなサービス
Löfgrenは、「食品廃棄は、究極的は効率性を
減る月曜日に配送されることになっていたため、
という二つの課 題 領域に照準を 合わせたもの
チェーンの分野でも強みを持っていたため、この
廃棄に取り組むことはいつもとは違う経験であ
を提供してきました。
「莫大なコストとなってい
示すものでした。計画・仕入から販 売・処分に
多くの商品が賞味期限を過ぎても売れ残り、大
で、短期間で具体的な変化を起こすことを目的
取組みを支援するにふさわしい立場にありまし
り、未 来に貢献するものでした」と述べていま
るのが、食品廃棄とそれに関連する課題である
至るバリューチェーンで発生したムダは、何かし
量の廃棄が生じていました。
としていました。
た。正しいツールを選択し、適切な課題に取り
す。利益改善だけでなく、環境に貢献する取り組
ことに、我々とクライアントは気づきました。」と
らの廃棄という形であらわれるからです。」と述
べています。
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即効策により自信を得る
プロジェクトチームは店舗に行き、配送シス
テムの厳 密な運 用や注 文プロセスの改善を支
食品廃棄 物とシュリンケージは、サプライヤ
今日の小売を取り巻く環境や小売企業が直面
援しました。その 結果、ごく短 期間のうちに具
ーから店舗フロアに至るまで、クライアントの
している問題の性質を考慮すると、プロジェクト
体的で有 効な改善 効果を得ることが できまし
ビジネス全体で発生していました。第一の問題
を成 功させるためにはボトムアップのアプロー
た。EYも広範なデータアナリティクスを実施し
は店舗への配送でした。「多くの店舗がロジス
チ、すなわち店舗を訪れ、店長やスタッフと直接
ましたが、クライアントとの協働作業が基 本方
ティクスの問題を抱えていました」と語るのは、
連携することが最善であるとアドバイザリーチー
針でした。また、アドバイザリーチームの作業の
エンゲージメントに参加したEYシニアマネージャ
ムとクライアントは感じていました。EYチームは
大部分は、店長・スタッフと話し合い、既存の発
ーのPer Skallefellです。
「これは、発注したもの
スウェーデン国内の約半数の店舗を訪れ、多くの
注ソフトウェアを効率よく利用することで、商品
と実際に店舗に配 送されるものに差 異が発 生
場合はスタッフと一緒に商品を並べながら、仕事
の需給曲線を理解するよう、支援を行うことに
しているために生じていました。これはシュリン
の話をしたり、改善可能な領域を提案したりしま
向けられました。その結果、店長たちは月曜入
ケージを引き起こすだけでなく、店舗運営の混
した。また、プロジェクトの初期段階では、店舗
荷を前提とした発注サイクルにこだわることで
乱にもつながりました」。店舗(スーパーやハイ
に早朝の「抜き打ち調査」を実施し、商品入荷時
はなく、より緻密なやり方で発注するようになり
パーマーケット)に配送される商品の膨大さを
のルールや管理手順を評価しました。
ました。
考えると、発注を細かくチェックすることは非
店舗のスタッフと面談し、彼らのためのワーク
常に困難でした。そこで各店舗の店長と話し合
ショップも開催しました。単に改革を導入するの
長期的なソリューションの構築 い、詳細分析を実施した結果、商品の入荷時と
ではなく、
「トレーナー養成」アプローチを採用
こうした二つの即効策は、ちょっとした行動の
エラー時の処理・プロセスを改善する必要があ
して、店長自身が問題を特定し、スタッフを訓練
変化がいかに多くの好ましい変革につながるか
ることが明らかになりました。
できるようにしました。
を、示すことになりました。しかし、廃棄の削減
第二の問題は、発注のスケジューリングや需
EYチームは、クライアントの信頼を獲得する
や利益率の改善を、長期的かつ安定的に実現す
要と供給のマッチングなど、適切に計画されて
ことが重要であるとも認識していました。クライ
るための抜本的な改善策も必要です。アドバイ
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Taking stock: targeting food waste at a Swedish retailer
ここには、小売業はもちろん、他セクターの
人々にも多くの教訓や示唆があります。
EYの支援でクライアントが構築したソリュー
ションとは、究極的にはサプライチェーンを
コントロールすることでした。
ザリーチームは即効策と並行して、クライアント
鮮食品等)を識別し、品揃え、フェーシング、最少
のオペレーション全体を対象に、
食品廃棄やシュ
発注単位、値下げタイミング等の視点から、廃棄ロ
リンケージの 状 況を把 握するための 大 規 模な
分析を実施しました。それから一年の間に、カテ
ゴリーマネジメント、仕入・調達、ロジスティクス、
インストア(店内)業務に焦点を合わせた6つの
改善施 策が順に確認・設計・導入されることに
なりました。
スの削減に向けた改善点を見出すことでした。後
半期間では、廃棄率を考慮した品揃え計画の立案
を行うための仕組みを構築しました。
4. スコアカード
これは店舗での食品廃棄の状況を把握するために
実施された実践的な取り組みです。各売り場には、
アイテムごとに「食品廃棄番号」が割り振られたス
コアカードが毎週配布され、廃棄関連コストを把
理論を実践する
即効策はプロジェクトの開始から二カ月以内
自身が現場の仕事を細部まで知っている必要が
あったことです」とLöfgrenは述べています。
に各店舗で実施され、その後は 2014 年末まで
しかし、この難題は最終的にはチームにとって、
の間、二、三カ月おきのペースで、店舗や本部機
重要な成功要因となりました。
「現場の人々には
能に関する施策が次々と発表・実施されました。
現場の言葉で語りかけるようにしました。彼らの
そのほか、食品廃棄に対するクライアント側の
管理することは、どの企業にとってもきわめて
そのため、チームはプロジェクトの初日から、導
仕事を本当の意味で理解できるよう努めました。
全般的な姿勢を変化させることも重要でした。
重要なのです」と Edvardssonは指摘します。
入を念頭においた準備が必要でした。
スーツ姿で店に行ったことはありませんし、店で
食品小売セクターでは、店長や地域統括マネー
企業が自社で扱う製品や商品の需給曲線を十分
アドバイザリーチームとクライアントは緊密に
は商品開梱を手伝いました。単に本部から派遣さ
ジャーの多くが、食品廃棄が低いということは、
に、あるいは正しく理解していなかったり、配送
連携しながら、食品廃棄を削減できる可能性が
れてくるようなタイプではないね、とほめられたも
売上に対するリスクと捉えており、在庫を潤沢に
インフラを適切に管理できていなかったりすれ
最も高い50 店舗を選定しました。そして選定さ
のです」とEdvardssonは述べています。
持つ店舗の方が、在庫の貧弱な店舗よりも、高い
ば、廃棄というムダは一層増えることでしょう。
食品廃棄削減に関するインストア業務
における6つの取り組み
握し、見える化によって、スタッフが問題の特定と
は、各部門で発生している廃棄量を部門長が把握
れた 50 の「問題」店舗のそれぞれについて、個
プロジェクトチームが進捗やパフォーマンスを
売上を上げるはずだ、と信じていました。これで
Edvardssonは次のように締めくくっていま
1. 商品受入(納品)プロセスの整備
する手助けになっただけでなく、各部門で廃棄削
別のアクションプランを策定しました。研修を中
こまめに記録にしたことも重要な成功要因でし
は、食品廃棄の発生は不可避です。
「クライアント
す。
「クライアントや消費者に対して、廃棄を抑制
心とした教育的アプローチが最も効果的である
た。Löfgrenは次のように説明します。
「進捗は
の店舗を分析した結果、高い食品廃棄はすなわ
した方法で迅速に商品を販売し、かつ、それに伴
と判断され、プロジェクトチームは、各店舗の店
詳細に追跡し、モニタリングしました。我々はす
ち機会損失が発生している、ということが明らか
う複雑さに対応できないのならば、そうした事業
いました。これは、発注量を減らすことで、見かけ
長が、新しい発注業務ルーチンを理解し、旧来
べての店舗、すべてのカテゴリーについて、どの
になりました」とSkallefellは述べています。実
は、今日はもちろん将来においても、大きな金銭
上の廃棄量を減らすのではなく(これは結果的には
のシステムの限界を理解できるよう、時間をか
分野に注力すべきかを理解していました。どの店
際、食品廃棄が発生しているということは、顧客
的代償を支払うことになるでしょう。」
けて個別に支援しました。多くの電話会議や研
舗がよい成績を上げていて、どの店舗は成績が
需要を的確に予測できていないことを示唆して
修だけでなく、2014 年下期には、問題店一店あ
悪いのかも分かっていたので、適切な場所に支
います。つまり、別の商品在庫が足りないか、需
たり3∼5回の個別訪問を実施しました。
援を行うことができましたし、他店舗の刺激にな
要がそれほどでもない商品に多くの棚スペースが
るような成功例も見つけることができました」
費やされているか、賞味期限が近づいている可能
これはクライアントの食品廃棄問題を解決するた
めに、最初に実施された取り組みです。当初は即効
策として導入されました。この目的は、店舗への配
送管理を強化することでした。このプロジェクトが
始まるまで、クライアントは配送される商品につい
て、正しい数量と適切な品質を確保することに苦労
していました。アドバイザリーチームは、クライアン
トを支援して、管理プロセスを整備し、不良品が届
いた場合のクレームや返品に関する一連の処理を
定めました。
2. 顧客需要に合わせた発注
二つ目の即効策も、長期的なソリューションの一部
に取り入れられました。この取り組みは、発注業務
一連の改善を行い、店長やスタッフが適切な数の
商品を、適 切 な 曜日に店 舗に配 送されるように
することです。これは、顧 客需 要にこたえ、期 限
までに食品を売り切って、廃棄を削減することが
目的です。また、長期的には店舗の自動発注シス
テムに適切な設 定を行うこと、スタッフが商品の
販売動向を明確に意識できるようにすること、に
注力していました。
改善を行えるよう工夫されています。スコアカード
減を競い合う動機づけにもなりました。スコアカー
ドは、売上に関する指標と廃棄(並びにその他コス
ト)に関する指標の両方を加味して調整がされて
売上の減少につながります)、本来の意味での食
品廃棄を減らす一助になりました。
5. 発注業務ルーチン
これは一連の発注業務を改善するための二番目の
取り組みですが、発注プロセスを簡素化・再 構築
し、販促キャンペーン関連発注も改善しました。そ
して、これら業務においても店長が常に食品廃棄
を考慮するようにしました。
6. 食品廃棄:測定、モニタリング、行動
最終ステップでは、食品廃棄を最小限に抑え、廃
棄のモニタリングを強化するために新しい棚卸プ
ロセスが導入されました。プロジェクトチームは、
業務ルーチンの改善、食品廃棄に関する報告の導
入、商品カテゴリーごとの廃棄目標設 定、につい
てクライアントを支援しました。
3. 品揃え分析
この分析の目的は、廃棄の多いカテゴリー(例:生
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この段 階では、即効 策の重 要 性 が更に明白
になっていました。
「当時は、会議の冒頭で必ず
このプロジェクトが成功したもう一つの重要
以 前 導入したソリューションの 成 果 が 発 表さ
な要因は、食品廃棄に関する報告と販売活動に
れました。これは大きな刺激になりました 」と
関する報告を統合したことです。
「この結果、ク
Edvardssonは述べています。
ライアント側に大局的な視点が生まれ、プロジ
クライアントや消費者に対
性が高い(よって、顧客にとって魅力がない)、と
して、廃棄を抑制した方法
いうことを意味しています。
で迅速に商品を販売し、
細部を超えて
かつ、それに伴う複雑さに
対応できないのならば、
ェクトに対して好意的な感情が高まりました」
プロジェクトの細かい部分にも、成功につな
と Skallefell は述べています。単にコストが削
がった要因がありますが、ここには、小売業はも
この18カ月間のプロジェクトは、スウェーデン
減されただけでなく、売上と顧客満足度も改善
ちろん、他セクターの人々にも多くの教訓や示
全土の300を超える店舗で幅広い変革を実行す
しました。売上の悪い商品は、ただ棚から取り
唆があります。EYの支援でクライアントが構築
るというもので、この規模自体がすでに容易なも
除かれるのではなく、別の商品と置き換えられ
したソリューションとは、究極的にはサプライチ
ても、大きな金銭的代償を
のではありませんでした。ほかに、小売を取り巻く
ました。また、配送の最適化は廃棄物の削減の
ェーンをコントロールすることでした。「今日の
環境に特有の課題もありました。
「大きな課題の
みならず、欠品防止や食品鮮度の向上にも役立
顧客は、ほしい商品をすぐに手に入れたいと望
支払うことになるでしょう。
一つは、店長やスタッフを教育するためには、我々
っています。
んでいます。つまり、サプライチェーンを適切に
継続的に成功をおさめる
そうした事業は、
今日はもちろん将来におい
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