平成27年5月号 - 税理士法人今仲清事務所

平成27年5月号
自社株式の贈与税納税猶予活用法
平成27年1月1日から自社株式を後継者に贈与して贈与税の納税猶予の
適用を受ける時、先代経営者は代表権を返上すれば取締役として役員給
与を受取りながら後継者を後見することが可能になりました。順調に成長し
ている会社ほどその評価額は高くなっています。特に創業経営者は、従業
員を守るために自らの資財を会社経営につぎ込み、財産のほとんどが自社
株式であることも珍しくありません。複数の相続人がいる場合には、会社を
承継する事業承継相続人がその経営
権を引き継ぐために会社の議決権の3分
の2以上を保有し続ける必要があります。
他の相続人に渡せる遺留分に相当する
他の財産がないと、その自社株式の一部を
渡さざるを得ないということも起こりえます。
そこで、政府は「経営承継円滑化法」で
その問題を解決する道を開いています。
相続人が2人で、自社株式の評価額2億
円、その他の財産1億円、財産総額3億
円の例で考えてみましょう。
1.利益を出し続けている会社は自社株式の贈与税の納税猶予が有利
長く利益を出し続け、健全に発展を続けている中小企業ほど株式の評価額は毎
年上昇を続けます。景気が悪化し、上場株式相場が下落すると類似業種比準価
額が下がるため、自社の株式評価額が下がることもありますが、長期的には上昇
します。後継者に経営を任せた後も順調に利益を出し続けた場合、株式等をその
まま持ち続けると将来の相続税が増え続けることになります。経営を任せた時点
で発行済議決権株式総数のうち後継者所有分と合わせて3分の2に達するまで
の株式を贈与して贈与税の納税猶予の適用を受けた場合、贈与者である先代経
営者が亡くなった時に相続税の課税対象となる株式の評価額は贈与時点の評価
額となります。
贈与時点の評価額が1億円で、先代経営者死亡時に評価額が3億円になって
いた場合、贈与税の納税猶予を受けていた場合には1億円に他の財産を加えて
相続税額が計算されますが、贈与しないで持ち続けていれば3億円に他の財産を
加えたもので相続税額が計算されます。
2.相続税額の試算をして納税猶予適用と対策を検討する
贈与税の納税猶予は、先代経営者が将来死亡したときに相続税の納税猶予を
受けることが前提です。自社株式を後継者に贈与するのか、贈与するとすれば納
税猶予を受けるのか等を検討するためには、自社株式の評価はもちろん、先代経
営者の他の資産の評価額も踏まえて相続税の試算をしなければ計画的で的確な
判断ができません。
自社株式の評価額が2億円、その他の財産が1億円、合計財産総額3億円(小
規模宅地等の減額特例や非課税規定を適用済みとします。)で、配偶者はおらず
経営後継者である長男(B)と他家に嫁いでいる長女(A)が相続人の場合で考えま
しょう。
図表 相続税の計算
配偶者はいないものとし、
相続人は長男・長女の2人
その他財産
財
自社株式
産
合 計
A
その他財産
相
その他財産
続
B
自社株式
財
計
産
合 計
A
総 額
相
納税猶予額
続 B
税
納付税額
額
合 計
納付合計
現 状
将 来
1億円
2億円
3億円
7,500万円
2,500万円
2億円
2億2,500万円
3億円
1,730万円
5,190万円
約3,937万円
約1,253万円
6,920万円
2,983万円
1億円
4億円
5億円
7,500万円
2,500万円
4億円
4億2,500万円
5億円
2,281万円
約1億2,929万円
約1億834万円
約2,095万円
1億5,210万円
約4,376万円
現状で先代経営者が死亡すると相続税の総額は6,920万円です。自社株式とそ
の他の財産2,500万円、合計2億2,500万円を長男が相続し、長女は7,500万円の
その他の財産を相続したとします。納付すべき相続税額は長男が5,190万円、長
女が1,730万円です。長男が自社株式の相続税の納税猶予の適用要件を満たし、
適用を受けると約3,937万円の納税の猶予を受けることができ、長男の納付税額
は約1,253万円となります。
自社株式を贈与しないで将来先代経営者が亡くなった時点の自社株式の相続
税評価額が4億円になっていた場合の相続税の総額は1億5,210万円になりま
す。納税猶予の適用を受けたとしても長男の相続税額は約2,095万円、長女は
2,281万円になり合計1,393万円増えることになります。
いずれの場合でも相続税の納税猶予の適用を受ければその他財産が金融資
産であれば納税に困ることはありません。不動産等であったとしても延納若しくは
長期借入金で納税し返済できるでしょう。
3.贈与税の納税猶予の適用を受けると贈与時点の評価額で固定
このように、将来にわたって利益を出し続けることが確実な会社の株式について
は、自社株式を比較的評価の低い時点で贈与し、贈与税の納税猶予の適用を受
けることで将来の相続税負担を軽減することができます。しかし、突発的な経済情
勢や天災、事故などで大幅な損失を計上して評価が下落することもないとは言え
ません。先代経営者の死亡時点の株式の評価額のほうが低くなっている場合もあ
り得ます。その場合には、相続税額がかえって高くなってしまいます。贈与税の納
税猶予の適用を受ける場合にはこの点に留意する必要があります。
4.遺留分減殺請求対策として自社株式を贈与して民法特例
この例の場合、自社株式が全体財産に占める割合が現状でも66%を超えてい
ます。生前贈与は特別受益として法定相続分計算上の相続財産となりますので、
遺留分は3億円×2分の1×2分の1で7,500万円になります。長女がその他財産
のうち7,500万円を相続すれば遺留分を確保することができます。しかし、将来先
代経営者が死亡した時点で自社株式の評価額が4億円になっていると、遺留分
は5億円×4分の1で1億2,500万円となり、追加して5,000万円を渡す必要が生じ
ます。
これには、先代経営者が元気なうちに、民法特例の除外合意をすることが有効
です。この制度は贈与した自社株式を遺留分算定基礎財産から除外するもので
す。事例の場合、除外合意をすることができれば、遺留分は自社株式の評価額を
除く1億円を基に遺留分を計算しますので、1億円×2分の1×2分の1=2,500万
円となり、事前に7,500万円を長女に贈与している場合には争いになる恐れはあり
ません。
手続きはまず、自社株式の贈与をすると同時に長女に7,500万円を贈与し、「中
小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づいて「先代経営者を
被相続人とする相続に際し、その相続開始時の価額を遺留分算定のための財産
の価額に算入しない」旨の合意書を作成し、長男と長女が実印を押印し印鑑証明
書をつけます。その合意書作成から1ヶ月以内に、会社の定款や登記事項証明
書、従業員数証明書、貸借対照表・損益計算書その他必要な書類を添付して各
地域の経済産業局を通じて経済産業大臣の確認を受けます。確認されると確認
書が交付されますので、確認書及び確認証明書の交付を受けてから1ヶ月以内
に家庭裁判所に遺留分の算定に係る合意の許可を求めなければなりません。こ
れらの手続きはすべて後継者が行うことになります。
5.贈与税の納税猶予と民法特例を受ける前に周到な準備を
後継者に贈与した自社株式について、民法特例の除外合意を長女が受け入れ
てくれるかどうかが問題です。先代経営者は、会社の経営を安定して続け、従業
員とその家族の雇用を守り、得意先や仕入先ひいては最終需要者であるお客様
への社会的責任を果たすことが何よりも重要であることを長期にわたって子供た
ちに伝えておくことが重要です。その上で、後継者である長男が会社を安定して経
営していくために、会社の重要な決議である特別決議に必要な株式の3分の2の
株式を長男に先代経営者自らが元気なうちに渡す必要があることを了承してもら
わなければなりません。このように子供たちが小さい時から周到に準備することが
事業承継を成功させる秘訣といえます。
また、贈与時点の評価額がそのまま先代経営者が死亡したときに係る相続税の
評価額となるのですから、できるだけ評価額が低い時を選んで贈与する必要があ
ります。自社株式の評価を下げる方法には様々な方法がありますが、先代経営
者が代表権を返上する際に退職金の支給を受けると当期の利益が減少する上、
純資産も下がり株価は大きく下がりますのでこれも1つの機会です。役員退職金
が損金になるためには取締役に残ってもいいのですが、役員給与を半額以下に
し、重要な経営判断に関与してはなりません。あくまでも後見することに徹すること
が重要です。
6.1代目が健在でも2代目から3代目への自社株式贈与が可能に
改正前は、先代経営者が後継経営者に非上場株式等を贈与して贈与税の納税
猶予の適用を受けたのち、先代経営者が健在時点で後継経営者の次の後継経
営者に経営を引き継ぐ際にその株式等を贈与した場合には、最初の贈与税の猶
予税額の期限が確定し、猶予税額と利子税の納付が必要となりました。健康で高
齢化が進む中、現にこのような事例が出つつあるため、平成27年1月1日以後の
相続、遺贈又は贈与から、このような場合でも最初の贈与税の納税猶予税額を免
除しつつ、次の贈与税についてもその時点の評価額で計算した贈与税額が猶予
できることになりました。もちろんその時点で必要な要件をすべて満たす必要があ
ります。
7.非上場株式等の納税猶予手続きが都道府県で可能になる
非上場株式等の納税猶予制度の手続きは、全国9か所にある各地方の経済産
業局で行わなければならないこととされています。地方によってはかなり遠方にな
ることもあり、中小企業経営承継円滑化法の改正が予定されており、認定承継会
社等に係る認定事務を都道府県に移譲することとされています。
この制度の適用を受けるには、多くの適用要件を満たす必要がありますし、遺
留分の除外合意のような民法特例の適用の際には家庭裁判所の手続きも必要で
す。適用すべきかどうかの検討から適用要件の確保、的確な手続きの実施など、
経験のある税理士と共に手続きを進めることが重要です。事業承継対策で悩んで
いるとか、相談に乗ってほしいとかおっしゃっている周りの方がおられましたらご
遠慮なく当事務所にお声かけ下さい。
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