~事例検討~ H27年6月19日(金) こうなんクリニック 看護師 赤木 政美 事例報告の患者さま、ご家族、 担当ケアマネージャー、施設管理者の 承諾は得られていることを報告させて頂きます。 どんな問題点があったのか? どう解決すればよかったのか? ①看取りについての本人、家族の意向の確認と説明 ②家族への支援 ③訪問看護導入の時期 ④他職種と連携したケアの仕組みづくり 事例紹介 S氏 88歳 男性 疾患:狭心症 心臓バイパス術後 高血圧 家族背景 妻(サービス付き高齢者住宅に夫と同居) 子供:長男(既婚 別世帯東京在住 ) 長女(既婚 別世帯横浜在住 ) キーパーソン:長男 サービス内容:ディサービス2回/週 ケアマネジャー:外部 疾病の経過 平成24年9月24日 自宅にて不安定狭心症となりA病院へ救急 搬送。心臓バイパス手術目的にてB病院へ転院。9月28日手術 施行。術後循環状態安定するも嚥下困難あり、食事の経口摂取 が危ぶまれたが、なんとか自力摂取可能となり退院。平成25年7 月、サービス付き高齢者住宅へ夫婦で入居 入居中の経過 平成25年7月9日初診 平成26年2月4日、転倒、頭部打撲 2月下旬 下痢を繰り返す→失便 「体が弱っていくな」→精神的に自己喪失感 妻から 「夫は昔から心配なことがあると気分が落ち込み胃腸を 崩しやすくなる」 連日の看護師訪問に戸惑いを感じている 3・4月定期診察 去痰剤の調整程度で状態安定 入居中の経過 5月12日発熱37.9度 解熱剤内服、痰多く自己喀出するよう指導 定期内服薬→妻の管理 薬の飲み忘れ 重複していることが多くなる 1日3回→1日2回 かかりつけ薬局に相談 配薬カレンダー→手作り配薬BOX 薬袋の日付を大きくする 5月28日定期診察 栄養補助食品を開始 入居中の経過 6月~11月 貧血 低アルブミン 低ナトリウム 誤嚥性肺炎(不顕性誤嚥) 発熱繰り返す 解熱剤 抗生剤使用 その都度看護師状態確認 発熱の原因精査→誤嚥を疑い嚥下造影検査必要 入居中の経過 11月24日 今後の治療方針確認必要 妻に説明、長女に連絡することを拒否 「必要だと思えば自分たちで連絡する 騒ぎたててほしくない」 頻回の訪問→主人が病人になる 険しい表情で訪問拒否 報告受け訪問する際→事前に妻に訪問許可 S氏に対する言動注意 入居中の経過 12月9日 担当ケアマネジャーへ連絡 S氏の状態、妻の件説明 肺炎予防→訪問歯科介入を依頼 担当ケアマネジャーに現状説明→長女に連絡可能 訪問歯科、訪問看護の導入検討 長女へ連絡 S氏の状態説明、発熱精査のため急性期病院受診を行 うかどうか? 兄弟で相談→返事待ち 入居中の経過 妻 S氏に対し寝てばかりいること 自分で身の回りのことが出来なくなっていること ↓ 苛立ち 暴言 叩く 介護職員からの情報 トイレに行くことができていない 失禁の状態 妻に怒られ自分でパット交換 入浴もできていない 入居中の経過 H27年1月20日 C病院 摂食嚥下検査 胸部腹部CT画像検査実施 結果 長男へ説明 誤嚥認めトロミ ミキサー食が望ましい 食事形態変更必要 とろみ剤サンプル依頼、サ高住での介護食 ソフト食検 討依頼 コスト含め長男に確認 トロミ剤使用→妻に負担 パン粥など食事形態の変更至らず 入居中の経過 経口摂取できていない衰弱 ↓ 輸液施行 診察医から担当医へ報告 長男へ直ちに電話連絡 息子)入院した方がいいのか? 主治医)治療すべき病気があれば入院することも可能だ が、老衰で改善する見込みがなければ、入院は難しいと 考える。 息子)当面は点滴でお願いします。 特別訪問看護指示書 特別訪問看護師指示書発行 看護師による状態確認と輸液目的で訪問開始 特別訪問看護師指示書とは、 急性期増悪、終末期、退院直後 主治医が週4回以上の頻回の訪問看護を一時的に行う必要があ ると認めた場合、患者の同意を得て発行する指示書 指示を発行した診察日から14日以内に限り行う 指示は月1回しか 認められない 「気管カニューレを使用している状態にある者」「真皮を越える褥瘡 の状態にある者」については、月2回交付可能 入居中の経過 2月4日~特別訪問看護指示期間とし状態観察 輸液(500~750ml)施行 保険上指示期間超えた日→週3回 医師の診察で輸液 診察日以外、算定不可能な日→看護師が状態観察 輸液実施 食事→本人がほしいものを少しずつ摂取 長女、長男が交代で付き添い 医師と直接会い面談もおこなう 主治医)入院で中心静脈栄養や経鼻チューブからの栄養、胃瘻も 考慮されるが実質として、これまで行ったCTや血液検査、心電図 での急性の疾患はなく老衰に近い状態と思われる。 長男)点滴は希望するが、それ以外の処置等希望しない 入居中の経過 長男 「点滴だけでいいと思っていたが、まだ会話も出来る、胃 瘻の話しもでたので、胃瘻から栄養をとれれば少しは元 気になるではないかと思っている」 と看護師に話しする。 ↓ 胃瘻 「本人が食べたくないと、と言ってるところに無理やり栄養 をいれることはしない。 苦痛が取れるようにお願いしたい。」 入居中の経過 看護師 訪問する中で死の受け入れ準備 予測される身体機能の変化を妻に説明 これまで夫婦で歩んできた思い出話し S氏がS氏らしく、そして妻の不安を軽減できるよう努める S氏 「ありがとう」 「入院よりここがええ、お母さんがよくしてくれている」 入居中の経過 3月4日診察時、発熱41.0度 酸素飽和濃度80%台、 膿性鼻汁鼻閉 痰自己喀出不可 吸痰要し吸引器設置 頻回な吸痰が必要 担当ケアマネージャーへ医療面の援助介入必要性説明 訪問看護導入依頼 3月5日 訪問看護導入 1日1回訪問予定 状態観察 輸液施行のため訪問 S氏から吸痰拒否、呼吸苦出現 感染?水分過多徴候? 気道分泌の状態を評価し輸液量を主治医と検討 入居中の経過 3月11日 輸液減量 長男へ電話連絡 主治医)必要最小限の点滴は続けている。尿量減少 今後、状態に合わせ輸液量調整 疼痛緩和のため座薬を1日2回使用する 入居中の経過 3月12日 尿量減少のため輸液中止 3月13日 長男 妻、介護職員へ今後の起こりうる状態に ついて説明 3月14日 翌朝 介護職員が訪問の際呼吸停止認める。 当院へ連絡あり 妻 長男に見守られ最期を迎える 8:44 死亡確認 事例を通してのまとめ ①看取りについての本人、家族の意向の確認と説明 本人が終末期をどこで,どのように,誰と過ごしたいのか ,延命医療を望むのか望まないのか 意思に基づき終末期ケアは提供されるべきである 事前に本人の意向を確認していることは少ない。 今回のように本人の意思というより家族の意向に沿うこと になった。 ②家族への支援 予測される身体機能の変化,死にいたる経過を説明, 変化に動揺せず,静かに見守ることができるよう準備 死の準備教育が必要 死別前後も家族の悲嘆を軽減するグリーフケアが重要 身体機能の変化を妻、家族に説明、何かあれば連絡可 能であることを説明、不安の軽減に努めることができた。 妻の訪問診療が継続しており以後グリーフケアの対応を 行っている。 ③訪問看護導入の時期 ④他職種と連携したケアの仕 組みづくり 早い段階から訪問看護を導入 関わり開始が看取り準備期間途中からと短く、関係作り や本人・病状理解を深めることが難しかった ケアマネージャーとの連携不足 少子高齢化社会から“多死社会”へ 自宅や介護施設で、どのように看取りをサポートしてい くか考える必要がある 「自宅での看取り」という選択肢 →医療従事者が伝えることも必要 「治療し続けた結果、死を迎える医療」 →「老いや死をしっかりと見据え、最期ま でどうよりよく生きるかを考えていく医療」 ご清聴ありがとうございました。
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