SANNOエグゼクティブマガジンVOL42 [外部サイト]

February 2015
Vol.42
今、評価制度の見直しをするにあたって
~現場目線を持った能力評価設計と運用を目指して~
(学)産業能率大学 経営管理研究所 主幹研究員
中村 克之
 能力評価制度において直面する問題点
 能力評価を人材育成に役立てるために
新入社員育成の鍵は、「未来」への志向と執着心
(学)産業能率大学 経営管理研究所 研究員
金田 良子
 新入社員育成における現場の悩み
 教える側にある隠れた前提
 新入社員育成へのあり方
“社長の座右の銘”とその理由
“上野陽一語録”
© 2015 SANNO Institute of Management
今、評価制度の見直しをするにあたって
~現場目線を持った能力評価設計と運用を目指して~
(学)産業能率大学
経営管理研究所
主幹研究員
中村 克之
Nakamura Katsuyuki
さまざまな業種の人事制度コンサルティングに従事
(プロフィール: http://www.hj.sanno.ac.jp/cp/page/3189/)
1.能力評価制度において
直面する問題点
がら現実の運用場面で壁にぶつかっている
ケースも多いと思われます。
皆さんもご存知のとおり、人事制度におい
能力評価を運用するにあたって、さまざま
て社員の取り組み姿勢や能力の発揮度合いを
な企業で聞かれる問題意識には以下のものが
評価する仕組みが能力評価やコンピテンシー
あげられます。
評価といわれるものです。しかし、過去、何
(1)評価制度を変えても
度となく評価項目を見直しても、結局、寛大
寛大化傾向は変わらない
化傾向が変わらないとか、人材育成の道具に
ほとんどの社員が5段階評価で4以上とい
使えていないという声が見受けられます。高
う問題を解消するために評価制度を見直した
い成果を出す社員の行動特性をコンピテン
のだが、結局、甘い評価がまかり通る状況が
シーとして抽出し、人材育成に役立てようと
変わらない。人を育てるために評価制度があ
する取り組みは理解できますが、その理念だ
るとの認識が薄い。
けが先走り、「戦略的思考」や「ミッション
(2)上司のコメント力不足
のブレークダウン」といった難しい言葉が使
期末評価における上司コメントの内容にバ
われていて現場に浸透していない等、残念な
ラツキがある。部下の成長に向けた課題を的
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確に指摘している上司もいるが、おざなりのコ
メントしかできない上司もいる。会社全体とし
2.能力評価を人材育成に
役立てるために
てコメントのバラツキ是正にも取り組んでいな
世の中は運用の時代です。どのような制度に
い。
変えたとしても肝心なのは評価者と被評価者が
(3)期末評価段階でしか
能力評価項目を見ることがない
PDCAの流れの中でどのようなやり取りを行
期初段階で部下の成長課題を能力評価項目の
い、何を振り返り、何を伝えていくのかが理解
中から具体的に指摘して共有することが大切だ
されていなければなりません。そのための鍵と
が、実際の運用では単なる期末のやっつけ仕事
して以下の点が挙げられます。
になっている。
(1)評価項目にモレ、ダブリがないか
読者の皆さんの会社では、仕事の事実をカ
(4)思いつきで作った能力評価項目
能力評価項目の見直しにあたって、人事ス
バーする評価項目になっているのか、評価項目
タッフが思いついた言葉を羅列して作っただけ
間で重複がないかという点で問題はないでしょ
で評価項目にモレやダブリが多く、実際の仕事
うか。評価項目の検討にあたっては仕事の管理
の事実を評価に反映できない。また、評価項目
と人の管理の枠組で考えることが基本です。仕
が難しくて意味がよく分からない。現場の目線
事の管理とは組織目標を見据えて適切に業務遂
で作られていない。
行を行ったり、さまざまな問題解決を図ってい
図:能力評価項目選定の流れ
組織貢献の2側面
評価項目への落とし込み(例)
人 の 管 理
仕事の管理
視野の広さ、本質課題の見極め、課題の具体化、
革新へのチャレンジ、完遂力等
人の管理
対人影響、指導・支援、対人理解、チームワーク、
仕事の管理
的確な評価、自らの能力開発等
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くことであり、人の管理とは部下や後輩を計画
ができているのか、上司が適切なコメントをし
的に育成したり、より良い職場づくりを行って
ているのかどうかをチェックし、これぞ育成に
いくことです。この両面で業務遂行や問題解
鑑みた上司コメントの好事例だというものを全
決、部下指導やチームワーク向上といった筋道
社的に共有する。できていない上司にはコメン
立てた評価項目に落とし込みます。
トのあり方を指導する。能力評価の運用ポイン
(2)評価の着眼点は
トはこの点にあるのです。■
一般社員が理解できる内容か
当然のことですが上司や部下が理解できるよ
うな言葉を使わないと評価制度は生きません。
人事や企画の社員が自分たちの思いだけで「格
好いい」言葉を評価項目に入れ込む事例を見受
けることが多いのですが、実際に評価のやり取
りを行う上司と部下は本当に評価項目の意味合
いを分かっているのでしょうか。
コンピテンシーという英語で語る必要もあり
ません。「積極性」や「協調性」という言葉で
部下を評価、判断している現場も多いのです。
まずは現場の社員が理解できる言葉でスタート
することをお勧めします。上司と部下のコミュ
ニケーションがしやすい言葉で能力評価の運用
を行いたいものです。
(3)評価のフィードバックは
適切に実施できているのか
評価制度の重要な目的は人材育成にありま
す。能力評価の運用を通じて部下の成長課題の
把握と本人との共有化、上司のサポート方法の
提示と実践がなければ評価制度は生きません。
部下自身が仕事ぶりを振り返り、何が教訓とし
て残ったのかを押さえたうえで、その教訓を次
期にどう生かすのかをしっかり考えさせること
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新入社員育成の鍵は、「未来」への志向と執着心
学校法人産業能率大学
経営管理研究所
研究員
金田 良子
Kaneda Yoshiko
コミュニケーション研修、プレゼンテーション研修、新入社員研修等を実施。
(プロフィール: http://www.hj.sanno.ac.jp/cp/page/3163/)
1.新入社員育成における
現場の悩み
例えば「年齢的に合う人が居ない」という言
「最近の新入社員を指導するのは難しい」と
葉、その裏には「新人育成は年齢的に近い人が
のご相談をいただくことが増えてきました。こ
担うほうが良い」という前提があります。年齢
のときあげられる理由は以下のとおりです。
が近いとなぜ良いのか更に深めていくと、「話
・ 職場で年齢的に合う人材が居ない
が合いやすい」「気持ちが理解しやすい」等々
・ 新入社員の、仕事に対する意識が変わって
があがります。確かに、年齢の近さは「話しや
きている
・ 忙しい中で、人を教えている時間的余裕
すさ」を感じるためメリットはあります。しか
し逆に、過度に馴れ合いになり伝えるべきこと
がない、等々
が伝えられなかったり、ちょっとしたズレを調
どのようにしたら育成がスムースに行くので
整することをあきらめたりするリスクもあるは
しょうか。
2.教える側にある隠れた前提
方法論に触れる前に考えてみたいことがあり
ます。
新入社員育成を悩ましいものにしている原因
ずです。これは他の理由でも同じです。
そして、これらの表面的な理由の背景をさら
に突き詰めていくと、新入社員育成は既存の考
え方・やり方を「教えこむ」ものという認識に
あるように思えます。
のひとつに、私たちが問題として認識していな
まずは、教える側としてどのような隠れた前提があ
い、教える側にある隠れた前提の存在がありま
るか、そこに向き合っていただいたうえで、育成方法
す。
を考えていただくと良いでしょう。
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3.新入社員育成へのあり方
ではあらためて新入社員への育成を効果的に
行うためのポイントを整理してみましょう。
来志向」を上げましたが、実際に教える際には、
新入社員の個性をしっかりと捉えることが大切
です。
仕事に対する意欲(やる気と自信)はどの程
① 未来志向で考える
教える側(個人・組織)が、まずは「今」では
度なのか、ものごとの捉え方、何を大切に思っ
ているのか、等をしっかりと把握します。
なく「未来」を考えるようにすることです。一
育成に際しては、これまでの当人のものの見
口に「未来」と表現しましたが、「組織使命の
方・考え方の塗り替えが必要となることも多々
継続的実現」、「教える側のキャリア」、そし
あります。塗り替えを行うときに鍵となること
て「教わる新入社員の将来」という3つの観点
は、本人が「変わること」を受け入れることで
で考えると良いでしょう。
す。また、変えるべきポイントやそのための順
未来を考えると必然的に、経営理念や方針・
序は、個々人で異なります。つまり、変わるこ
戦略と整合をとる必要性は明らかです。育成に
とは本人の内面に発生することであり、個体差
伴い発生する問題・課題も「対応力アップのた
があり、スムースに実現するためには教わる側
めのチャンス」と捉えることができますし、育
に合わせることが不可欠であるということです。
成はある程度長い目で捉え、計画的に行わなけ
学校という世界の中では年長者だった新入社
ればならないことが分かります。
員は、「ビジネスでは新人」と頭では分かって
教えるべきことは単なる「知識・スキル」の
いても、自尊心もあります。その一方で、自分
みならず「仕事に向かう意識」や「ものごとを
がうまくやっていけるか不安も多かれ少なかれ
考える力」、「他者との協働のあり方」もある
抱えています。そして何より、これまでの教育
ことが分かります。また、育成担当に丸投げす
から「自分を大切にする」ことも重視していま
るのではなく、評価制度などの各種制度との連
す。このような複雑な心理状態の中で、一方的
動や組織的なフォローが必要であることも分か
な押しつけや、自分の気になることが解消され
ります。そしてより良い未来を実現するために
ないと、他責のマインドが醸成される危険があ
は、育成にかかわるすべての存在が「主体性」
ります。
をもって進めていくことが必要であることが分
かります。
また、SNSを日常的に使う習慣のある新入社
員は、学生時代の仲間とのつながりが維持さ
れたまま社会にデビューします。不満・不安も、
② 個性と状態に合わせる
新入社員育成の根底を流れる思想として「未
職場の先輩ではなく慣れ親しんだ友人に連絡
するほうが心理的に簡単です。結果、未成熟
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な観点から短期的に良し悪しを判断してしまう
なったり、いざ独り立ちさせようとしたときに
危険もあります。
不安・不満を感じやすくなります。このことも
以上のことから、十把一絡げでかかわるので
はなく、個とその状態に合わせてかかわってい
念頭におき、かかわり方を意識的に変えていく
とよいでしょう。
くことが大切だと考えられます。
人材育成は農業的で、手をかけて直ぐに結果
③ 計画的にかかわっていく
新入社員を育成するための最後のポイントは、
が出るわけではありませんし、手をかけたから
といって必ずしも期待される結果が得られるわ
「計画的にかかわっていく」ということです。具
けでありません。しかし、だからと言って手を
体的には、育成においてもPDCAサイクルを
かけることを怠ればなんら収穫は得られませ
まわすこと、更に、ものごとを説明するときに
ん。
は極力論理的に伝えていくことです。
人材こそ新しい何かを生み出す存在です。唯
一無二の方法論はありません。「未来」に向
Plan: ゴールとスケジュールを明確にし、
かってどのようにかかわっていくか、ぜひ、あ
新入社員とそれを確認する。
らためて考えてみてください。■
(※ 組織が求める人材像と他の施策との連動
と、かかわり方を変えるタイミングも事前に検
討しておきます。)
Do: 相手の理解状況を確認しながら教える。
説明の際には、目的や背景、理由などを論理的
に伝えていく。
(※ 論理性は、スケジュールどおり進められな
いときには特に大切です。)
Check: 進捗・状態を新入社員とともに適
宜チェックする。
Action: 必要に応じて軌道修正を行う。
この流れを通常業務のひとつとして、新入社
員を巻き込みながら行います。
ただし、過度にかかわりすぎると今度は「依
http://www.hj.sAnno.Ac.jp/cp/pAge/9505
存」が生まれます。自らものごとを考えなく
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すべての人はみんな独創性をそなえている
のに、それがいろんな事情のために、光を出
さないでいる
(『働く頭にする工夫』、
ページ 、上野陽一著
池田書店、一九五七年)
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上野陽一語録
~日本最初のマネジメント・コンサルタント(本学創立者)の言葉~
上 野 陽 一 (1883 ~1957 年)
本学のプロフィール
現場に立って産業と企業のニーズに応
えつづけた90 年の歴史と創立者の理
念が、本学の質の高い実践教育に受け
継がれています。
産業能率大学は“上野陽一” によって
設立された、企業のニーズに実践で応え
る、社会人教育と学生教育の2つの活動
を持つ大学です。
本学のルーツである「日本産業能率
研究所」は1925 年に創立されました。
現在、社会人教育事業では
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“ 社長の座右の銘 ”とその理由
経営者は何を指針とし、どのように考えて行動しているのか?
■
“信用第一”
(不動産・住宅 46歳)
信用を築くのは難しく、無くすのは一瞬。信用が無ければ生活も仕事も
人間関係も良くない。
コンサルティング
企業内研修
オリジナル教材・ツール開発
アセスメント
公開セミナー
通信研修
■ “人のお世話にならぬよう、人のお世話ができるよう”
(情報サービス業 67歳)
仕事に自信を持つこと。
■ “人生楽ありゃ苦もあるさ”
を通じて、企業のご支援を継続的に実施
しています。
経営、戦略、組織、人事、生産、販売、
財務、物流、研究開発などの分野の専
門家が、90 年の実績によって培われた
理論や最新の手法・ノウハウを駆使して、
様々なご要望にお応えしています。
http://www.hj.sanno.ac.jp
本誌創刊にあたって
産業能率大学の創立者。日本最初のマネジメント・コンサルタント。
生涯、信念としたのは「人または物のもつ『もちまえ』を十分に発揮させる」ことでした。
日本と産業の未来という大きな視点からいまを凝視し、産業と企業に貢献する「マネジメント」のあり方を
具現化させていった彼が目指したのは、徹底した現場主義と組織をリードする人材の育成でした。
(土木・建設業 45歳)
表裏一体、図に乗らず平常心で日々精進するよう努めたい。
■ “石の上にも三年”
(サービス業
42歳)
何ごとも実が実るまでは我慢が大事である。
(学)産業能率大学調べ(調査対象:従業員6人以上の企業経営者、調査時期:2011年12月)
本誌に関するお問い合わせ
03-5758-5115 経営管理研究所 研修企画支援センター
e-mail: [email protected]
学校法人産業能率大学は、日本の企業経営・事業運営をよりよいものへと後押しするために、経営に携わる方々ならびに経営活
動に関心のある方々へ情報をお届けしようと本誌を作成いたしました。今後も、皆様方のお役に立てる情報をお届けしてまいります。
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