高い「志」をもって町づくりに貢献する児童生徒の育成

高い「志」をもって町づくりに貢献する児童生徒の育成
~リーダー養成塾「糧塾」の取組を通して~
岐阜県本巣郡北方町教育委員会 後藤 喜朗
1.主題設定の理由
今日では、核家族が増加し、情報化社会であるが故に、人間関係の希薄さやコミュニ
ケーション能力の欠如が叫ばれている。また、不登校やいじめ問題など生徒指導上の課
題がクローズアップされ、中1ギャップへの対応も求められている。そこで、小中学生
のリーダー育成を起爆剤として、喫緊の課題を克服していこうと考えた。
下記は、小学校6年生の児童の作文である。
私は、北方町で生まれて北方町で育ちました。北方町には、国指定の重要文化財
である「円鏡寺」があり、歴史で有名なところです。また、ホタルやカワセミが見
られる糸貫川も流れており、自然にも恵まれた地域が自慢です。学校では、総合的な
学習の時間で北方町について学びました。私が知らないこともたくさんありました。
これからは、もっともっと北方町のことを知りたいと思いました。また、北方町が魅
力的な町になるために自分たちができることを考えてみたいです。
この児童の願いを真摯に受け止め、ふるさとを心から愛し、21世紀を生き抜く児童
生徒を育てたいと考えた。平成22年度には、(資料1)
「子どもサミット宣言」を作成
した。これは、代表者たちが町づくりへの願いを交流する中で生まれたキーワードであ
る。学校はもちろん、役場や町内の公共施設あらゆる場所に掲示され、子どもたちの活
動を方向付ける羅針盤とも言える存在である。こうした「子どもサミット宣言」を礎と
し、この「子どもサミット会議」の代表者を育成する組織が、リーダー養成塾「糧塾」
である。
「町づくりは、子どもが主役である」という熱い思いをもち、高い「志」をもっ
て町づくりに貢献する児童生徒の育成をめざして上記の主題を設定した。
2.研究仮説
研究主題に迫るために下記のような研究仮説を設定した。
異学年によるリーダー育成の組織的な活動を通して、地域の人々と交流する場を
位置付ければ、ふるさとに愛着をもち、高い「志」をもって町づくりに貢献する児
童生徒を育成することができる。
3.研究内容
研究仮説を検証するために下記の3点から実践を行った。
(1)リーダーとしての心構えをはぐくむ取組
① 教育長による講話
本町の教育長は、リーダー養成塾「糧塾」の塾長であり、町のリーダーである。約
35名の児童生徒に対して下記の内容を語っていただいた。
○ 「10年後、20年後の北方町を支える人になってほしい。
」
○ 「
『糧塾』に込められた願いを是非理解してほしい。
」
② 民間のリーダーによる講話
また、リーダーとしての条件を学ぶために民間の社長の講話を聴く機会をもった。
主な目的は、夏の合宿に向けて「志」をもとうということである。
このように先人の生き方から学ぶことは、児童生徒の琴線に触れる貴重な経験になる
ととらえる。
教育長及び民間のリーダーによる講話の成果を下記の3点にまとめることができる。
◎ 夢をもつことの意味やねうちが実感でき、より自分の夢が具体的になり、相手を
思いやる大切さが実感できる。
◎ 自分の生活に還元することができ、自分の生き方を見つめ、明日からの生き方が
明確になり、よりよく生きようとする。
◎ 集団の中で自分の仲間へのかかわり方がより明確になり、自らリーダー性を発揮
いしていこうとする心構えがもてる。
こうした新たな「志」をもった児童生徒が、合宿に参加することより、より集団とし
ての絆を深めたいと考えた。
(2)
「糧塾」メンバーでの合宿を通した取組
① 具体的な活動
ア 異学年グループによる魅力的な活動の位置付け
集団宿泊行事と言うと一般的には、オリエンテーリングや飯ごう炊飯の活動を通し
て、仲間づくりにおける相互理解が主眼となる。そこで、異学年グループで知恵を出
し合い、楽しみながら参加できるウオークラリーを考えた。ウオークラリーと野外炊
事を結びつけた活動は、児童生徒のアイデアによるものである。子どもの声に耳を傾
け、子どもに任せることは勇気が必要であるが、教師が子どもの可能性を信じ、子ど
もに寄り添うことが、
「自立」につながり、「生きる力」を身に付けた児童生徒が育つ
ことを実感できた。
イ P(計画)D(実践)S(評価)I(改善)D(再実践)サイクルの位置付け
一般的には、P-D-C-Aサイクルが使われるが、「糧塾」においては、上記のよ
うなP(Plan)-D(Do)-S(See)-I(Improve)-D(Do)サイクルを位置付けた。その中
でも特に、I(Improve:改善)を大切にした。異学年グループは、普段は、共に生活
をしていない仲間なので想定外の問題が発生する場合もある。その問題を仲間で解決
していく営みこそがリーダー性をはぐくむことにつながる。
(3)
「子どもサミット会議」の取組
児童生徒が「糧塾」で学んだことを発表し、提言する「子どもサミット会議」の場を
位置付けた。参加者は、学校関係者、教育委員会、町関係者(町長、自治会代表者、町
議会議員)
、保護者、地域の方々であり、町が一体となった一大イベントである。
本年度のテーマは、
「
『子どもサミット』の取組を通して北方町はよくなってきている
のか」であった。このテーマを基盤として、大人と子どもが膝を突き合わせて話し合う
ことができた。 下記は、
「子どもサミット」会議を終えた、生徒の感想である。
たくさんの人の前で話すことはとても緊張した。でも、町長さんや地域の皆さん
から「小中学生が頑張っている。
」
「小中学生の動きが素晴らしい。」というお話をい
ただき、私たちの活動を認めていただいて、とても嬉しかった。
私たち一人一人の力は小さいけれど、同じ夢や志をもつ仲間が集まればものすご
い力になることを実感した。また、大人の方々が真剣に話を受け止めてくださった
ことに感動をした。これからも自分たちの町や町づくりのために力を出していきたい。
素晴らしい体験をありがとうございました。北方町の未来は私たちにまかせてくだ
さい。
こうした体験の積み重ねが将来の町づくりに貢献しようとする児童生徒の心の育成に
つながるととらえる。
4.成果と課題
下記は、リーダー養成塾「糧塾」に参加をした生徒の振り返りである。
私は、
「糧塾」に参加をして自分自身が逞しくなったような気がします。特に、小
学校の子たちとのグループ活動が印象に残っています。自分は学年が一番上だったの
で、まず自分がグループのリーダーとしての自覚をもたねばと思いました。学校では、
生徒会の活動をしていますが、年齢が様々だったので正直むずかしいなと感じたこと
もありました。でも、教育長さんのお話の「まず自分が声を出すこと」を実行してみ
ました。自分が勇気を出して声を出すと仲間が応えてくれることを実感しました。
これからは、北方町の一員として北方町のために自分に何ができるかを考えて行
動したいと思います。また、この「糧塾」で学んだことを学校へ戻って仲間に伝え
ることが自分の使命だと思います。
このように「糧塾」での異年齢集団での取組を通して、リーダー性が育ちつつあるこ
とを実感することができた。
成果と課題として下記の点があげられる。
(1)成果
○ リーダーの資質育成を願い、教育長や民間の社長の講話を聴いたことで、リーダ
ーとしての心構えがもて、自分たちがふるさと北方町にかかわり、自分たちが町づ
くりに貢献するリーダー養成塾「糧塾」への効果的な動機付けができた。
○ 異年齢集団のグループを構成することで、小さな町ならではの一体感が生まれ、
小学生が中学生に憧れをもち、小中連携という視点から中1ギャップの解消に向け
た意識が生まれつつある。
○ 「子どもサミット会議」を位置付け、自分たちの提言を実際に町長や町議会議員
に伝える場を位置付けたことを通して、自分たちが町づくりをリードするという誇
りが生まれ、地域に貢献していこうとする心が育ちつつある。
(2)課題
● リーダー養成塾「糧塾」に参加をした児童生徒から、他の児童生徒へ啓発するこ
との効果的な方途の在り方
写真1:民間のリーダーによる講話を伝える新聞記事
写真2:異学年グループによる合宿の様子
写真3:
「子どもサミット会議」の様子