第8回 Globalization「素直なよい 」をやめる 「ゴールカラー」という概念

世界基準のビジネス英語能力テスト
第8回 Globalization「素直なよい⼦」をやめる
「ゴールカラー」という概念
前回は、グローバル人材ブームの背景について述べたので、今回は「パーソナル・グローバリゼー
ション(個のグローバル化)」の実現のための第一歩をどう踏み出すかについて、述べさせていただく。
皆さんは、「ゴールドカラー (Gold‐Collar)」という言葉を聞いたことがあるだろうか? ブルーカラー、ホ
ワイトカラーに関連する言葉で、経営学者のRobert Earl Kelley氏が1985年にThe Gold‐Collar Workerと
いう書籍で提唱した概念だ。ここでは、この書籍を紹介している有名ブロガーのChikirinさんの記事を
参考にしつつ、私なりの解釈を交えながら話を進めたい。
産業革命以降、農業・漁業を主とする第一次産業から、工業の第二次産業、サービス業の第三次産
業に産業構造がシフトしてきた。歴史的に見れば、その移行期において、ブルーカラー層とホワイトカ
ラー層の分離が始まっていった。Kelley氏は、本書で、「自分の能力を自由に売って働くゴールドカ
ラーがホワイトカラーから分離する」と予測しており、それが2010年頃から顕著になり始めている。
ゴールドカラーの特徴の一つは、「人生における移動距離が圧倒的に長いこと」だという。端的に言え
ば、ブルーカラーは県レベルの移動、ホワイトカラーは国内レベルの移動、そしてゴールドカラーはグ
ローバルレベルでの移動、というのが特徴だ。
例えば、ブルーカラーは自分が生まれた場所の半径50キロ程度で人生が完結する。生まれた地域で
教育を受け、伴侶と出会い、隣町の工場に勤め、子どもも地域の学校に通う、というのがその典型的
な例だ。
一方、ホワイトカラーは、少なくとも数百キロは移動する。例えば、鹿児島で生まれた人が大学進学を
機に東京に上京する。その後、就職先が大阪本社の会社で、転勤先として名古屋・福岡・北海道など
に住んだとする。つまり、国内を自由に行き来するのがホワイトカラーだ。
最後のゴールドカラーは、数千キロ単位で移動する。つまり、移動距離がグローバルレベルなのだ。
例えば、「ベトナムの田舎で生まれ、ベトナムの最高峰の大学で教育を受けた後、日本企業に就職。5
年間勤めて退職し、ハーバード大学でMBAを取得。グローバル企業にマネジャーとして入社し、その
後、何度かステップアップの転職を行い、現在はアフリカの開発プロジェクトにかかわっている人」を
想定しよう。このグローバルレベルでの移動距離が「ゴールドカラー」の特徴だ。
ゴールドカラーになれる人、なれない人
ゴールドカラーを考えてみた時、もう一つの特徴に、「自分で自分の道を選ぶ」という強い意志が挙げ
られるのではないかと思っている。つまり、会社に命じられたから、親に言われたから、と常に他責で
いる人は、ゴールドカラーにはなりえない。いくら移動距離が長くとも、マインドが他責で依存的であれ
ば、それは真の意味でゴールドカラーとして成功はできないのだ。なぜならば、移動は常に変化を伴
う。自分の人生に訪れる変化を前向きにとらえて楽しめる人でなければ、精神的に耐えられないだろ
う。
Kelley氏の主張するゴールドカラーは、私が定義するグローバル人材に近いものがある。私は2008年
に『パーソナル・グローバリゼーション』(幻冬舎メディアコンサルティング刊)を執筆し、年間4000人以
上のビジネスパーソンにワークショップや講演という形で、「自分グローバル化プロジェクトの始め方」
についてアドバイスをさせていただいている。対象者は役員から新入社員まで多岐にわたるが、これ
ほど多くの方がこの課題に苦しみもがいていることに驚いている。会社から厳しくグローバル人材に
なることを求められている方もいれば、これからの人生を充実させるためにグローバル人材になりた
いという目標を持って私のワークショップに参加される方まで、様々である。
これだけの人数と目的の多様性に触れる中で、自分のグローバル化に成功する人と途中で投げ出し
てしまう人の「違い」が見えるようになってきた。それは、目的を持っているか否か、そしてその目的の
「質」がその成否を大きく左右するということである。目的がない努力は継続しないものだ。辛いことが
あっても努力を継続できるような、強い目的意識を持つことが大切だ。また、その目的の質も重要に
なってくる。例えば、「会社から命令されたから」という他責な目的ではなく、自分自身の内側から湧き
上ってくるような目的意識が大切だ。もちろん、グローバル人材を目指すようになったきっかけが「会
社から命令された」という外からの動機づけでも最初は構わない。ただ、努力を継続していく上で、自
分の内発的な動機づけに変わっていくことが重要だ。
「素直なよい子」をやめる
自分のグローバル化に成功している人の特徴の一つに、「素直なよい子の対極型」人材が多い、とい
うのも実感だ。いわゆる、日本の一流大学卒、そのまま一流企業に就職し、その組織において「素直
なよい子」を演じて生きている人はなかなか自分自身のグローバル化を起こせない。60‐70点までは
何とかするが、グローバル経済の中で、自社のため、自分のために結果を出せるような人材になれな
いのだ。すなわち、数千キロを移動し、海外のスタッフをモチベートし、難問を解決し、方向を指し示す
ことができないのだ。
日本社会では、「人間関係を保つこと」に重きが置かれる。そのため、人間関係が悪くなったりする
ような反発や挑戦というのは、あまり好まれない。学校でも企業でも、組織の中で生き延びるための、
「長いものには巻かれる」「出る杭は打たれるから、出ない杭になる」というメンタリティーが、長年、跋
扈(ばっこ)してきたように感じている。学校教育の段階から「素直なよい子」が常に奨励され、組織で
働きだしても、文句一つ言わず、黙々と与えられた作業を行う人々が高い評価を受けてきた。高度成
長期の時代までは、真面目で勤勉でさえあれば、この生き方でも十分幸せな生活が送れた。一流大
学に入って一流企業に就職すれば、結婚もでき、家も買えたし、幸せな老後が約束されているという、
アメリカンドリームならぬ、ジャパニーズドリームを人々は共有できたのだ。
しかし、今は時代が本質的に異なっていることに気付く必要がある。トーマス・フリードマン的に言えば、
2000年頃に起こったブロードバンドの爆発的な普及とPCの低価格化によって、新興国の低所得者層
にも情報が行き渡り、グローバリゼーション3.0時代に突入して既にもう10年が経とうとしている。この
間、新興国の優秀な人材は常に自分を高める努力と引き換えにめきめきと頭角を現しているのに対
し、それに気づき遅れた日本人エリートの中には、まだ破れかけた高度成長期の夢を捨てられずに
いる人も多い。
ゴールドカラー、ホワイトカラー、ブルーカラーの概念図
1985年
2012年から将来
※図は著者による
参考:Robert E. Kelley(1985)The Gold‐Collar Worker.Addison‐Wesley
上記の図を見てほしい。1985年には、人口分布的に見ても、ブルーカラーが一番多く、ゴールドカラー
というのは稀(まれ)な存在だった。もちろん、人口分布的には2012年現在でもゴールドカラーは稀な
存在であることは変わらない。ただし、ブルーカラー職は機械に取って代わられ、どんどん減少しつつ
ある。生産性が高く、世の中に新しい価値を生み出すことが出来るゴールドカラー職を増やしていか
ないと、世界から取り残され、競争力もどんどん奪われてしまうのではないだろうか。
先のKelley氏の著書に戻ると、1985年に書かれたこの著書では、ゴールドカラーの例として、弁護士、
プログラマー、証券アナリスト、コミュニティープランナー、編集者やエンジニアが挙げられている。こ
の職業の多くは2012年現在、もはやゴールドカラーというよりも、危機にさらされているホワイトカラー
だ。27年での歴史の移り変わりのスピードの速さに愕然(がくぜん)としてしまう。自分の職業人生を
50年だと仮定すると、長い職業人生において「安泰」な職業などないことがよく分かるのだ。1985年か
ら2012年までの世の中の変化と、2012年から2039年までの変化を比べると、おそらく、後者の方がよ
りドラスティックな変化になるであろうことは、誰にでも想像できるのではないだろうか。
つまり、これからの世の中は、変化に次ぐ変化が起こり、それに対応できるマインドとスキルを持って
いないと容易に取り残されてしまう。フリードマンが言うように、「学ぶ方法を学ぶ」ことが出来る人材
でないと、生き残れない過酷な社会なのだ。「素直なよい子」とは、逆説的に言えば、現状に疑いを持
たず、現状維持をそのまま続ける人のことだ。変化のスピードが速い現在、「素直なよい子」のまま現
状維持を続けることは、自分のキャリアの命取りになりかねない。
従って、グローバル人材になるための第一歩は、「素直なよい子」をやめる、ということだ。もう自分は
既に「素直なよい子の対極型」だという人は、ここはスキップしていただきたい。
しかし、スキップする前に一度、ジョハリの窓(下図)を使って検証してみよう。
自分が知っている
自分が知らない
開放
盲点
(自分も周囲も分かっている自分)
(自分は分かっていないが、周囲が分
かっている自分)
秘密
未知
(自分には分かっているが、他人に
は分からない自分)
(自分も周囲も分かっていない自分)
他人が知っている
他人が知らない
ジョハリの窓によると、人には4つの窓がある。そのうちの2つは、相手には見えるけれど自分には見
えない窓、そして自分にも相手にも見えない窓である。自分では「素直なよい子」ではないと思ってい
ても、他人から見るとそのように見えているかもしれないのだ。
そこで、自分が「素直なよい子」かどうかわからないという人には、次の質問をしたい。
1 自分が何において尊敬されたいか、認められたいかが明確ですか?
2 会社のため、チームのため、自分のために全力で戦いますか?
3 野心がありますか?
それぞれを10点満点で採点して、24点以下であれば「素直なよい子」度が高いと認識しよう。「素直な
よい子」を脱するための一番の方法は、まずは現状維持志向をやめてみることだと思っている。上記
の質問は、現状維持志向の人たちにはピンとこないだろう。だが、世界であなたをライバルとして待ち
受ける人材は、これらをきちんと具体性を持って答えられるのだ。
まずは、あなたがブルーカラーかホワイトカラーというポジショニングではなく、人生における移動距離
を数千キロとするゴールドカラー、すなわちグローバル人材になるという目的に対して決意を固めて
おいていただきたい。
次回は、ここをクリアした後に、具体的にどんなマインドセットとスキルセットを身に着けて自分をグ
ローバル人材化するのかを書かせていただく。
布留川 勝(Masaru, Furukawa)
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社代
表取締役
世界中の教育プログラムと個人のニーズを結びつけ、グローバル&自立型
人材育成を実現することをミッションに、2000年に同社を設立。トップビジネス
スクール、コンサルタント、コミュニケーションスペシャリスト等との協働で、150
社以上の企業向け人材育成プログラムのコンサルティング企画・開発・運営を手掛けている。