第2部 建設業の本業を磨いて地方創生~新技術、担い手の確保・育成 暗渠の長寿命化のロボット ~農業用暗渠排水管調査洗浄システムの開発~ 川崎建設株式会社 代表取締役 川崎 宏、取締役部長 川崎 剣 発表者 研究開発技術員 梅崎 務 〒 044-0121 北海道虻田郡京極町字三崎 218 番地 9 電話 0136-42-2077 URL:http://kawasaki-kk.jp/ 【地域基幹産業との関わり】 当社は昭和42年の創業以来、地域のインフラ整備や農地整備に関わって参りました。中でも基幹産 業である農業とは密接に関わってきたと言えるでしょう。 農地は、作物の生育や作業性を高める為に地表や地中の排水を効率よく行う必要があり、地中に暗渠 排水管を埋設することで余剰水を排水しています。当社でも農地整備において暗渠排水管の新規布設工 事に長年携わって参りました。 【開発のきっかけ】 暗渠排水管の新規布設工事を行っていると、度々既設管を目にします。新規布設する暗渠排水管のす ぐ近くに、既設の暗渠管が埋まっていることが少なくないのです。それらの放棄された既設管の多くは、 管内に汚れが詰まっているものの、その汚れを除去することができればまだ使用できる物でした。この ような体験を通して「もったいない」と感じたのです。このことから、古い既設暗渠管でも管内を洗浄 することができれば再利用できるのではないか、という問題意識を持つことになりました。 建設業を日々営む中、平成 13 年春、北海道後志支庁(現:後志総合振興局)による企業アンケート に前述の問題意識を記入したところ、北海道立工業試験場(現:北海道立総合権機構産業技術研究本部 工業試験場)を紹介いただき、技術指導・技術支援を受けることがきっかけとなり「農業用暗渠排水管 洗浄システム」の研究開発を開始することとなりました。 【農業用暗渠排水管洗浄ロボットの開発】 研究開発を行うにあたって研究部門を立ち上げ、専属の研究員を配置して取り組みを始めました。最 も苦労し、試行錯誤したのが「分岐管路への進入」です。農地の暗渠排水管路の多くに分岐管路があり、 それらへ対応することが必要でした。試行錯誤の結果開発したのが「内視機能等を備えた方向制御可能 な小径管内の洗浄装置(特許第 3811921 号)」です。 この装置は管内前方をカメラによってリアルタイムで目視しながら、首振り機能によってφ 50mm ~ 100mm の分岐管へと進入することができ、後方へ高圧水を噴射することで管内の汚れを洗浄、推進します。 内視機能等を備えた方向制御可能な小径管内の洗浄装置 ― 32 ― 首振りによる分岐管への進入 第2部 建設業の本業を磨いて地方創生~新技術、担い手の確保・育成 【小径管内調査・洗浄システムを活用した洗浄サービス】 前述のロボット開発に加え、実際の現場での運用についても試行錯誤を重ねてきました。試作品を活 用した試験運用を経て、洗浄サービスの実施を平成19年度より開始し、北海道内や青森県、山形県な どで少しずつ実績を伸ばしています。具体的には個人営農者からの依頼のほか、「農地・水・環境保全 向上対策」による暗渠清掃業務や、企業及び公共機関からの管内調査依頼などについて実績があります。 また、現場での運用を元に改良を重ね、様々な機能や技術を追加してきました。例えば、モニ ター上にホース送り出し距離を表示する機能や、洗浄している管内に不具合(管内土砂閉塞、管の潰れ、 変形等)があった場合に電磁波によって地上から不具合位置を特定する技術などがあります。さらに、 昨年度からは3Dプリンターを導入し、管内土砂閉塞箇所を地上から解消する技術の研究開発を行って います。 洗浄サービスの施工イメージ モニターに映し出される管内映像 (右上にホース送り出し距離) 洗浄サービス施工の様子 現在、機能不全の農業用暗渠排水管がある場合は、既設の暗渠管を埋めたまま新設することが主流で す。しかしながら、昨今の農業におけるストックマネジメントへの注目度の高さに加えて、農業の自由 化や食料生産自給率の向上および農業生産資材の高騰などよる農業コストの大幅な低減要請や環境問題 などの社会・経済的事情から、新設に対し格段にコストを低減でき、農地の土壌構造を破壊せずに機能 回復・長寿命化を図ることができる暗渠排水管の洗浄サービスにはニーズが高まっていくことが予想さ れます。 ― 33 ―
© Copyright 2025 ExpyDoc