鉄骨梁貫通孔補強工法(EGリング工法)

[論文]鉄骨梁貫通孔補強工法(EGリング工法)の適用拡大
沼 田 俊 之*
向 出 静 司***
概
橋 田 知 幸**
多 田 元 英****
要
鉄骨梁に設けられる設備配管用貫通孔に対する補強方法に関しては,これまでにいくつかの研究 1)~7) がな
さ れ て い る . こ の 鉄 骨 梁 貫 通 孔 補 強 に 対 し て , 2 0 10 年 に 4 5度 テ ー パ ー 開 先 を 持 つ 新 し い リ ン グ 状 の 補 強 材 を 用
いた工法 8),9) (EGリング工法)を開発し実用化した.
EGリングは優れた施工性と構造性能を有しているが,いくつかの改良の必要性も出てきている.主な改良
検討内容として,構造性能面では梁の適用鋼種とサイズ,塑性領域への孔数,軸力を受ける領域への適用など
であり,施工面では溶接量の低減および施工裕度の拡大である.本論では,構造実験により上記の改良点の検
討を行い,新たな耐力評価式を提案するとともに,改良されたEGリングの構造性能が十分であることを確認
し,EGリング工法の適用範囲拡大を行った.
1.はじめに
鉄骨梁に設ける設備配管用貫通孔に対する新しい補強
工法(EGリング工法)を2010年に開発
8 ) ,9 )
および溶接量の低減等の検討を構造実験により行った.
し,同年8
実験結果に基づき新たな耐力式を提案し,拡大された
月に実用化した(この段階での開発実験を第1期実験と
適用範囲において耐力の評価精度を向上させた.さらに,
呼ぶ).2014年2月までに約18,000個の採用実績がある.
解析 結果 10 ) も 踏まえて,EG リングの適用 範囲の拡大
EGリング工法は,従来の当て板補強に比べて優れた施
における性能の検証を行った.
工性と経済性および所定の構造性能を有していることが
確認さ れている 8 ) ,9 ) .このよう な中でEGリン グ工法
2.実験計画
実験パラメータを表-1に,試験体形状を図-1に,
に対して,適用範囲拡大と施工性・構造性能向上が求め
EGリングの断面形状を図-2に示す.梁の断面および
られている.
本論では,構造性能面の適用拡大として高強度鋼材,
材質は3種類とした.使用鋼材の機械的性質を表-2に
FDランク梁,塑性領域設置孔数および軸力が作用する
示す.試験体は11体計画した. このうちRH-500×200×
梁への適用,施工面の適用拡大として面外偏心量の拡大
10×16(SM490A)の試験体は構造ランクをFA,孔径比
表-1
梁
試験体名
2-A675WE
2-A675WT
2-A675SE
2-A675ST
2-A675SE-01C
2-A675SE-01T
貫通孔
補強量
構造 孔径比 塑性化領
td,PR,(mm)
ランク d/D 域箇所数
想定破壊位置
46,46
貫通孔
断面形状(材質)
RH-500x200x10x16
(SM490A)
1
FA
0.67
2-A675SED
2-D004
2-D674SE
2-A006
2-A506SE
実験パラメータと試験体概要
2
BH-750x250x9x9
(SS400)
FD
BH-450x150x12x15
(SA440B)
FA
孔なし
-
0.67
1
孔なし
-
0.5
1
55,55
梁端
46,46
梁端
60,60
梁端
50,50
梁端
施工条件
孔位置
Lh(mm)
載荷方法
面外偏心
e(mm)
のど厚
a(mm)
軸力比
5
0
5
0
5
5
8.5
4
8.5
4
0
315
8.5
-
-
400
5
7.5
-
-
-
275
5
10.5
1350
A
A
A
A
B
B
5000
B
+0.1
-0.1
5
-
シアスパン 載荷
(mm)
装置
A
0
A
1350
A
A
注1)試験体名 凡例 2-A675_ _-_ _
・載荷条件(無印:軸力無し,01c:圧縮軸力比0.1,01t:引張軸力比0.1)
・リング補強量・施工条件の仕様(W:補強量小,S:補強量大,T:のど厚最小
E:偏心最大,D:塑性化領域の貫通孔箇所数2)
・材質(4:400N/mm 2級鋼,5:490N/mm 2級鋼,6:590N/mm 2級鋼)
・孔径比(小数点以下2桁)
・構造ランク(A:FAランク,D:FDランク)
注2)d:リング貫通孔径,D:梁せい
*
**
技術研究室
博(工)橋梁事業部 大阪工場長
***
****
博(工)大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻 助教
博(工)大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻 教授
(10)
片山技報
No.34
(d/D:表-1参照)を0.67とし,面外方向の偏心量を2
様の梁断面および梁材質にて連続孔の実験を計画した.
種 類 ( 0mm,5mm) , の ど 厚 を 2 種 類 ( 4mm , 8.5mm ) , リ
連続孔の実験は,塑性化領域内に貫通孔を2個設置する
ング補強量を2種類(耐力評価式による必要最小量と,
長さとするため,シアスパンを5000mm(載荷装置Bによ
その0.9倍),軸力比を2種類(軸力比0.1, 軸力無し)
る制御:後述)として計画した.
をパラメータとして7体計画した.補強量については,
BH-450×150×12×15(SA440B)の試験体は,EGリ
想定破壊位置が梁端部(必要最小量の場合)と孔部(必
ングの590N/mm 2 級鋼の梁への適用検討を目的とし,構造
要最小量の0.9倍の場合)となるように設定した.最小
ランクをFA,孔径比 (d/D)を 0.5,補強量を耐力評
のど厚は,図-2に示すように補強リング外周に機械加
価式による必要最小量として計画した.
工にて段差を設け,4mmになるように調整した.軸力を
BH-750× 250 × 9 × 9( SS400 ) の 試 験 体 は , 構 造 ラ ン
作用させた試験では,一定軸力(圧縮,引張)下での単
クFDへの適用検討を目的とし,孔径比(d/D)を0.67
調載荷で計画した.軸力比は圧縮,引張いずれも0.1と
として,補強量を耐力評価式による必要最小量の0.9倍
した.シアスパンは1350mm(載荷装置Bによる制御:後
の耐力で補強した.SA440B鋼試験体とSS400鋼試験体は,
述)とした.RH-500×200×10×16(SM490A)を用いた
有孔試験体と比較する目的で無孔試験体を計画した.全
実験では,第1期実験時と同様の梁断面,シアスパンと
有孔試験体について,溶接量の低減検討を考慮して,の
していることから,無孔の試験体を割愛した.また,同
ど厚の管理を厳格に行った.具体的にはEGリング溶接
表-2
使用材料の機械的性質(引張試験結果)
使用材量
使用試験体
使用部位
2-A675SE,2-A675ST,
梁(フランジ)
RH-500x200x10x16 2-A675WE,2-A675WT,
(SM490A)
2-A675SE-01c,2-A675SE-01t,
梁(ウェブ)
2-A675SED
2-D004,2-D674SE
PL-19(SA440B)
2-A006,2-A506SE
PL-50(SM490A)
PL-50(SM490A)
PL-50(SM490A)
2-A675WE,2-A675SED
2-A675ET
2-A506SE
2-A675SE,2-A675ST,
補強リング
2-A675SE-01c,2-A675SE-01t
2-D674SE
補強リング
PL-55(SM490A)
PL-60(SM490A)
a)
梁(フランジ)
梁(ウェブ)
梁(フランジ)
梁(ウェブ)
補強リング
補強リング
補強リング
PL-9(SS400)
降伏応力度 引張強度 破断伸び
(%)
(N/mm2) (N/mm2)
354
535
29
395
548
28
311
458
31
485
608
22
373
336
376
538
522
537
41
39
38
382
556
38
325
536
37
載荷装置A試験体
a)補強リング寸法 b)偏心および標準のど厚 c)最小のど厚
図-2
b)
c)
載荷装置B
片山技報
軸力導入試験体
載荷装置B
図-1
No.34
EGリング断面形状
連続孔試験体
試験体形状
図-3
(11)
載荷装置A
M u /M L 一定となるようP V とP V を制御する
ことでシアスパンを固定した載荷可能
LV
LV
Ph
h
H
-PV2
M0 =
+(P V1 +P V2 )L V
M U = Ph h
+(P V1 +P V2 )L V
P V1
M L = Ph (H+h) +(P V1 +PV2 )L V
N = 0
曲げせん断載荷
Q = M L /L
(2-A675SED)
LV
L
Ph
V
h
+(P V1 +P V2 )L V
M U = Ph h
+(P V1 +P V2 )L V
PV1
H
P V2
M0 = 0
M L = Ph (H+h) +(P V1 +PV2 )L V
図-4
載荷装置B
N = PV1 +PV2
軸力載荷
Q = M L /L
(2-A675SE-01C,-01T)
図-5
a)載荷装置A
載荷装置B制御方法
b)載荷装置B
図-6
変位測定概要
部の余盛りをグラインダーにて削除した.
本実験では載荷装置AおよびBの2種類を用いて載荷
を行った.図-3に載荷装置A,図-4に載荷装置Bを
示す.載荷装置Aでは,第1期実験に用いた装置と同様
に,梁端におけるシアスパンが1350mmとなる片持ち梁形
式によってせん断力Qを載荷した.軸力を作用させる試
験体とシアスパンの長い連続孔試験体では載荷装置Bを
用いた.図-5に載荷装置Bでの制御方法を示す.載荷
装置Bでは試験体の両端を載荷装置に固定し,2本の鉛
図-7
直方向ジャッキと1本の水平方向ジャッキを調整するこ
歪測定位置
とで,一定軸力と所定のシアスパンによる曲げせん断加
力を載荷した.この制御により,前述のとおり試験体2-
図-6に変位測定概要を示す.測定した変形より部材
A675SED と 2-A675SE-01c(t) の シ ア ス パ ン は そ れ ぞ れ
角θ,端部と孔部の終局状態を想定して端部曲げ変形角
5000mmおよび1350mmとなる.しかし,結果的には2本の
φ e ,孔部曲げ変形角φ h ,および孔部せん断変形角γ h
鉛直ジャッキと水平ジャッキを制御する困難さから,軸
を算出した.なお,連続孔試験体は,載荷装置Bを用い
力,シアスパンともに±5%程度の誤差が生じた.
て載荷したが,実験実施上シアスパン5000mmのままで載
(12)
片山技報
No.34
荷することができず,結果的に4800mm程度となった.以
移行する結果となった.大局的に見て軸力比±0.1程度
後の計測値の換算にあたっては,シアスパン4800mmとす
の軸力であれば,軸力が作用しない場合と比べて復元力
る.部材角は試験体供試部長さ1850mmに対してシアスパ
特性は同程度となった.
ン4800mmとなるように,スパン中央側に相当する残りの
圧 縮 軸 力 の 2-A675SE-01c は , 軸 力 の 無 い 試 験 体 2-
部分について曲げ変形とせん断変形を考慮した弾性変形
A675SEに比べて降伏耐力が1割ほど低下し,全塑性耐力
計算値を加味した.
は同程度であった.この結果は,無孔断面において軸力
図-7に歪測定位置を示す.歪度は梁端部と孔部を計
1)
の影響が全塑性耐力よりも降伏耐力に対して現れやすい
測した.孔部測定位置について,文献 に基づきせん断
傾向にあり,その降伏耐力が低下する割合は鋼構造設計
耐力時における曲げ耐力を算出する危険断面位置を推測
規準(日本建築学会編) 11) とほぼ一致している.
したところ,孔中心位置から梁端側に32~36°の範囲で
一方,引張軸力の2-A675SE-01tは,軸力が作用してい
あった.このことから,孔中心位置から30°の角度にあ
ない試験体と比べ降伏耐力が同程度で,全塑性耐力がや
る断面位置を危険断面位置として歪度を測定した.
や低下した.圧縮軸力と引張軸力を受ける試験体の結果
が異なる傾向を示したが,全塑性耐力を示す時点で溶接
3.実験結果
部の亀裂や局部座屈は発生しておらず,軸力の方向(圧
実験終了後の破壊状況を図-8に示す.実験で得られ
縮・引張)が耐力や変形性状に有意な差として現れにく
た梁せん断力変形角関係(Q-θ関係)を図-9a)~
いと考えられる.軸力が作用する試験体の載荷は,三軸
d)に示し,連続孔についてシアスパンの異なる単孔と
のジャッキを制御して行う載荷装置Bを使用しており,
の比較を曲げモーメント変形角関係(M-θ関係)を図
載荷制御上のシアスパンや軸力の誤差が圧縮軸力と引張
-10に示す.実験の結果,観察された主要な変形性状
軸力が作用する試験結果に影響しているものと考えられ
を模式的にまとめたものを図-11に示す.さらに実験
る.
結果一覧を表-3に示す.図-9には,梁端の無孔断面
連続孔試験体2-A675SEDについては,梁端側から順に2
が降伏曲げ耐力Myおよび全塑性曲げ耐力M P に達した
つ目の貫通孔までフランジが降伏して剛性が低下した.
時点のせん断力計算値のレベルも併記している.
変形が進むにつれて,ウェブに対して対称な局部座屈が
フランジに生じた.塑性化後も一定の剛性を保ったまま
3.1
RH-500×200×10×16(SM490A)シリーズ
大きく耐力が上昇した.破壊モードは,梁端部の曲げ破
リ ン グ 補 強 量 ・ の ど 厚 ・ 偏 心 の 影 響 を 確 認 し た 2-
壊である.実験結果について曲げ耐力が単孔と比較して
A675SE , 2-A675ST, 2-A675WE, 2-A675WTに つ い て , 補
やや低いものの同程度の変形性能を示した.単孔試験体
強 量 を 多 く し た 2-A675SE , 2-A675ST は , 梁 端 ・ 孔 部 の
と連続孔試験体とでシアスパン,補強量,補強箇所数の
順にフランジが降伏して剛性が低下した.その後,変形
点で大きく異なるが,両者とも端部曲げ破壊が先行して
が進むにつれて耐力は緩やかに上昇し,次第に個材曲げ
いることから,曲げ耐力は同程度となるはずであるが異
変形が生じて孔部に楕円状の変形が生じた.破壊モード
なる結果となった.これについて,軸力が作用する試験
は,梁端部の曲げ破壊から孔部の曲げせん断破壊へ移行
2-A675SED
す る 結 果 と な っ た . 補 強 量 の 少 な い 2-A675WE , 2-
2-A675WE
2-A675WT
A675WTは,孔部・梁端の順にフランジが降伏して剛性が
低下した後,梁端位置のウェブよりも先にリングで降伏
し,早期にリング溶接部に亀裂が生じ,亀裂発生ととも
に耐力が低下した.破壊モードは孔部の曲げせん断破壊
となった.
のど厚を最小にした試験体について,補強量の少ない
2-A506SE
2-A675ST
2-A675SE
2-A675WTでは孔部の変形が大きくなることで早期に亀裂
が発生したが,補強量が多い2-A675STは孔部の変形が少
なくなることで亀裂は発生しなかった.
偏 心 を 最 大 と し た 試 験 体 に つ い て , 偏 心 が 大 き い 2A675SEは,のど厚が大きいにもかかわらず,偏心が0で
2-D675SE
2-A675SE-01C
2-A675SE-01T
のど厚最小の2-A675STよりも早く亀裂が発生した.この
ことから偏心により耐力が低下したと考えられるが,両
者の荷重変形関係の差は僅かであった.
軸 力 が 作 用 す る 試 験 体 2-A675SE-01c , 2-A675SE-01t
について,軸力の無い2-A675SEと同様の破壊形態を示し,
破壊モードは梁端部の曲げ破壊から孔部のせん断破壊へ
片山技報
No.34
(13)
図-8
実験終了時の破壊状況
2-A675SE-01c
2-A675ST
2-A675SE
2-A675SE
無孔試験体
A0000
2-A675SE-01t
2-A675WE
2-A675WT
a)RH-500X200X10X16(SM490A)補強量・のど厚・偏心
b)
RH-500X200X10X16(SM490A)軸力
2-A006
2-A506SE
2-D674WE
2-D004
Mp/L
My/L
c)
d)
BH-750X250X9X9(SS400)FDランク
図-9
BH-450X150X12X15(SA440B)590N/mm 2 級鋼
せん断力Q-変形角θ関係
2-A675SE
フランジの局部座屈(非対称)フランジの局部座屈
(対称)
+ウェブ曲げ型局部座屈
フランジの個材曲げ変形
(対称)
2-A675SED
a)梁端部曲げ破壊
RH-500X200X10X16(SM490A)連続孔と単孔
図-10
図-11
曲げモーメントM-変形角θ関係
b)孔部曲げせん断破壊
主な変形性状
体と同様に載荷制御上の誤差によるものと考えられる.
は終局状態の梁端部において,フランジでウェブに対し
また,載荷装置のストローク制限により最大加力まで載
て非対称の局部座屈とウェブに曲げ型の局部座屈が生じ
荷することが出来なかったことから,FEM解析 10) による
て耐力が低下した.破壊モードは梁端部の曲げ破壊であ
確認が実施されている.
った.
3.2
降伏耐力および全塑性耐力ともにやや低いものの,最大
有孔試験体2-A506SEは,無孔試験体2-A006と比較して,
RH-450×150×12×15(SA440B)シリーズ
SA440鋼材を用いた梁について,有孔試験体2-A506SE
耐力は同程度で変形性能が高い結果となった.
(14)
片山技報
No.34
表-3
試験体名
2-A675WE
2-A675WT
2-A675SE
2-A675ST
2-A675SE-01c
2-A675SE-01t
2-A675SED
2-D004
2-D674S
2-A006
2-A506SE
降伏耐力
eMy
(kN)
(kNm)
463
625
432
583
471
636
472
637
417
563
484
654
128
613
610
823
435
587
569
768
528
713
eQ y
実験結果一覧
全塑性耐力
eMp
(kN)
(kNm)
520
702
487
658
553
746
540
730
557
752
523
707
145
694
647
874
519
701
664
896
650
877
eQ p
θcr:亀裂発生時部材角
θ90%:耐力がQmax から10%低下した時点での変形角θ
ハッチは孔部の曲げせん断破壊が先行した試験体を表す.
最大耐力
eMmax
(kN)
(kNm)
608
821
497
671
736
994
758
1023
737
994
787
1063
195
938
655
884
614
829
790
1067
800
1080
変形性能
θcr
θ90%
(rad)
(rad)
0.044
≧0.100
0.014
≧0.100
0.068
≧0.100
-
≧0.100
0.06
≧0.078
-
≧0.077
-
≧0.080
-
0.011
0.049
0.091
-
0.095
-
≧0.101
eQ max
eQy :1/3 slope factor
eQp:1/10 slope
factor
表-4
3.3
RH-750×250×9×9(FDランク)シリーズ
FDランク試験体について,有孔試験体の2-D674SEは孔
部のフランジで先行して降伏したものの,緩やかに耐力
上昇し,その後端部フランジでウェブに対して非対称な
解析モデル
A675D
A005D
A006
A506
A676
梁
H-500×200
×10×16
H-450×150
×12×15
(SA440B)
解析モデル一覧 10)
補強孔
あり
なし
なし
あり
あり
備考
試験体2-A675SED再現
無孔
試験体2-A006再現
試験体2-A506SE再現
SA梁最大孔(2/3D)
局部座屈が生じた.それに伴い梁端部ウェブの曲げ型局
表-5
部座屈が生じ耐力が低下した.破壊モードは梁端部の曲
げ破壊であった.
無孔試験体2-D004は,最大耐力到達後,早期に局部座
屈が生じ耐力が急激に低下したが,有孔試験体は高い変
形性能を示した.これはウェブよりもリングが厚く,リ
ングがウェブの局部座屈を拘束することで高い変形能力
解析コード:
解析タイプ:
解析オプション:
降伏条件:
使用要素:
解析諸元 10)
MD-Nastran 2013
非線形静的解析(SOL106)
幾何学的非線形考慮
von Mises,等方硬化則
4節点Shell要素
となったものと考えられる.
4.FEM解析による確認
第3章で述べた実験において,さらに検証が必要であ
ると考えられた連続孔試験体における最大荷重点に至る
性状確認,実験で確認できなかった横座屈の影響および
SA440鋼材の梁における梁せいの2/3貫通孔開口に関して
FEM解析での検討が行われている 10) .以下に,連続孔試
験体とSA440鋼材の梁に関する概要を示す.
表-4に解析モデルの一覧を示す.連続孔試験体の検
討 は , 連 続 孔 試 験 体 2-A675SED ( H-500 × 200 × 10 × 16
SM490A
シアスパン5000mm)の再現モデルA675Dとその
図-12
連続孔モデル解析メッシュの一例 10)
無孔モデルA005Dで行われている.SA440鋼材の梁におけ
る 梁 せ い の 2/3 貫 通 孔 ( H-450 × 150 × 12 × 15 SA440B
シアスパン1350mm)の検討は,試験体2-A506SEと無孔試
験体2-A006の再現モデルA506とA006と,そのモデルをベ
ースに作成した2/3孔モデルA676を用いて行われている.
表-5に解析諸元を示し,図-12,図-13にシア
ス パ ン 5000mm の 連 続 孔 モ デ ル A675D と SA440 鋼 材 モ デ ル
A676の解析メッシュをそれぞれ示す.また,図-14に
SA440鋼材の2/3孔モデルA676の形状寸法を示す.SA440
鋼2/3モデルは,孔部梁端耐力比が1.0となり,なおかつ
補強リング最外径が梁内に納まる補強量となるように設
片山技報
No.34
図-13
(15)
SA440鋼材モデル解析メッシュの一例 10)
計されている.各解析モデルとも梁の加力点位置に強制
1350
60
変位を与え,非線形静的増分解析が行われている.
700
H-450x150x12x15(SA440B)
素材の応力歪み関係は,材料試験結果に基づきマルチ
リニアモデルを設定し,真応力真歪関係に換算して入力
補強リング:PL-50
されている.ヤング係数はE=205000N/mm 2 ,ポアソン比
貫通孔
φ300
は0.3で設定されている.
表-6に解析結果一覧を示す.弾性剛性は,最大耐力
E.PL-60
の 1/3の 荷 重 点 に お け る 割 線 剛 性 と し , 降 伏 耐 力 は 1/3
50
slope factor ,全塑性耐力は1/10slope factorを用い
て求められている.
4.1
図-14
連続孔の検討
A675Dの解析結果を,梁せん断力変形角関係(Q-θ関
解析モデル
係)として比較して示す.図中実線は,実験値として採
A675D
A005D
A006
A506
A676
用した梁端モーメントMを平均シアスパンLで除して求め
た平均せん断力である.弾性剛性,降伏耐力,全塑性耐
力,最大耐力について,解析値,実験値および梁理論に
よる計算値(梁端耐力)との比較を表-7に示す.
50
SA440鋼材2/3孔モデル形状寸法 10)
表-6
図-15に試験体2-A675SEDの実験結果と解析モデル
300
解析結果一覧 10)
弾性剛性 降伏耐力 全塑性耐力 最大耐力
(kN/rad)
(kN)
(kN)
(kN)
11892
155
162
225
11754
162
168
197
72115
548
581
743
72351
535
564
783
68381
547
596
723
表-7より,解析値と計算値は概ね良い対応を示して
いるが,実験値との比較では降伏耐力で20%,全塑性耐
力で10%程度,解析値および計算値よりも実験値が低い
結果を示していることがわかる.荷重の状況を見ると,
降伏耐力以降の変動が大きいことがわかる.全体の傾向
は,解析結果と概ね対応している.図-16に,解析で
の最大耐力発生時点(部材角θ=0.15)の塑性歪みコン
ターを示す.この解析結果から,2つの貫通孔を含む範
囲で梁フランジが塑性化している状況が確認でき,塑性
化領域に2つの貫通孔を設置した場合の構造性能に大き
な問題のないことが確認されている.
図-17に弾性範囲(Q=74kN≒1/3Qu)における解析モ
デルA675D の梁ウェブの応力分布(von Misesの相当応
力)を示す.解析結果から,連続孔の中心間距離を0.75
(d1+d2)とした適用範囲において,各々の貫通孔近傍
の応力分布はほぼ一致しており,相互の孔の影響は小さ
図-15
連続孔試験体解析値と実験値との比較 10)
く,それぞれ独立に貫通孔の構造性能を評価できると考
えられた.
図-17
図-16
A675D
θ=0.15(rad)時の塑性歪コンター 10)
(16)
A675D弾性範囲におけるウェブの応力分布
(Q=74kN) 10)
片山技報
No.34
表-7
連続孔解析値,実験値および計算値の比較
弾性剛性 降伏耐力
(kN/rad)
(kN)
解析値
実験値
計算値
解析/実験
解析/計算
実験/計算
4.2
11892
11199
12084
1.06
0.98
0.93
155
128
144
1.21
1.07
0.89
全塑性耐
最大耐力
力
(kN)
(kN)
162
225
145
195
159
218
1.12
1.15
1.02
1.03
0.91
0.9
SA440梁(梁せい2/3貫通孔)の検討
図-18にSA440鋼材梁に2/3孔を開けて補強した梁モ
デルA676,無孔梁モデルA006および1/2孔梁モデルA506
図-18
の解析結果におけるQ-θ関係を示す.2/3孔のモデル
SA440鋼材無孔,1/2孔,2/3孔の比較 10)
A676と1/2孔のモデルA506を比較すると,A506の最大耐
力および変形性能がやや大きい.これは,A506では梁端
に補強リングがあり,終局時ウェブの局部座屈を補強リ
ングが拘束しているのに対し,A676では梁端ウェブに局
部座屈が発生することで耐力が低くなったと考えられた.
一方,A676と無孔梁モデルA006の結果は概ね一致してい
ることから,2/3孔を開けて補強した梁は無孔梁と同等
の構造性能を有していることが確認されている.
5.目標性能の検証
5.1 耐力評価
図-19
全塑性耐力について,第1期実験時の実験を評価した
孔部全塑性耐力時のM-Q相関関係
ストレスブロック法による既往の評価式 8 ) を用いて算出
することとする.また,EGリングの適用範囲拡大にあ
たり以下の2点について改良を行なった.
(a)適用鋼種拡大によるリングの強度とウェブの強
度が異なる場合を考慮する点
(b)断面形状によっては耐力式内の近似式の近似精
度が低い点
耐力評価式は,図-19に示すように全塑性耐力時の
孔 部 の 曲 げ 耐 力 c Mhp と せ ん 断 耐力 c Qhp の M - Q 相 関 関
係を次式により近似する.
全塑性耐力
C Mhp
= Mhp −
c Qhp
Qhp
�Mhp − Mhfp �
� c Qhp ≤ Qhp �
1
Mhp = Bt f (h + t f )σyf + {h2 − 4(R + PR )2 }t w σyw
4
+t d PR (2R + PR )σys
Mhfp = �1 − β′
htf
2Btf
� Mfp
� )Qp
Qhp = γh α′ (1 − 2R
α′ = AC1 (Pt − 1) + α
片山技報
No.34
(1)
図-20
�
α = 1 − 0.334(1 − 0.93t�)
f R
� 2
� 3
−0.064{(1 − 0.93t�)
f R} − 2.336{(1 − 0.93t�)
f R}
� 2 + 1.754R
� − 0.033
A = 12.98R� 3 − 2.788R
C1 = 1.837
′
(2)
(3)
(4)
(5)
断面寸法の定義
PR
R
+ 0.0815
� )3 + (−0.16Pt − 0.25)(2R
�)2 +
β = C2 {(0.59Pt − 0.93)(2R
�}
(0.026Pt − 0.26)2R
C2 = 1.95R �
PR
R
− 0.5� + 1
2R
2R 2
γh = 1 + 0.0319 � � − 0.489 � �
R=
(17)
R
h
, tf =
tf
h
D
, Pt =
td σys
tw σyw
D
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12),(13),(14)
全塑性耐力実験値および最大耐力実験値と全塑性耐力計
降伏耐力は全塑性耐力をもとに以下の式で近似する.
C Mhy
= Mhy −
Mhy = 0.87Mhp
c Qhy
Qhy
�Mhy − Mhfy � � c Qhy ≤ Qhy �
Mhfp = 0.87Mhfp
算 値 と の 比 較 を示 す . 本 論で 提 案 し た 耐 力評 価 式 (1)~
(15)
(18)で,概ね実験結果を安全側に評価していることがわ
(16)
かる.しかし,試験体2-D674SEについては,計算値が
(17)
全塑性耐力実験値よりも1割程度大きい値を示している.
この試験体は,ウェブ厚に対するリング厚比(t d /t w )が大
(18)
Qhp = 0.8Qhp
きく,リングの外周側の板厚方向外縁付近において応力
が低下し,補強が有効に機能しないことが一因と考えら
ここに,D:梁せい,B:梁幅(FD ランクの場合には
れる.
FC ランクの下限の幅厚比に相当する梁幅を超えない値
とする),t w :梁ウェブ厚,t f :梁フランジ厚,h:ウェ
ブせい,R:孔半径,PR :リング幅,t d :リング厚,
σyf :フランジ降伏応力度,σyw :ウェブ降伏応力度,
σys :リング降伏応力度,Mfp :フランジ全塑性曲げ耐力,
Qp :ウェブ全塑性せん断耐力(各寸法は図-20参照)
改良点(a)について,第1期実験時の耐力評価式
~9)
および既往の評価式
1 )~ 3 )
8)
では,リングの強度がウ
ェブと等しいと仮定し,ウェブとリングの厚さの比(P t)
によりリングの補強効果を評価している.ウェブの高強
度鋼への適用拡大に際し,本稿ではウェブとリングの降
伏応力度に差がある場合,リング厚を強度比(σys /σyw )
分増減させることで等価なリングウェブ厚比(P t)に換
これ につ いて ,全 塑性 耐力 実験 値 e Qp と 計算 値 c Qp が
等しくなるような有効リングウェブ板厚比t de /t w を逆算
することでその影響について検討した.図-24に全塑
性 耐 力 計 算 値 が c Qhbp に よ っ て 耐 力 が 決 ま る 試 験 体 の
t d /t w とt de /t w の関係を示す.図中のt d /t w が概ね 5.5まで
の範囲ではt de /t w はt d /t w を上回っているが,2-D674SE
試験体では,t d /t w が6.7に対してt de /t w が5.5となってい
る.このt de /t w で定まる有効リング厚t de を用いて耐力を
算定することで全塑性耐力を安全側に評価することがで
きる.
また,梁端の曲げ破壊が生じた試験体(表-8でハッ
チ が な い 試 験 体 ) で 試 験 体 2-A675SE-01t お よ び 2A675SEDに ついては,実験実施上の加力制御誤差が比
較的大きかったと考えられる.それ以外は,実験耐力と
計算耐力の比が1.01~1.26の範囲に収まっており概ね良
算して耐力を評価する.
改良点(b)について,ストレスブロック法 1 ) ~ 2 ) で
い 対 応 を 示 し て い る . な お , 2-A675SE-01t お よ び 2-
は耐力評価に 必要な係数α’,β’を数値計算に より求める
用いて算出される耐力計算値に対しては,全塑性耐力実
必要があるが,第1期実験時の耐力評価式 8 ) ~ 9 ) では既
験値が上回る結果となった.
A675SEDについて材料の実強度でなく,規準強度F値を
往の評価式 3) に示される近似式を用いて求めている.
数値計算による精算値をα′0 ,β′0 ,文献 3 ) による近似式
をα′a ,β′a として,それぞれの比を図-21,図-22に
示す.両者ともPR ⁄R = 0.5の場合に,ほぼ1.0となってお
り近似精度が高いが,それ以外の場合に近似誤差が大き
くなり,PR ⁄Rに対して正の相関関係が認められる.これ
を直線式で近似したものが式(8)および式(10)に示す補正
係数C1 ,C2 であり,これらを式(5)および式(9) のように
乗じることで,より小さい近似誤差により耐力を算出す
ることができる.
表-8に実験結果,解析結果
10)
および耐力評価式(1)
~(18)による計算値を耐力一覧として示し,図-23に
図-21
α’の近似修正
図-22
5.2
変形性能
各試験体について,前述の評価式により得られる孔部
全塑性耐力の安全率( c Qhp /c Qbp ),破壊モード,最大耐
力から耐力が10%低下した時点の変形角( θ90 % ),塑性
率および亀裂発生の有無と発生時の変形角一覧を表-9
に 示 し , c Qhp /c Qbp と θ90 % の 相 関 を 図 - 25 に 示 す . 同
図には,実験による破壊モード,耐力低下の有無,亀裂
の有無によりプロットする形状を分けて示し,第1期実
験時の結果および規準となる無孔試験体 A0000の θ90 % を
併記する.図からわかるように c Qhp /c Qbp と θ90 % の間に
β’の近似修正
(18)
図-23
全塑性耐力と最大耐力の
計算値との関係
片山技報
No.34
表-8
降伏耐力
試験体名
または
解析モデル名11)
構
造
実
験
解
析
耐力評価結果一覧
全塑性耐力
最大耐力
実験値 計算値 解析値11) 実験値 計算値 解析値11) 実験値 解析値11)
cQ y
eQ p
cQ p
FEMQ max
eQ y
FEMQ y
FEMQ p
eQ max
(kN)
(kN)
(kN)
(kN)
(kN)
(kN)
(kN)
(kN)
2-A675WE
463
396
520
473
608
2-A675WT
432
384
487
459
497
553
538
736
2-A675SE
471
450
472
450
540
538
758
2-A675ST
2-A675SE-01c
417
450
557
538
737
2-A675SE-01t
484
450
523
538
787
2-A675SED
128
143
155
145
159
162
195
225
(A675D)
2-D004
610
526
647
611
655
519
568
614
2-D674SE
435
471
2-A006
581
790
743
569
471
548
664
528
(A006)
2-A506SE
535
650
528
564
800
783
528
459
(A506)
A0000
583
475
588
603
539
603
730
727
第1期無孔
(A005D)
144
162
159
168
197
166
(A675D-B)
143
155
159
162
167
167
(A005D-B)
144
162
159
(A676)
470
547
542
596
723
td :リング厚
tde:cQhp の値が実験耐力(eQhp)
となるように逆算して求めら
れたリング厚
tw:梁ウェブ板厚
図-24
t d /t w とt de /t w の関係
eQy :1/3 s l ope factor
s l ope factor
計算値:本論提案の耐力評価式による計算値
ハッチは孔部の曲げせん断破壊が先行した試験体を表す.
eQp:1/10
梁端部先行破壊(亀裂無し)
梁端部先行破壊(亀裂有り)
表-9
試験体名
または
解析モデル名11)
構
造
実
験
解
析
2-A675WE
2-A675WT
2-A675SE
2-A675ST
2-A675SE-01c
2-A675SE-01t
2-A675SED
(A675D)
2-D004
2-D674SE
2-A006
(A006)
2-A506SE
(A506)
A0000
第1期無孔
(A005D)
(A675D-B)
(A005D-B)
(A676)
孔部先行破壊(亀裂無し)
耐力比較と変形性能一覧
耐力比
孔部先行破壊(亀裂有り)
θ90%:耐力がQmaxから10%
低下した時点の変形角θ
変形性能
eQ p/ cQ p eQ max / cQ p cQ hp/ cQ bp
θcr
(rad)
θ90%
(rad)
塑性率
亀裂
μ
有
有
有
孔部先行
孔部先行
梁端部先行
梁端部先行
梁端部先行
梁端部先行
1.1
1.06
1.03
1
1.04
0.97
1.29
1.08
1.37
1.41
1.37
1.46
0.87
0.85
0.99
0.99
0.99
0.99
0.044
0.014
0.068
-
0.06
-
≧0.100
≧0.100
≧0.100
≧0.100
≧0.078
≧0.077
≧21.3
≧22.7
≧20.0
≧20.5
≧15.5
≧16.2
0.91
1.23
1.05
-
≧0.080
≧7.0
梁端部先行
1.06
0.91
1.07
1.08
0.87
-
0.049
0.011
0.091
3.7
37.9
梁端部先行
孔部先行
1.26
1.5
-
-
0.095
12.2
梁端部先行
1.23
1.52
1.03
-
≧0.101
≧13.3
梁端部先行
-
-
-
-
0.07
15.8
-
-
-
1.04
1.04
-
-
-
-
梁端部先行
-
梁端部先行
有
有
↑:荷力終了時点でQmaxから
10%以上耐力低下しなかった
試験体
破壊
モード
0.12
θ90%(rad)
0.1
0.08
無孔(A0000)
θ90%=0.070
0.06
0.04
0.02
dQhp/dQbp
0
0.00
0.20
0.40
0.60
図-25
0.80
1.00
1.20
1.40
変形性能比較
θcr:亀裂発生時部材角
θ90%:耐力がQmaxから10%低下した時点での変形角θ
ハッチは孔部の曲げせん断破壊が先行した試験体を表す.
5.3
は 正 の 相 関 関 係 が み ら れ , c Qhp /c Qbp ≥ 0.95と な る 試 験
体はいずれも無孔試験体 A0000 より塑性率が大きくなっ
た.さらに c Qhp /c Qbp ≥ 1の試験体は,亀裂の発生も抑え
弾性剛性
弾性剛性について実験値,解析値 10 ) ,無孔梁の弾性
剛性 a 𝐾𝐾0 に対する各解析モデルの弾性剛性の比( a 𝐾𝐾/ a 𝐾𝐾0 )
お よ び 孔 部 の 降 伏 耐 力 の 計 算 値 min(c Qhsy ,c Qhby ) と 梁 端
部の降伏耐力の計算値 c Qby の比 min(c Qhsy ,c Qhby )/ c Qby を
られている.これは十分な補強を施すことで孔部の変形
表-10に示す.図-26に弾性剛性と孔部-梁端耐力
が低減され,リング溶接部における早期亀裂発生が抑制
比の関係を示す.なお,図-26には第1期実験時の実
されることで耐力が低下せず,変形性能が確保できたた
験結果も併せて示す.図から孔部梁端耐力比の増加に伴
めと考えられる.
い
片山技報
No.34
a 𝐾𝐾/ a 𝐾𝐾0 が増加する傾向が見られる.孔部梁端耐力比
が 0.95以 上 の範 囲 で a 𝐾𝐾/ a 𝐾𝐾0 は 0.95程 度 で あり ,梁 端部
(19)
表-10
の耐力を上回るように梁貫通孔部の耐力を確保すれば,
弾性剛性一覧
補強孔梁の弾性剛性は無孔梁の弾性剛性で評価できると
5.4
弾性剛性
試験体名
または
解析モデル名11)
考えられる.
軸力が作用する梁
軸力が作用する梁の検討について,第3章実験結果に
示す通り,圧縮軸力の2-A675SE-01cは軸力無しの試験体
2-A675SEに比べて降伏耐力が1割ほど低下して,全塑性
耐力が同程度の結果であった.この結果は,無孔断面に
構
造
実
験
おいて軸力の影響が全塑性耐力よりも降伏耐力に対して
現れやすく,その降伏耐力が約0.9倍に低下することは
鋼構造限界状態設計指針 12) に基づく傾向とほぼ一致する.
変形性能および弾性剛性については,軸力無しの試験体
と同程度の結果であることが確認できた.
6.設計および施工
解
析
今回の構造実験およびFEM解析 10 ) により構造性能が確
認された適用拡大範囲を表-11に示す.適用範囲は適
用梁について,適用鋼種:400N/mm 2 級~590N/mm 2 級鋼,
min
実験値 解析値10)
aK/aK0 (cQhsy,cQhby)
aK
eK
(kN/rad) (kN/rad)
/ cQby
2-A675WE
86610
0.84
2-A675WT
84561
0.81
2-A675SE
97414
0.95
2-A675ST
94868
0.95
2-A675SE-01c
82027
0.95
2-A675SE-01t
85157
0.95
2-A675SED
11199
11892
1.01
0.99
(A675D)
2-D004
173742
2-D674S
131919
1.08
2-A006
75890
72115
(A006)
2-A506SE
72859
72351
1.00
0.97
(A506)
A0000
99301
98850
第1期無孔
(A005D)
11754
(A675D-B)
11868
1.01
0.99
(A005D-B)
11757
(A676)
68381
0.95
1.00
eK:弾性剛性実験値
a K:弾性剛性解析値
CQhsy :孔部せん断降伏耐力計算値
CQhby :孔部曲げ降伏耐力計算値
CQby :梁端部降伏耐力計算値
ハッチは孔部の曲げせん断破壊が先行した試験体を表す.
幅厚比ランク:FA~FD,最大梁せい:1500mm,軸力が作
用する梁への適用:軸力比0.1の梁まで,と拡大した.
また,貫通孔について,柱面までの距離:150mm+0.5d,
連続孔ピッチ:1.5d(dは貫通孔径),塑性化領域への
設置個数:2個まで,と拡大した.施工面についても実
験結果により拡大範囲の各パラメータの範囲内で構造性
能に影響がないことが確認され,余盛り高さ:0mm以上,
取り付け許容差:面外方向偏心量最大5mm,傾き量最大
5mm,と拡大した.
6.1
設計
10)
設計方法について,従来通り孔位置に発生する存在応
10)
力がリング補強による耐力内(リング耐力式によるM-
Q相関関係内)に包含されるように設計を行うとしてい
る 式(1) .このリング耐力評価式について,より近似精度
図-26
弾性剛性比較
表-11
適用範囲
を向上させた評価式 式(5 ), 式 (9) を用いてリングの設計を
行なう.なお,リング厚(t d )とウェブ厚(t w )との関
係について,板厚差が大きい場合に,梁に発生した応力
項目
がリングに十分伝わる制限値として,設計計算上ウェブ
適用梁鋼種
幅厚比ランク
最大梁せい
厚に対するリング厚の比(t d /t w )の上限を5.5としてい
る.
軸力が作用する梁への適用について,実験により軸力
比 0.1でEGリングにより補強した梁は,軸力の作用し
ていないものと比較して孔の無い梁と同様に,軸力の影
響により降伏耐力が低下することが確認できた.軸力が
作用する梁への設計は,軸力の作用していない状態で孔
部を設計すれば軸力が作用する場合に,孔部の降伏耐力
改定前
改定後
2級
400 ~ 490N/mm
FA,FB,FC
最大 1200mm
400 ~ 590N/mm2 級
FA,FB,FC,FD
最大 1500mm
150mm+0.5d( D≦ 750mm)
0.2D+0.5d( D>750mm)
梁端孔中心距離
0.367D+0.5d
連続孔ピッチ
2d
1孔
不可
3mm以上
1.5d
2孔
軸力比 0.1 以下まで可能
0mm以上
-3mm≦ et≦ 3mm
-5mm≦ et≦ 5mm
ウェブと平行
5mm以下
塑性化領域設置孔数
軸力梁への適用
余盛り高さ
取り付け許容差
(面外方向へのずれet)
取り付け許容差
(傾きDh1-Dh2)
が低下しても梁端部も同様に降伏耐力が低下し,結果的
に梁端部の先行降伏を保証できる仕組みとなっている.
6.2
取り付く梁や免震層梁などへの適用が可能となった.
施工
施工方法について,今回の実験では余盛り高さ0mmに
これにより従来使用することの出来なかったブレースの
切削して実験を行い,面外偏心量も最大で5mmとして行
(20)
片山技報
No.34
った.その結果は,貫通孔部を十分補強すれば余盛り量
謝辞:本研究において,構造実験は大阪大学卒業生 越
や偏心量の影響は少なく,従来施工と遜色の無いことが
智広紀氏のご協力の下に遂行され,FEM解析は清水建設
確認できた.これにより従来 3mm以上としていた余盛り
株式会社
量を0mm以上とすることができ,ウェブ厚12mmの場合で
されました.ここに感謝の意を表します.
技術研究所 石井大吾氏のご協力により遂行
溶接量を20%低減することが可能となり,より少ない溶
着金属量での施工が可能となった.また,面外偏心量に
参考文献
ついても,従来3mmであった上限値を5mmまで拡大した.
1)福知保長,土井康生,細川裕司:円形孔を有するはり
これにより取り付け時の傾き(最大高さ-最小高さの差)
の耐力と設計法1. 無補強の場合の耐力,日本建築学
を 5mm以内とすることができ,取り付け時の施工負荷を
会論文報告集,No.296,pp.27-35,1980.10.
低減することが可能になった.さらに,この偏心量の拡
2)土井康生,福知保長:円形孔を有するはりの耐力と設
大によって,従来リング芯とウェブ芯とを一致させるた
計法 3. 実用的耐力算定式の提案,日本建築学会論文
めに,ウェブ厚毎に設定していた梁に加工する下孔径を
報告集,No.357,pp.44-51,1985.11.
孔径毎に最大4種類に集約したリングを新たにラインナ
3)加藤勉,金子様文:鉄骨梁貫通孔の梁端からの限界距
ップとして設定した.新リング形状を図-27に示す.
離について,日本建築学会構造系論文集,No.496,
この新リングは,開先面にのど厚最小実験に用いた形状
pp.105-102,1997.6.
の突起を設け,最小のど厚が確保できる寸法とすると同
4)大庭秀治,福知保長,井戸田秀樹,青木量介,伊藤倫夫:
時に位置決めにも有効で,取り付け位置が下孔径の誤差
鍛造製補強リングを用いた鉄骨有孔はりの補強(その
に影響されないようにしている.
1),日本建築学会大会梗概集,構造III,pp.609610,2003.9.
5)青木量介,福知保長,井戸田秀樹,大庭秀治,伊藤倫夫:
鍛造製補強リングを用いた鉄骨有孔はりの補強(その
2),日本建築学会大会梗概集,構造III,pp.611-
図-27
新リング形状
612,2003.9.
7.まとめ
6)大庭秀治,井戸田秀樹,福知保長,伊藤倫夫,長澤孝一
本論では実験およびFEM解析
10 )
により,EGリングの
郎:鍛造製補強リングを用いた鉄骨有孔はりの補強
構造性能の確認と耐力評価の検証を行い,新たな耐力評
(その3),日本建築学会大会梗概集,構造III,
価式による設計法の提案を行った.これらによりEGリ
pp.707-709,2005.9.
ング工法の適用範囲を拡大することができた.
7)長澤孝一郎,井戸田秀樹,福知保長,大庭秀治,伊藤倫
本論で得られた知見を以下に示す.
・既往の耐力評価式
8)
夫:鍛造製補強リングを用いた鉄骨有孔はりの補強
に基づき,梁とEGリングの使用
(その4),日本建築学会大会梗概集,構造III,
鋼材の降伏強度の違いを考慮し,計算に必要な係数
α’,β’の近似精度を高めた新たな耐力評価式を提
pp.707-711,2005.9.
8)沼田俊之,林美樹,向出静司,多田元英,橋田知幸:
案した.
鋼構造建築における梁貫通孔補強工法の実験的検証
・新たに提案した評価式は,面外方向の偏心が大きい場
(その1),日本建築学会大会学術講演梗概集,C-1分
2
合,のど厚が小さい場合,高強度鋼(590N/mm 級)材
を使用した梁の場合のいずれにおいても,補強有孔部
冊,pp.577-578,2008.9.
9)林美樹,向出静司,多田元英,沼田俊之,橋田知幸:
の実験結果による全塑性耐力と概ね良い対応を示した.
鋼構造建築における梁貫通孔補強工法の実験的検証
ただし,リング厚と ウェブ厚との比が 5.5を超える 場
(その2),日本建築学会大会学術講演梗概集,C-1分
合はリング厚を低減する必要がある.
冊,pp.579-580,2008.9.
・軸力の影響について,軸力比0.1での全塑性耐力,変
10)日本建築総合試験所:建築技術性能証明評価概要報
形性能,弾性剛性は軸力無しの試験体と同程度であっ
告書 梁貫通孔補強工法(EGリング工法)-鉄骨梁
た.降伏耐力は,無孔断面梁と同程度の割合で孔部の
の貫通孔周囲をリング状鋼板で補強する工法-(改
耐力が低下すると考えられる.
定),2014.6.
・梁端部の耐力を上回るように孔部の耐力を確保すれば,
11)日本建築学会:鋼構造設計規準-許容応力度設計法
-,8章板要素の幅厚比,2005.9.
孔部の塑性変形が小さく抑えられ,リング溶接部の亀
裂発生が抑制されることで,無孔試験体と同等以上の
12)日本建築学会:鋼構造限界状態設計指針・同解説,
2010.2.
変形性能を発揮できる.
・梁端部の耐力を上回るように孔部の耐力を確保するこ
とで,無孔の弾性剛性と同等の弾性剛性が確保できる.
片山技報
No.34
(21)