勝俣 範之 倉田 宝保先生 中島 貴子先生 朴 成和先生 野村 久祥先生

勝俣 範之 先生
倉田 宝保 先生
中島 貴子 先生
朴 成和 先生
野村 久祥 先生
日本医科大学
関西医科大学附属
聖マリアンナ医科大学
国立研究開発法人
国立研究開発法人
武蔵小杉病院
枚方病院
臨床腫瘍学講座
国立がん研究センター
国立がん研究センター
腫瘍内科 教授
呼吸器腫瘍内科
准教授
中央病院 副院長
東病院 薬剤部 主任
(司 会)
診療教授
消化管内科 科長
(発言順)
勝俣 がん診療ではチーム医療が重要視されていますが、先生方のご施設では、どのように取り組まれていますか。
倉田 関西医科大学附属枚方病院では、緩和ケアチームと化学療法を行う医師、看護師がシームレスに連携し、外来で緩和ケアに関す
る相談があった場合は、すぐに対応できる体制を整えています。
中島 聖マリアンナ医科大学病院の特徴の 1 つとしてチーム医療の充実があげられ、医師、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーな
どが一丸となって取り組んでいます。緩和ケアチームとがん診療にかかわっている診療科との連携もスムーズです。また、医師が患者
さんを診察する前に、薬剤師や看護師による面談があり、例えば、抗 EGFR 抗体製剤のように全身の視診が必要な薬剤、詳しい病歴
の聴取を要する薬剤に関しては、患者さんが診察室に入ってくるときには、聴取した情報が記載されたチェックシートが申し送りされ
てきますから、とても助かっています。
朴 国立がん研究センター中央病院では、サポートセンターをつくり、精神腫瘍科が中心となって初診の患者さんに対して苦痛スクリー
ニングを行い、患者さんが抱えている悩みなどに薬剤師や看護師が対応する相談外来の設置などを計画しており、それがチーム医療の
活性化にもつながると思っています。
野村 私は主に外来化学療法室で診察後のサポートを行っています。国立がん研究センター東病院では薬剤師も診療科に所属している
ため、なかなか横のつながりを構築するのが難しい一方で、がん患者さんに適切ながん診療を提供したいという思いを持つメディカル
スタッフが多く、そうした中でやりがいを感じています。
勝俣 各施設で課題もあると思いますが、近年は医師やメディカルスタッフの意識も変わってきていてチーム医療を行いやすい環境に
なってきているようですね。
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勝俣 次に、レジメン管理の意義と実際について、ディスカッションしたいと思います。最初に野村先生から、医療安全の確保、レジ
メンの見直しによる経済効果などについてお話しいただきましょう。
野村 処方箋を手書きしていた頃の記入ミス、注射オーダーなどのパソコンへの入力ミスなどは注意していても起こってしまうことが
あります。こうしたミスを防ぐため、最近は、患者さんの身体情報が表示されている画面上でレジメンを選択すると、セット登録され
ている処方内容が自動計算できるようになりました(図 1)。レジメン管理システムの導入によって、医師は化学療法のオーダーを簡
便かつミスなく行えるようになり、以前に比べて医療の安全性が高まったと思います。
当院の 2013 年 1~12 月の外来化学療法オーダー(35,062 件)に対する疑義照会件数を調べたところ、薬剤師が問い合わせを行っ
たのは 408 件(1.2%)で、そのうち 58%で処方内容が変更されていました(表 1)。疑義照会の詳細をみると、
「投与量違い」や「減
量し忘れ」など、そのまま投与した場合には、一過性に中程度の処置が必要となるレベル 3a 以上のミスが 40%を占めていました(図 2)。
また、レジメン登録によって、制吐剤などの過剰な処方を抑えることができますから、このシステムは安全性はもちろん経済的にも有
用だと考えられます(表 2)。
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勝俣 疑義照会が 1.2%とは少ない印象がありますが、何か基準を設けているのでしょうか。
野村 特に基準は設けていませんが、チェックする項目は決まっていて、投与量やスケジュール、検査値などを確認しています。
勝俣 レジメン管理は薬剤師の先生方の働きなくしては実践できないと感じています。レジメンの管理や標準化では苦労されたと思い
ますが、何か工夫された点、特に苦労された点などがありましたら、お聞かせください。
野村 別の病院での経験ですが、診療科によっては疑義照会を行ってもなかなか対応してくれないこともありました。そうした状況で
は、いわゆるヒヤリハットが起こりますから、それを機に少しずつ各診療科に疑義照会を受け入れてもらえるようになりました。現在
の勤務先では、各診療科の医師と処方内容についてディスカッションすることもあります。また、各診療科の薬剤師に相談して、診療
科内で薬剤師が医師と個別に話し合うこともあります。
倉田 当院では薬物療法委員会がレジメン登録を行うことになっていますが、施設全体でレジメン管理を徹底するのは容易ではないと
感じています。
中島 当院では腫瘍センター配属の薬剤師が、院内の全ての抗がん剤の調製、患者さんへの服薬指導、レジメン管理などを担っています。
各診療科と薬剤部の壁が低いのが特徴的で、薬剤師が作成した制吐剤のガイドラインなども院内にスムーズに浸透しています。
勝俣 先生方は、医療関係者向けがん情報サイト「sawai oncology」の「レジメン紹介&薬価計算」の監修を担当されましたが、ご感想、
考慮された点、苦労された点などについてお話しいただけますか。
朴 レジメンについては、何を載せれば多くの医療者に役立つのかを考えました。次に、どの医療施設においても実践的で参考になる
ものにしたかったので、制吐剤の処方なども考慮しながら作成しました(図 3)。
倉田 肺がんを担当したのですが、エビデンス構築のもととなった臨床試験に自分自身が参画していなかった(使用したことがない)
レジメンもあり、苦労しました。
中島 このコンテンツでは、全てのレジメンについて、標準品あるいはジェネリック医薬品を使用した場合のコストが簡単に計算でき
るので、とても便利だと感じています(図 4)。また、そのレジメンのエビデンスを知りたいときには、クリックするだけで該当文献
情報が閲覧できる点も医療者にとってよいと思います。監修に当たっては、レジメンのエビデンスレベルにも十分に注意を払いました。
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勝俣 私も監修に携わりましたが、乳がんなどはレジメンが多いので、何が標準治療かを知っていただく意味でも、このコンテンツを
作成してよかったと感じています。がんに関するこうした情報は医療者のみならず患者さんにとっても有用ですし、医療者は患者さん
の経済的負担を考慮することも必要ですから、薬価計算ができるコンテンツは非常に有用だと思われます。
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勝俣 患者さんの治療満足度を高めるためには、患者さんとのコミュニケーションも大切です。
患者さんへの情報提供、説明を十分に行うためにも、薬剤師外来や看護師外来を広めていく必要
があると感じていますが、先生方のご施設の現状はいかがでしょうか。
野村 当院では外来化学療法ホットラインを設置し、患者さんからの電話による質問・相談を薬
剤師や看護師が受け、トリアージして医師に電話をつないでいます。
勝俣 直通電話が外来化学療法室に入ってくるのですね。
勝俣 範之 先生
野村 そうです。午前 8 時 30 分~午後 3 時までは薬剤師が、午後 3 時以降は看護師が電話を受
けています。
中島 当院は直通電話ではなく、代表電話を通して腫瘍センターに電話がつながるようになって
おり、まず看護師が電話を受け、主治医が対応すべきことなのか、それとも薬剤師や看護師が対
応したほうがよいのかをトリアージしています。
倉田 当院はがん治療・緩和センターの受付で電話を受け、その内容を看護師がトリアージし、
診療科の医師に電話をつないでいます。
中島 貴子 先生
朴 当院は受付でトリアージしていますが、医師にまわってくる電話の件数は多いと感じています。例えば、体温が 37 度 2 分に上昇
しただけで電話をかけてくる患者さんもいますが、そのような場合には「抗がん剤を服用中だからといっても、体温が 37 度を少し超
えたくらいでは大きな問題はありません。抗がん剤を服用していなかったときと同じ意識で大丈夫ですよ」などと、抗がん剤を使用し
ているから特別に危ない状態というわけではないことを説明し、過剰に心配しないように指導しています。
中島 確かに、患者さんはがんの発症に加えて、副作用が懸念される抗がん剤治療を受けることになり、普段よりも過剰に心配せざる
を得ない状況になっています。こうした過剰な不安を解消し、安心してもらうためには、チーム医療によって、医師が診察時に説明す
るのに加えて、薬剤師や看護師が「それくらいなら大丈夫ですよ。でもこうなったら危険ですからすぐに電話してくださいね」などと
繰り返し説明することが重要だと感じています。
野村 当院のホットラインにもそうした過剰な不安による質問・相談が多いのですが、朴先生のお話のように 37 度 2 分で電話してき
た場合は「37 度 5 分になったらまた電話してください」と伝え、本当に医師の対応が必要な場合に限って医師に電話をつなぐように
しています。実際、医師に電話を転送するのは全体の 1~2%程度です。
勝俣 ホットラインを設置されていて、困った点、難しい点などはありますか。
野村 判断に困る場合は医師に委ねていますし、医師から「外来にすぐ来るように言って」と指
示があった場合はそれを患者さんに伝えています。当院はいつでも外来に来てもらうスタンスで
すから、医師に電話をつなぐ機会は少ないですが、その分、外来に来る患者さんは多いと思います。
野村 久祥 先生
勝俣 わが国の多くの施設では、化学療法室はあってもトリアージを行っているところは少ない
と思いますから、そうした取り組みの成果などをオープンにして、広めていくことが望ましいで
すね。当院の外来化学療法室でも薬剤師や看護師が特に指示をしていなくてもトリアージしてく
れています。些細なことでも不安になって電話をかけてくる患者さんは少なくありませんから、
薬剤師や看護師が患者さんの不安を聞き入れ、クッションのような役割を担うことで、主治医の
負担も軽減され、患者さんの満足度の向上にもつながると考えられます。
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勝俣 次に、副作用に関する情報の収集や共有化については、どのような対策を講じていますか。
朴 以前の勤務先では、患者さんには副作用メモを毎日つけてもらっていました。受付でそのメモを見た看護師から「○○さん、具合
が悪そうだから早く診てください」などと連絡が入ることもあり、そうした情報の共有化はとても役に立ちました。
中島 当院ではマークシートによる副作用情報の共有化を進めています。
勝俣 患者さんが訴える副作用と医療者が確認する副作用の程度に差があること、副作用を最も
軽くみているのは医師だというデータもあります。
朴 悪心、嘔吐、皮疹など取り組みやすい副作用には積極的に対策を講じていましたが、実際に
有害事象が起こったときに患者さんの QOL を最も悪化させるのは発熱、その次は倦怠感で、悪心、
嘔吐はかなり下位であることが分かりました。そのため、副作用対策では患者さんの生活に最も
影響している副作用に注意することが重要です。また、患者さんは医師には副作用について訴え
ないこともあるため、薬剤師や看護師などに訴えた副作用情報を入手する仕組みをつくることが
大切だと思います。
朴 成和 先生
勝俣 そうですね。チーム医療で、従来のがん治療のさまざまな問題点を浮き彫りにして、対策を講じていくことも重要だと思います。
勝俣 最後になりましたが、わが国におけるがん治療の今後の展望について、コメントをお願いします。
倉田 新しい薬剤や治療方法が次々と登場し、がん治療が複雑化しているにもかかわらず、適切な
治療の選択や管理に精通する医師はまだまだ少ないのが現状です。今後はがん専門医を増やしてい
くことや、がん専門病院が中心となって患者さんを治療していくことが重要になると考えています。
倉田 宝保 先生
中島 地域に密着した医療にかかわっている立場から、最新の技術や治療薬にのみ注目するのでは
なく、副作用やコストの問題なども含めて患者さんにとって最善で最適ながん治療を提供したいと
思っており、地域を含めた広義のチーム医療でがん患者さんを支えることができれば、日本のがん
治療もさらに発展すると考えています。
朴 治療法の進歩も大切ですが、工夫することで少しでもよりよい医療が提供できるように日々の診療のなかで少しずつ自分自身が向
上していくことを心がけています。そして、チームで協力し、できることを少しずつ増やしていきたいと思っています。
野村 がん治療をさらに前進させるためには、地域における病診薬連携の強化も必要で、今後は院外の医師や薬剤師などとの連携も含
めたチーム医療を推進していくことが重要だと考えています。
勝俣 がん治療の主役は患者さんであり、われわれ医療者は治療を受ける患者さんをチーム医療で支えていくことが原点だと思います。
チーム医療を充実させるためには、腫瘍内科医が中心となってチームの各専門家をまとめていくことがポイントになると考えています。
また、チームで患者さんを診るのが当たり前の時代ですから、がん治療においてチーム医療という言葉を使う必要がなくなることを願っ
ています。先生方、本日は有意義なお話をありがとうございました。
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