CaH 分子の紫外領域でのレーザー分光

CaH 分子の紫外領域でのレーザー分光
渡辺響平
CaH の電子遷移は太陽や M 型矮星で観測されており、低温の星の表面の重力
や光度の調査に用いられている[1]。CaH は理論計算によると状態間の相互作用
によりダブルミニマムの構造を持つとされている[2]。ポテンシャルが浅い部分
では、振動の速度が遅くなり回転と振動の相互作用が大きく出て来ることに
我々は興味を持っている。CaH の分光は 1920 年代から行われてきているが近年
でも多くの研究が行われてきており[3]、1979 年に Bell らによって紫外領域での
D2∑+-X2∑+の測定が行われ[4]、Bernath らによって 2004 年以降に赤外領域から可
視領域での A2∑+, B2∑+, E2∑+-X2∑+の測定が行われており上下状態の分子定数が
決定されている[5-8]。しかし、ダブルミニマムを持つとされる B2Σ+-X2Σ+遷移は
まだ観測されていないため、我々は B2Σ+-X2Σ+遷移のポテンシャル壁の少し上方
の紫外領域での分光を目指し実験を行っている。
CaH の生成は、水素ガスを封入した真空容器内でカルシウム片をレーザーア
ブレーションする事でカルシウムと水素を反応させることにより行った。分光
はレーザー誘起蛍光法を用いて行い、励起レーザーには色素レーザーの 2 倍波
を用いた。蛍光は分光器を通した後に光電子増倍管(PMT)で観測を行っており、
分光器の波長を動かす事で発光スペクトルを測定でき、励起レーザーの波長を
動かすことにより励起スペクトルを測定する事が出来る。今回は 360~430nm の
範囲で励起スペクトルを測定した。
今回の分光結果の解析を行ったところ過去に確認された CaH の D2∑+-X2∑+の
遷移が確認された他、未同定のスペクトルが数多く確認できた。今回はその中
にこれまでに確認されていない CaH の基底状態 X2∑+からの遷移と見られるもの
をいくつか帰属し、それぞれ上の状態が D2Σ+と B2Σ+であることを確認した。ま
た、解析を進めるうちに新しいいくつかの問題が見出された。(1)上の状態が B2Σ+
と帰属された全てのバンドで回転量子数が低い遷移の強度が理論計算と比較し
大幅に減少していること、(2)遠心力歪み定数 D が負になる。 (3)理論計算で求
めたポテンシャルから求めたそれぞれの状態での核間の平均距離は B2Σ+よりも
D2Σ+が短くなっているのに対して、我々の帰属に加え過去の Bell らの帰属の回
転定数から計算した核間の平均距離は D2Σ+よりも B2Σ+が短くなっているなどで
ある。今回の発表ではそれらの新しく帰属したバンドとそれらの問題について
議論する。
[1]
[2]
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
[8]
B. Barbuy, et al., Astron. Astrophys. Suppl. Ser. 101, 409 (1993).
P. F. Weck and P. C .Stabcil, J. Chem. Phys. 118, 9997(2003).
R. S. Mulliken, Phys. Rev. 25, 509 (1925).
G. D. Bell, et al., Physica Scripta 20, 609 (1979).
A. Shayesteh, et al., J. Mol. Struct. 695-696, 23 (2004).
R. S. Ram, et al., J. Mol. Spectro. 266, 86 (2011).
G. Li, et al. Quant. Spectrosc. Rad. Transfer. 113, 67 (2012).
A. Shayesteh, R. S. Ram, and P. F. Bernath, J. Mol. Spectro. 288, 46 (2013).