博士(栄養学)学位論文要旨 中学生の食に関するメディアリテラシー尺度

博士(栄養学)学位論文要旨
中学生の食に関するメディアリテラシー尺度の開発
Development of the Diet -related Media Literacy Scale
among Junior High School Students
2012年
指導教員
武見
ゆかり教授
氏名
中西
明美
NAKANISHI, Akemi
女
子
栄
養
大
学
子どもの食物選択要因の 1 つにメディアの影響が挙げられる。
メディアのうち、日本の中学生のテレビ視聴時間は約 3 時間で、
米 国 や 韓 国 に 比 べ て 長 い 。欧 米 で は 、テ レ ビ の 視 聴 時 間 が 長 い 子
ど も は 菓 子 や ソ フ ト ド リ ン ク の 摂 取 が 多 く 、逆 に 野 菜 や 果 物 の 摂
取 量 が 少 な い と の 報 告 が み ら れ る 。テ レ ビ 視 聴 時 間 が 食 生 活 と 関
連 し て い る 要 因 の 1 つ に 、食 品 広 告 等 、メ デ ィ ア か ら の 食 情 報 の
影 響 が あ る と さ れ る 。従 っ て 、子 ど も の 望 ま し い 食 習 慣 形 成 の た
め に は 、メ デ ィ ア か ら の 食 情 報 を 鵜 呑 み に せ ず 、自 身 の 健 康 を 考
え 、客 観 的 、主 体 的 に 判 断 す る 力 の 形 成 を 目 的 と す る メ デ ィ ア リ
テ ラ シ ー 教 育 が 必 要 と 考 え る 。し か し 関 連 す る 研 究 は 国 内 外 共 に
未 だ 少 な く 、子 ど も の 食 に 関 す る メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー を 測 定 す る
指標としては間食に限定されたものだけしかない。
そ こ で 、本 研 究 の 目 的 は 、食 事 全 体 の 望 ま し い 習 慣 的 な 摂 取 と
関 連 づ け た 、中 学 生 の 食 に 関 す る メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー 尺 度 を 開 発
す る こ と で あ る 。本 研 究 の メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー の 定 義 は「 子 ど も
が メ デ ィ ア か ら の 食 情 報 を 鵜 呑 み に せ ず 、食 品 表 示 等 を 用 い て 客
観的・主体的に読みとる力」とした。
第 1 章では、中学生のテレビ視聴時間と食物摂取量、食行動、
食 態 度 と の 関 連 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 、埼 玉 県 S 市 内 中 学
校 全 8 校 の 中 学 2 年 生 7 8 7 名 を 対 象 に 質 問 紙 調 査 を 実 施 し た 。テ
レ ビ 視 聴 時 間 群 別 に 、中 学 生 ・ 高 校 生 用 簡 易 型 自 記 式 食 事 歴 法 質
問 票 (BDHQ15y)を 用 い て 把 握 し た 食 品 群 別 摂 取 量 及 び 栄 養 素 摂 取
量 、食 行 動 、食 態 度 と の 関 連 を 男 女 別 に 解 析 し た 。そ の 結 果 、テ
レビ視聴 4 時間以上群は、男女共に、野菜類、その他の野菜類、
鉄 、食 物 繊 維 の 摂 取 量 が 有 意 に 少 な く 、 望 ま し く な い 食 事 を し て
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いることが明らかになった。また、食行動、食態度(男子のみ)
でも望ましくない傾向がみられた。
第 2 章 で は 、食 に 関 す る メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー 尺 度 を 作 成 し 、 そ
の 信 頼 性 と 妥 当 性 の 検 討 を 目 的 に 、東 京 都 M 市 内 中 学 校 3 校 及 び
埼 玉 県 S 市 内 中 学 校 2 校 の 中 学 1~ 3 年 生 2,064 名 を 対 象 に 調 査
を 実 施 し た 。尺 度 の 信 頼 性 は 、内 的 整 合 性 と 再 検 査 法 に よ り 確 認
し た 。 妥 当 性 は 、「 間 食 選 択 動 機 」 調 査 票 、 一 般 的 な メ デ ィ ア リ
テ ラ シ ー 尺 度 と の 関 連 か ら 併 存 的 妥 当 性 と 、メ デ ィ ア 利 用 状 況 と
の関連から構成概念妥当性を検討した。探索的因子分析の結果、
批 判 的 思 考 を 示 す「 食 品 広 告・販 売 促 進 か ら の 影 響 」と「 食 に 関
す る メ デ ィ ア か ら の 情 報 へ の 批 判 的 認 識 」、食 の 自 律 的 判 断 を 示
す 「 食 品 表 示 活 用 」 、「 栄 養 バ ラ ン ス の 判 断 」 、 以 上 の 4 因 子 構
造 16 項 目 の 尺 度 が 得 ら れ た 。 さ ら に 、 確 証 的 因 子 分 析 の 結 果 、
高 い 適 合 度 (GFI=0.964 、 AGFI=0.950 、 CFI=0.960 、 RMSEA=0.049 )
が 得 ら れ た 。信 頼 性 で は 、ク ロ ン バ ッ ク の α 係 数 は 十 分 に 高 く( α
=0.763~ 0.833) 、 再 検 査 法 に よ る 時 間 的 安 定 性 も 確 認 さ れ た 。
妥 当 性 で は 、上 記 の 2 尺 度 と の 併 存 的 妥 当 性 が 確 認 さ れ た 。ま た 、
各 因 子 得 点 を 目 的 変 数 と し た 重 回 帰 分 析 の 結 果 、「 食 品 広 告 ・ 販
売 促 進 か ら の 影 響 」は 、平 日 の テ レ ビ 視 聴 時 間 、テ レ ビ に 対 す る
保 護 者 の 肯 定 的 意 見 と 負 の 関 連 (β =-0.216~ -0.107)が み ら れ た 。
一 方 、他 の 3 因 子 は 、テ レ ビ に 対 す る 保 護 者 の 批 判 的 意 見 と 正 の
関 連 ( β = 0 . 0 6 8 ~ 0 . 1 4 0 ) が み ら れ 、構 成 概 念 妥 当 性 が 確 認 さ れ た 。
第 3 章 で は 、中 学 生 の 食 に 関 す る メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー 尺 度 と 食
物 摂 取 と の 関 連 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 、食 に 関 す る メ デ ィ
ア リ テ ラ シ ー 4 因 子 の 得 点 と 、 BDHQ15y を 用 い て 把 握 し た 習 慣 的
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な 食 品 群 別 摂 取 量 と の 関 連 を 検 討 し た 。対 象 は 第 2 章 と 同 じ で あ
る 。そ の 結 果 、男 子 で は 、批 判 的 思 考 を 示 す「 食 品 広 告・販 売 促
進 か ら の 影 響 」 得 点 別 で は 、 菓 子 の 摂 取 量 は 、 高 群 (33
g/1,000kcal)が 、 中 群 (39)、 低 群 (40)に 比 べ 有 意 に 少 な か っ た 。
「 食 に 関 す る メ デ ィ ア か ら の 情 報 へ の 批 判 的 認 識 」で も 清 涼 飲 料
類 の 摂 取 量 は 、得 点 が 高 い 方 が 有 意 に 少 な か っ た 。 自 律 的 判 断 を
示 す 「 食 品 表 示 活 用 」 得 点 別 で は 、 野 菜 類 の 摂 取 量 は 、 高 群 (87
g / 1 , 0 0 0 k c a l ) が 低 群 ( 7 3 ) に 比 べ 有 意 に 多 く 、「 栄 養 バ ラ ン ス の 判
断 」で も 野 菜 類 や 豆 類 等 の 摂 取 量 は 、得 点 が 高 い 方 が 有 意 に 多 か
っ た 。女 子 で は 、批 判 的 思 考 及 び 自 律 的 判 断 の 因 子 得 点 が 高 い 方
が 、野 菜 類 、果 実 類 、魚 介 類 等 の 摂 取 量 が 多 く 、さ ら に 、自 律 的
判 断 の 因 子 得 点 が 高 い 方 が 菓 子 類 の 摂 取 量 が 少 な か っ た 。以 上 よ
り 、因 子 得 点 と 食 物 摂 取 の 関 連 は 男 女 に よ り 一 部 異 な る が 、食 に
関 す る メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー の 高 い 生 徒 は 、低 い 生 徒 に 比 べ 、野 菜
類や豆類といった健康のために推奨される食品群の摂取が多く、
逆に菓子類と清涼飲料類といった摂り過ぎへの注意喚起がされ
る食品群の摂取が少ないことが明らかになった。
以 上 か ら 、 信 頼 性 と 妥 当 性 の 確 認 さ れ た 4 因 子 構 造 16 項 目 で
構 成 さ れ る「 食 に 関 す る メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー 尺 度 」を 開 発 で き た 。
本 研 究 は 、食 に 関 す る メ デ ィ ア リ テ ラ シ ー と 習 慣 的 な 食 物 摂 取 の
関 連 を 示 し た 初 の 研 究 で あ り 、中 学 生 の 望 ま し い 食 習 慣 の 形 成 に
向 け て 、従 来 、家 庭 科 等 で 実 施 さ れ て き た 栄 養 バ ラ ン ス 等 の 自 律
的 判 断 の 学 習 に 加 え 、メ デ ィ ア か ら の 食 情 報 に 対 す る 批 判 的 思 考
を育てる学習の必要性を提示するものである。
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