企業訪問(オーストリア Energy Cabin社)

情報報告 ウイーン
●企業訪問(オーストリア Energy Cabin社)
今回紹介する企業は、オーストリア南部のグラ
イスドルフ市にあるEnergy Cabin社である。同社
は2年前に設立されて欧州で高まる再生可能エネ
ルギーに着目し、バイオマスボイラーと太陽熱パ
ネルを組み合わせたユニット型のユニークな製品
を製造している。営業担当のミヒャエル・チェル
ベーニ氏にお話を伺った内容を以下に報告する。
右写真が、同社の製品であり側面部分が太陽熱パ
ネルとなっており、内部にバイオマスボイラーが
内蔵されている。
1.必要に応じてバイオマスボイラーを稼動
本製品は、太陽熱パネルとバイオマスボイラーを組み合わせた製品で、出力は10~3,000kWまで
の製品を取り揃えている。今のところ他社でこうした製品を製造しているのは見受けられない。
温水生産については、太陽熱利用によって得られる温水をまずバッファタンクに貯留するが、不
足時はバイオマスボイラーが自動起動して温水を提供するシステムになっている。また、遠隔操
作が可能であり、製品の運転状況の把握や制御内容を変更することが容易である。太陽熱パネル
から生産される割合は、例えば家庭用の小規模な製品であれば20~25%、ホテルのような規模が
大きい場合になると5%程度供給している。規模が大きくなるにつれて比率が下がるのは、太陽
熱パネルを2倍、4倍にして生産量を増加させることは可能であるが、大規模な施設の需要量に
対応する場合はバイオマスボイラーの依存が高くなるためである。
原材料は、ペレットとウッドチップが利用できる。ただし、ウッドチップの場合はエネルギー
密度がペレットの4分の1であるため、その分原材料貯蔵庫が大きくなり、別棟に貯蔵庫を設け
ることになる。ペレット供給については、貯蔵庫内が少なくなればペレット供給業者に連絡して
補充を行う。少なくとも数日以内に業者がやってきて、薬品供給ローリー車のような専用のペレ
ットローリー車からノズルを差し込んでペレットを供給する(ホームセンターでペレットを購入
してボイラーへ投入する程度の規模は想定していないとのこと)。
なお、ペレットについては安定した価格が続いていたものの昨年価格が高騰した。それはペレ
ットコストが減少し、新規投資が控えられた影響と原油高騰の影響から、ペレット価格が急激に
高騰したためである。しかしながら、今後は新規ペレット生産工場が稼動予定でペレットは安定
供給されると考えられており、そういった価格高騰の可能性は少ないだろう。
オーストリアのような冬期間が長く暖房利用の多い地域では、原材料貯蔵庫は大きくなるが、
イタリアのようなそこまで暖房利用の多くない地域は、原材料貯蔵庫は小さくて済む。原材料貯
蔵庫は、製品の半分以上のスペースを占めるため、寸法を決める上で重要な指標となる。
メンテナンスについては、煙突は、年4回法律で煙突点検が義務付けられているので(少なく
ともオーストリアでの話)、煙突点検業者が行う。燃えた後の灰は、専用の収集箱に集められ、1
~2ヵ月に1度処分する必要がある。バイオマスボイラーについては、ボイラーメーカが点検を
行う。幸運なことに、採用しているボイラーメーカは、欧州各地に製品を提供しており、サービ
ス拠点が各地にある。また、同製品はバイオマスボイラーや太陽熱パネルといった製品を全て半
径数十キロ以内のメーカーより仕入れ、組み立てを行っているため、部品輸送コストも小さく済
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んでいる。
2.ユニット型、再生可能エネルギー利用によって数多くの利点あり
本製品は、ユニット型で内部にバイオマスボイラーやバッファタンク、ボイラー用原材料の貯
蔵スペースといった必要な設備が内蔵されており、運搬時には既に運転確認も終了しているため
に太陽熱パネルを折りたたんで運搬、設置後、温水パイプ接続を行うだけで利用可能となる。わ
ざわざ既設家屋を改造して、ボイラー室や煙突を新たに設置する必要はない。そのため、容易に
化石燃料から再生可能エネルギー利用の転換が可能である。そして、ユニット型であるためリー
スも可能である。これは、イニシャルコストを抑えたい場合は有効な手段と言えるであろう。
顧客の中には、夏季間のみ営業するホテルもある。こうした所では、温水を得るために業者と
年間契約をする必要がありコストが高くついていたが、この製品であれば営業時のみ原材料調達
コストで温水が利用可能となり、コスト削減につながる、といったケースも見受けられる。
また、再生可能エネルギーを利用しているため、政府からの支援が得られる。地域にもよるが、
例えばオーストリアでは化石燃料ボイラーからバイオマスボイラーへ変更した場合は、コストの
30%、さらに同製品のようなバイオマスボイラーと太陽熱を利用する場合は、35%の支援が得る
ことが可能である。
顧客ターゲットについては、新規・既設ビル、部門では、公共部門や産業部門がターゲットで
ある。どちらかというと地方がターゲットかと思われその旨質問したところ、確かにウッドチッ
プ利用の場合は地方がターゲットとなるが、ペレット利用の場合は、都市部でも地方でも利用可
能であり、特に限定はしていないとのこと。温水が必要で、また設置スペースがあるところでは
どこでも顧客ターゲットとなり得るという回答を得た。
3.売り上げの3分の2は国外へ
製品の3分の2は海外へ輸出している。輸出先は、英国、アイルランド、ドイツが多い。業績
については、今年度については大きな受注が見込める見積案件はあるものの、その受注が確定し
たわけではないので、今のところ大幅な伸びがあるとも言えない状況である。
投資コスト回収については、原油価格が0.63ユーロ/リットル+年間15%増、ペレット価格が
200ユーロ/トン+年間5%増、年間稼働時間3,100時間といった条件であれば、4年後には回収
可能と試算している。
また、同社製品は太陽熱パネルとバイオマスボイラーを組み合わせた熱供給だけでなく、冷暖
房可能な製品、またバイオディーゼルを利用した熱電併給製品も手がけており、客先の要望に沿
った、多種多様な再生可能エネルギーを利用した製品を取り揃えている。
4.所感
欧州では、再生可能エネルギー利用が拡大しているが、こうした再生可能エネルギーを組み合
わせた製品は珍しく、興味深かった。訪問時には、従業員は30人とまだ小さい会社で、工場に隣
接された事務所はプレハブであったが、今後再生可能エネルギーの関心が高まるにつれて業績も
伸び、数年後には立派な事務所が建てられているのではないだろうか。
ただ、この製品を採用するためにはペレットやウッドチップといったバイオマスボイラーの原
材料の供給基盤をはじめ、各種バイオマス利用のインフラが整っているところでなければ採用は
難しい。例えば、今回の製品もペレット供給についてはローリー車での供給を原則に考えており、
近くにペレット製造工場、ペレット提供業者がなければ原材料を手に入れられないためだ。
欧州において、各種再生可能エネルギーの中でもバイオマスは多くの熱を提供している。例え
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ばドイツでは再生可能エネルギーからの熱出力に占めるバイオマスの割合は9割を占めており、
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貴重なエネルギー源となっている 。また、バイオマスは熱だけでなく電力、燃料にも転換可能な
唯一のエネルギー源である。こうしたバイオマス利用のためには、供給面、ロジスティック面、
流通面といった様々なジャンルの課題を同時に改善していく必要がある。欧州では、そのような
試行錯誤でバイオマス利用が進められた結果、今回訪問した企業のような、太陽熱+バイオマスの
組み合わせ、といった選択肢が生れてくるのだろう、と感じた。
日本でのこうした製品利用について考えた場合、まだバイオマス供給基盤の整っていないため、
時期尚早と思われる。ただ、RPS法やバイオ燃料の採用等、徐々に再生可能エネルギーの利用
が進んできているのは確かである。木材バイオマスだけをみれば、日本における利用可能林はス
ウェーデンと比較してほぼ同じ、ドイツと比較して2.5倍あるといわれており決して少ないわけで
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はない 。もちろん、バイオマスをエネルギーとしてのみ利用することを推進しているわけでは決
してないが、日本において再生可能エネルギー、すなわち木材バイオマスを利用する基盤が整備
されれば、今回の製品も必要となる機会はあるのではないだろうか。また、テストケースとして
例えば地域レベルといった小さな単位で再生可能エネルギーを駆使したエネルギーシステムを構
築し、こうした製品を利用してみるのも面白いと思われる。
その他、同社の情報に付きましては以下のURLを参照ください。
参考URL:www.energycabin.com
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Development of renewable energies in 2006 in Germany
木質バイオマス発電への期待(熊崎 実 著, 2000)
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