沖縄県の環境水および患者検体より分離された エロモナス属菌株の病原

沖縄県の環境水および患者検体より分離された
エロモナス属菌株の病原因子解析
○玉寄 美也子 1)・仲宗根 勇 1)・宮城 郁乃 1)・潮平 知佳 2)・山根 誠久 1)2)
1)
琉球大学医学部附属病院検査部・ 2) 同 大学院医学研究科先進検査医学講座
【目的】エロモナス (Aeromonas) 属は広範囲の自然界に分布し、主に河川、淡
水魚、土壌、爬虫類などに生息するグラム陰性桿菌である。ヒトへの感染症で
は、腸管感染症と腸管外感染症が知られている。肝硬変や糖尿病などの基礎疾
患をもつ患者で血液培養から分離された場合には極めて予後不良となり、多く
が 1 週間以内に死の転帰をとる。エロモナス属の全身感染症は島嶼県、沖縄特
有のものであり、我々はかつて、平素健康な若い女子高校生が急激な転帰で死
亡した事例も経験した。今回我々は、患者に由来する臨床材料より検出された
菌株と沖縄県本島の環境水から検出された菌株の各種病原因子を遺伝学的方法
から検索し、生化学性状の比較からその病原性を解析したので報告する。
【材料と方法】琉球大学附属病院を中心に、その関連医療施設で各種の臨床材
料より検出された A. hydrophila 63 株、A.sobria 4 株と、沖縄県本島内の河川、
湧水、池より分離した A. hydrophila 93 株、A. sobria 40 株を解析対象とした。菌
種同定は RAISUS (日水製薬)で実施した。病原株が陽性を示すとされる生化学
性状の試験として Voges-Proskauer (VP) 試験、リジン脱炭酸試験 (LDC)、5%ヒ
ト血液を用いた溶血活性を測定した。病原遺伝子は溶血活性に関与する ahh1,
asA1, aerA 遺伝子と細胞毒素遺伝子に関与する hlyA 遺伝子について、個々に特
異的なプライマーを用い PCR 法により確認した。
【結果と考察】A. hydrophila での VP、LDC 陽性株は臨床由来株で 81%, 環境由
来株で 85%であった(not significant)。A. sobria ではそれぞれ 100%、80%であっ
た (n.s.)。 A. hydrophila の ahh1 遺伝子は臨床由来株、環境由来株、それぞれ 95%、
74% (P<0.0005)、aerA 遺伝子は 16%、39%の陽性率であった(P<0.0001)。A. sobria
での asA1 遺伝子は臨床由来株、環境由来株、それぞれ 50%、45% (n.s.)、aerA
遺伝子は 0%、25%が陽性となった(n.s.)。hlyA 遺伝子は臨床由来株の A. hydrophila
で 10%、環境株由来で 26%が陽性となった(P<0.02)。ahh1、aerA 遺伝子陽性の
臨床由来 A. hydrophila 株は陰性株に比べ溶血活性が高い結果となったが、hlyA
遺伝子陽性株では由来別に特に偏った傾向は観察されなかった。溶血遺伝子の
有無と溶血活性の強さに関連を認める結果であったが、エロモナス属の病原性
については複数の病原因子が関与することが知られており、今後さらに病原遺
伝子の検索が必要であると考えられた。