消化ガス中のシロキサン濃度と除去装置について (公財)とちぎ建設技術センター Ⅰ 研究管理委員会 消化ガス発電グループ 研究の背景・目的 消化ガスは、バイオマス燃料として注目されています。栃木県内の流域下水処理場においても、消化ガスの一部 は消化槽加温用に利用しているが、その多くは有効利用せず焼却処分している。 これまで、技術センターの調査研究事業の一環として、栃木県内の流域下水処理場の消化ガス発生量から適切な 設備や想定発電量を検討し、消化ガス利用の効果について提言してきた。現在、栃木県においては、県央浄化セン ターなどで消化ガス発電の計画が進められているが、当グループでは消化ガス発電行う際に問題視されているシロ キサンについて、消化ガス中の濃度測定及び、シロキサン除去装置の容量などについて調査研究を行った。 Ⅱ 消化ガス中のシロキサン濃度測定 1 測定対象物質 り。 ア.県央浄化センター(上三川町)ガスホルダ出口 シロキサンは、シロキサン結合(Si-O-Si)を複 イ.巴波川浄化センター(栃木市)脱硫塔出口 数有する化合物の総称であり、直鎖状(L)、環状(D) ウ.大岩藤浄化センター(栃木市)ガスホルダ出口 のものが存在する。過去の下水道研究発表会※1 におい エ.秋山川浄化センター(佐野市)脱硫塔出口 て、下水汚泥消化ガス中のシロキサン種はD4・D5 が多いことが報告されていることから、本測定におけ るシロキサンの対象種は、D4・D5とした。 D4・D5の物性を表1に示す。 表1 D4、D5の物性 図1 3 試料採取位置 試料採取装置 試験方法検討時において、JIS及び下水道処理場 維持管理に必要な各種分析方法をまとめた「下水試験 方法」(公益財団法人 日本下水道協会発行)等にシ ロキサン分析法は記載がなかったため、文献※1を参考 に試料採取条件を設定し試料採取を行った。 (1) 試料採取装置の構成 試料採取に用いた装置構成を図2に示す。 2 試料採取方法 栃木県内の流域下水処理場4箇所で試料採取を行っ た。採取位置は、バイオガス利用設備設置時のガス供 給箇所となる可能性が高いガスホルダ出口を基本とし たが、一部の処理場は、設備的な関係で脱硫塔出口と した。各浄化センターの試料採取位置は、下記のとお 図2 試料採取装置の構成 (2) 試料の採取 表2 パラメータ設定値 試料採取操作は下記の手順で行った。 ア. 吸収瓶に吸収液としてヘキサンをそれぞれ35 mL程度入れ、ドライアイスを冷媒として、吸収 瓶及び除湿瓶を冷却する。 イ. 吸引流量が1L/minとなるようニードルバ ルブを調整し、吸引量が、100L程度になるまで 吸引する。 ウ. 除湿瓶及び吸収瓶内をヘキサンで洗い込みなが ら100mLメスフラスコに注ぐ。 ※特に除湿瓶の冷却は、ドライアイスの充填高を十分 とり、十分行う。消化ガス中の水分がガス導入管先端 に氷として付着し閉塞が生じ、吸引流量が大幅に低下 する原因となる。 ※当初は、吸収瓶を定量対象としていたが、除湿瓶に もシロキサンが捕集されていることが判明したため、 途中から、除湿瓶及び吸収瓶を定量対象とした。 4 シロキサン濃度測定 (1)使用機器 栃木県産業技術センター所有 ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS) 島津製作所 GCMS-QP2010 使用カラム フロンティア・ラボ製 Ultra ALLOY+-5 (30m×0.25mm i.d. df=0.25μm) (2)測定条件 ことから、採取直後でなく、測定前に室温に戻した後、 メスアップしないと容積が大きく変化する。また、採 取直後はドライアイス冷却ヘキサンに消化ガス中の二 酸化炭素と思われるガスが溶解し、気泡の発生が見ら 測定にあたり、対象物質が適切に分離・定量出来る ように、測定条件を設定する必要がある。測定条件の 設定は、使用する測定機器を熟知していなければなら ないことから、測定機器を保有する栃木県産業技術セ ンターの協力により行った。 機器設定パラメータを表2に示す。 (3)測定操作 れるため注意して取り扱う。 ※文献の分析手順にあった、採取試料の窒素気流濃縮 や、硫酸ナトリウムによる脱水は、共に実施しなくて も必要な感度が得られ、測定機器に影響は生じなかっ た。 ただし、除湿ビン中のシロキサンもヘキサンで洗浄 し、抽出ヘキサンとあわせるため、メスアップ試料に シロキサン採取後の測定操作は下記の通り。 ア.採取したシロキサンのヘキサン溶液を室温まで放 置後、メスフラスコにて100mLにメスアップ。 イ.ヘキサン相をマイクロシリンジにてGCMSへ注 入し、設定したパラメータにより測定を行った。試 料注入量は ※シロキサン採取時にドライアイス冷却を行っている 1μLとした。 ウ.定量のため、D4・D5を20ppmに調整した は微量の水相が生じる。機器の保護のため、注意して ヘキサン相を注入する。 ※標準液調整の際に使用するシロキサン標準液の調整 時には、溶媒のヘキサンに、シロキサンの必要量を添 加するように留意する。シロキサンの揮発性が高いた め、空容器に微量のシロキサンを添加すると、気散よ りマイナス誤差を生じる。 標準液を毎回測定し、ピーク面積比より対象物質の 濃度定量を行った。 5 測定結果 測定結果を表3に示す。 表3 シロキサン濃度測定結果 参考としてシロキサン測定方法が記載された。下水試 験方法記載の方法では、ヘキサン吸収瓶のみを定量対 象としているが、今回の測定によって、除湿瓶にもシ ロキサンが捕集されていることが確認された。このこ とから、下水試験方法により測定を行う場合でも、除 湿瓶中のシロキサン含有量についても確認する必要が あると考える。 表4 6 測定所見 Ⅲ 当初分析では、ヘキサン吸収瓶のみ定量対象(№1 ~5)としたが、D4とD5の合計の定量結果が、 3 測定方法比較 シロキサン除去装置の検討 県央浄化センターにおいて平成26年度から稼働予 定の燃料電池では、消化ガス中のシロキサンの許容濃 0.704~12.241mg/m と、過去の文献報 度は、1Volppm ※2とされている。今回の測定結 告値と比べ低い傾向があった。後の測定により(№6)、 果で、冬期についてはこの値を下回っているが、夏期 前段の除湿ビンにも多くのシロキサンが補足されるこ については上回っており、シロキサン除去装置の設置 とが確認されたため、これ以後(№7~)除湿ビンと が必要と考えられる。 吸収瓶を共にヘキサンであわせ、測定試料とした。県 吸着剤は、燃料電池本体の年点検時に併せて年1回 央浄化センターにおいては、8~11月の期間中でD 交換するものと仮定し、シロキサン除去装置の吸着剤 4とD5の合計4.987~36.600mg/m3で 必要量について検討を行った。なお、吸着剤は、現在 あり、大きな濃度変化があること確認された。 最も一般的な活性炭とした。また、シロキサン除去装 また、巴波川浄化センター、大岩藤浄化センター、 置は、脱硫装置を通過したガスホルダ出口に設置する。 秋山川浄化センターは、1.431~3.290、 1.087、0.228mg/m3であった。 1 使用ガス量及び活性炭吸着能力 県央浄化センターの測定は、夏季・秋季・冬季と実 平成23年度における県央浄化センター消化ガス使 施したが、気温・ガス温度の低下とともに消化ガス中 用量は、1,168,152m 3 /年で、余剰ガス燃 のシロキサン含有量は低下していった。メーカー資料 焼装置及び消化槽加温用温水ヒーターで使用している によるとD4の凝固点(fp)は18℃とされており、 が、その全量を燃料電池で使用する条件とした。 秋季の気温相当である。(D5のfpは-38℃) また、シロキサンは親油性物質であり、SSや土へ の分配係数が高い物質である。 このことから、秋季から冬季にかけガス温の低下に 活性炭のシロキサン吸着能力は、図3のとおり外部 表面積と比例関係にあり、今回は、一般的な外部表面 積が500m2/g場合の吸着能力275mg/gを使 用し、活性炭必要量を算出した。 伴い、脱硫塔やガスホルダ・配管内でシロキサンが凝 縮したことが疑われる。 特に脱硫塔内の脱硫剤は、粘土質のペレットであり、 温度低下と分配係数の効果により、シロキサンの吸着 にも影響を与えているものと想定される。 下水処理場の維持管理において広く利用されている 下水試験方法が平成24年11月に改訂され、新たに 図3 BET比表面積比と平衡吸着量 ※4 2 活性炭必要量算定 0kg寄りになる事は考え難い。しかし、消化ガス中 今回の測定結果から、年間のシロキサン濃度の変動 には、脱硫装置で硫化水素を除去した後でも、有機硫 を予測し、平均シロキサン濃度から活性炭必要量を算 黄やアンモニア等が含まれているため、活性炭吸着剤 出した。 は、これらを除去する目的でも使用される。これらの 消化ガス中のシロキサン濃度は、外気温と相関関係 があるとの報告がある ※5ため、測定時の外気温とシロ ことを考慮すると、設計で必要な活性炭吸着剤は、少 なくとも70kg以上充填されることが望ましい。 キサン濃度(表5)から、年間のシロキサン濃度変動 を推定し、平均シロキサン濃度15.35mg/m 3 を得た(表6)。外気温については、近隣の気象観測 所である小山市の観測結果を使用した。 Ⅳ まとめ・今後の課題等 本研究により、煩雑なシロキサン分析の採取・測定 技術を習得できた。 年間発生するとみられるシロキサン量は、消化ガス使 県央浄化センターにおいては、今回の測定結果から 用量と平均シロキサン濃度から17,931g/年とな 消化ガス中のシロキサン濃度は、気温により、変動し り、吸着能力で除すると、必要な活性炭の量は、65k ていることが確認できた。 gとなる。なお、夏期の一番条件の厳しいシロキサン濃 3 シロキサン除去装置の容量決定には、シロキサンの 度33.71mg/m を用いて同様に算出すると、シ 年間負荷量を把握するために、長期間複数回にわたる ロキサン量は、39,378g/年、必要な活性炭の量 測定が必要になるが、今回の測定では、年間を通じた は143kgとなる。 シロキサン濃度を測定できなかったため、一部推測し 表5 外気温とシロキサン濃度 た濃度を使用してシロキサン除去装置の容量検討を行 った。より正確な容量の検討には、年間を通じたシロ キサン濃度の測定、及び燃料電池に悪影響を与えるシ ロキサン以外のアンモニアなどの濃度についても測定 を行い、その結果を反映させる必要があると考えられ る。 また、測定業者によるシロキサン測定費用は高額で 表6 年間シロキサン濃度変動 あり、多大な調査費用がかかる。 国・県において消化 ガスの有効利用計画が進む中、当センターにてシロキ サン影響調査などの技術支援が行えるものと思う。 (技術センターで分析を行った場合の費用試算別紙) 【参考資料】 ※1 (株)荏原製作所 第40回下水道研究発表会 「消化ガス中のシロキサン分析法の検討」 ※2(財)新エネルギー財団 ステム導入検討の手引 ※3、4、5 News 3 まとめ 県央浄化センターの場合、約70kgの活性炭が入 る体積0.12m 3 の吸着塔を設置すれば理論上1年 は交換しないで運用できると考えられる。なお、シロ キサン濃度が高い月数が多い場合、70~140kg の活性炭が入る吸着塔が必要と考えられるが、シロキ サン濃度は、気温が下がると低下するので極端に14 事業用燃料電池発電シ P24 木下和徹 Adsorption Vol.24,No.2 P13、16(2010)
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