特集◆学術分野における男女共同参画促進のために 講演─ ④民間企業関係 イノベーション創出のための ワーク・スタイル・イノベーションと ダイバーシティ・マネジメント 土井美和子 60 大学では、ようやく男女共同参画の取り組み さらに、障害者法定雇用率(一般の企業は が始まったところであるが、企業の活動は、男 1.8%) 、改正男女雇用機会均等法など、遵法の 女共同参画からダイバーシティ・マネジメント 立場からも多様化は進めねばならない。 へと移行している。 このような状況の中で、株式会社東芝では、 IMF(国際通貨基金)では、ダイバーシティ 2004 年 10 月に「きらめきライフ&キャリア推 とは、 「国籍、人種、文化、民族上の経歴、ジェ 進室」を発足させ、 「従業員一人ひとりが共に ンダー、年齢、宗教、母国語、身体的な能力、 自分らしく、持てる力を十分に発揮できる」組 性的傾向、教育や職業といった『われわれがい 織・会社つくりを合言葉に、活動を続けてきた。 かなるものか』を示す多くの特性である」と定 2007 年 4 月にはダイバーシティ(多様性)マネ 義されている。企業がダイバーシティ・マネジ ジメントに取り組むべく、多様性推進部へと改 メントに取り組む背景には、 組した。多様性推進部では、 • 少子高齢化の波 (1) 多様性の受容と尊重 • グローバル化の波 (2) ワーク・ライフ・バランスの実現 • 企業の社会的責任・遵法 (3) 意識 ・ 風土の改革 がある。 を 3 本柱に活動している。 少子高齢化社会において、労働力の確保が最 ダイバーシティ・マネジメントが創造性向上 重要課題である。 人財市場を多様化することで、 に効果がある一例としては、 マンモグラフィ (乳 優秀な人財の確保が可能となる。また、異なる 房 X 線検査) 装置がある。マンモグラフィとは、 視点が入ることで、創造性が高まることも期待 がんによって生じる石灰化を検出するもので、 している。 乳がんの検査に用いられる。乳房を上下、左右 多くの日本企業の顧客は国内だけでなく、全 に挟むため、 「マンモグラフィは痛い」という 世界に広がっている。グローバル化では、製造 イメージが広まっていた。マンモグラフィ装置 拠点を海外に移管したり、互いの強みをいかせ 開発に技術者だけでなく、医療装置の使い方を る海外企業との M&A を行ったり、BRICs など 指導している女性アプリケーションスペシャ への新規市場への参入を積極的に図らねばな リストが参加した。受診者のために「視覚的な らない。現地従業員の登用により、海外顧客市 安心感」 「触覚的な安心感」 「圧迫時の痛み軽減」 場へのアクセスが容易になる。 をし、日本人女性の受診者・操作者を考慮して 学術の動向 2009.7 PROFILE 土井美和子 (どい みわこ) 日本学術会議連携会員、株式会社東 芝研究開発センター首席技監 専門:情報学 容易に操作のポジショニングができるように した(図 1) 。 ダイバーシティ・マネジメントに加え、イノ ベー ションの創出のため「ワーク・スタイル・ イノベーション」の活動にも力を入れている。 れば、 「年齢、性別、人種にかかわらず、誰も ワーク ・ スタイル・イノベーションとは、ワー が仕事とそれ以外の責任と要求とを、うまくバ ク・ライフ・バランス実現のために、従業員の ランスできる生活リズムを見つけられるよう、 働き方を見直すものである。ワーク ・ ライフ・ 就業形態を調整すること」 である。 ライフとワー バランスとは、イギリス貿易産業省の定義によ クは 50:50 である必要はなく、そのバランス 図 1 ダイバーシティによる製品化例 多様性のあるチームはより質の高い解決を導く 従来の装置 マンモグラフィ乳房 X 線撮影装置 MGU-1000A Pe・ru・ru(ペルル) http://www.toshiba-medical.co.jp/tmd/products/xray/mammo/peruru/digital.html 学術の動向 2009.7 61 特集◆学術分野における男女共同参画促進のために はライフ・ステージに応じて変わっていくもの たのが、図 2 に示す真空圧力炊きである。おい である。ライフにおいては、自らを高め、リフ しいご飯を炊くにはと悩んでいた「米・食味鑑 レッシュし、ワークにおいては、効率的にメリ 定士」の資格も持つ開発者が、ある日、調理器 ハリをつけて仕事を行っていけるよう、自らの 具売り場に買い物に行った。そこで出会ったの ライフ・スタイルを変革していくことが、ワー が、容器内の空気をポンプで吸い上げ真空にす ク・ライフ・イノベーションである。 ることで、食品の鮮度を保つ調理用の真空容器 この一環で行った社内アンケート調査では、 であった。 「真空状態でご飯を保温したらどう 仕事についての新しいアイディアやひらめき だろう。 」と思いついたのが、真空圧力炊きの は、オフタイム派 73%、オンタイム派 27% と、 誕生である。真空は保温だけでなく、米の給水 オフタイム時に生まれることがわかった。 特に、 率を向上させ、従来にないおいしいご飯を炊く 電車の中などでの移動中、入浴中、寝る前・就 ことに成功した。 寝中がオフタイム派のベスト 3 である。 アンケート調査では、効率的な仕事のために このオフタイム派のアイディアから生まれ は、チームワークと目標の明確化が必要である との回答も得られている。 図2 ワーク・スタイル・イノベーションの製品化例 『ワーク・スタイル・イノベーションハンド ブック』は社内ウェブサイトに掲載され、チー ム・マネジメントとセルフ・マネジメントの相 乗効果、ライフとワークの相乗効果を、いつで も従業員自らが考えられるようになっている。 さらに、2007 年 7 月からは『きらめきタイム ズ』が東芝グループ会社を含め、10 万部発行 されている。発行は隔月で、すべての記事が日 本語と英語の併記になっている。 他にも『上司と部下のコミュニケーションハ ンドブック』 (上下 2 巻)や、社長自らが有識 者を招いて開催する「きらめきフォーラム」な ど、多様な人財がコミュニケーションを円滑に し、ライフを謳歌し、効率的なワークを実践す る環境作りも行っている(図 3) 。 62 学術の動向 2009.7 図 3 ダイバーシティ・マネジメントの広報活動 学術の動向 2009.7 63
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