「ミスとコミュニケーション」

出光タンカー株式会社
三等航海士
臼井 隆敏
「ミスとコミュニケーション」
私は 2015 年 2 月 25 日、VLCC に初乗船し3ヶ月になる次席三等航海士です。船橋での
当直をすることが多く、業務をしていく中で毎日様々なミスを冒しています。ミスをする
度に他のクルーに指摘され、そのミスに気づき、次に同じミスをしないようにノートにメ
モをとり、改善するように心掛けています。ミスの原因を探る中で安全とのつながりを考
えてみました。
まず操船に関するミスの例として操舵号令のミスがありました。変針点の 1 マイル前で
AUTO PILOT から HAND STEERING に切替えました。その時、頭の中では変針の手順
を追っていました。具体的には、後方確認、新針路方向に物標が無いかの確認、RATE OF
TURN の調整等です。そんな中、VHFで他船から呼び出しをされ、左舷対左舷で航過す
るように話しました。その後ミスが起こり右舷に舵をとるべきところを誤って左舷で操舵
号令をかけてしまいました。すぐに一等航海士とクォーターマスターに指摘され、ミスに
気付きました。
上記の事例では、変針前の手順を頭の中で追っている最中に新たにVHFで呼び出され
てしまった為、意識が別の方向に向いてしまい、今まで考えていた操舵号令を無意識の内
に行ってしまったことが原因の一つに挙げられます。また、操舵号令は今まで何度も行っ
たことがあったのであまり考えずに無意識のうちに操舵号令をかけてしまったことや、急
に VHF で呼びだされたことにより操船が遅れ焦ってしまったことも原因です。このように
私の場合、急に新たなことが発生した場合に意識が新たな事に集中してしまい、注意散漫
になりミスを冒してしまうことが度々あります。
改善策としては、あらかじめ予想される作業の準備を行い、先を見据えた行動をするこ
とが一つあると思います。今回の場合で行くと当直中に変針点があるのは分かっているの
で、あらかじめ海図上で変針目標の方位を測定しておくことや、WHEEL OVER POINT
の位置を決めておくこと等です。また、VHF で呼びだされた場合を想定して呼びだされた
場合の返答を準備しておくこともそうです。先を見据えた行動をとることにより、心に余
裕が生まれ、落ち着いて次の動作をすることができる為、結果としてミスなく安全に作業
を行えるようになるのではないかと思います。
別の例として MMC を使用してカーゴタンク内のアレージを計測している時、風下に立
ってしまったところを他の甲板作業員に指摘されて危険に気づきました。
この時 MMC にて積み込んだ原油を計測するのは初めてであった為、意識が MMC の測
定方法に集中してしまい、風向きへの考慮をしていませんでした。また、このとき MMC
の動作確認の検査も兼ねていた為うまく作動するかどうかとういう心配もありました。改
善策として MMC の場合も最初に記した操船の時と同様に準備が足りなかったように思い
ます。測定上の注意事項を予めまとめておき、作業に臨めばよかったと感じています。
今まで 2 つの事例を振り返りましたが、共通点は準備不足だったことが原因に挙げられ
ます。いつでも先を見据えた行動を心がけていき、どんな危険が潜んでいるのかを想定し
ながら作業に臨むことが重要だと感じています。また、危険は突発的に起こるものではな
く、危険を示す兆候が必ずあります。船上で毎航海、ニヤミスやヒヤリハット報告を本社
に提出しているのは、危険の兆候を見逃さず、注意力を持って作業に取り組むという現れ
だと思います。
また、今回の事例で事故に繋がらなかったのは、ミスをクルーが指摘してくれたからです。
一緒に作業をする上でコミュニケーションは安全上なくてはならない存在であると感じて
います。毎朝甲板作業をする前は必ずブリーフィングをおこなっているのも、コミュニケ
ーションを密にとることで作業員が共通認識を持ち、誰かが間違った行動をとった場合は
周りの人が指摘できる環境を作ることを目的としているように思います。人は必ずミスを
冒すが、それを他の人が見つけて修正していけば事故は起こりません。その為にはミスを
お互いに指摘できる環境を作っていく必要があり、そのことが安全な作業環境を作ること
に繋がっていると私は考えます。
今回、業務中の 2 つのミスを振り返ることにより、自分がミスを冒しやすい状況やミス
をしないようにするための改善策を考えてきました。ミスは必ず起こるものであるという
意識を常に持ち、他人や自分のミスに気づけるように行動することが大切であると分かり
ました。クロスチェックやダブルチェックを行い、他人任せにせず確認する事がミスに気
が付く一番の方法であると思います。また、ミスを冒しやすい状況がどういう状況である
かを自分で理解する事も重要だと感じました。これからも安全に対する意識を持って、他
人や自分のミスに気付き、修正していけるように注意して業務に取り組んでいきます。
以上