196 - 明海大学歯学部

196
明海歯学(J Meikai Dent Med )44(2)
, 196−207, 2015
Mitomycin C により誘導されるヒト口腔扁平上皮癌細胞死の解析
佐々木妥啓
明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学分野
要旨:根治的外科手術の前に,neo-adjuvant chemotherapy(NAC)として peplomycin(PEP)と mitomycin C(MMC)
を併用する P-M 療法が施行されることがある.これまでに,MMC の in vitro での抗腫瘍性については多数報告がある
が,ヒト口腔扁平上皮癌細胞の細胞死のタイプについて検討した研究は少ない.過去の研究では,多くがアポトーシス誘
導活性を論じるものであった.最近,幾つかの抗腫瘍薬や放射線照射が,ヒト悪性神経膠芽腫細胞にオートファジーを伴
う細胞死を誘導したことが報告された.しかしながら,MMC によりヒト口腔癌細胞に誘導される細胞死のタイプは明確
ではなかった.
以前,我々は 3 種の抗腫瘍性抗生物質である MMC, bleomycin(BLM),PEP の腫瘍選択的細胞傷害作用を,ヒト口腔
扁平上皮癌細胞,ヒト前骨髄性白血病細胞,ヒト口腔正常細胞を用いて比較検討したところ,MMC はもっとも高い細胞
傷害作用と腫瘍選択性を示した.
本研究では,MMC により誘導されるヒト口腔扁平上皮癌細胞(HSC-2, HSC-4)の細胞死のタイプを,オートファジー
に陥りやすいとされるヒト悪性神経膠芽腫細胞(T98G, U87MG)を対照として比較検討した.癌細胞間で,薬剤感受性
に差違が認められた.MMC は,HSC-2 細胞にアポトーシスマーカーである annexin V 染色陽性,TUNEL 染色陽性反応,
ヌクレオソーム単位の DNA の断片化,カスパーゼの活性化を誘導した.しかし,HSC-4 細胞に対してはヌクレオソーム
単位の DNA の断片化,顕著なカスパーゼの活性化を誘導しなかった.アクリジンオレンジ染色では,HSC-2, HSC-4 細
胞に酸性オルガネラが検出されたが,変動はなかった.
一方,ヒト悪性神経膠芽腫細胞ではアポトーシスマーカーの発現は認められず,アクリジンオレンジ染色で酸性オルガ
ネラの増加が検出された.MMC 処理により,HSC-2 細胞では細胞内プトレシン,スペルミジン濃度が減少し,HSC-4 細
胞ではプトレシン濃度が減少した.しかし,T98G, U87MG 細胞では変動しなかった.電子顕微鏡にて,MMC 処理後の
HSC-2 細胞にアポトーシス小体の形成が観察された.本研究において,ヒト口腔扁平上皮癌細胞の種類により薬剤感受
性に相違が認められた.また,細胞死のタイプは,各細胞の薬剤感受性に依存する可能性が示唆された.
索引用語:mitomycin C,アポトーシス,オートファジー,ヒト口腔扁平上皮癌細胞
Evaluation of the Type of Cell Death Induced by Mitomycin C
in Human Oral Squamous Cell Carcinoma Cell Lines
Masahiro SASAKI
Division of Oral and Maxillofacial Surgery, Department of Diagnostic & Therapeutic Sciences, Meikai University School of Dentistry
Abstract : Peplomycin(PEP)and mitomycin C(MMC)are used very often as neo-adjuvant chemotherapy(NAC)before radical surgery. In contrast to hundreds of reports about the effect of MMC in vitro, there is little comparative study of
cytotoxicity against both human oral squamous cell carcinoma(SCC)cell lines and human oral normal cell lines. In the
past, many of such studies have dealt with their apoptosis-inducing activity. It has been recently reported that many of anticancer agents and radiation therapy induced autophagic cell death especially in human malignant glioblastoma cell lines.
However, it has not been clear which type of cell death is induced by MMC in human oral SCC cell lines.
In the past, three popular antitumor antibiotics, MMC, bleomycin(BLM)and PEP, were compared for their tumor-specific
cytotoxicity, using human oral SCC cell lines(HSC-2, HSC-3, HSC-4, Ca 9-22, NA), human promyelocytic leukemia cell
Mitomycin C による口腔癌細胞死の解析
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line HL-60 and human oral normal cell lines(gingival fibroblast ; HGF, pulp cell ; HPC, periodontal ligament fibroblast ;
HPLF).Among these three compounds, MMC showed the highest cytotoxicity and tumor-specificity. However, there was
considerable variation of drug-sensitivity among six cancer cell lines. MMC induced various apoptosis markers such as
positive staining with annexine V, internucleosomal DNA fragmentation, caspase-3, -8, -9 activation and reduced expression
of Bcl-2 protein in HSC-2 cells. MMC, however, did not induce most of these markers except the positive staining with annexin V in HSC-4 cells. Both of HSC-2 and HSC-4 cells did not produce an increase in the acid organelle(detected by
acridine orange staining).
On the other hand, MMC induced the formation of acid organelle, without induction of any of apoptosis markers in the
human malignant glioblastoma cell lines
(T98G, U87MG).MMC induced the decline of intracellular concentration of putrescine and spermidine in HSC-2 cells, and also induced the decline of that of putrescine in HSC-4 cells, but not in T98G,
and U87MG cells. Electron microscopy of MMC-treated HSC-2 cells showed the production of an apoptotic body. The present study suggests the diversity of drug sensitivity in human oral SCC cell lines, and that the type of cell death may depend on the drug sensitivity of the cells.
Key words : mitomycin C, apoptosis, autophagy, human oral squamous cell carcinoma
緒
ーを伴う細胞死,パラプトーシス,分裂破局,ネクロー
言
シスなど)を誘導することが明らかになった4−8)(Table
癌とは,遺伝子の病気であり,遺伝子変異による細胞
1)
1).
の分化を誘導・制御する能力を失った状態である .細
Mitomycin は,1955 年に Hata らによって Streptomyces
胞の老化に伴い,アポトーシスによる生理的細胞死と免
caspitosus が産生する抗生物質として報告された9).そ
疫監視機構の低下した結果,遺伝子に変異のある細胞が
の後,1958 年に Wakaki らにより青紫の結晶として分
累積したものが癌である.すなわち,遺伝子変異による
離された mitomycin C(MMC)10)(Fig 1)は,マウスに
正常な機能の喪失に続き癌遺伝子や癌抑制遺伝子などの
対する強い毒性,グラム陽性,陰性菌に対する抗菌力を
変異が重なって癌化が進む2).癌細胞は,自ら成長促進
示し,その作用メカニズムは DNA と結合し,二重鎖
を導く細胞間情報伝達因子を自ら作り出し,分裂停止命
DNA への架橋形成を介して DNA の複製を阻害するこ
令を無視し,アポトーシスを回避する.寿命のある正常
とで頭頸部癌の治療に用いられている.
細胞とは異なり,テロメラーゼ活性が高く,分裂を無制
In vitro での抗腫瘍性については多数の報告があるが,
限に繰り返す.また,癌細胞は,周辺組織に浸潤し,他
ヒト口腔扁平上皮癌細胞の細胞死のタイプについて検討
の臓器にも転移して,生命維持に不可欠な臓器に影響を
した研究は少ない.そこで今回,オートファジーに陥り
及ぼす.発生の過程で,多くの不要なあるいは危害を与
やすいとされるヒト悪性神経膠芽腫細胞(T98G, U87
3)
える細胞や組織は,アポトーシスにより排除される .
アポトーシスの細胞生化学的特徴としては細胞縮小,
MG)を比較対照とし,ヒト口腔扁平上皮癌細胞に誘導
される細胞死のタイプを,アポトーシス,オートファジ
アポトーシス小体,DNA の断片化,カスパーゼの活性
ーマーカーの発現を調べることにより検討した.また哺
化,微絨毛の消失,クロマチンの凝集であり,生体内で
乳動物細胞で三種類のポリアミン(プトレシン,スペル
はアポトーシスに陥った細胞は,マクロファージによる
ミジン,スペルミン)が知られており,細胞の分化,増
貪食によって周囲組織に障害を与えることなく除去され
殖,再生における変動が報告されている11).細胞死,特
る.多くの抗腫瘍薬が,癌細胞にアポトーシスと類似の
にポリアミン枯渇とアポトーシスとの因果関係につい
形態変化を惹起することから,抗腫瘍薬の生理活性の 1
て,抗癌剤の作用増強を目的とした研究が行われてい
つとしてアポトーシス誘導活性を有することが重要視さ
る12, 13).アポトーシスを起こしている細胞では,細胞内
れてきた.しかし最近,幾つかの抗腫瘍薬や放射線照射
ポリアミン濃度が低下するといわれているので,MMC
が,癌細胞にアポトーシス以外の細胞死(オートファジ
によるポリアミン濃度の動態についても検討した.
─────────────────────────────
§別刷請求先:佐々木妥啓,〒350-0283 埼玉県坂戸市けやき台 1-1
明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学分野
198
佐々木妥啓
Table 1
明海歯学 44
2015
Characterization of three types of cell death.
TYPE Ⅱ
autophagic cell death /
autophagic degeneration
TYPE Ⅰ
Apoptosis
nucleus
remarkable condensation
cytoplasm
decrease of volume
TYPE Ⅲ
cell death with inhibition of
organelles and emergence of caveolas,
without lysosome
some, but not remarkable condensation
early increase of lysosome
emergence of the autophagosomes
and the autolysosomes
abnormal condensation
nucleorrhexis
indistinct outline
fusion of influenced cells
terminal
characterization
DNA fragmentation
rapid englobement by the phagocytes
digestion of broken organelle
by secondary lysosome
frequency *site
frequently observed under
sequestered condition
this type is often seen it occurs in
the condition which is united and
left out in many cases
swelling of mitochondria
calcification
*Based on Tachibana and Kitanaka4).
(T98G, U87MG)は昭和大学脳神経外科学教室より御恵
与いただいた.これら 4 種の付着細胞には,DMEM に
MMC と 10% FBS を添加した培地を用いて培養した.
Mg, Ca を含まないリン酸緩衝液(PBS[−])で洗浄
後,0.25% trypsin−0.025% EDTA-2 Na(in PBS[−])
で剥離し,1 : 4 の割合で週 2 回継代培養した.
2 )細胞傷害性の測定
細胞増殖能あるいは生細胞数は,MTT 法により求め
Fig 1
た.種々の細胞を 100 mm プラスチックシャーレ(Becton
Structure of mitomycin C.
Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)で培養し,トリプ
シン処理後,1×105 個/ml に調整し,96 穴マイクロプ
レート(Becton Dickinson)に 100 μ l ずつ播種した.24
材料と方法
時間後,新鮮培地に置換してから MMC を添加して,
1 .実験材料と試薬
更に各設定時間で培養した.
以下の化学薬品,試薬は,それぞれ示した会社から購
処理後の細胞は PBS(−)で 1 回洗浄後,100 μ l の
入 し た : Dulbecco’s modified Eagle medium ( DMEM )
MTT 試薬(0.2 mg/ml )を含む培地に置換して,37℃,
(GIBCO BRL, Gland Island, NY, USA);ウシ胎仔血清
4 時間培養した.培養液を除去後,100 μ l の DMSO を
(fetal bovine serum ; FBS)(JRH, Bioscience, Lenexa, KS,
加え,生成されたホルマザン色素を溶解して,プレート
USA),RPMI 1640,3(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl
リ ー ダ ー ( Multiskan Bichromatic Labsystems, Helsinki,
tetrazolium bromide ( MTT ),( Sigma Chem, St. Louis,
Finland)を用いて 540 nm の吸光度(相対的生細胞数)
MO, USA);dimethyl sulfoxide(DMSO)(和光純薬,大
を測定した.得られた用量依存曲線より 50% 細胞傷害
阪);mitomycin C(MMC)
(Merck KGaA, Darmstadt, Ger-
濃度(CC50 値)を算出した.
many ); RNase A, proteinase K ( Boehringer Ingelheim
3 )DNA の断片化
GmbH, Ingelheim, Germany).
HSC-2, HSC-4, T98G, U87MG 細胞をトリプシン処理
後,生細胞数を 5×105 個/ml に調整し,24 穴マイクロ
2 .実験方法
プレートに 1 ml ずつ播種した.24 時間後に培地を交換
1 )細胞培養
し,MMC を種々な濃度で添加して,各設定時間で処理
14)
14)
ヒト口腔扁平上皮癌細胞(HSC-2 ,HSC-4 )は昭
和大学歯学部の南雲教授より,ヒト悪性神経膠芽腫細胞
した.
MMC 処理後の細胞をラバーポリスマンで剥離回収
Mitomycin C による口腔癌細胞死の解析
199
し,PBS(−)で洗浄後,4℃,20 分間,1,800 xg で遠
に付属している binding buffer 42.5 μ l を加え懸濁した.
心分離した.沈殿させた細胞 を lysate buffer( 50 mM
Annexin V-FITC 5 μ l と propidium iodide 2.5 μ l を加え,
Tris-HCl[pH 7.8],10 mM EDTA, 0.5%(w/v)sodium
よく混合し,暗中,室温で 15 分間反応させた.その後,
N -lauroyl-sarcosinate)50 μ l で溶解させ,RNase A(0.4
さらに 200 μ l binding buffer を加え,共焦点レーザース
mg/ml ),proteinase K(0.8 mg/ml )を添加し,50℃ で 2
キャン顕微鏡(LMS 510, Carl Zeiss, Gottingen, Germany)
時間反応させた.NaI sodium(7.6 M NaI, 2 mM EDTA-2
下 で 励 起 波 長 488 nm , 蛍 光 波 長
Na, 40 mM Tris-HCl[ pH 8.0 ]) 50 μ l で DNA を 抽 出
赤<650 nm にて annexin V 陽性細胞を観察した.
し15),100% エタノールで沈殿させた後,70% エタノー
6 )Terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)-mediated
ル で 洗 浄 し た . 沈 殿 し た DNA に TE buffer ( 10 mM
緑 505 ∼ 530 nm ,
dUTP-biotin nick end labeling(TUNEL)法
Tris-HCl[pH 7.5],1 mM EDTA)を添加し,DNA を溶
TUNEL 法は,Apo Alert DNA fragmentation Assay Kit
解させた後,TBE buffer(89 mM Tris-HCl[pH 8.0],89
(BD Biosciences, USA)を用いて行った.HSC-4 細胞を
mM boric acid, 2 mM EDTA)中で 2% アガロースゲル
トリプシン処理後,生細胞数を 2×105 個/ml に調整し,
電気泳動により分離した.また,陽性対照として,60
Lab-Tek chamber slide に 500 μ l ずつ播種した.24 時間
秒間 UV 処理(6 J/m /min)し,4 時間培養してアポト
後に培地を交換し,MMC(3 μ M)を添加して 15 時間
ーシスを誘導した HL-60 細胞を使用した.電気泳動後,
培養した.培養後,細胞を PBS(−)にて軽く洗浄し,
エチジウムブロミドで染色し,UV 照射により視覚化し
5% 酢酸溶液(acetic acid in ethanol)にて 4℃,10 分間
て CCD カメラ(Bio Doc-It, UVP, Upland, CA, USA)で
固定した.固定後細胞を PBS(−)にて洗浄し,0.2%
撮影した.
Triton X-100 溶液にて 5 分間処理後,細胞を PBS(−)
4 )カスパーゼの活性
にて再度洗浄した.洗浄後,Apo Alert DNA fragmentation
2
HSC-2, HSC-4, T98G, U87MG 細胞をトリプシン処理
Assay Kit に付属している Equilibration buffer 50 μ l にて
後,生細胞数を 5×105 個/ml に調整し,6 穴マイクロ
室温 10 分間処理し,次いで TdT 酵素溶液(Equilibration
プレートに 3 ml ずつ播種した.24 時間後に培地を交換
buffer : 45 μ l , nucleotide mix : 5 μ l , TdT enzyme : 1 μ l )
し,MMC を種々な濃度で添加して,各設定時間で処理
にて 37℃,1 時間処理し,断片化した DNA の 3’−水酸
した.MMC 処理後,細胞を回収し,PBS(−)で 2 回
基末端に TdT を用いて FITC 標識 dUTP を取り込ませ
洗浄し,Lysis & Reaction Buffer
(KAMIYAMA BIOMEDI-
た.染色後,0.002% propidium iodide(PI)による核染
CAL, Seatle, USA)を 100 μ l 加え(HSC-2 細胞はラバ
色を行い,染色された細胞を共焦点レーザースキャン顕
ーポリスマンで剥離),10 分間氷上に静置し溶解させ,
微鏡下で励起波長 488 nm,蛍光波長
4℃,20 分間,22,000 xg で遠心分離し上清を回収した.
赤<650 nm にて観察した.
上清中のタンパク質を,プレートリーダーを用いて 620
7 )ポリアミン測定
緑 505∼530 nm,
nm の吸光度を測定し,上清 50 μ l 中のタンパク質量を
HSC-2, HSC-4, T98G, U87MG 細胞をトリプシン処理
100 μ g になるように希釈して各々の基質(caspase-3 ;
後,生細胞数を 5×104 個/ml に調整し,24 穴マイクロ
DEVD-pNA ( p-nitroanilide ), caspase-8 ;
IETD-pNA,
プレートに 1 ml ずつ播種した.24 時間後に培地を交換
caspase-9 ; LEHD-pNA),Lysis & Reaction Buffer を混合
し,MMC を種々な濃度で添加して 3 時間処理した.細
し,37℃,4 時間培養した.その後,プレートリーダー
胞を PBS(−)で洗浄後,Lysis & Reaction Buffer を 100
を用いて 405 nm の吸光度(pNA の発色)を測定した.
μ l 添加し,ラバーポリスマンで剥離回収した.その後,
10% TCA(トリクロロ酢酸)で除タンパクし,ポリア
ミン(プトレシン,スペルミジン,スペルミン)を蛍光
誘 導 体 化 後 , HPLC ( Degasser : DG-980-50, Gradient
units : LG-980-02, Pump : PU-980, Autosampler : AS-950,
Detector : FP-920, System controller : 802-SC, Integrator :
807-IT)(日本分光,東京)により定量した.
8 )酸性オルガネラの検出(アクリジンオレンジ染色)
HSC-2, HSC-4, T98G, U87MG 細胞をトリプシン処理
後,生細胞数を 2.5×104 個/ml に調整し,24 穴マイク
5 )細胞膜リン脂質の局在変化の検出(annexin V 染
色)
Annexin V-FITC Apoptosis Detection Kit(MBL,名古
屋)を用いて検出した.HSC-4 細胞をトリプシン処理
後,生細胞数を 2×105 個/ml に調整し,Lab-Tek chamber
slide(Nalge Nunc International, Rochester, NY, USA)に
500 μ l ずつ播種した.24 時間後に培地を交換し,MMC
10 μ M を添加して 6 時間処理した.細胞を PBS(−)
で洗浄した後,Annexin V-FITC Apoptosis Detection Kit
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ロプレートに 1 ml ずつ播種した.24 時間後,MMC 30
と,ヒト悪性神経膠芽腫細胞においても MMC に対す
μ M を添加して,3 時間処理し,さらにアクリジンオレ
る感受性が増加した.
ンジ(Sigma)で 20 分間染色した.その後,細胞を PBS
(−)で洗浄し,共焦点レーザースキャン顕微鏡下で励
起波長 488 nm,蛍光波長
緑 505∼530 nm,赤<650 nm
2 .DNA の断片化
MMC 24 時間処理後の HSC-2 細胞では,ヌクレオソ
にて細胞質中の酸性オルガネラの有無を観察した.
ーム単位の DNA の断片化が各濃度で誘導されたが(Fig
9 )電子顕微鏡
3A, B),HSC-4, T98G, U87MG 細胞では誘導されなかっ
JSM 6360 LV 高分解能走査型電子顕微鏡(J’EOL,東
た(Fig 3A, B, C).なお,HSC-4 細胞については MMC
京)を用いて,倍率 1000 倍にて HSC-2, HSC-4 細胞の
100 μ M でスメアー状の DNA 分解が認められた.処理
形態変化を観察した.
時間を 48 時間に延長してもヌクレオソーム単位の DNA
10)統計学的処理
カスパーゼ-3, -8, -9 の活性,ポリアミン濃度の測定に
ついては,統計学的処理を行い,2 群間の比較は,Student’s t-test を用いて検定した.
結
Table 2 Cytotoxic activity of MMC against human oral
squamous cell carcinoma cell lines(HSC-2, HSC-4)and malignant glioma cell lines(T98G, U87MG)
.
CC50( μ M)
果
1 .細胞傷害性の測定(MTT 法)
まず,MTT 法により,ヒト口腔扁平上皮癌細胞とヒ
ト悪性神経膠芽腫細胞の細胞傷害作用について調べた
(Table 2, Fig 2).MMC 18 時間処理では,ヒト口腔扁
平上皮癌細胞はヒト悪性神経膠芽腫細胞よりも高い細胞
傷害作用を示した.しかし,処理時間が 48 時間を越す
HSC-2
HSC-4
T98G
U87MG
18 h
48 h
64 h
10.2±0.4
45±3.0
184.1±0.9
>200
<0.8
3.9±0.7
1.8±0.2
2.8±0.9
<0.8
1.2±0.2
<0.8
<0.8
Each value represents mean±S.D. from 3 independent experiments.
Fig 2 Comparison of cytotoxic activity of mitomycin C between the oral squamous cell carcinoma cell
lines(HSC-2, HSC-4)and the malignant glioma cell lines(T98G, U87MG)
.
,48(◇)or 64(△)hours without(control)or with the indicated
Those cells were incubated for 18( )
concentrations of mitomycin C. The viable cell number was then determined by MTT method, and expressed as % of control. Each symbols and bars represents mean±S.D. from 3 independent experiments.
Mitomycin C による口腔癌細胞死の解析
201
Fig 3 Induction of DNA fragmentation by mitomycin C.
Human oral squamous cell carcinoma cell lines(HSC-2, HSC-4)and human malignant glioma cell
lines(T98G, U87MG)were incubated with the indicated concentrations of mitomycin C(3, 10, 30,
100 or 300 μ M)for 24 or 48 hours(HSC-4 only)
. After that, DNA was then extracted and applied to
agarose gel electrophoresis. M, DNA marker ; UV, DNA from apoptotic HL-60 cells induced by UVirradiation ; C, Control, the same cells were harvested before mitomycin C treatment.
の断片化は誘導されなかった.
スファチジルセリンは,annexin V と親和性があり,FITC
3 .カスパーゼの活性
膜に損傷があると,PI は核内へ浸透し,DNA と結合し
標織された annexin V と結合し,緑色に発色する.細胞
細胞死の誘導機構を調べるために,HSC-2, HSC-4, T98
赤色に発色する.
G, U87MG 細胞における MMC のカスパーゼ活性に対
HSC-4 細胞は,MMC(10 μ M)6 時間処理により an-
する作用と比較検討した(Fig 4).HSC-2 細胞におい
nexin V, PI 染色に陽性を示す細胞数の増加が認められ
て,MMC 30 μ M 以上でカスパーゼの活性化が認められ
た(Fig 5).
たが,HSC-4, T98G, U87MG 細胞では,濃度依存的な顕
著な活性化は認められなかった.
5 .TUNEL 法
HSC-4 細胞のアポトーシス中期におけるマーカーと
4 .細胞膜リン脂質の局在変化の検出(annexin V 染色)
して,TUNEL 法を行った.TUNEL 法は,アポトーシ
HSC-4 細胞のアポトーシス初期におけるマーカーと
スにより断片化した核内 DNA の 3’-水酸基末端に,TdT
して,アポトーシス細胞の細胞膜リン脂質の局在変化の
を用いて FITC(fluorescein isothiocyanate)標識された
検出のため,annexin V 染色を行った.生細胞では細胞
dUTP を結合させ,核内の断片化した DNA を検出する
膜の細胞質側に局在しているホスファチジルセリンは,
方法である.
アポトーシス細胞では細胞外へと局在を変える.このホ
HSC-4 細 胞 は MMC ( 3 μ M ) 15 時 間 処 理 に よ り ,
202
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Fig 4 Comparison of activation of caspase-3, -8 and -9 by mitomycin C between human oral
squamous cell carcinoma cell lines(HSC-2, HSC-4)and human malignant glioblastoma cell lines(T
98G, U87MG)
.
Human oral squamous cell carcinoma cell lines(HSC-2, HSC-4)and human malignant glioblastoma
cell lines(T98G, U87MG)were incubated for 3 hours with the indicated concentrations of mitomycin
C(MMC 3, 10, 30, 100 or 300 μ M), and the activities of caspase-3, -8 and -9 were assayed by substrate cleavage assay. The absorbance at 405 nm of cleaved product pNA from the substrate of
caspase-3, -8 and -9 in control cells was 0.0113, 0.0077, 0.0067(HSC-2), 0.0047, 0.0083, 0.0070
(HSC-4)
, 0.0060, 0.0127, 0.0037(T98G)and 0.0053, 0.0060, 0.0063(U87MG), respectively. Control, the same cells harvested before mitomycin C treatment. UV, HL-60 cells that were exposed to UV
irradiation and cultured for 4 hours. Each column and bar represents the mean±S.D. from 3 independent experiments.
*p<0.10, **p<0.05, +p<0.02, ++p<0.01
TUNEL および PI 陽性細胞の増加が認められた(Fig
6).
7 .酸性オルガネラの検出(アクリジンオレンジ染色)
オートファジーを伴う細胞死を調べるためにアクリジ
ンオレンジに対する染色性について検討した.アクリジ
6 .ポリアミン濃度の測定
ンオレンジは pH 感受性蛍光色素であり,生細胞にも浸
ポリアミンとは,細胞の分化,増殖,再生に関与する
透するが,選択的に細胞外へ排出されるので染色されな
化合物である.HL-60 細胞の薬物誘導性アポトーシスの
い.死細胞では排出が行われないため核酸が染色され
過程で,ポリアミンの一種であるプトレシン(PUT)が
る.オートファジーに陥った細胞では,オートリソソー
アポトーシス初期に減少することが報告されている14).
ム(酸性オルガネラ)が形成される.これは酸性を示す
そこで,ポリアミンであるプトレシン(PUT),スペル
ため,細胞質内に赤色に染色される.
ミジン(SPD),スペルミン(SPM)について検討した.
MMC(30 μ M)3 時間処理した後,T98G, U87MG 細
HSC-2 細胞では,MMC が高濃度の場合,プトレシン
胞の細胞質内にアクリジンオレンジによって赤色に染色
(PUT)とスペルミジン(SPD)濃度が減少した(Fig 7
された酸性オルガネラが検出された(Fig 8C, D).一
A).HSC-4 細胞では,プトレシン(PUT)濃度が減少
方,HSC-2, HSC-4 細胞においては,アクリジンオレン
した(Fig 7B).一方,T98G, U87MG 細胞では,これら
ジに対する染色性に変動は認められなかった(Fig 8A,
細胞内ポリアミン濃度に変動は認められなかった(Fig
B).
7C, D).
Mitomycin C による口腔癌細胞死の解析
203
8 .細胞の形態学的変化の観察
HSC-2 細胞において,微絨毛の消失,細胞容積減少,
核クロマチンの凝集,アポトーシス小体の形成が観察さ
れた(Fig 9A, B).一方,HSC-4 細胞においては観察さ
れなかった(Fig 9C, D).
考
察
以前,我々は 3 種の抗腫瘍性抗生物質である MMC,
bleomycin(BLM),PEP の腫瘍選択的細胞傷害作用をヒ
ト口腔扁平上皮癌細胞,ヒト前骨髄性白血病細胞および
ヒト口腔正常細胞を用いて比較検討したところ,MMC
はもっとも高い細胞傷害作用と腫瘍選択性を示した16).
これは実験系が腫瘍選択性を有する物質の探索に有用で
あることを示すだけでなく,MMC の抗癌性を確認した
ことを意味した.
本研究で,まず MTT 法により,ヒト口腔扁平上皮癌
細胞とヒト悪性神経膠芽腫細胞の細胞傷害作用について
調べた(Fig 2).MMC に対する感受性は細胞によって
違いがあり,短時間処理により高感受性を示した HSC2 細胞の CC50 値(10.2 μ M)と低感受性を示した U87MG
Fig 5 Increase in Annexin V-positive cells by stimulation with
mitomycin C.
HSC-4 cells were incubated with or without(Control ; A, B)mitomycin C(MMC 10 μ M ; C, D)for 6 hours. After annexin Vstaining, HSC-4 cells were observed under a conforcal laser scanning microscopy. A×100, B×400, C×100, D×400.
細胞の CC50 値(>200 μ M)に 20 倍以上の相違が見ら
れた(Table 2).
この違いは,薬剤耐性因子である Multidrug resistance
1(MDR 1)のような P-glycoprotein の発現の違いに由
Fig 6 Production of TUNEL-positive cells by mitomycin C in HSC-4 cells.
HSC-4 cells were seeded onto the surface of Lab-Tek chamber slides and cultured for 24 hours until
the cells formed a confluent monolayer. The cells were then treatment with or without(Control)mitomycin C(MMC 10 μ M)
for 15 hours. After the treatment, the cells were subjected to the TUNEL assay
to detect DNA fragmentation and nuclear staining with propidium iodide(PI)to detect nuclear condensation. Images were taken by confocal laser scanning microscope. Original magnification, ×400.
204
佐々木妥啓
明海歯学 44
Fig 7 Changes in the intracellular concentrations of polyamines after treatment with mitomycin C.
Human oral squamous cell carcinoma cell lines(HSC-2, HSC-4)and human malignant glioma cell
lines(T98G, U87MG)were incubated for 3 hours with the indicated concentrations of mitomycin C
(MMC 3, 30 or 300 μ M), and cellular extracts were subjected to HPLC analysis for polyamine concentrations. Each column and bars represents the mean±S.D. from 3∼4 independent experiments.
++
p<0.01
Fig 8 Acridine orange staining of cancer cells stimulated with mitomycin C. Human oral squamous
cell carcinoma cell lines(HSC-2, HSC-4)and human malignant glioma cell lines(T98G, U87MG)were
incubated for 3 hours with or without mitomycin C(MMC 30 μ M). After that, the cells were stained
with acridine orange, and observed under a fluorescence microscope at original magnification, ×400.
2015
Mitomycin C による口腔癌細胞死の解析
Fig
A:
B:
C:
D:
205
9 Observation of changes in the intracellular form after treatment with mitomycin C.
HSC-2 cell, untreated, Controle.
HSC-2 cell, treated for 24 hours with mitomycin C(10 μ M)
.
HSC-4 cell, untreated, Controle.
.
HSC-4 cell, treated for 24 hours with mitomycin C(10 μ M)
来する可能性が考えられた17).鈴木らは,RT-PCR によ
胞およびオートファジーを伴う細胞死に陥りやすいヒト
り,MDR1 の発現程度で薬剤感受性に違いを示すと報
悪性神経膠芽腫細胞(T98G, U87MG)のカスパーゼの
告した18).今後,MDR1 だけでなく Multidrug resistance-
活性を検討したところ,いずれの細胞においても顕著な
associated protein(MRP)の発現,更には Cytochrome P
活性は認められなかった(Fig 4A, B).さらに,HSC-2
450(CYP)などの解毒酵素や抗酸化物質の発現につい
細胞ではヌクレオソーム単位の DNA の断片化が誘導さ
ても検討する必要がある.
れたが,HSC-4, T98G, U87MG 細胞では誘導されなかっ
細胞傷害作用の違いは,各々の細胞の悪性度の違いに
た(Fig 3).HSC-4 細胞は HSC-2 細胞に比較して倍加
も起因するのではないかと思われた.癌は,発生・進展
時間が長いため14, 30),cell cycle を考慮し,MMC の処理
過程における癌原遺伝子の異常や過剰発現,癌抑制遺伝
時間を 48 時間に延長したが DNA のヌクレオソーム単
子の変異や欠失など,遺伝子の変化により多段階的に悪
位の断片化は誘導されなかった( Fig 3B).そこで,
性形質を獲得すると考えられている19−21).なかでも癌抑
HSC-4 細胞におけるアポトーシス性細胞死についてさ
制遺伝子である p53 の変異は,ヒト口腔扁平上皮癌に
らに検討するために,annexin V 染色,TUNEL 法,さ
おいて高頻度に認められており,癌の悪性度の一つの指
らに細胞内ポリアミン濃度についても調べた.Annexin
標として注目されている22−26).柏崎は yeast functional as-
V 染色は,アポトーシス初期におけるマーカーであり,
say 法 に よ り , HSC-2 細 胞 の p53 変 異 を 確 認 し て い
アポトーシス細胞の細胞膜リン脂質の局在変化を検出で
る27, 28).また,p53R2 遺伝子を高発現させた HSC-4 細胞
きる.HSC-4 細胞において,MMC(10 μ M)6 時間処
は,抗癌剤に対する感受性が低下したことも報告されて
理後において陽性反応を示した(Fig 5).TUNEL 法は,
いる29).このような遺伝子発現の違いについても考慮す
アポトーシス中期におけるマーカーであり,アポトーシ
る必要性があると思われた.
細胞死のタイプを解析するために,アポトーシスマー
スにより断片化した核内の DNA を検出できる方法であ
る.TUNEL 染色の結果,MMC(10 μ M)15 時間処理
カーを検討した.MMC 24 時間処理により,HSC-2 細胞
後において,HSC-4 細胞に陽性反応を認めた(Fig 6).
はカスパーゼが活性された(Fig 4A).一方,HSC-4 細
ポリアミンは細胞の分化,増殖,再生に関与する化合物
206
佐々木妥啓
Table 3
明海歯学 44
2015
Expression of apoptosis and autophagy markers induced by MMC treatment.
DNA
Annexin V
TUNEL
+
+
HSC-2
HSC-4
T98G
U87MG
fragmentation
Caspase
Polyamine
Acid organelle
+
−
−
−
+
−
−
−
↓
↓
−
−
−
−
+
+
であり,HL-60 細胞ではアポトーシス初期に細胞内ポリ
アミン濃度が減少することが報告されている11).HSC-2
結
論
細胞では MMC(300 μ M)3 時間処理後,プトレシンと
ヒト悪性神経膠芽腫細胞を比較対照とした MMC の
スペルミジン濃度が減少し,HSC-4 細胞ではプトレシ
ヒト口腔扁平上皮癌細胞に対する細胞傷害作用を検討
ン濃度が減少した(Fig 7A, B).一方,T98G, U87MG
し,以下の結果が得られた(Table 3).
細胞は,ポリアミン濃度の変動を認めなかった(Fig 7
1 .MMC は,HSC-2 細胞に対してカスパーゼ依存的な
C, D).以上の結果から,HSC-4 細胞では,MMC 処理
によりカスパーゼの顕著な活性を伴わないアポトーシス
性細胞死が誘導されている可能性が示唆された.
アポトーシスを誘導した.
2 .MMC は,HSC-4 細胞に対してカスパーゼの関与が
少ないアポトーシスを誘導する可能性が示唆された.
HSC-4 細胞において,MMC 処理によりアポトーシス
以外の細胞死も誘導されている可能性を検討するため,
アクリジンオレンジに対する染色性についても検討し
た.MMC(30 μ M)処理した T98G, U87MG 細胞では
酸性オルガネラの増加を認めたのに対して(Fig 8C,
D),HSC-2, HSC-4 細胞では変動を認めることはできな
かった(Fig 8A, B).悪性神経膠芽腫細胞(T98G, U87
MG)はオートファジーを起こしやすいことが報告され
ているので8),本結果は,MMC 処理により T98G, U87
MG 細胞においてオートファジーが誘導された可能性を
示唆している.
これらの結果から,MMC 処理により,HSC-2 細胞で
はアポトーシス小体の形成も観察され(Fig 9B),カス
パーゼ依存的なアポトーシスが示唆された.HSC-4 細
胞ではカスパーゼの関与が少ないアポトーシスの可能性
稿を終えるに当たり,本研究に対し貴重な御助言ならび
に御校閲を賜りました,明海大学病態診断治療学講座口腔
顎顔面外科学分野 嶋田淳教授に深甚なる感謝の意を表し
ます.具体的な実験指導ならびに研究発表,論文執筆に,
終始ご指導また後校閲を賜りました,本学病態診断治療学
講座薬理学分野 坂上宏教授に深謝いたします.また,御
校閲を賜りました,本学口腔生物再生医工学講座微生物学
分野 大森喜弘教授にも,感謝の意を表します.更に,実
験の遂行に際し,施設設備の使用を快諾してくださった総
合臨床医学講座小児科学分野 皆川公延名誉教授,多くの
面にわたりご指導いただきました本学病態診断治療学講座
薬理学分野教室員各位,前 MPL 小林正樹博士に厚く御
礼申し上げます.
なお,本研究の要旨は第 47 回歯科基礎医学会学術大会
(仙台),第 48 回歯科基礎医学会学術大会(鶴見),第 31
回日本頭頸部癌学会(横浜),第 52 回日本口腔外科学会
(名古屋)ならびに第 1 回日米韓合同顎顔面口腔外科学会
学術大会ハワイ大会にて発表した.
が示唆された.MMC 処理後の HSC-4 細胞において,
DNA の断片化が誘導されない理由として,MMC 処理
後の HSC-2 細胞と比較して,カスパーゼにより活性化
される DNA 分解酵素である CAD の発現が低いこと,
また,DNases に対する感受性が低いクロマチン構造を
有していることなどが考えられる31).なお,本実験に用
いた HSC-2, HSC-4 細胞における DNaseⅠ,DNaseⅡ,
DEF 40/CAD, DNaseX, DNaseγ , DNAS 1S2 の発現を RTPCR により確認しているが,発現量の違いについては
今後検討する必要がある.
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