井上様講演資料 - 京都工芸繊維大学

京都工芸繊維大学スーパーグローバル拠点大学採択記念シンポジウム
イノベーションの基底:真のグローバル化と相互信頼の醸成
京都工繊とBerkeleyをつなぐ
井上隆秀
カリフォルニア大学 CITRIS 研究機構
兼
同バークレー校 Swarm Lab
国際産学官連携担当名誉理事
< [email protected] >
2015年3月20日
本稿執筆にあたって、U.C Berkeley EECS Jan Rabaey 教授、CITRIS Director Costas Spanos 教授
工学部長 故 Richard Newton 教授から多くの示唆を頂いた。 記して感謝する。
1
京都工繊とBerkeleyをつなぐ
アジェンダ:
1. プロローグ: 真のグローバル化
2. グローバル・リーダーシップ
3. 21世紀に向けて工学再考
4. 21世紀の工学と工学者に期待するコンピテンス
5. 実践コミュ二テイ (Community of Practice)
6. 相互信頼について
7. お持ち帰り
2
京都工繊とBerkeleyをつなぐ
プロローグ:真のグローバル化とは?
自らの価値, 価値観 をもって世界と対峙し, 交流すること。
価値・価値観を考える:
参考文献 (注)
“Make Value for America:
Embracing the Future of manufacturing, Technology, Work & Life”
“アメリカの価値を創り込む:
これからのモノづくり, 技術, 仕事と生き方の土壌となるもの”
にみるEmbracing Make Value: 価値づくりの土壌とは?
-----------------------
この報告書では、ますますグローバル化が進む、世界環境をふまえ、
アメリカに価値を生み出す, モノづくりのサプライ・チェーン, 技術, 仕事と生き方の現状調査から分析している。
1)“知識情報イノベーション = 知識とそれを活用するツール” の技術革新 とグローバル化 に如何に対応するか。
2) そこから価値を生み出す“エコ・システム (= 実践コミュ二テイとそのつながり:講演者 注)
そしてアメリカが, 将来に渡り, たえず価値を生み出し、世界の中でリーダーシップを取り続ける 為
に必要な方策を産官学, 地方自治体やNPO, それらに関わる人々に対し多面的に提言しています。
注: National Academy of Press から2015年3月に出版された報告書(提言)。
本報告書は2004年に発表され, 注目を浴びたパルザノ・レポートの10年後見直し版
と考えられ、彼我と世界の10年を振り返り、今後に役立てる上でも、意味が大きい。
3
京都工繊とBerkeley をつなぐ
我々の価値・価値観
•
京都工芸繊維大学
千年の歴史を持つ京都に
1899年に養蚕業講習所
として創立された。
工芸科学部1学部で構成される工科系大学。
 フルタイム教員:298、学部生:2,900、修士・博士課程: 1,156

“美と知と技”の融合。 創造性と感性を育み、科学技術を基盤として、
人間と環境を重視したものづくり「実学」の実践を目指す。
• U.C Berkeley
1849年のカリフォルニアゴールドラッシュ後
まもない1868年にCollege of California
として教員10名、学生40人で創立された。
 14 学部 130 学科からなる総合大学。

フルタイム教員:1620、学部生:27,126、修士・博士課程:10,455
 真のグローバル・リーダーとなる人材を育てる。
4
京都工繊とBerkeley をつなぐ
グローバル・リーダーシップ: Berkeleyの着眼
21世紀のリーダーとなる人材に期待される教養とその醸成
21世紀がどの様な時代になるのか, 未だ誰にも判らない。
然し, グローバル化と共に, 高度化する知識情報社会への流れは確実だ。
“高度化する知識情報社会”の意味するところ、
「世に存在するモノ達(生命体, 無機的物体, 自然, 人工物, 勿論人間達)が自ら
情報を発信し, 受け取り, 集合知と経験をもとにミクロ・マクロな調整を
ときに自発的に, ときに協調して行いながら, 動かしていく社会」
“モノに高度な判断力をつくりこむ役割” は現在の工学と工学者の範疇を超えた
課題である。 工学の再考が必要だ。 まして, その様な社会全体が向かう方向をビジョンを
持って先導するリーダー達には “21世紀の教養としての工学” が必要ではないか。
5
京都工繊とBerkeley をつなぐ
近代工学的思考の原点:ガリレオ
現実の世界で起こる様々な事象の理解(実学)に, 神学の束縛を離れ
科学的な考え方を持ち込み, 物事の理解に, モデル化の概念を導入し、
順序だてて解析する近代工学の考え方と, それを実行する計算手法を
最初に持ち込んだのは, ガリレオではないでしょうか。
6
京都工繊とBerkeley をつなぐ
工学的思考の成果:産業革命(工業の成立)
ガリレオに始まる近代工学思考は, 18世紀の産業革命(工業化)の基盤
となり, 先ず様々な機械化による産業(モノづくり産業)が誕生した。
次いで19世紀後半から20世紀中盤に掛けての有線・無線通信(Bell, Marconi)
革命期を経て, 20世紀中盤からの50年は, C&Cを核とした抽象化(情報)技術
が新たな産業分野を開拓し, 情報能力イノベーションを牽引して来ました。
実際創立当時のBerkeleyでは、電気は、
電気機械として、機械工学の一部として
扱われていました。
京都工繊でも、電気は、紡績機械の駆動源
としての扱いから始まったのではないでしょうか。
7
京都工繊とBerkeley をつなぐ
イノベーションの主役交代
21世紀初頭の10数年は, それまで別個と考えられ, 扱われてきた
“モノ” と “情報”を一対として考え, “モノに情報対応能力を与える” 技術開発
に焦点があたっています。
8
京都工繊とBerkeley をつなぐ
モノが普遍的情報対応能力を持つ時代がくる
“普遍的情報対応能力(インフォ・コンピテンス)をもつモノづくりの技術”
が普遍化した時, 工学者は何を目指すのか?
個々のモノや情報よりも , それらを組み合わせて
“どの様な社会を創るか”
がエンジニアリングの対象となる(既に気配を感じませんか?)
安全・安心
エネルギー
デモクラシー
環境
農業
健康・医療
自由
教育・学習
喜び・楽しみ・満足
9
京都工繊とBerkeley をつなぐ
21世紀の工学者に期待されるコンピテンス
社会と人々の暮らしの中に, 深く入り込む新しいモノは
その造詣者である工学の意義, 工学者の能力と経験の再考を示唆している
リベラルアーツ
経営/経済学
暮らしの中の美
法/社会規律
ヒューマ二ティ
社会・心理学
芸術
物理
素材科学
哲学
化学
分子工学
医学
認知科学
10
京都工繊とBerkeley をつなぐ
Community of Practice (実践コミュ二ティ): Berkeley Invention Lab.
Berkeley Invention Lab は21世紀のイノベーションを自ら実践する場として
2012年に誕生した。 ここでは学部の専門も年次も混成の学生達が5, 6人
単位のチームを組んで “情報対応能力を持つモノ ”づくりに取り組んでいる。
11
京都工繊とBerkeley をつなぐ
Institute for Design Innovation
Invention Lab は非常な成功と関心を集め, 2015-16年から運用開始予定の
総3階建て2400 m2規模のInstitute for Design Innovation建設が進んでいる。
12
京都工繊とBerkeley をつなぐ
何故相互信頼か
Invention Lab の経験を通して, 改めて Community of Practice
(実践コミュ二ティ)の重要性を認識している。
そして実践コミュ二ティでは, そこに集まる人々が, 相互信頼をもって,
コミュ二ティ活動を行なう事が, 成功の必須条件であるのを経験している。
真のグローバル化を進めるに際しても, 実践コミュ二ティの成立が鍵と考える。
然し, 居場所も知識, 環境条件, 嗜好や期待も異なる様々な人々が, その違い
を素晴らしいと考え, 互いに認め合った上で, グローバル・コミュ二ティ活動を
行なう事。 即ち, 相互信頼の上に立ったコミュ二ティをつくる事が必須である。
注)実践コミュニテイ(Community of Practice): 権限をマネジメントの基盤と
する通常の組織と異なり、課題に対する義憤や好奇心を基盤とし、組織や
専門性を超えて、取り上げた課題に対する実践活動を行う集団。
13
京都工繊とBerkeley をつなぐ
お持ち帰り

真のグローバル化とは, 自らの価値, 価値観 をもって, 世界と交流することだ。
千年の歴史を持つ古都にあり, 美と知を融合し技に生かすを目指す京都工繊
には, その素養がある。 少なくともBerkeley にとって魅力的で, 学ぶ事が多い。

古くからSPICE, BSD UNIX 等, 実践コミュニテイ活動の実績を持つ Berkeley は
進取の気性を持つ多様な人材の集まりで, グローバルな世界でリーダーシップ
を取る人材を生み出す仕組みと文化, は魅力的と信じる。

21世紀グローバルな世界のイノベーションが“普遍的情報対応能力(インフォ・
コンピテンス)を備えたモノ” に向かうとき, それらに美(や気配り)を組み込み,
新たな工学分野を開拓する事は, 大変意義深い。

この様な, 大きな目標の進捗と達成には, 相互信頼を前提とした実践コミュ二ティ
(Community of Practice) の場が必須である。 グローバルな環境の中で, 実践
コミュ二ティを機能させること自体が, 真のグローバル化社会では必須であるが,
同時に, 極めて挑戦的なテーマである。

両大学はこの課題挑戦の実践コミュニテイのコアパートナー為り得るであろうか。
さて, 大きなお持ち帰り, 宿題ですね。
14
参考資料
1. “Making Value for America: Embracing the Future of Manufacturing, Technology and Work”
National Academic Press, March 2015
2. 京都工芸繊維大学ホームページ: www.kit.ac.jp
3. カリフォルニア大学CITRIS 研究機構ホームページ: www.CITRIS-UC.org
4. カリフォルニア大学バークレー校 Swarm Lab ホームページ: swarmlab.eecs.berkeley.edu
5. “ 産業技術人材の成長と育成” 経済産業省産業技術環境局2014年度調査研究報告書
www.meti.go.jp/meti--lib/2014fy/E004208pdf/
6. “Cyber Physical Systems Home Page” NIST, www.nist.gove/cps/
7. “ Engineering Revisited” Jan M Rabaey K.U Leuven 150 Year Anniversary Speech, 2013
8. “Community of Practice” Etienne Wenger Harvard Business Press, 2015
邦訳: コミュ二ティ・オブ・プラクティス 翔泳社, 2005年
9. “Work & Life Balance in Our Society: From Digital Divide to Digital Unit”
Note from CITRIS Tokyowww.meti.go.jp/meti=lib/report/2014fy/E
Workshop, November 2014
10. “The Definitive Drucker” Elizabeth Haas Edersheim, McGraw-Hill, 2007
邦訳: 理想企業を求めて ダイヤモンド社, 2007
15