等級制度で期待する人材像を明確にする

「人事制度の昨日・今日・明日を考える」
第3回 「等級制度で期待する人材像を明確にする」
小塚社労士事務所 株式会社オフィス K 代表取締役
「人事制度の昨日・今日・明日を考える」
小塚 真弥
度)と呼んでいるわけです。
今回からは、現在の人事諸制度の基本的な
例えば「1 等級の人には、このような能
考え方や仕組み等について考えていきたい
力を身につけてほしい」
「2 等級の人にはこ
と思います。第3回目は、まず自社の人材
ういった取り組み姿勢で職務遂行してほし
像の基準となる「等級制度」について述べ
い」
「3 等級の人にはこのような役割を果た
てまいります。
してほしい」
「4 等級の人にはこのような貢
献を期待している」等々、等級制度を通じ
〔等級制度の役割とは〕
て期待する人材像を、その期待レベルごと
第 1 回(4 月号)のところで、人事制度
に具体化して明示にすることにより、評価
の役割とは「経営ビジョンの実現、事業戦
や処遇、人材の育成や活用といった人事諸
略実行のために必要な人材の確保・育成」
制度を束ねる軸として機能させていくこと
であり、もう少しひらたく言うならば「な
になります。また、等級制度は社内におけ
ってほしい人材になってもらう」ための仕
るキャリアの成長過程を示すものでもあり、
組みであると申し上げました。そのために
社員の側からすれば「各人が今後目標とす
は、先ずなってほしい人材像を社員に対し
る人材像」という位置づけになります。
て知らせる必要があり、今回のテーマであ
る等級制度の役割は、まさに会社が期待す
〔等級制度の類型〕
る具体的な人材像とそのレベル等の詳細を
等級制度において、人材のレベルを区分
社員に明示することにあります。
ところで、当たり前の話ですが、会社が
していく基準については、以下のような類
型があります。
社員に対して期待するレベルは、通常バラ
① 職能基準
バラです。組織として業務遂行する以上、
職務遂行における能力(職能)の発展段階
各人に割り当てられた役割があり、会社が
によってレベル分けしたものです。原則と
期待する人材像については、例えば新入社
して本人の職務や役職位とは連動しないた
員に期待するレベル、入社 5 年目の社員に
め、人事異動が比較的容易でポスト不足に
期待するレベル、ベテラン社員に期待する
も対応できる反面、実際の職務レベルと等
レベル、課長や部長に期待するレベル等々、
級にずれが生じやすく、また年功的な運用
それぞれ異なってくるはずです。
になりがちな面があります。
極端に言えば社員一人一人に対して期待
② 職務基準
するレベルがあるわけですが、その中で、
就いている仕事(職務)の難易度や影響度
大きく期待レベルの次元が変わる段階をと
等のレベルに応じて区分するものです。当
らえて括り、序列化し、各段階における具
然ながら職務と等級はマッチしますし、そ
体的な期待水準を明示したものを一般的に
の職務における専門家の育成には適してい
等級制度(あるいはグレード制度や資格制
るのですが、反面、人事異動が困難で、職
務の変化に伴う評価とメンテナンスが非常
つまり、職務と職能は表裏一体のもので
に煩雑になるといったデメリットがありま
あって然るべきであり、その両方を勘案し
す。
て、各社員の等級を決定しているのが現実
③ 役割基準
であるといえます。その意味では、人(能
人事制度において、役割の「役」は責任と
力)基準と仕事(職務)基準を融合した性
権限、
「割」は割振り、ということになりま
格を持つ「役割基準」による等級制度を取
す。つまり、職務を通じて付与された責任
り入れる企業が増えてきているのは、実務
と権限や、その役割を遂行することによっ
に即した自然な流れのようにも思えてきま
て期待される貢献度のレベルによって区分
す。
するものです。②と同様に仕事基準という
要は、組織に対する「期待貢献度」によ
ことも言えますが、職務基準に比べると、
るレベル分けということであり、実際の等
各等級における定義が抽象的で、大括りの
級表の実例を見ましても、等級ごとに「期
区分となるのが一般的です。また職務にお
待される役割」
「必要とされる職務遂行能力」
ける共通した役割のほか、人や時期によっ
「必須知識・技能」
「具体的な職務や役職例」
て個別の役割を担うこともあり、人基準の
等、様々な切り口・要素で等級定義をされ
性格も併せ持つことになります。
ているところが多くなってきています。
その他、会社によっては「実力等級」と
か「職責等級」などと呼んでいる場合もあ
〔昇格基準〕
ろうかと思いますが、名称はともかく、そ
等級制度の運用において、しっかりと設
の性格は上記①~③のいずれかに分類され
定しておかなければならないものが昇格
るように思います。
(あるいは降格)基準です。昇格とは、等
ただ、学問的な分析はともかく、実務面
級制度において各人の等級が上がることで
からみれば、このような等級制度の類型分
あり、それは、期待される貢献度の次元が
けは、今日的にあまり重要な意味を持たな
変わることを意味します。
くなってきています。
(実務を担当されてい
判断材料としてよく用いられるのは、過
る方は感覚的に理解されているところかと
去数年間の人事考課結果をベースに、その
思いますが、
)職能基準にしろ、職務基準に
等級での必要在級年数、上司推薦や公的資
しろ、純粋に能力や職務といった単一要素
格の有無を昇格必要条件とし、その他、審
のみで、実際の社員を各等級に当てはめて
査として小論文や役員面接、各種適性検査
いるわけではないからです。
を経て昇格者を最終決定するといったもの
職能と職務の関係で言えば、いわゆる役
です。
不足や役者不足といった、人と仕事の一時
もちろん、毎年の昇格対象人数と昇格選
的なアンマッチ状態は起こりうるかもしれ
考工数との兼ね合いもありますが、特に節
ませんが、ある程度の期間で見れば、その
目となる昇格段階(たとえば管理職相当の
人の職能レベルにふさわしい職務を与えよ
等級への昇格時)などにおいては、複数の
うとするでしょうし、逆に、ある職務を十
昇格必要要件や審査項目を設けているとこ
分遂行できる能力を持つ者を就かせるのが
ろが多いかと思います。
至極当然です。
なお、昇格における水準については、大
きく2つの考え方があります。
と思いますが、一般的には、下位等級(初
現在の等級に必要な要件を十分満たした
級~中級レベル)の段階においては、前者
ので上位等級に昇格させるという考え方
の「進級方式(現等級の要件を満たせば昇
(学校に例えると、一学年上へ進級するイ
格させる)」要素が強く、逆に、上位等級(管
メージに近い)と、上位等級に必要な要件
理職レベル以上)においては、後者の「進
をある程度満たしているから上位等級に昇
学方式(上位等級の要件をある程度満たす
格させる考え方(学校に例えると、入試に
と判断できる場合に初めて昇格させる)
」に
合格して進学するイメージに近い)があり
重きを置いて運用をされている場合が多い
ます。
のではないかと思われます。
これについても、どちらの考え方が良い
いずれにせよ、今後は、役割や職務の変動
ということではなく、また純粋にどちらか
に応じてドラスティックに等級を上下させ
の考え方のみで運用できるものでもありま
ていく会社も増えてまいりますから、昇格
せん。各等級における定義や要求水準によ
要件(及び降格要件)を開示して、明確な
って、主にどちらの考え方で運用するのが
運用を行っていくことが、ますます重要に
自社にとって妥当かということになろうか
なってくるでしょう。
<等級制度>