農業の第三者継承を考える

農業の第三者継承を考える
平成 26 年の県内の新規就農者数は 263 人で、3年連続で増加しました。その内訳で特
徴的なのは、新規参入者が約3倍に増えたことです。この背景には、若者の職業観の変化
や平成 24 年度から始まった青年就農給付金制度などの支援策が充実してきたことなどが
考えられます。
しかし、過去5年間に県内で新規参入した者に聞いたところ、農地の確保や栽培技術の
未熟さなどの課題を抱え、計画どおりに所得が確保できていないとの回答が多くありまし
た。
一方で、優れた農業経営であっても後継者がいないために、高齢化により農業を続けて
いくことができずに離農するケースがあります。
そこで、これらの問題を解決する一つの手法として、「第三者継承」を紹介します。
● 第三者継承とは
後継者のいない農家の農地や施設・機械等の有形資産及び技術やノウハウなどの無形資
産を家族以外の者に受け渡すことによって農業経営を継承する手法です。新規参入を希望
するものにとっては、就農の一形態と捉えることができます。
自家経営
継承
就職
新規
就農者
他経営
継承
家族型継承【新規学卒就農、Uターン就農】
(農家子弟が親の経営を継承)
法人等就業
(農業法人等の従業員として農業に従事)
第三者継承
(既存経営の有形・無形資産を引き継ぐ)
法人経由型就農
(農業法人での就業後、法人の支援により農業を開始)
新規参入
創業
独立就農
(有形・無形資源を独自に取得して農業を開始)
図1
就農ルートの中での第三者継承の位置づけ
● 第三者継承での新規参入の特徴
第三者継承を新規参入者からみた場合、農地などを独自に取得して就農する独立就農と
比べると次のような特徴があります。
①専業経営として必要な規模の農地や農業機械等を就農時に一括して確保できる。
②移譲者(農業経営を譲る人)から技術やノウハウを得ることができる。
③就農時に経営資源を一括して確保するため、初期投資が多くなることがある。
④就農当初から、より高い技術力や経営管理能力が求められる。
特に第三者継承は、農地や資金の確保のほか、農業所得が安定するまで比較的期間を要
するケースが多い稲作、果樹、酪農などにおいて有効とされています。そして、新規参入
者にとっては、移譲者が地域との橋渡し役となってくれることなどの大きなメリットもあ
ります。
-1-
● 移譲者及び地域農業にとっての第三者継承の意義
専業農家であっても後継者がいなければ、自らが築いてきた事業資産やノウハウなどの
経営資産を受け渡すことなく離農するしかありません。優良農地や使える機械等であれば、
引き継いでくれる農家等がいるかもしれませんが、個人が持っていた技術やノウハウなど
の無形資産は受け渡すことはできません。しかし、家族でなくても後継者としてふさわし
い人がいれば、有形資産だけでなく、自分が持っていた技術やノウハウ、販売先等とのつ
ながり等の無形資産もセットで次の世代へと受け渡していくことができることにポイント
があります。
また、地域農業にとっては、第三者継承が個々の経営継承だけに止まらず、地域農業の
新たな担い手の確保・育成につながります。つまり、後継者がいない農家や新たに農業を
始めたい人だけの問題と捉えるのではなく、担い手確保のための積極的な戦略として位置
づけることができます。
● 第三者継承の手順
第三者継承に対する取組は、基本的に新規参入希望者あるいは離農する農家からの申し
出により開始され、図2に示す手順で進めていきます。第三者継承を進めていく上で特に
重要なるのがマッチングと適性把握です。この段階でうまくいかないと結局は失敗に終わ
ることになりますので、十分に時間をかけて判断する必要があります。
なお、全国農業会議所と全国新規就農相談センターでは、平成 20 年度から農業経営継
承事業に取り組んでいます。 (全国新規就農相談センターのホームページ参照)
数週間程度研修し、お互いの適性や
相性を見きわめる。
マッチング
事前研修
1年程度の本格的な技術・経営指導
研修実施
・継承方法の検討
・資産の評価
・継承者の就農準備
継承準備
契約書(合意書)の作成
共同で
経営を行う
継承法人を設立し
共同で経営を行う
継承(経営者交代)
移譲者は引退または再雇用、必要に
応じて技術指導
継承後のフォローアップ
図2
第三者継承の手順
-2-
● 第三者継承を進める上でのポイント
◇適性の見きわめ
継承者と移譲者が、この取組に向いているかが非常に重要なポイントになります。継
承者と移譲者の適性は下記のとおりです。
【継承者の適性】
・与えられた仕事をするだけでなく、経営者としての意欲と資質がある。
・移譲者が行ってきた生産・販売の仕組みを尊重し、受け入れる姿勢がある。
・移譲者が築いてきた取引先や関係起案等との信頼関係を尊重し、対応できる。
・移譲者の資産を取得するための資金を持っている。
【移譲者の適性】
・自分の持っている資産を高く売却できればいいという考えでなく、有形及び無
形資産を一つのまとまりとして次の世代に残したいという思いを持っている。
・継承者がスムーズに経営を継承できるように、資産の評価や移譲方法について
配慮できる。
・自分の持っている技術やノウハウを、言葉にして伝えられる。
◇相性の確認
継承者と移譲者の考え方や個性に合った組み合わせが重要となります。そのため、事
前に数週間程度の共同作業を行い、お互いの人柄や考え方などの相性と適性を確認しま
す。このとき、相性や適性に不安がある場合は、早めにマッチングを解消することも考
える必要があります。相性がよくないと結局はうまくいかないことが多いからです。
● おわりに
農業従事者は減少傾向で推移し、高齢化が依然として進展しています。そんな中、優れ
た農業経営者であっても、後継者がいないために離農していく農家がいます。このことは、
一つの農業経営がなくなったということにとどまらず、農地利用の低下や耕作放棄地の増
加、産地の弱体化など、農村社会に大きなダメージを与えます。
一方で、若者の農業や食への関心が高まっている現状があり、新規参入者が増加傾向に
あります。しかし、新規参入者が独立経営を成り立たせるためには、優良農地や資金の確
保及び栽培と経営技術の習得など多くの課題を抱えています。
これらの問題を解決する一つの手段として、第三者継承は注目されています。県内でも、
少しずつ第三者継承の事例がみられるようになってきました。実際の経営移譲までには多
くの課題もありますが、価値ある経営資源が次代へ引き継がれるとともに、新規参入者の
定着によって地域農業の維持・発展につながる可能性もあります。新規参入者の参入方式
の一つとして、そして後継者がいない農家や地域で考えてみる価値はありそうです。
【参考資料】
・農業経営の第三者継承マニュアル ~事業資産を円滑に受け渡すために~
全国農業会議所、新規就農相談センター 2014 年3月
・農業経営の第三者への継承 -進め方とポイント-
(独)農研機構 中央農業総合研究センター 2011 年3月
【経営普及課農業革新支援担当
-3-
鶴巻雅幸】