2004年度21世紀COE「量子ナノ物理学」研究成果概要

(ナノ構造物性理論)
Electronic States and Transport in Nanostructures
ナノ構造の電子状態と量子輸送現象
安藤 恒也
1. カーボンナノチューブの電子状態と電気伝導
これまで , 有効質量近似をもとに , カーボンナノチューブの構造による金属から半導体
への変化. 電子状態に対する磁場効果, 特に光学スペクトルと励起子, 格子振動との相互作用
による格子歪とその磁場効果, アハラノフ-ボーム効果, ランダウ準位・反磁性, コンダクタ
ンスゆらぎ , ナノチューブ 接合系のコンダ クタンスと磁場効果などについて , 幅広い研究を
行ってきた. 特に , 金属的ナノチューブではポテンシャルの到達距離が格子定数より大きな
通常の不純物では後方散乱が全く存在せず , ナノチューブが完全導体となることを理論的に
予言した.1,2) さらに , フェルミ準位に複数のバンドがある場合にも完全透過のチャネルが存
在することを示した.3)
この後方散乱の抑制と完全伝導チャネルの存在は最低次の有効質量方程式である Weyl
方程式がもつ特殊時間反転対称性の直接の帰結である. 特殊時間反転対称性は通常の時間反
転対称性が存在しない場合に破れるのはもちろんであるが , 実際のナノチューブではこの対
称性を微小ながら破る効果が存在する. 例えば , ポテンシャル到達距離が格子定数 a より小
さい散乱体では , K 点と K’ 点の間の谷間散乱による後方散乱, 副格子間のポテンシャルの違
いによる谷内後方散乱が生じる.1) また , 有効質量近似の高次で現れるバンド 非等方性の効果
によってもわずかに後方散乱が生じる.2) このような対称性を破る効果の影響を明らかにす
るために , 垂直磁場・磁束,4) 短距離散乱体,5) バンド 非等方性 6) を考慮して数値計算した.
図 1 に示すように , 完全透過チャネルは非常に弱い非対称性により破壊されるが , 後方散乱
の抑制はほとんど 影響を受けないことが明らかになった.
ナノチューブの光吸収・発光スペクトルが観測され , 個々のナノチューブの構造が同定
されるようになった. そこで , ナノチューブの光スペクトルに対する電子間相互作用の効果
を理論的に明らかにすることを試みた. まず , バンド 構造に対する電子間相互作用の効果を
動的な乱雑位相近似 (RPA), 静的な RPA, ハートレーフォック近似で計算し , 金属ナノチュー
ブで線形分散を持つバンド を除けば , 静的な RPA が十分良い結果を与えることを示した.7)
次に , 静的な RPA で励起子状態を計算し光スペクトルを求めた結果, 励起エネルギーには以
前の計算では考慮されていない対数的な太さ依存性が存在することを明らかにした.8) 結果
は半導体ナノチューブの第一ギャップと第二ギャップの励起エネルギーの比がこれらの効果
で変化することを示す. それによりはじめて実験結果を半定量的に説明できる.
2. 変調ポテンシャル下 2 次元電子系の輸送現象
半導体微細加工によって 2 次元電子系に周期的なポテンシャル変調を導入し , 人工的な
結晶やナノ構造を自由に作ることができる. このような人工ナノ構造の電子状態と量子輸送
安藤 恒也
Inverse Localization Length (units of WL-1)
2
101
W-1 = 1000.0
u/2γL = 0.01
(a)
(b)
(c)
Zig-zag
(d)
100
10-1
ε(2πγ/L)-1
ε(2πγ/L)-1
0.50
1.50
2.50
3.50
0.50
1.50
2.50
3.50
10-2
10-3
10-2
10-1
Magnetic Field
10-3
10-2
10-1
Magnetic Flux
ε(2πγ/L)-1
3.50
2.50
1.50
ε(2πγ/L)-1
0.50
1.50
2.50
3.50
10-3
10-2
10-1
Short-Range Scatterers
10-4
10-3
10-2
10-1
Trigonal Warping
図 1 局在長の逆数の対称性を破る効果の強さによる変化. (a) 垂直磁場 (L/2πl)2 . (b)
磁束 φ/φ0 . (c) 短距離散乱体濃度. (d) バンド 非等方性の強度 δa/L. ここで , L はナノ
チューブの周長, l は磁気長, φ は磁束, φ0 は磁束量子, δ は 1 の程度の定数である.
現象についての理論的な側面から研究を行っている. 特に , アハラノフ–ボーム環に量子ド ッ
トを配置した系では , それを通過した電子波と他方を通過した波との干渉効果により, ド ッ
トにおけるコヒーレンスの情報を得ることができる. 実験では . 連続した数個のピークのア
ハラノフ–ボーム振動の位相が同じであることが観測され , 束縛状態のパリティ変化から予測
される結果と異なるため大きな謎となっていた . 最近, 同様の系で干渉によるファノ効果が
観測され , 同種の非対称性をもったコンダクタンスピーク及びアハラノフ–ボーム振動が数個
の共鳴ピークにわたり連続することが観測された. そこで , この系の現実に近い模型を用い
たコンダクタンスの数値計算により, この不思議な現象の起源を理解することができた.9) そ
の他にも, Hofstadter 蝶スペクトルの量子ホール効果,10) 1 次元周期系の周期不規則性によ
る異方的伝導 11,12) などの研究を行った.
参考文献
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6
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T. Nakanishi, K. Terakura, and T. Ando, Phys. Rev. B 69, 115307 (2004); Proceedings
of the Second Quantum-Transport Nano-Hana International Workshop on Interacting
Electron Systems in Quantum Transport Devices, edited by Y. Ochiai (Institute of
Pure and Applied Physics, Tokyo 2004), p. 51.
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T. Ando and Y. Zheng, Physica E 22, 294 (2004).