今月号は、いわゆる「自社株対策」について、 「キーワード」を中心に、概略をまとめて おきたいと思います。 そもそも、中小企業の事業承継の出発点の一つは、第一回(平成21年6月号)でも触 れたように、自社株対策であったと言っても過言ではありません。その中で、普通株式等 の評価減の税制改正や相続税精算課税制度の拡充等がなされてきましたが、まだ不十分と いうことで、今回の経営承継円滑化法が制定され、相続税・贈与税の納税猶予制度が成立 したわけです。 * 本稿開始から一年が過ぎましたが、その間、「使いづらい」「デメリットが多い」との評判も出てきていますし、 未だに、税制の取り扱いが明確になっていない部分(たとえば、信託に関する部分)もあります。信託に関して は、「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会」中間整理のポイント(平成20年9月)HP を参考にして下さい。 以下「自社株対策」を考える上では、第一四回(平成22年7月号)で触れた「財産権」 「経営権」の事を常に念頭においていただきたいと思います。 <会社法の視点> ① 会社の機関設計 例えば、現在は一人オーナー会社で株主も一人、取締役会も設 置していない会社であっても、将来、相続により株式が分散される可能性がある場 合、取締役会の設置を検討する必要があると思いますし、もちろん経営権の確保の ためには、3分の2以上の議決権を、後継者のために確保することが必要です。 ② 増・減資 増資も種類が多数あり(金銭出資・現物出資、資本剰余金等の組み入 れ、合併。株主割当・公募・第三者割当。有償増資・無償増資)それぞれに長所・ 短所があり、事業承継全体の構想の中で考える必要があります。減資は相続対策と して有効な場合がありますが、みなし配当に注意が必要です。 ③ 金庫株 次の黄金株とともに事業承継の話題とともに、よく出てくる言葉です。 金庫株とは、自己株式のことです。事前策としては、分散された株式の買取等の株 主の整理に有効ですし、事後策としては、相続税の取得時加算や申告分離課税等の 優遇税制措置を受けられる場合もあります。また、相続税の物納としても有効な場 合があります。 ④ 黄金株 その名のとおりオールマイティの力を持つ株式のことです。経営権・財 産権の確保が出来ないとき等、あらかじめ黄金株を、ある個人に割り当てておけば、 それが一株であっても株式総会の議案を否決できるので、経営権の最低限の確保は 出来る。もともとは、企業買収防衛策として利用されるものです。 ⑤ MBO・EBO(マネイジメント・バイ・アウト、エンプロイー・バイ・アウト) 会社の経営陣が株主より自社の株式を譲り受けたり、あるいは会社の事業部門のト ップが当該事業部門の事業譲渡を受けたりすることで、文字通りのオーナー経営者 として独立する行為のことです。従業員が譲り受ける場合をEBOと言います。後 継者が親族にいない場合の手段(手法)の一つです。うまくいけば、先代経営者が 株式譲渡代金を取得出来、いわゆるハッピーリタイアが出来ますし、会社売却とい ったマイナスイメージが払拭されます。その裏返しで、購入側である役員・従業員 に資金がない場合が多いので、そこがデメリットです。 ⑥ M&A 第三者に企業を売却すること(合併<MERGER>)と買収(ACQ UISITION)のことです。これはもう自社株対策というより、親族・企業内 に後継者が居ない場合の選択肢と言ったほうがいいでしょう。 <税法の視点> ① 役員退職金 タイミングさえ間違えなければ、有効な自社株対策となり得ます。 例えば、株主資本1億円(資本金1000万円+利益剰余金9000万円)の会社 で退職金を7000万円支払えば、株価の評価はかなり下がります。退職金の税法 上の妥当性と資金繰りの問題さえ解決できれば有効です。 ② 生命保険 上記の資金繰りの問題と株価を下げる効果(節税効果もある)を解決 する一つの方法が、生命保険の活用です(生命保険会社各社は、事業承継に関連づ けたセミナーの案内広告等を出すなど積極的です)。いわゆる定期保険に会社が加入 して、被保険者が役員、受取人も会社にしておけば、そして条件さえ満たせば、全 額損金算入となり節税効果があります。さらに、万一の場合はもちろん、その役員 の退職時期を解約返戻金のピークに設定しておけば、退職金の原資としての効果も あります。 ③ 相続時精算課税(贈与) 従来の贈与は“生前贈与をさせない”ためのものでした が(税率が高い)、相続時精算課税制度は“生前贈与をさせる”ためのもので、税率 も一律 20%で、贈与が行いやすくなりました。ただ、将来価値(価額)の予測リス クや民法上のトラブル等のリスクもありますので、十分な検討が必要です。 贈与も、祖父から孫への贈与は一定の効果がありますし、配当還元価額で贈与可 能な者への贈与も効果があります。 以上、主だったキーワードについて概説しましたが、これ以外にも種類株・組織再編・ 新株予約権(付社債)・株式交換等々があります。本稿第一回以来、本題である「経営承継 円滑化法」「相続税・贈与税の納税猶予制度」についてはもちろん、第十三回・十四回の中 小企業の事業承継の全体像、そして今回のキーワードを元に、さらには、(これは私の領域 ではないので一切触れてはいませんが)当然のこととして、その事業の持つさまざまなノ ーハウや必要な専門知識の数々等を考慮に入れながら、大変な作業になると思いますが「事 業承継について考えて」みて頂きたいと思います。 「まだまだ先」のことでもありませんし、 「早く早く」とあせることでもありません。迅速にかつ慎重に初めて頂きたいと思います。 TOPICS この度、贈与税・相続税の納税猶予制度における、経済産業大臣の事前「確認」の確認 書の交付件数が5月末現在で983件になることが、中小企業庁の調べでわかった。 また、贈与・相続後に行われる認定申請を受け認定書が交付された件数は、贈与税に係 るものが29件、相続税に係るものが175件とわかった。 <禁:無断掲載(ネット上も含む)>
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