気候モデルの全球陸域の日射量予測値が公表されていない 場合に代用

平成 26 年度主要成果
気候モデルの全球陸域の日射量予測値が公表されていない
場合に代用の日射量を日最高・最低気温から推定するモデル
[要約]
日射量を日最高・最低気温から推定するモデルのパラメータ値を、全球陸域の約 120km
メッシュ毎に決めました。本モデルによる計算値は、気候モデルの 2035 年頃までの日射
量予測値も代用できるため、気候モデルの日射量が公表されていない場合に有用です。
[背景と目的]
作物生産の短・長期の気候リスク評価には気温などに加えて日射量も使用します。しか
しながら、気候モデルで計算した日射量が公表されず、気候リスク評価に日射量の予測
値を使用できない場合には、経験的なモデルを用いて気候モデルの日射量予測値を推定
する必要があります。日射量の推定方法としては雲量を用いた経験的なモデルが一般的
ですが、気候モデルの雲量は精度が低く、データもほとんど公表されないため、雲量か
らの日射量推定は困難です。そこで、ほぼ必ず公表される日最高・最低気温から日射量
を推定する経験的なモデルを全球陸域について整備し、さらに、本モデルの計算値と気
候モデルの日射量を比較し、計算値による代用が可能か評価しました。
[成果の内容]
気候モデルで計算した日射量が公表されず、作物生産の気候リスク評価に日射量予測値
が使用できない場合があります。そこで、予測値がほぼ必ず公表される日最高・最低気温
から日射量の日別値を推定する以下の経験的なモデルを全球陸域について整備しました。
SR = SR0  a  [ 1 -exp(-b  DTR c )]
ここで、SR と SR0 はそれぞれ地上および大気上端における日射量(MJ m-2 day-1)、DTR
は気温日較差(日最高気温-日最低気温、℃)、a、b、c は係数です。係数値はメッシュ別、
月別に決定しました。大気上端の日射量は緯度と 1 月 1 日からの日数で計算できます。
全球気象再解析値 注1)を用いて、1981~2010 年のうち奇数年の気温と日射量のデータで
係数値を決め、同じ期間の偶数年の日射量を本モデルで推定した結果、多くの季節・地域
で、本モデルの計算値で気候モデルの日射量を代用できることが示されました(図 1)。ま
た、日射量が公表されている MIROC4 気候モデルで検証した結果、日射量予測値(2006
~2035 年)も本モデルの計算値で代用できることが示されました(図 2)。低温条件下で
は日射量と気温日較差の相関が低く、計算値の精度が低下するため、冬季の計算値の使用
には注意が必要です。ご使用になりたい地点のパラメータ値は研究担当者にお問い合わせ
下さい。
注1)観測デ−タと気候モデルを使ってコンピュータで再現された全球の気温や日射量などのデータ。
本研究は環境省環境研究総合推進費「気候変動リスク管理に向けた土地・水・生態系の最適利用戦
略」による成果です。
リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域
飯泉仁之直、岡田将誌
発表論文等:1) Iizumi et al., J. Agric. Meteorol., 70: 13–23 (2014)
図 1 日別日射量のモデル計算値と再解析値との比較
1981~2010 年の偶数年において、JRA-25/JCDAS データ 注2)を用いて、モデルによる日
別日射量の計算値と再解析値との相関係数と二乗平均平方根誤差(RMSE)を計算しま
した。8 月と 2 月のいずれでも、陸域の多くの地域で相関係数値は 0.7 以上、RMSE は
10%以下となり、本モデルにより日射量再解析値を精度良く推定できました。このこ
とから、本モデルの計算値で気候モデルの日射量を代用できることが示されました。
なお、8 月は南半球高緯度、2 月は北半球高緯度で極夜(日射量がほぼゼロ)になるた
め、これらの季節・地域の相関係数と RMSE は計算しませんでした。
注2)JRA-25/JCDAS は気象庁と電力中央研究所が共同開発した全球気象再解析データ。
図 2 気候モデルによる近未来の日射量予測値と本モデルによる計算値の比較
MIROC4 気候モデルの現在気候(1981~2005 年)の気温と日射量データで係数値を決め、
本モデルの計算値と気候モデルの日射量予測値(2006~2035 年)を比較しました。本
モデルは、2 月の陸域・月平均日射量については誤差が大きいものの、作物の生育に
重要な夏季(8 月)については 2035 年までの予測値を精度良く推定できました。2 月
に代表される冬季については本モデルの計算値の使用には注意が必要です。