持続可能社会の構築に関する 持続可能社会の構築に関する心理的要因

●融合プロジェクト研究部門
持続可能社会の構築に関する心理的要因の解明
持続可能社会の構築に関する心理的要因の解明
たけはし ひろき
助教
竹橋 洋毅
[email protected]
主な研究と特徴
豊かで持続可能な社会(エコトピア)を
構築するには、科学技術や社会政策という
マクロ的な要因だけでなく、環境配慮への
市民の賛意や協力のようなミクロ的な要因
の検討が不可欠である。特に、環境負荷低
減のようなグローバルな問題については、
個人が納得した上で努力目標を定め、政策
目標の達成に向けた協力できるかが重要で
あろう。また、豊かな社会とは何かという
問題は、個人の生活満足度や幸福感を規定
する要因とは何かという問題と密接に関連
する。以上から、社会の持続可能性を高め
るためには人間の情報処理特性を解明し、
それに基づき将来社会のあり方を提言する
ことが必要であると考えられる。この問題
意識を踏まえ、これまで行ってきた研究に
ついて概説する。
1.環境配慮意識および幸福感の規定因
環境配慮意識および幸福感の規定因
個人の環境配慮意識や幸福感を規定する
社会的および心理的要因の解明は、豊かで
持続可能な社会を構築する上で重要である。
従来の心理学研究では環境配慮意識と幸福
感が別々の検討課題として設定されてきた。
しかしながら、「環境制約の中で豊かさを
高める」という新成長政策の視点を踏まえ
ると、今後は環境配慮意識と幸福感の関係
性やそれらの規定因を単一モデル内で記述
するというアプローチが重要になると考え
られる。そこで、Japanese General Social
Survey などの大規模調査について統計的
手法を用いて解析を進めている。さらに、
得られた結果に基づき、社会の持続可能性
に関する指標構築の基礎を担うとともに、
将来社会のあり方について提言を行うこと
を目指している。
2.情報提示法
.情報提示法が自己制御に与え
が自己制御に与える影響
に与える影響
個人が目標を設定し、その目標を達成で
きるように行動を調整する過程は自己制御
(self-regulation)と呼ばれ、その社会的要請
の高さから、数多くの検討が為されてきた。
有用な知見が蓄積しつつある一方で、自己
制御行動に潜在する情報処理過程について
は十分に検討されていない。そこで、目標
提示法の影響に焦点を当て、自己制御過程
について一連の検討を行ってきた。それら
の結果から、目標を「利益の有無」として
記述した場合と「損失の有無」として記述
した場合では、感情情報への感受性、主観
的感情、目標達成方略の選好、資源配分の
仕方が異なり、それらが目標達成の成否に
影響を与える可能性が示唆されている。
3.集団目標
.集団目標の共有過程
目標の共有過程
集団には様々な目標があり、その目標に
ついての情報を集団内で共有化することは
集団目標の達成に寄与しうる。この視座に
基づき、集団内での情報共有過程について
検討を行ってきた。これまでの結果から、
集団内でのコミュニケーションが集団への
帰属意識を強めることを通じ、情報共有性
が高まることが明らかにされた。さらに、
帰属意識が強いほど、その後のコミュニケ
ーションが促進され、その結果、帰属意識
がさらに高まるという再帰的な強化関係が
示唆された。
今後の展望
今後は、意識調査研究を主軸としつつ、
これまでの自己制御過程についての研究も
推進していく。さらに、新たな検討課題と
して以下の研究を始動している。
4.時間的距離と自己制御
.時間的距離と自己制御の関係性
自己制御の関係性
環境負荷低減は、人類が存続していく上
では不可欠であることから、望ましい目標
として多数から認識される。しかしながら、
目標内容が望ましいものであるほど、その
目標は「遠いもの」として認識されやすく、
その達成に向けた具体的方策について思考
し難くなることを示唆する知見が提出され
始めている。環境負荷低減が遠い将来社会
のために為されることを併せて考慮すると、
個人が環境負荷低減の実現のための具体的
方策を考え、実行することは極めて困難で
あるといえる。従って、時間的に遠い目標
を心的に近い事象であると認識させ、その
実現に向けた自己制御を促すための介入は
重要である。この問題意識に基づき、目標
の時間的距離と自己制御の関係性について
検討を進めている。
経歴
<学歴>
2002 年 名古屋大学文学部卒業
2004 年 名古屋大学大学院環境学研究科
博士前期課程修了(心理学修士)
2010 年 名古屋大学大学院環境学研究科
博士後期課程修了(心理学博士)
<職歴>
2005 年 名古屋大学大学院環境学研究科
技術補佐員(2006 年まで)
2008 年 豊田工業高等専門学校非常勤講
師(建築心理学; 2009 年まで)。大垣市
医師会看護専門学校非常勤講師(生涯発
達人間論)
2010 年 名古屋大学エコトピア科学研究
所助教。東海学園大学非常勤講師(産業
心理学)。大垣市医師会看護専門学校非
常勤講師(心理学)、Japanese General
Social Survey 嘱託研究員、現在に至る
所属学会
日本社会心理学会、日本グループ・ダイ
ナミックス学会、日本心理学会、日本認知
心理学会、the Society for Personality and
Social Psychology
主要論文・著書
(1) 竹橋洋毅・唐沢かおり (印刷中) コミュ
ニケーション、集団同一視、共有的認知
の再帰的な強化過程の解明 実験社会心
理学研究
(2) ワイナー, B. 速水敏彦・唐沢かおり(監
訳 ) (2007) 社 会 的 動 機 づ け の 心 理 学
北大路書房(4 章「報酬と罰」担当)
(3) 竹橋洋毅・唐沢かおり (2008) 目標フレ
ーミングが感情情報の自動的な処理に
与える影響 社会心理学研究 24, 50-57
(4) 竹橋洋毅・唐沢かおり (2007) 目標フレ
ーミングが感情表象の活性に与える影
響 心理学研究 78, 372-380
(5) Takehashi, Yamaoka, & Karasawa (2003)
The effect of resource and the identification
with the super-ordinate group on
cooperative behavior. K. Arai (Ed.),
Proceeding of the 34th Annual Conference
of the International Simulation and Gaming
Association. Pp 181-190
(6) Yamaoka, Takehashi, & Karasawa (2003)
The formation and change of national
identities in simulation game. K. Arai
(Ed.), Proceeding of the 34th Annual
Conference of the International Simulation
and Gaming Association. Pp 677-685