安 全 衛 生 ノ ー ト

安
全
衛
生
ノ
ー
ト
~脚立の安全対策(第 9 回)~
平成27年1月
労働安全・衛生コンサルタント 土方 伸一
■ 脚立に起因する労働災害の分析(第9回)
今月は死亡災害の 9.4%、死傷災害の 21.6%を占める脚立の昇降作業について解析していきま
す。脚立の昇降時の災害で最も多いのは、踏み面を「踏み外す」ものです。ここでは、踏み外しが
どのようにして起こるのかを解析していきます。
使用する脚立は、前回同様通称 6 尺の脚立です。踏みさんの幅は 50mm とします。
◇ 解析その4
脚立の昇降に伴う重心移動の解析
最初に脚立の昇降の際に重心移動がどのように行われるかを解析します。
ステップを上るとき
両足をそろえた状態を初期状態として、右足から上がる場合を考えます。
① 左足で体重を支え、右足を持ち上げて上の踏み面に乗せる。体重は左足にかかってい
る。
② 右足に力を入れ、身体を持ち上げる。重心は左足から右足に移動する。
③ 左右の足が同じ高さになったとき、重心は右足上にある。
④ 左足をさらに一段上の踏み面に乗せる場合は、①~③を反対側の足で繰り返すことにな
る。
一連の動作で踏み外しが発生しやすいのは次の場合です。
①の場合において、体重を支えている左足(下側の足)を踏み外す。
②の場合において、重心が移動しているときに、右足(上側の足)を踏み外す。
ステップを下りるとき
両足をそろえた状態を初期状態として、右足から下りる場合を考えます。
① 左足で体重を支えた状態で、左足を曲げて重心を下げ、右足を下の踏み面に乗せる。重
心は左足にかかっている。
② 重心を左足から右足に向かって移動させる。
③ 左右の足が同じ高さになったとき、重心は右足上にある。
④ 左足をさらに一段下の踏み面に乗せる場合は、①~③を反対側の足で繰り返すことにな
る。
一連の動作で踏み外しが発生しやすいのは次の場合です。
①の場合において、体重を支えている左足(上側の足)を踏み外す。
②の場合において、重心が移動しているときに、右足(下側の足)を踏み外す。
いずれの場合も足の中心が踏み面上に乗っていないため、体重を支えきれないことによるものと
考えられます。
なぜ降りるときに多く発生しているか
平成 22 年の死傷災害をみると、脚立昇降時の死傷災害は、上るときが 18 件、下りるときが 118 件であ
り、下りるときの災害が上るときの 6.5 倍発生しています。踏み外しが発生する状況は、昇降時とも同じと考
えられます。災害件数の違いはどこにあるのでしょうか。
違いは、移動先のステップが見えているか否かによるものと推定されます。
上るときは次のステップが見えているので、足を踏み面の中央に置くことが容易ですが、下りるときは次
のステップが見えないので、足先で探りながら位置を決めることになります。安全靴など、靴底が硬い履物
を使用している場合は困難が一層増します。
身体を支えられるか
次に、踏み外しそうになったとき、身体を支えられるか否かも検討する必要があります。
脚立には手すりがありませんので、昇降時は踏みさんを持って身体を支えることになります。
しかし、6 尺の脚立の場合、支柱で身体を支えることができるのは下から 3 段目(ステップの位置が地上
㎝)が限度です。それより高いところでは、踏みさんが存在しないので、踏みさんで身体を支えることはでき
ません。
また、両手に荷物を持っている場合は踏みさんをつかんで身体を支えることはできません。
片手に工具や部品を持って昇降する場合は、踏み外しそうになったときは片手で全体重を支えなけれ
ばなりません。これが、非常に困難なものであることはお判りいただけると思います。
安全な昇降のために必要なこと
上の解析から、安全な昇降のために必要なことは次の点です。
1 足元が見えていること
2 身体を支えるものがあること
3 ステップに足をおくために必要な面積があること
脚立の場合、後ろ向きで下りざるを得ないので、大きなハンディキャップを抱えていることになります。ま
た、ステップの面積については、労働安全衛生規則では「踏み面は、作業を安全に行なうため必要な面
積を有すること。
」としか規定されていません。JIS の規格では、「奥行き 30mm 以上」となっており、市販
されている脚立では奥行き 50mm 程度のものが多くなっています。
結論
脚立昇降時には、ステップを踏み外す危険があり、その原因は次の点にあります。
1 地上第 3 段目より上のステップでは、身体を支えることが出来ない。
2 降りるときには、次のステップが見えない。
3 ステップの面積が狭いため、踏み外しやすい。
市販されている兼用脚立を使用する場合、どのようにすれば安全な昇降ができるか、安全に作
業を行うためには、どのような構造にすれば良いかは、別項でお話ししたいと思います。
次回は、更に別の作業形態を想定して安定性(不安定性)を解析します。