STB第9号

「スコーレ・テクニカル・ブリーフ」第9号
2009年12月
分野:試 験・評 価 技 術
テーマ:熱電対使用時の留意点
熱電対は、構造が簡単で取り扱いやすく、また価格も比較的安価なため、温度測定に多用さ
れています。しかし、取扱いが簡単なため故の、思わぬ落とし穴もあります。
そこで、熱電対の原理の復習と使用上の留意点をまとめました。
【1】 熱電対の原理
よく知られているように、熱電対はゼーベック効果を利用しています。これは、図1の様に異
なる材料の金属導線の両端を接合して、二つの接合点に温度差を与えると、両端に熱起電力
が発生し、回路に熱電流が流れる現象を言います。
金属A
熱電流
低温
高温
金属B
図 1
図2の様に、一方の接合点(一般的には低温側)を開放すれば、熱起電力(電位差)として測
定することが可能になります。
起電力:電圧計で測定する
高温
低温
図 2
熱電対の種類(構成材料:異なる材料の組合せ)及び種類ごとの規準熱起電力はJIS規格
(JISC1602)に記載されています。
1
【2】 熱電対の3法則(引用文献:1)
熱電対の基本法則として3法則があります。以下、「温度差=高温-低温」とします。
① 均質回路の法則(図3)
金属AとBがそれぞれ均質であれば、発生する熱起電力は金属A、Bの組合せと温度差で決
まり、両端以外の温度(例えば、図3のT3、T4)には影響されません。
↓
熱電対の中間部が局部的に加熱、あるいは冷却されても均質な熱電対(材料が劣化等をし
ていない)であれば、温度測定に影響はありません。
T3
金属A
低温:T2
高温:T1
金属B
T4
図 3
② 中間金属の法則(図4)
金属AまたはBの中間に異種金属Cを入れたとき、金属Cの両端が同一温度であれば、熱
起電力は金属C及びその温度T3の影響を受けません。
↓
金属Cに温度差がある場合は測定誤差が生じます。よって、熱電対と計測の間に延長ケー
ブルを入れる場合、延長ケーブルの両端は同じ温度にする必要があります。
金属C:温度T3(金属Cの両端の温度)
金属A
低温:T2
高温:T1
金属B
図 4
2
③ 中間温度の法則
図5の様に、中間接点を設けた場合、以下の式が成立します。
T1-T3 間の熱起電力=T1-T2 間の熱起電力+T2-T3 間の熱起電力
・・・式(1)
↓
補償導線(熱電対と近似な熱起電力特性を有する熱電対用のリード線。熱電対よりも安価)
を使用して、熱電対と測定器を接続することが出来ます。
金属A
低温:T3
高温:T1
金属B
A
A
T3
T1
B
中間温度:T2
B
図 5
【3】 熱電対取り付け時の留意点(引用文献:2)
熱電対の取り付けには十分な注意が必要です。
熱電対を測定対象の表面に接触されると、熱電対から熱が逃げ、測定対象の温度や温度
分布を変えてしまうので、注意が必要です。これは、測定対象の熱容量や熱伝導率が小さい
ほど、熱電対の熱容量や熱伝導率が大きいほど著しいです。
図6は、測定対象と熱電対の取り付け方法が表面温度測定結果に及ぼす影響を示したもの
です。
銅板
*測定対象の表面
温度=35℃
*外気温=15℃
図 6(引用文献:2、P144)
3
・ (a):熱電対を一点で接触させているので、測定誤差が大きい。コルク、木の測定誤差が大
きいのは、熱伝導率が小さいので、熱電対を介して逃げた熱を周囲から十分補給出来
ないため。
・ (b):薄い銅板を熱電対の測温接点にはんだ付け。測定対象との熱的接触が良くなってい
るので、誤差は小さいが、熱電対を介して熱は逃げる。
・ (c):熱電対を物体表面に沿って設置してあるので、熱が測温接点から逃げることが無い。
【4】 熱電対の応答性について
① 熱電対の応答性についても十分な注意が必要です。
応答性は、熱電対の質量、周囲の環境条件によっても応答性は異なります 3)。そして、応答
性は、制御工学で言う「1次遅れに近似」4)する場合が多いようです。1 次遅れの場合は、応答
速度を時定数で示します。「時定数とは、最終値の63.2%に達するまでの時間」であることに
注意する必要があります。
1次遅れ系の過渡応答特性(ステップ応答、例えば、0℃の熱電対を100℃の沸騰水中に
投入した場合の熱電対による測定温度の時間経過)は図7の様になります5)。
ここで、y(T)=0.632Kとなる時間Tを時定数といい、通常τ(sec)で表されます。
図 7
y(T)=1-exp(-T/τ)
・・・式(2)
ですので、式(2)を使用して、測定目標物の温度に達する時間を計算すると以下の様にな
ります。0℃の熱電対を100℃の沸騰水中に投入した場合(ステップ応答)を例にとると、
・ 63.2℃に達するまで時間=τ(sec)
・ 90℃に達するまでの時間≒2.3×τ(sec)
・ 99℃に達するまでの時間≒4.6×τ(sec)
・ 99.9℃に達するまでの時間≒6.9×τ(sec)→ほぼ真値(100℃)に達するまでは、時
定数τの約7倍の時間がかかります。
4
熱電対の応答性は時定数(τ、63.2%応答)で表すことが多かった。最近は90%や50%
応答での表現も増えている3)ようですが、応答性の定義に十分注意する必要があります。
② 応答性の事例(シース熱電対の場合)
1.アムニス(株)HPより
・熱電対の種類、測温接点形式、
シース材質等は不明。
・応答性の参考資料として下さい。
2.(株)TEMCOカタログ(超極細シース熱電対)より
・
・
・
・
熱電対の種類:K
素線数:シングルエレメント
測温接点:U(#9) 非接地型
シース材質:NCF600(インコネル600相当)
注:99.9℃に達するまでには、上記の約7倍弱の時間がかかります。
* 引用文献
1.細木 三千夫:やさしい温度計測入門、検査技術、2007.6、P27~28
2.松山 裕:実用 温度測定、1998.6、P144、(財)省エネルギーセンター
3.風岡 学:熱電対の使い方、軽金属、49(1999.10)、P521
4.松山 裕:実用 温度測定、1998.6、P141、(財)省エネルギーセンター
5.井上 和夫他:MATLAB/Simulink によるわかりやすい制御工学、2002.3、P44、森北出版
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